シューベルト「秘めごと(Geheimes) D 719」を聴く
Geheimes, D 719
秘めごと
Über meines Liebchens Äugeln
Stehn verwundert alle Leute;
Ich, der Wissende, dagegen
Weiß recht gut was das bedeute.
ぼくの恋人の眼差しについて
人々はみな首をかしげている。
その一方で、訳知りのぼくは
どういう意味なのかよく分かっているのだ。
Denn es heißt: ich liebe diesen,
Und nicht etwa den und jenen.
Lasset nur ihr guten Leute
Euer Wundern, euer Sehnen!
というのも、その眼差しは「私が愛しているのはこの人で、
こちらさんでもあちらさんでもないのよ」ということなのだ。
善良なきみたちよ、
いぶかしがったり、憧れたりするのをやめるがいい!
Ja, mit ungeheuren Mächten
Blicket sie wohl in die Runde;
Doch sie sucht nur zu verkünden
Ihm die nächste süße Stunde.
そう、とてつもない引力で
彼女はあたりを見回している。
だが、彼女が告げようとしているのはただ
この後のぼくとの甘い時間のことなのだ。
詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Schubert (1797-1828)
------------------
ゲーテの詩による有名なシューベルトの歌曲です。
詩の主人公の男性は、周囲の男たちを魅了している女性が実は自分の恋人であることに優越感を感じているのでしょうか。
二人の間だけの秘め事として、他の男性たちには分からないサインを恋人の女性が主人公に送っているようです。
シューベルトの音楽は、ピアノパートが一貫して2つの和音によるリズムを繰り返します。
恋人が目配せする様を模しているかのように感じられます。
詩の朗読(Susanna Proskura)
シューベルトのテキストと多少違うところがあるので、ゲーテの原詩によるのかもしれません。0:45頃に朗読が終わりますが、その後1:04まで止まりませんので、お手数ですが終わったら止めて下さい。
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
1959年録音。2人の大家の演奏している動画が残っているだけでも有難いことです。演奏は言うまでもなく隅々まで行き届いた素晴らしさです!
Hermann Prey(BR) & Gerald Moore(P)
ヘルマン・プライ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
1960年録音。プライは声も表現も見事に脂が乗っていて、聞いていて楽しい気分にさせてくれます。ムーアの明晰なタッチも魅力的です。
Hans Hotter(BSBR) & Gerald Moore(P)
ハンス・ホッター(BSBR) & ジェラルド・ムーア(P)
1957年録音。ホッターの温かみのある深い声はただただ聞きほれてしまいます。細やかな表情もさすがです!
Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)
オッターのディクションの美しさと知的なアプローチが印象的です。フォシュベリもオッターの解釈を把握した演奏です。
Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)
2014年録音。ゲルネはディースカウの弟子ですが、師匠よりももっと自然な表現で、柔らかい感触が素晴らしいです。シュナイダーは特定の音を若干強調することで歌とデュエットしているような効果をあげています。
Elisabeth Schumann(S) & Elizabeth Colemann(P)
エリーザベト・シューマン(S) & エリザベス・コールマン(P)
1936年録音。往年の名歌手シューマンの表情の豊かさといったら!
Bruno Laplante(BR) & John Newmark(P)
ブリュノ・ラプラント(BR) & ジョン・ニューマーク(P)
1973年2月録音。ドイツリートの商業用録音を(おそらく)残さなかったラプラントの珍しいドイツリート歌唱です。
Ileana Cotrubas(S) & Erik Werba(P)
イレアナ・コトルバシュ(S) & エリク・ヴェルバ(P)
1978年録音。コトルバシュはあまりリートの印象がないですが、こうして聞いてみると、彼女特有の甘い美声に魅了されますね。
伴奏パートのみ(演奏者不明)
この一見簡素な伴奏を聴くと、いかにシューベルトが選ばれた音で感情の機微をあらわす天才だったかをあらためて感じさせてくれます。
| 固定リンク | 0
« シューベルト「憩いなき愛(Rastlose Liebe) D 139」を聴く | トップページ | アーメリング&ヤンセン/1983年エクサン・プロヴァンス音楽祭リサイタルライヴ (Récital: Elly Ameling au Festival d'Aix en Provence en 1983) »
「音楽」カテゴリの記事
- エリー・アーメリングの歌うモーツァルトのコンサートアリア2曲のライヴ音源(1968年1月23日, アムステルダム)(2023.11.05)
- ブラームス/「こうして僕らは立っている、僕と僕の喜びである彼女は(So stehn wir, ich und meine Weide, Op. 32, No. 8)」を聞く(2023.11.25)
- ブラームス/「きみは言う、僕が思い違いをしていたと(Du sprichst, daß ich mich täuschte, Op. 32, No. 6)」を聞く(2023.11.11)
- ブラームス/「辛辣なことを言ってやろうときみは思っている(Bitteres zu sagen denkst du, Op. 32, No. 7)」を聞く(2023.11.18)
「詩」カテゴリの記事
- ブラームス/「こうして僕らは立っている、僕と僕の喜びである彼女は(So stehn wir, ich und meine Weide, Op. 32, No. 8)」を聞く(2023.11.25)
- ブラームス/「きみは言う、僕が思い違いをしていたと(Du sprichst, daß ich mich täuschte, Op. 32, No. 6)」を聞く(2023.11.11)
- ブラームス/「辛辣なことを言ってやろうときみは思っている(Bitteres zu sagen denkst du, Op. 32, No. 7)」を聞く(2023.11.18)
- ブラームス/「つらいことに、こうしてあなたは私を再び(Wehe, so willst du mich wieder, Op. 32, No. 5)」を聞く(2023.11.02)
「シューベルト」カテゴリの記事
- シューベルト/子守歌(Schubert: Wiegenlied, D 498)を聞く(2023.09.02)
- シューベルト/ムーサの息子(ミューズの子)(Der Musensohn, D 764)(2023.07.01)
コメント