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ブラームス「なんと私は夜中に飛び起きた(Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, Op. 32-1)」を聴く

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, Op. 32-1
 なんと私は夜中に飛び起きた

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, in der Nacht,
Und fühlte mich fürder gezogen,
Die Gassen verließ ich vom Wächter bewacht,
Durchwandelte sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Das Tor mit dem gotischen Bogen.
 なんと私は飛び起きた、夜中に、夜中に、
 そしてどうしようもなく先に引かれるものを感じた。
 夜番の見張る路地を過ぎ、
 そっと通り抜けていった、
 夜中に、夜中に、
 ゴチック風アーチの門を。

Der Mühlbach rauschte durch felsigen Schacht,
Ich lehnte mich über die Brücke,
Tief unter mir nahm ich der Wogen in Acht,
Die wallten so sacht,
In der Nacht, in der Nacht,
Doch wallte nicht eine zurücke.
 水車用の小川が岩穴の中をざわめき流れていた。
 橋から身を乗り出した私は、
 下方に深く沸き起こる波に目をこらすと、
 それは、あまりにもかすかに波立った、
 夜中に、夜中に、
 だが打ち返すことはなかった。

Es drehte sich oben, unzählig entfacht,
Melodischer Wandel der Sterne,
Mit ihnen der Mond in beruhigter Pracht,
Sie funkelten sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Durch täuschend entlegene Ferne.
 上方には無数にきらめきながら
 メロディーを奏でる星の運行が円を描いていた。
 星々とともに、月はなだめるような壮麗な光を放っていた、
 それらは穏やかに輝いていた、
 夜中に、夜中に、
 見まがうほどに遥か遠くから。

Ich blickte hinauf in der Nacht, in der Nacht,
Und blickte hinunter aufs neue:
O wehe, wie hast du die Tage verbracht,
Nun stille du sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Im pochenden Herzen die Reue!
 私は天空を仰ぎ見た、夜中に、夜中に、
 そしてあらためて視線を下ろした。
 ああ、お前はなんという日々を過ごしてきたのだ、
 さあ、そっと静めるがいい、
 夜中に、夜中に、
 脈打つ心の中にひそむ悔悟の念を!

詩:August von Platen-Hallermünde (1796-1835)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

※上記の訳は、いつもお世話になっています「詩と音楽」さんのサイトに以前投稿した訳に手を加えたものです。
 こちら

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ブラームスが繰り返した箇所を[ ]で囲ったテキストを以下に記しておきます。
ブラームスがどの詩句に重きを置いているかを知ることが出来ますね。

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, in der Nacht,
Und fühlte mich fürder [mich fürder] gezogen,
[fühlte mich fürder gezogen,]
Die Gassen verließ ich vom Wächter bewacht,
Durchwandelte sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Das Tor mit dem gotischen Bogen.

Der Mühlbach rauschte durch felsigen Schacht,
Ich lehnte mich über die Brücke,
Tief unter mir nahm ich der Wogen in Acht,
Die wallten so sacht,
In der Nacht, in der Nacht,
Doch wallte nicht eine zurücke.
[Doch wallte nicht eine zurücke.]

Es drehte sich oben, unzählig entfacht,
Melodischer Wandel der Sterne,
Mit ihnen der Mond in beruhigter Pracht,
Sie funkelten sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Durch täuschend entlegene Ferne.
[Durch täuschend entlegene Ferne.]

Ich blickte hinauf in der Nacht, in der Nacht,
Und blickte hinunter [hinunter] aufs neue:
[Und blickte hinunter aufs neue:]
O wehe, wie hast du die Tage verbracht,
[O wehe, wie hast du die Tage verbracht,]
Nun stille du sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Im pochenden Herzen die Reue!

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私がはじめてこの曲を聴いたのは、FMラジオから流れてきたF=ディースカウ&ヘルのザルツブルク音楽祭ライヴ放送でした。
ブラームスには他により有名な歌曲がいくつもありますが、それらよりもこの作品をたまたま先に聞くことになった当時の私にとって、ブラームスの歌曲はドラマティックでカッコいいという印象を植え付けられました。
よくブラームスの歌曲は渋くてとっつきにくい、という感想を持たれる方が多いのですが、そういう方にはぜひ、この「なんと私は夜中に飛び起きた」を聞いていただきたいです。
詩の展開によって歌もピアノも魅力的に移り変わっていき、数回にわたってドラマティックに盛り上がりを見せます。
F=ディースカウ&ヘルのコンビでスタジオ録音(Bayerレーベル)もされていますが、ザルツブルクライヴ音源がいつか商品化されないかなぁと期待しています。

プラーテンの詩は、主人公が突如夜中に突き動かされるような衝動を感じて外に出かけるところから始まります。
門番の見張る中通りを渡り、橋の上に出ます。
川はかすかに波打つのですが、返す波はありません。
次に上を見上げると、星や月が気の遠くなるほどはるか彼方から美しく輝いています。
そこであらためて視線を下すと、主人公は我に返り、嘆きます。
「自分はなんと無為な日々を送っているのだろうか」
そして、もうこの心を鎮めようと思い直すのです。
彼の心にあったのは「悔い(die Reue)」の念であり、その為に胸が脈打ってじっとしていられなかったということでしょうか。
その「悔い」がなんだったのかはこの詩からは明かされません。

ブラームスは、この主人公の暗い衝動をかなりドラマティックに解釈したようです。
どの程度振幅を大きくするかによって、演奏の印象も変わってくるでしょう。
以下の演奏の中では唯一の女声オッターが振幅を抑えて、しっとりとした表情を伝えてきます。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hertha Klust(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ヘルタ・クルスト(P)

1952年6月13日Berlin放送録音。F=ディースカウの声が若々しく魅力的です。クルスト女史もしっかりとした演奏を聞かせてくれます。

Thomas Quasthoff(BR) & Justus Zeyen(P)
トーマス・クヴァストフ(BR) & ユストゥス・ツァイエン(P)

2000年録音。クヴァストフの響きの深さが感銘を与えてくれます。ツァイエンも細やかに行き届いた演奏です。

Meinard Kraak(BR) & Irwin Gage(P)
メイナルト・クラーク(BR) & アーウィン・ゲイジ(P)

1968年録音。オランダのハイバリトン、クラークが丁寧に明晰な歌を聞かせています。当時29歳(!)の若かりしアーウィン・ゲイジが聞けるのも貴重でしょう。

Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)

1989年録音。オッターは遅めのテンポで丁寧に抑制した表現をしています。フォシュベリも抑えながら時々前面に出る感じです。

【VOCALOID】Sung by KAITO (Vocaloid), Piano: Prova (free sound source)
ヴォーカロイド(男声)による演奏

ヴォーカロイドを侮るなかれ!この演奏、なかなか癒されます。電子音からも温かみを感じることが出来るのですね。

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ヘルマン・プライ(Hermann Prey)没後20年(2018年)に寄せて(名唱10選)

一時代を築いた名バリトン歌手、ヘルマン・プライ(Hermann Prey: 1929.7.11-1998.7.22)が亡くなって今日(2018年7月22日)でちょうど20年が経ちました。
1980~90年代に実演で繰り返し聴くことが出来たのが今となってはとてもよい思い出として残っています。
あの頃は夢中になって来日するリート歌手を聞きまくっていたなぁと懐かしく感じます。
はじめてプライを生で聴いたのは五反田のゆうぽうと簡易保険ホールで、ピアニスト、ヘルムート・ドイチュとのシューベルト、ゲーテ歌曲集でした。
あの時のプライは全体的にゆっくり目のテンポで噛み締めるような含蓄のある歌い方をしていました。
「御者クロノスに」はプライ&ドイチュの演奏をはじめて聴いて知った為、後に別のアーティスト、あるいはプライのずっと若い頃の録音を聴いて、あまりのテンポの違いに驚いたことを覚えています。
60年代のドラマティックな艶々した声のプライ、70年代の客観性が加わり、声と表現のバランスが素晴らしかったプライ、そして80年代以降の言葉への含蓄のある深みを追求した表現をするプライと大雑把に形容するとこんな感じでしょうか。
どの時期にもプライの魅力はあって、それぞれの時期を聞き比べるのも一興かと思います。
特にシューベルトの3大歌曲集は複数回ずつ録音しているので、時期の違いを味わうのに適していると思います。
ちなみにその詳細は過去の記事(以下のリンク先)をご覧ください。

 こちら

さて、プライ没後20年とはいっても、レコード会社は今のところ特別なリリースを考えていないようなので、私が動画サイトに掲載されていた中から「プライの歌うドイツリート10選」をしてみました。

●シューベルト: 魔王 D 328 (おそらくカール・エンゲル(P)?)
Schubert: Erlkönig, D 328 (probably Karl Engel(P)?)

おそらくPHILIPS録音の1970年代の録音と思われますが、DECCA時代の旧録音よりもさらにディクションが明晰でめりはりがきき、ドラマティックになっています。エンゲルも素晴らしい!

●R.シュトラウス: 献身 Op. 10/1 (ジェラルド・ムーア(P))
Richard Strauss: Zueignung, Op. 10/1 (Gerald Moore(P))

1965年録音。私が思うにプライはR.シュトラウスとの相性が抜群だと思うのですが、特にこの曲のようなパッションを感じさせる歌は絶品です!

●シューマン: こよなく麗しい月、五月に Op. 48/1 (「詩人の恋」より第1曲) (カール・エンゲル(P))
Schumann: Im wunderschönen Monat Mai, Op. 48/1 (Karl Engel(P))

EMIレーベルへの録音。「詩人の恋」の理想的な歌い手の一人がプライだと思います。彼の甘美な声はハイネの詩の繊細な若者像にぴったりです。

●レーヴェ: 甘美な埋葬 Op. 62/4 (カール・エンゲル(P))
Loewe: Süsses Begräbnis, Op. 62/4 (Karl Engel(P))

レーヴェのバラードの魅力を一般に伝えたのもプライの大きな功績の一つです。この曲はバラードではなくリートですが、プライの甘く美しい声の魅力が最大限に生かされていますね。この動画、一箇所音飛びしていますが、ご了承ください。

●ブラームス: 日曜日 Op. 47/3 (カール・エンゲル(P))
Brahms: Sonntag, Op. 47/3 (Karl Engel(P))

1962年録音。プライはドイツ民謡も沢山歌ってきましたが、ブラームスの民謡調の作品もとても良いですね。この作品などプライの為の曲と思えてしまいます。

●ヴォルフ: 春だ(彼だ) (メーリケ歌曲集より) (ジェラルド・ムーア(P))
Wolf: Er ist's (Gerald Moore(P))

1965年録音。ヴォルフの歌曲は一般にとっつきにくく捉えられがちですが、プライが歌うとなんと親密で聞きやすくなることでしょう!

●ベートーヴェン: きみを愛している WoO. 123 (レナード・ホカンソン(P))
Beethoven: Ich liebe dich, WoO. 123 (Leonard Hokanson(P))

1974年録音。愛の言葉をこれほど優しくささやかれたら、女性は受け入れるしかないでしょう。

●プフィッツナー: 5つの歌曲 Op. 9 (1. 庭師, 2. 孤独な女, 3. 秋に, 4. 勇敢な男, 5. 別れ) (ジェラルド・ムーア(P))
Pfitzner: Fünf Lieder, Op. 9 (1. Der Gärtner, 2. Die Einsame, 3. Im Herbst, 4. Der Kühne, 5. Abschied) (Gerald Moore(P))

1965年録音。重々しさと寂寥感のあるプフィッツナーのアイヒェンドルフの詩による歌曲集をプライは5曲まとめて歌っています。明るいだけではないプライの暗めな響きの魅力にどっぷり浸かれる録音です。

●メンデルスゾーン: 歌の翼に Op. 34/2 (レナード・ホカンソン(P))
Mendelssohn: Auf Flügeln des Gesanges, Op. 34/2 (Leonard Hokanson(P))

1974年録音。メロディーラインを美しいレガートで歌うプライをたっぷり堪能できます。

●マーラー: 「さすらう若者の歌(遍歴職人の歌)」(全4曲) (ベルナルト・ハイティンク(C))
Mahler: Lieder eines fahrenden Gesellen (Bernard Haitink(C))

おそらくPHILIPS録音と思われます。感情に溺れずコントロールをきかせながらも青年らしさもしっかり感じさせるプライの名唱です。「冬の旅」を得意とした彼にとってマーラーのこの歌曲集も共感していたのではないでしょうか。

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シューベルト「あなたは安らぎ(Du bist die Ruh) D 776」を聴く

Du bist die Ruh, D 776
 あなたは安らぎ

Du bist die Ruh,
Der Friede mild,
Die Sehnsucht du,
Und was sie stillt.
 あなたは安らぎ、
 穏やかな平安、
 あなたは憧れ、
 そして憧れを鎮めるもの。

Ich weihe dir
Voll Lust und Schmerz
Zur Wohnung hier
Mein Aug' und Herz.
 私はあなたに、
 喜びと苦しみでいっぱいにして、
 この住まいに
 わが瞳と心を捧げよう。

Kehr' ein bei mir,
Und schließe du
Still hinter dir
Die Pforten zu.
 私のもとを訪ねておくれ、
 そして
 そっとあなたの後ろの
 戸を閉めておくれ。

Treib andern Schmerz
Aus dieser Brust.
Voll sei dies Herz
Von deiner Lust.
 他の苦しみを
 この胸から追い出しておくれ。
 この心を
 あなたの喜びでいっぱいにしておくれ。

Dies Augenzelt
Von deinem Glanz
Allein erhellt,
O füll' es ganz.
 この瞳の天幕は
 あなたの輝きだけに
 照らされている。
 おお、その輝きで瞳を満たしておくれ。

詩:Friedrich Rückert (1788-1866)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

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※シューベルトによる詩句の繰り返し箇所に[ ]を付与しています。最終節はまるまる繰り返しています。

Du bist die Ruh,
Der Friede mild,
Die Sehnsucht du,
Und was sie stillt.

Ich weihe dir
Voll Lust und Schmerz
Zur Wohnung hier
Mein Aug' und Herz.
[Mein Aug' und Herz.]

Kehr' ein bei mir,
Und schließe du
Still hinter dir
Die Pforten zu.

Treib andern Schmerz
Aus dieser Brust.
Voll sei dies Herz
Von deiner Lust.
[Von deiner Lust.]

Dies Augenzelt
Von deinem Glanz
Allein erhellt,
O füll' es ganz.
[O füll' es ganz.]

[Dies Augenzelt]
[Von deinem Glanz]
[Allein erhellt,]
[O füll' es ganz.]
[O füll' es ganz.]

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シューベルトはリュッケルトの詩による独唱歌曲を5曲つくりました。
その中でもとりわけ美しい「あなたは安らぎ(「君はわが憩い」などの訳でも知られています)」はよく歌われ、録音も多い名曲です。
テキストは「弱強弱強」のリズムで統一され、奇数行同士、偶数行同士で例外なく脚韻を踏んでいます。
簡潔で短い言葉を選んだリュッケルトの詩に、シューベルトは基本的に2行ずつを1つのフレーズにまとめ、時に詩行を繰り返すのですが、最終節はまるまる繰り返し、強調しています。
この最終節の繰り返し(メロディーは基本的に一緒ながら部分的に絶妙に変化させています)をどのように歌い、弾くのか、演奏家によって解釈の違いが出やすいところで、聞きどころの一つとも言えると思います。
テンポ設定も演奏家の個性が出やすいでしょう。

詩の朗読(Susanna Proskura)

リュッケルトの詩はあっという間に終わってしまいますが、シューベルトは彼の楽想を完成させる為に多くの詩行を繰り返しました。オリジナルの詩の朗読をお聞きください。

Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)
ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)

ここでのプライは神がかっていると思います。まさに"Ruh(安らぎ)"を感じさせる美声であり、彼の最高の名唱のひとつではないでしょうか。ホカンソンも温かい演奏です。

Matthias Goerne(BR) & Helmut Deutsch(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & ヘルムート・ドイチュ(P)

2008年録音。たっぷりしたテンポで完璧なメロディーの弧を描くゲルネの歌唱に聞きほれてしまいます。ドイチュの磨きぬかれたピアノの美音も最高です。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1965年録音。F=ディースカウの歌唱は心がこもっていて、どこをとっても完璧な素晴らしさです。ムーアも歌の意図を汲んだ名演奏です。

Elly Ameling(S) & Dalton Baldwin(P)
エリー・アーメリング(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)

絶妙なコントロールを貫きながら、自然さを失わないアーメリングの凄さをあらためて感じさせられました。ただ、最終節の2回目の繰り返しでの"deinem"を1回目と同じメロディーで歌っているのは彼女には珍しいミスでしょう。
(2019.12.1追記)
コメントでいわしさんに教えていただいたのですが、アーメリングが歌っているメロディはシューベルトのオリジナルで、ミスではありませんでした。ブライトコプフ&ヘルテルの出版譜の通りに歌っていることが分かりました。
いわしさん、有難うございました!

Barbara Bonney(S) & Geoffrey Parsons(P)
バーバラ・ボニー(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)

1994年録音。最後の節の2回目の繰り返しで"erhellt"を絞り込む箇所のボニー、素晴らしいです!

Christian Gerhaher(BR) & Gerold Huber(P)
クリスティアン・ゲアハーエル(BR) & ゲロルト・フーバー(P)

2005年録音。ディクションの明晰さとレガートの美しさを両立しているゲアハーエルに脱帽です。フーバーも静謐さの中に彼らしいドラマを盛り込んでいます。

ピアノ伴奏のみ(John Sheaによる演奏)

音楽的なとても優れた演奏だと思います。演奏が動画で見られるのはいいですね。ぜひ演奏に合わせて歌ってみて下さい。

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オランダの放送局録音の「冬の旅(Winterreise) D 911」5種

オランダの放送局"Radio 4"は過去から最近にいたるまでの膨大な録音コレクションの一部を聞けるようにしていて、大変有難いのですが、シューベルトの「冬の旅」全24曲を様々な演奏家の録音で聞けるようにしてありましたので、それぞれのサイトのリンクを貼っておきます(リンク先の上方左側の紫の三角をクリックすると再生されます)。
皆さんはどの「冬の旅」を聞きますか?

●ヴォルフガング・ホルツマイア(BR) & イモジェン・クーパー(P)
Wolfgang Holzmair(BR) & Imogen Cooper(P)
録音:13 November 2001, Concertgebouw (コンセルトヘバウ)
時間:1:08:36
 こちら

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & アルフレット・ブレンデル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Alfred Brendel(P)
録音:29 June 1984, Concertgebouw (コンセルトヘバウ)
時間:1:19:08
 こちら

●ロベルト・ホル(BSBR) & コンラート・リヒター(P)
Robert Holl(BSBR) & Konrad Richter(P)
録音:19 January 1981, Concertgebouw, kleine zaal (コンセルトヘバウ, 小ホール)
時間:43:23 + 36:35
 こちら

●ベルナルト・クライセン(BR) & ノエル・リー(P)
Bernard Kruysen(BR) & Noël Lee(P)
録音:22 February 1978, Concertgebouw (コンセルトヘバウ)
時間:39:05 + 30:49
 こちら

●ヘルマン・シャイ(BSBR) & フェーリクス・ドゥ・ノーブル(P)
Hermann Schey(BSBR) & Felix de Nobel(P)
録音:16 February 1966, Studio
時間:1:13:08
 こちら

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アーメリング&ヤンセン/1983年エクサン・プロヴァンス音楽祭リサイタルライヴ (Récital: Elly Ameling au Festival d'Aix en Provence en 1983)

ソプラノのエリー・アーメリング(Elly Ameling)と、ピアニストのルドルフ・ヤンセン(Rudolf Jansen)がフランスのエクサン・プロヴァンス音楽祭で1983年に催したリサイタルのライヴが聞けるようになっています。

 こちら

タイトル"Récital: Elly Ameling au Festival d'Aix en Provence en 1983"の左横に赤い三角マークがあるので、それをクリックするとプレイヤーが表示されて録音が流れます。
ドイツリートとフランスメロディーを中心に、英語1曲、さらにアンコールでは中田喜直の「おやすみなさい」まで歌っています。
まさに「歌の花束」といった趣です。
ちなみにこの時アーメリングはちょうど50歳で、円熟味を増してきた頃の歌唱が聞けます。
アーメリングお気に入りのピアニスト、ヤンセンもいい演奏を聞かせてくれます。
ライヴならではの息遣いなど、素敵なリサイタルですので、ぜひお聞きください。

録音:1983年7月31日, la Cathédrale Saint Sauveur d'Aix en Provence

Elly Ameling (エリー・アーメリング)(S)
Rudolf Jansen (ルドルフ・ヤンセン)(P)

時間:全59分

Wolfgang Amadeus Mozart (モーツァルト): Abendempfindung, K. 523 (夕べの情緒)

John Weldon (ウェルドン): The wakeful nightingale (眠らないナイチンゲール)

Franz Schubert (シューベルト): Nachtviolen, D 752 (はなだいこん)

Franz Schubert: Die Blumensprache, D 519 (花の言葉)

Franz Schubert: Seligkeit, D 433 (至福)

~ラジオ局のアナウンサーによるアナウンス~

Hugo Wolf (ヴォルフ): Wiegenlied im Sommer (夏の子守歌)

Hugo Wolf: Bedeckt mich mit Blumen (私を花で覆ってね)

Johannes Brahms (ブラームス): Botschaft, Op. 47/1 (使い)

Johannes Brahms: Immer leiser wird mein Schlummer, Op. 105/2 (わがまどろみはますます浅くなり)

Robert Schumann (シューマン): Der Nußbaum, Op. 25/3 (くるみの木)

Richard Strauss (リヒャルト・シュトラウス): Ständchen, Op. 17/2 (セレナーデ)

~ラジオ局のアナウンサーによるアナウンス~

Francis Poulenc (プランク): Violon (ヴァイオリン)

Ernest Chausson (ショソン): Le Colibri, Op. 2/7 (ハチドリ)

Henri Duparc (デュパルク): Chanson triste (悲しい歌)

~ラジオ局のアナウンサーによるアナウンス~

Yoshinao Nakada (中田喜直): Oyasuminasai (おやすみなさい) (「こどものための8つのうた」より)

Erik Satie (サティ): La Diva de l'Empire (ランピールの歌姫)

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シューベルト「秘めごと(Geheimes) D 719」を聴く

Geheimes, D 719
 秘めごと

Über meines Liebchens Äugeln
Stehn verwundert alle Leute;
Ich, der Wissende, dagegen
Weiß recht gut was das bedeute.
 ぼくの恋人の眼差しについて
 人々はみな首をかしげている。
 その一方で、訳知りのぼくは
 どういう意味なのかよく分かっているのだ。

Denn es heißt: ich liebe diesen,
Und nicht etwa den und jenen.
Lasset nur ihr guten Leute
Euer Wundern, euer Sehnen!
 というのも、その眼差しは「私が愛しているのはこの人で、
 こちらさんでもあちらさんでもないのよ」ということなのだ。
 善良なきみたちよ、
 いぶかしがったり、憧れたりするのをやめるがいい!

Ja, mit ungeheuren Mächten
Blicket sie wohl in die Runde;
Doch sie sucht nur zu verkünden
Ihm die nächste süße Stunde.
 そう、とてつもない引力で
 彼女はあたりを見回している。
 だが、彼女が告げようとしているのはただ
 この後のぼくとの甘い時間のことなのだ。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

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ゲーテの詩による有名なシューベルトの歌曲です。
詩の主人公の男性は、周囲の男たちを魅了している女性が実は自分の恋人であることに優越感を感じているのでしょうか。
二人の間だけの秘め事として、他の男性たちには分からないサインを恋人の女性が主人公に送っているようです。
シューベルトの音楽は、ピアノパートが一貫して2つの和音によるリズムを繰り返します。
恋人が目配せする様を模しているかのように感じられます。

詩の朗読(Susanna Proskura)

シューベルトのテキストと多少違うところがあるので、ゲーテの原詩によるのかもしれません。0:45頃に朗読が終わりますが、その後1:04まで止まりませんので、お手数ですが終わったら止めて下さい。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1959年録音。2人の大家の演奏している動画が残っているだけでも有難いことです。演奏は言うまでもなく隅々まで行き届いた素晴らしさです!

Hermann Prey(BR) & Gerald Moore(P)
ヘルマン・プライ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1960年録音。プライは声も表現も見事に脂が乗っていて、聞いていて楽しい気分にさせてくれます。ムーアの明晰なタッチも魅力的です。

Hans Hotter(BSBR) & Gerald Moore(P)
ハンス・ホッター(BSBR) & ジェラルド・ムーア(P)

1957年録音。ホッターの温かみのある深い声はただただ聞きほれてしまいます。細やかな表情もさすがです!

Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)

オッターのディクションの美しさと知的なアプローチが印象的です。フォシュベリもオッターの解釈を把握した演奏です。

Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)

2014年録音。ゲルネはディースカウの弟子ですが、師匠よりももっと自然な表現で、柔らかい感触が素晴らしいです。シュナイダーは特定の音を若干強調することで歌とデュエットしているような効果をあげています。

Elisabeth Schumann(S) & Elizabeth Colemann(P)
エリーザベト・シューマン(S) & エリザベス・コールマン(P)

1936年録音。往年の名歌手シューマンの表情の豊かさといったら!

Bruno Laplante(BR) & John Newmark(P)
ブリュノ・ラプラント(BR) & ジョン・ニューマーク(P)

1973年2月録音。ドイツリートの商業用録音を(おそらく)残さなかったラプラントの珍しいドイツリート歌唱です。

Ileana Cotrubas(S) & Erik Werba(P)
イレアナ・コトルバシュ(S) & エリク・ヴェルバ(P)

1978年録音。コトルバシュはあまりリートの印象がないですが、こうして聞いてみると、彼女特有の甘い美声に魅了されますね。

伴奏パートのみ(演奏者不明)

この一見簡素な伴奏を聴くと、いかにシューベルトが選ばれた音で感情の機微をあらわす天才だったかをあらためて感じさせてくれます。

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