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エルナ・ベルガー&ヘルマン・プライ&ヴァイセンボルン(Berger, Prey & Weissenborn): ヴォルフ「イタリア歌曲集」(Wolf: Italienisches Liederbuch)全曲CD復活!

ヘルマン・プライの没後20年の今年(2018年)に記念盤が出ないのではと半ば諦めていたところに朗報です!
ソプラノのエルナ・ベルガーとピアニストのギュンター・ヴァイセンボルンと組んで1959年に録音されたヴォルフ「イタリア歌曲集」がCDでとうとう復活します。
ドイツのamazonではすでに購入できるようですが、日本のamazonのサイトには2018年8月24日現在まだ掲載されておらず、もうしばらく待たされそうです。
すぐに欲しい方は下記のドイツのamazonから購入可能ですし(ドイツからの送料はかかりますが)、待てるという方は日本のamazonのサイトに掲載されるのを待ってみてはいかがでしょうか。
 こちら

CDは2枚組で、CD1はヴォルフ「イタリア歌曲集」全46曲、CD2はシューマン「女の愛と生涯」、メンデルスゾーン2曲、レーヴェ2曲、ヴォルフ2曲、シューベルト3曲、グリーグ2曲、ブラームス「4つの厳粛な歌」が収録されているそうです。
CD2はシューマンとメンデルスゾーンがベルガーの歌唱で、他はプライの歌唱です(共演ピアニストはラウハイゼン、メルツァー等、曲により様々です)。
もちろん目玉はCD1のヴォルフ「イタリア歌曲集」全46曲です。
とびきりの名演にもかかわらず、今まで復活しなかったのは不思議です。
ソプラノのエルナ・ベルガーはもちろんチャーミングな歌唱を聞かせてくれますが、プライと組むと若干年齢差を感じさせる感はあります(プライより29歳年上です)。
ここでは若かりしヘルマン・プライの歌唱が本当に素晴らしいです。
かつて「詩と音楽 梅丘歌曲会館」さんのサイトにヴォルフ「イタリア歌曲集」全曲の記事を投稿した際に、様々な演奏家の録音を聞き比べたのですが、プライは他のどの男声歌手にも増して、この歌曲集のキャラクターにぴったりマッチしていました。
しかし、CD化されていなかった為、中古屋さんで購入したLPを毎回再生する手間がかかったのですが、その手間が報われるようなプライの溌剌とした名唱でした。
今回ようやくCD化されてこの名演がより広く知られることになればとても嬉しいことです。

上記のドイツのサイトで少しずつ試聴できるようになっているので、よろしければぜひサンプルを聴いてみてください。

Berger_prey_weissenborn_wolf


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(2018.12.2追記)

日本のamazonに上記のCDが掲載されていました。
 こちら


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ロバ(der Esel)が登場するヴォルフ(Hugo Wolf)の歌曲2曲

ドイツ歌曲に限りませんが、動物や植物を扱ったテキストは数多くあります。
歌曲集として動物をテーマにしてまとめた例としては、いずれもフランス歌曲ですが、ラヴェル「博物誌」やプーランク「動物詩集」などが思い浮かびます。
特に前者は鳥や虫の鳴き声などが見事に描写されています。

今回扱うのは「ロバ(ドイツ語でEsel)」です。
フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf)の歌曲に「ロバ」が登場する作品が2曲あります。
「ロバ」を表すドイツ語のEsel(発音は「エーゼル」)は「間抜け」という意味合いも持ち、あまり好意的に扱われていません。

まずはロバの鳴き声を聞いてみましょう。

高い吸い込むような金属的な音と低い音を交互に出すのが特徴でしょうか。
こうして見ると可愛いですね。

それでは、ヴォルフの「変身させられたツェッテルの歌」という歌曲をご紹介します。

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Lied des transferierten Zettel
 変身させられたツェッテル(ボトム)の歌

Die Schwalbe, die den Sommer bringt,
der Spatz, der Zeisig fein,
Die Lerche, die sich lustig schwingt
bis in den Himmel 'nein.
[Ya Ya Ya Ya!]
 夏をもたらすつばめに、
 すずめに、きれいなまひわ、
 ひばりは快活に
 空中まで舞い上がる。
 [イーアー、イーアー、イーアー、イーアー!]

Der Kuckuck, der der Grasemück'
so gern ins Nestchen heckt,
Und lacht darob mit arger Tück',
und manchen Ehmann neckt.
[Ya Ya Ya Ya!]
 かっこうは、のどじろむしくいの巣に
 卵を産みつけるのが大好き。
 そして悪意をもってあざ笑い、
 あまたの旦那どもを冷やかすのだ。
 [イーアー、イーアー、イーアー、イーアー!]

詩:William Shakespeare (1564-1616) “A Midsummer Night's Dream” Act 3, Scene 1
独訳:August Wilhelm Schlegel (1767-1845) “Ein Sommernachtstraum” Dritter Aufzug, Erste Szene
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

※第2節第1行の「のどじろむしくい」という鳥の姿と鳴き声は
 こちら

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これはシェイクスピアの「夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)の第3幕第1場で、いたずら者の妖精パックが織物職人ボトムの頭をロバに変えてしまい、そうと気付かないボトムが歌う歌です。
ボトムというのがオリジナルの役名ですが、訳者のA.W.シュレーゲルは、Zettel(ツェッテル)という名前に訳しました。
ちなみにZettelというのはドイツ語で「紙切れ」のことです。
独立した詩ではなく、戯曲の中の一部であり、しかも第1節と第2節の間で妖精のティターニアが目覚めて一言セリフを話すので、それを除いた形でヴォルフは作曲しています。
ロバの鳴き声はヴォルフによる付与で、グロテスクさが増しています。
1889年(ヴォルフの「歌の年」の翌年)に作曲され、皮肉屋ヴォルフの面目躍如です。
この「イーアー」(12度下降)をどのように歌うのかが聴きどころと言えるでしょう。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & ルートヴィヒ・クッシェ(P) (「変身させられたツェッテルの歌」は3曲目(3:11)から始まります)
Fritz Wunderlich(T) & Ludwig Kusche(P)

シューベルト「うずらの鳴き声」、R.シュトラウス「商人と仕掛け人は」に続いて、3:11から始まります。お手数ですが、目盛りを移動してお聞き下さい。

John William Gomez(T) & Tania Shustova(P)

若干発音に不正確な箇所もありますが、曲の感じはつかめると思います。

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もう1曲はヴォルフ晩年の傑作「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」の第2巻第21曲「ちょっと黙ってよ(Schweig einmal still)」です。

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Schweig' einmal still
 ちょっと黙ってよ

Schweig einmal still, du garst'ger Schwätzer dort!
Zum Ekel ist mir dein verwünschtes Singen.
Und triebst du es bis morgen früh so fort,
Doch würde dir kein schmuckes Lied gelingen.
Schweig einmal still und lege dich aufs Ohr!
Das Ständchen eines Esels zög ich vor.
 ちょっと黙ってよ、そこの不愉快なおしゃべり男!
 あんたのいらつく歌聞いてると気持ち悪くなるのよ。
 こんな朝早くまで歌い続けていたところで、
 まともな歌になるわけないでしょ。
 もう黙ってよ、いい加減に寝なさい!
 ロバのセレナード聞く方がまだいいわ!

詩:Paul Heyse (1830-1914)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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男女の駆け引きなどの歌を46編まとめたヴォルフ「イタリア歌曲集」。
ヴォルフは各曲の配列にも気を配って作曲しています。
この曲「ちょっと黙ってよ」は前曲「ぼくはもう歌えないよ(Nicht länger kann ich singen)」のいわばアンサーソングとなっています。
この詩の最後の行に"Esels(ロバ)"という言葉が出てきますが、ここでヴォルフはピアノパートにロバの鳴き声を模した響きを再現してグロテスクな表情を強調しています。
さらにピアノ後奏にもロバの鳴き声が今度は高低逆の形で現れます。
しかし、この箇所だけではなく、この曲に最初から一貫して流れるピアノパートの跳躍音程や装飾音は、すでにロバの鳴き声を暗示していると言ってもいいのではないでしょうか。

モイチャ・エルトマン(S) & ゲロルト・フーバー(P)
Mojca Erdmann(S) & Gerold Huber(P)

2009年録音。魅力的な演奏です。

ロバは嘲笑や皮肉の対象として使用され、ちょっと可哀そうな気もしますが、さらにロバを皮肉のネタとして使用したマーラーの歌曲があります。そちらは後日またあらためて記事にしたいと思います。

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ブラームス「ひばりの歌(Lerchengesang, Op. 70-2)」を聴く

Lerchengesang, Op. 70-2
 ひばりの歌

Ätherische ferne Stimmen,
Der Lerchen himmlische Grüße,
Wie regt ihr mir so süße
Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!
 天空のはるかな声、
 ひばりの空からの挨拶、
 お前たちはなんと甘美に私の胸を動かすのか、
 愛らしい声よ!

Ich schließe leis mein Auge,
Da ziehn Erinnerungen
In sanften Dämmerungen
Durchweht vom Frühlingshauche.
 私は静かに目をつむると
 想い出が通り過ぎる、
 やわらかなたそがれの中で
 春の息吹に吹かれながら。

詩:Karl August Candidus (1817-1872)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

※上記の訳は、いつもお世話になっています「詩と音楽」さんのサイトに以前投稿したものを転載しています。
 こちら

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ブラームスが繰り返した箇所を[ ]で囲って補ったテキストを以下に記しておきます。

Ätherische ferne Stimmen,
Der Lerchen himmlische Grüße,
Wie regt ihr mir so süße
Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!
[Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!]

Ich schließe leis mein Auge,
Da ziehn Erinnerungen
In sanften Dämmerungen
[Da ziehn Erinnerungen]
[In sanften Dämmerungen]
Durchweht vom Frühlingshauche.

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ブラームスの歌曲の中で最も澄み切った美しさと余韻の味わいを感じさせてくれる名作の一つです。
私がこの曲をはじめて聞いたのがいつだったのか定かではないのですが、エディット・マティスのライヴ録音をFMラジオで聞いた時かもしれません。
少なくともレコードやCDではじめて聞いたというのではなかったような気がします。
しかし、後に白井光子&ヘルのCDを聞き、この曲の最高の名演に出会えた喜びを味わったことはおぼろげなから覚えています。

歌とピアノが交互にメロディーを引き継ぎながら一つにまとまっていく形で作られていて、ブラームスらしいリズムのずれもあり、とても味わい深い作品になっています。
ピアノの下降する2つの高音が頻繁に現れますが、おそらくひばりの鳴き声を暗示しているのでしょう。

Lerche(ひばり)の鳴き声

Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)
白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)

1987年録音。この曲の余白を感じさせる作風は、日本人の歌手にとって共感しやすかったのでしょうか。白井の浮遊するような歌声は聞き手の胸にしっとりと染み込みます。ヘルが細心のデリカシーをもって表現しているのも聴きどころです。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Daniel Barenboim(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ダニエル・バレンボイム(P)

F=ディースカウが声の起伏をいつも以上に抑えつつ、静かに美しいフレーズを響かせていて素晴らしいです。バレンボイムもコントロールを利かせつつ、きれいに歌っていました。

Stefanie Irányi(MS) & Helmut Deutsch(P)
シュテファニー・イラーニ(MS) & ヘルムート・ドイチュ(P)

楽譜付き。イラーニの歌唱は、素直で爽やかで、しかも味わいもあって、とても気に入りました。ドイチュも美しいです。

Simon Keenlyside(BR) & Malcom Martineau(P)
サイモン・キーンリサイド(BR) & マルコム・マーティノー(P)

2009年録音。キーンリサイドの抑えた歌唱が優しい癒しを与えてくれます。マーティノーは安定した演奏です。

Domenico Ricciによるピアノ伴奏のみ(変イ長調):第1節のみ

ピアノ伴奏だけでも美しい無言歌として成立していますね。

Mischa Maisky(Violoncello) & Pavel Gililov(P)
ミーシャ・マイスキー(Violoncello) & パーヴェル・ギリロフ(P)

マイスキーは歌曲をチェロで演奏することが好きなようで、CD録音もしています。ここでは止まりそうなほどゆったりとしたギリロフのピアノを受けて、感情豊かにチェロで歌ってみせています。

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「東京・春・音楽祭2018」の動画(2018年7月20日(金)~10月19日(金)期間限定)

毎年春に催されている「東京・春・音楽祭」の今年のコンサート動画が7月20日よりアップされたようです。
3カ月のみの期間限定ですので、ぜひ下記のリンク先を開いて、お好きなコンサート動画をご覧ください。

 こちら

配信期間:2018年7月20日(金)~10月19日(金)期間限定

歌曲ファンの私が最初に見たのはヴァーグナー等を得意とするソプラノ、ペトラ・ラング(Petra Lang)の歌曲リサイタルでした(ピアノはアドリアン・バイアヌ(Adrian Baianu))。
正直、私は彼女の歌曲演奏をこれまでおそらく聞いていなかったと思うのですが、最初のブラームスを聞いて驚きました。
ベテランリート歌手の味わい、表情、趣が、オペラ歌手の彼女にすべてしっかり備わっていて、とても素晴らしかったからです。
ブラームスの「愛のまこと(Liebestreu)」の母親と娘の対話が、声の使い分けだけでなく、顔の表情からも伝わってきて、オペラ歌手としての彼女の強みが生かされているのが感じられました。
しかし、オペラ歌手の余技では決してなく、リートをしっかり歌いこんできた熟練の味わいのようなものも感じられて、素晴らしかったです。
声の若々しさは望めないにしてもまだ十分美声を保っていて、味わいはしっかり感じられました。
共演のピアニスト、アドリアン・バイアヌもいぶし銀の趣をもって、深みのある音をデリケートに響かせていて、こちらも素晴らしいです。
珍しいヨーゼフ・マルクスの歌曲なども数曲歌われ、歌曲ファンの方にはおすすめです。

 映像(1)はこちら:ブラームス&マーラー

 映像(2)はこちら:マルクス&R.シュトラウス&アンコール

 曲目解説などはこちら

もう一つ、世界中の歌劇場から引っ張りだこのテノールのクラウス・フロリアン・フォークト(Klaus Florian Vogt)のリサイタルも意欲的なプログラミングです。
ピアノはルパート・バーレイ(Rupert Burleig)です。

 映像(1)はこちら:ハイドン&ブラームス

 映像(2)はこちら:マーラー&R.シュトラウス&アンコール

 曲目解説などはこちら

テノールの歌う「さすらう若人の歌(遍歴職人の歌)」は珍しいので興味がわきます。
どこまでも柔らかい響きをもつフォークトがどのような表現を聞かせるか、これから楽しみたいと思います。
また、初めて聞くピアニストのルパート・バーレイの演奏も期待したいです。

他にも、中村恵理(S)と藤木大地(カウンターテナー)のデュエット(ピアノ:園田隆一郎)や、金子美香(MS)の日本歌曲&ドイツ歌曲のリサイタル(ピアノ:イェンドリック・シュプリンガー)、浜田理恵(S)のフランス歌曲リサイタル(ピアノ:三ツ石潤司)、ヴィタリ・ユシュマノフ(BR)のロシア歌曲リサイタル(ピアノ:山田剛史)など、歌曲ファンにはいくつも興味深い動画がアップされています。

歌曲以外にも多くのコンサートがアップされていますので、ぜひ気になったコンサートを聴いてみてくださいね。

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