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シューベルト「憩いなき愛(Rastlose Liebe) D 139」を聴く

Rastlose Liebe, D 139
 憩いなき愛

Dem Schnee, dem Regen,
Dem Wind entgegen,
Im Dampf der Klüfte,
Durch Nebeldüfte,
Immer zu! Immer zu!
Ohne Rast und Ruh!
 雪に、雨に、
 風に立ち向かい、
 深淵の蒸気の中、
 霧を通り抜け、
 絶えず行け!絶えず行け!
 休まず、憩わずに!

Lieber durch Leiden
Wollt ich mich schlagen,
Als so viel Freuden
Des Lebens ertragen.
Alle das Neigen
Von Herzen zu Herzen,
Ach wie so eigen
Schaffet das Schmerzen!
 むしろ苦しみの中を
 突き進みたい、
 人生のあまりにも多くの喜びに
 耐える位ならば。
 心から心へと
 傾注するものはみな、
 ああ、いかに自ら
 苦しみを生み出してしまうのだろう!

Wie soll ich flieh'n?
Wälderwärts zieh'n?
Alles vergebens!
Krone des Lebens,
Glück ohne Ruh,
Liebe, bist du!
 どうやって逃げろというのだ?
 森へ行けというのか?
 何もかも無駄なことだ!
 人生の王冠であり、
 憩いなき幸せ、
 愛よ、それはお前なのだ!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

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※シューベルトによる詩句の繰り返しは第3節のみにある。
以下第3節の繰り返し箇所に[ ]を付与している(最終行の冒頭の"o"はシューベルトによる追加)。

Wie soll ich flieh'n?
Wälderwärts zieh'n?
Alles [alles] vergebens!
Krone des Lebens,
Glück ohne Ruh,
Liebe, bist du!
[o, Liebe, bist du!]
[Glück ohne Ruh,]
[Liebe, bist du!]
[Krone des Lebens,]
[Glück ohne Ruh,]
[Liebe, bist du!]
[o, Liebe, bist du!]
[o, Liebe, Liebe, bist du!]

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シューベルトが最も多く独唱歌曲を作曲した詩人はゲーテでしたが、そのゲーテの詩により1815年に作曲された作品の一つがこの「憩いなき愛」D 139 です。
一分半ぐらいの短い作品ですが、詩に横溢している疾風怒濤の焦燥感を見事に描いた名作として、よく演奏される作品です。
詩が短くて、シューベルトの楽想には足りなくなってしまったのか、かなり詩句を繰り返しています。
ピアノパートは細かい十六分音符の箇所と三連符の箇所を織り交ぜながら、激流のように激しく進んでいきます。

●詩の朗読(名前不明の男性による)

美しい朗読です。ぜひ聞いてみて下さい。

●Hermann Prey(BR) & Karl Engel(P)
ヘルマン・プライ(BR) & カール・エンゲル(P)

1965年録音。初期のプライの溢れんばかりに豊かな美声によるほとばしる情熱がこの曲にぴったりで素晴らしいです。エンゲルも雄弁に盛り上げています。

●Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1955年録音。F=ディースカウのディクションの上手さと、ムーアの一体感が相変わらず見事です。

●Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)
ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)

シュライアーの清冽な美声が魅力的です。オルベルツも粒立ちのそろった演奏です。なお、この動画、1:20頃に演奏が終わっても3分過ぎまで止まりませんので、終わったらお手数ですが止めて下さい。

●Jessye Norman(S) & Phillip Moll(P)
ジェシー・ノーマン(S) & フィリップ・モル(P)

1984年録音。豊潤な声をもったノーマンによく合った作品だと思います。

●Barbara Hendricks(S) & Radu Lupu(P)
バーバラ・ヘンドリックス(S) & ラドゥ・ルプー(P)

1985年録音。ノーマンとは対照的な細身の声をもったヘンドリックスですが、芯の強さがあり、彼女ならではの魅力があります。シューベルト弾きのルプーの音色の美しさも素晴らしいです。

●Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)

2014年録音。ゲルネの深みのある声による歌唱は、現役第一級のリート歌手であることを示しています。シュナイダーも息の合ったいい演奏です。

●ピアノパートのみ:ジョン・ワストマン(John Wustman)による演奏

1962年録音。低声用(原調のホ長調からハ長調に移調した版による)。アメリカを代表する伴奏者の一人ワストマンによる贅沢なマイナスワン録音。ピアノだけで聞かせてしまうのはさすがです。
なお、この動画も、1:25頃に演奏が終わっても4分過ぎまで止まりませんので、終わったらお手数ですが止めて下さい。

●番外編1:Bruno Laplante(BR) & John Newmark(P)
ブリュノ・ラプラント(BR) & ジョン・ニューマーク(P)

1973年2月録音。フランス歌曲の復興に大きく貢献したカナダ人、ラプラントによるドイツ歌曲の歌唱はかなり珍しいのではないでしょうか。

●番外編2:初音ミク(ボーカロイド)

ドイツ語の発音に目をつむれば、面白い試みだと思います。シューベルトがもしボーカロイドの存在する時代に生きていたら、彼女のために作品を書いたかもしれませんね。

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他の作曲家がこのテキストに作曲した作品

●ツェルター(Carl Friedrich Zelter: 1758-1832)作曲
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Jörg Demus(Fortepiano)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & イェルク・デームス(Fortepiano)
ゲーテお気に入りの作曲家ツェルターの作品。かなりドラマティックで印象的です。
※埋め込み不可の動画なので、下記の「こちら」をクリックして下さい。
 こちら

●トマーシェク(Johann Wenzel Tomaschek: 1774-1850)作曲(Op. 58, No. 1)
Ildikó Raimondi(S) & Leopold Hager(P)

こちらも焦燥感に満ちた作品になっていますね。演奏も見事です。

●シェック(Othmar Schoeck: 1886-1957)作曲(Op. 19a, No. 5)
Emma Ritter(MS) & Christina Giuca(P)
録音:2017年8月4日, Hahn Hall, Music Academy of the West, Santa Barbara, CA

起伏の大きなドラマティックな作品で、ピアノパートはかなり雄弁です。演奏もとても素晴らしいです。

●シューマン(Robert Schumann: 1810-1856)作曲による無伴奏男声4部合唱(Op. 33, No. 5)
Renner Ensemble & Bernd Engelbrecht

合唱曲ということもあってか、他の作曲家の独唱曲に比べると随分穏やかな印象を受けます。

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ロベルト・ホル(Robert Holl)&デイヴィッド・ルッツ(David Lutz)のシューベルト映像

ピアニストのデイヴィッド・ルッツ(David Lutz)のWebサイトに、バスバリトン歌手のロベルト・ホル(Robert Holl)とのシューベルトの夕べの映像が多数ありますので、ご紹介します。

 こちら

すべて、オーストリアのシュヴァルツェンベルクでのシューベルティアーデのライヴ映像です。
それぞれのプログラムにテーマが設定されているのも、ホルらしいですね。
なお、赤字で"Vervielfältigung, Verwertung und gewerbliche Nützung ist nicht gestattet!"(複製、再利用、商業利用は許可しません)との文言がありますので、Webサイト上で動画を再生するだけにしておいて下さい。

●Schubertiade Schwarzenberg 11. Juni 2005 - Teil 1(2005年6月11日、第1部)

Lieder nach Gedichten von Friedrich von Schiller(フリードリヒ・フォン・シラーの詩による歌曲)

Sehnsucht, D 636(憧れ)
Der Pilgrim, D 794(巡礼者)
Der Alpenjäger, D 588(アルプスの狩人)
Ritter Toggenburg, D 397(騎士トッゲンブルク)
Die Bürgschaft, D 246(人質)

●Schubertiade Schwarzenberg 11. Juni 2005 - Teil 2(2005年6月11日、第2部)

Lieder nach Gedichten von Friedrich von Schiller(フリードリヒ・フォン・シラーの詩による歌曲)

Der Flüchtling, D 402(逃亡者)
Die Erwartung, D 159(期待)
Strophe aus "Die Götter Griechenlands", D 677(「ギリシャの神々」からの断片)
Dithyrambe, D 801(酒神讃歌)
Hoffnung, D 637(希望)

Zugaben(アンコール:詩はすべてマイアホーファー):
Am Strome (Mayrhofer), D 539(流れのそばで)
Die Sternennächte (Mayrhofer), D 670(星の夜)
Nachtviolen (Mayrhofer) D 637(はなだいこん)

●Schubertiade Schwarzenberg 1. September 2005 - Teil 1(2005年9月1日、第1部)

Schubert im Freundeskreis(友人との集いにおけるシューベルト)

Pilgerweise (Schober), D 789(巡礼の歌)
Am Bach im Frühlinge (Schober), D 361(春の小川のほとりで)
Todesmusik (Schober), D 758(死の音楽)
Selige Welt (Senn), D 743(幸福の世界)
Am See (Bruchmann), D 746(湖畔で)
Schwanengesang (Senn), D 744(白鳥の歌)
Auf der Donau (Mayrhofer), D 553(ドーナウ川の上で)
Gondelfahrer (Mayrhofer), D 808(ゴンドラの船頭)

●Schubertiade Schwarzenberg 1. September 2005 - Teil 2(2005年9月1日、第2部)

Schubert im Freundeskreis(友人との集いにおけるシューベルト)

Sehnsucht (Mayrhofer), D 516(憧れ)
Erlaufsee (Mayrhofer), D 586(エルラフ湖)
Einführung zu "Einsamkeit"(歌曲「孤独」の解説)
Einsamkeit (Mayrhofer), D 620(孤独)

Zugaben(アンコール):
Der Schiffer (Mayrhofer), D 536(舟人)
Am Strome (Mayrhofer), D 539(流れのほとりで)

●Schubertiade Schwarzenberg 2. Juli 2011 - Teil 1(2011年7月2日、第1部)

Musik, Poesie der Luft (Jean Paul)(「音楽、大気の詩」(ジャン・パウル))

Der Wanderer an den Mond (Seidl), D 870(さすらい人が月に寄せて)
Das Heimweh (Pyrker), D 851(郷愁)
Der Kreuzzug (Leitner), D 932(十字軍)
Am Strome (Mayrhofer), D 536(湖畔で)
Auf der Donau (Mayrhofer), D 553(ドーナウ川の上で)
Gondelfahrer (Mayrhofer), D 808(ゴンドラの船頭)
Nachthymne (Novalis), D 687(夜の讃歌)
Abendbilder (Silbert), D 650(夕べの情景)

●Schubertiade Schwarzenberg 2. Juli 2011 - Teil 2(2011年7月2日、第2部)

Musik, Poesie der Luft (Jean Paul)(「音楽、大気の詩」(ジャン・パウル))

Der Jüngling auf dem Hügel (Hüttenbrenner), D 702(丘の上の若者)
Augenlied (Mayrhofer), D 297(瞳の歌)
Der Unglückliche (Pichler), D 713(不幸な男)
Sehnsucht (Mayrhofer), D 516(憧れ)
Memnon (Mayrhofer), D 541(メムノン)
An die Freunde (Mayrhofer), D 654(友人たちに寄せて)
Der Winterabend (Leitner), D 938(冬の夕べ)

Zugaben(アンコール):
Nachtviolen (Mayrhofer), D 752(はなだいこん)
An die Musik (Schober), D 547(音楽に寄せて)

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シューベルト「乙女の嘆き(Des Mädchens Klage)」全3作(D 6, D 191, D 389)を聴く

Des Mädchens Klage
 乙女の嘆き

Der Eichwald [brauset](1),
Die Wolken [ziehn](2),
Das Mägdlein [sitzet](3)
An Ufers Grün,
Es bricht sich die Welle mit Macht, mit Macht,
Und sie seufzt hinaus in die finstre Nacht,
Das Auge [von](4) Weinen [getrübet](5).
 樫の森はざわめき、
 雲は流れ行く。
 娘は
 岸辺の緑野に座っている。
 波は勢いよく、勢いよく砕け散る。
 彼女は暗い夜にため息をもらし、
 目は泣きはらして曇っている。

"Das Herz ist gestorben,
Die Welt ist leer,
Und weiter giebt sie
Dem Wunsche nichts mehr.
Du Heilige [rufe](6) dein Kind zurück,
Ich habe genossen das irdische Glück,
Ich habe gelebt und geliebet!"
 「この心は死に、
 世の中はむなしい、
 そしてこれ以上世の中は
 望みをもはや何もかなえてくださらないのです、
 汝、聖母様、汝の子を召還してください、
 私はこの世の幸せを充分味わいました、
 私は生き、愛してきました。」

Es rinnet der Thränen
Vergeblicher Lauf,
Die Klage, sie wecket
Die Todten nicht auf,
Doch nenne, was tröstet und heilet die Brust
Nach der süßen Liebe [verschwundener](7) Lust,
Ich, die himmlische, wills nicht versagen.
 涙が
 むなしく流れつづける。
 嘆き、それが
 死者を目覚めさせることはない。
 だが、甘い愛の喜びが消えたあとに
 その胸を慰め、癒すものを挙げるがよい、
 天上にいる私はそれまで拒むつもりはない。

Laß rinnen der Thränen
Vergeblichen Lauf,
Es wecke die Klage
Den Todten nicht auf,
Das süßeste Glück für die [traurende](8) Brust,
Nach der schönen Liebe [verschwundener](7) Lust,
Sind der Liebe Schmerzen und Klagen.
 むなしく涙が
 流れるままにしてください。
 嘆いても
 死者が目覚めないようにしてください。
 悲しむ胸にとって、
 美しい愛の喜びが消えたあとの、最も甘い幸せは、
 愛の苦しみと嘆きなのです。

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※註
(1) Schubert (D.191 and D.389): "braust"
(2) Schubert (D.6, first occurrence only): "ziehen"
(3) Schubert (D.191 and D.389): "sitzt"
(4) Schiller (editions from 1810), and Schubert: "vom"
(5) Schubert (D.6): "getrübt"
(6) Schubert (D.6): "ruf'"
(7) Schubert (D.191, second version only): "verschwund'ner"
(8) Schubert (D.191 and D.389): "trauernde"

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詩:Friedrich Schiller (1759-1805)
音楽:Franz Peter Schubert (1797-1828)

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シューベルトは、シラーの詩によって多くの歌曲を書きましたが、いくつかの作品は同じテキストに異なる作曲を試みています。
この「乙女の嘆き」は、三十年戦争を題材にした「ヴァレンシュタイン(Wallenstein)」というシラーの作品の第2部第3幕第7場で、ヴァレンシュタインの娘テークラによって歌われる詩の最初の2節分とほぼ同じ内容とのことです。
岩波文庫から濱川祥枝氏の訳したものが出ているのですが(2003年)、その解説によると、詩が1798年に発表され、「ヴァレンシュタイン」は1798-1799年に書かれたようなので、すでに発表していた詩を、戯曲の中に取り入れたということになるのかもしれません。

シューベルトはこの詩に、14、15歳頃に最初に作曲し、さらに18歳の時に第2作を作り、その翌年には第3作を作曲します。
しかし、出版された第2作のみがとてもよく知られるようになり、リストもピアノ・ソロ用に編曲しているほどです。

第2作は2つの稿があり、出版された前奏付のものは2稿目です。
「ヴァレンシュタイン」の中では、テークラがギターを奏でつつ歌うというト書きがある為、シューベルトもそれを意識したのかもしれません(14、15歳頃の作曲では前奏がなく、いきなり歌が始まります)。

シューベルトが同じ詩からどのような解釈の変化を反映させたのか興味深い例だと思います。
お時間があれば、D 6からD 191、D 389の順番にお聞きになると、シューベルトの作曲の変遷が分かると思います。

同じ詩にツェルターとメンデルスゾーンが作曲した作品との比較も興味深いと思います。

●シラーの詩の朗読(Susanna Proskura)

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シューベルト作曲の3つの作品(作曲順)
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)
1977/78年録音

●第1作(D 6)(1811年または1812年作曲):通作形式

●第2作(D 191)(1815年5月15日作曲):有節形式

●第3作(D 389)(1816年3月作曲):有節形式 (ここでは全4節中、第1~2節のみが歌われています)

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●シューベルト作曲の第2作(D 191)に基づくフランツ・リスト(Franz Liszt)によるピアノ独奏用編曲版の演奏(Valentina Lisitsa)

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●ツェルター(Carl Friedrich Zelter: 1758-1832)作曲による作品(有節形式)
Duo con emozioneによる演奏
こちら
この動画は埋め込めないので、上記のリンク先からお聴き下さい。

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●メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn: 1809-1847)作曲による作品(第1~2節のみの通作形式。シラーの戯曲の箇所のみに作曲したということになります)
Andrea Folan(S) & Tom Beghin(fortepiano)

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ハイドン、ベートーヴェンの民謡編曲

ハイドン、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ヴェーバーといった古典派からロマン派の大作曲家たちが、英語圏の民謡に複数の楽器の伴奏を付けて出版したことは興味深い事実ですが、その中で、我々に馴染みの深い曲も含まれていることに驚かされます。

そんな例をいくつか挙げてみたいと思います。

最初は、ハイドンの編曲による次のとあるスコットランド民謡を聞いてみて下さい。

続いて、同じ原曲をベートーヴェンが編曲した演奏です。

上記はお馴染みの「蛍の光(Auld Lang Syne)」ですね。

次に、よく知られたアイルランド民謡のベートーヴェン編曲版をお聞き下さい。

「夏の名残のばら(The Last Rose of Summer)」です(日本では「庭の千草」として知られています)。

ベートーヴェンの曲のタイトルは"Sad and Luckless was the Season"で、同じ音楽に別の詩が付けられたものがあるということでしょうか。

次にイギリスを代表する作曲家ブリテンの編曲による「夏の名残のばら」を聞いてみましょう。
こちらは伴奏はピアノのみですが、独特のコードが個性的です。

Kathryn Rudge - Mezzo Soprano. David Jones - Piano

最後に日本の唱歌となった「庭の千草」を往年の名歌手、関屋敏子さんの歌で聞いてみたいと思います。

ある地域で歌われていた音楽が、形を変えて、時代を超えて、場所も大きく飛び越えて生き残っているのがとても面白いですね。このあたりのことを研究されている方もきっと沢山いらっしゃることと思います。
それにしてもSPレコードの針の音は、私の子供の頃にはすでに消えていたにもかかわらず、不思議な郷愁を駆り立てられます。関屋さんの美しい声もとてもいいですね。

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シューベルト「男なんてみんな悪者よ!(Die Männer sind méchant!) D 866-3」を聴く

Die Männer sind méchant! D 866-3
 男なんてみんな悪者よ!

Du sagtest mir es, Mutter:
Er ist ein Springinsfeld!
Ich würd' es dir nicht glauben,
Bis ich mich krank gequält!
Ja, ja, nun ist er's wirklich;
Ich hatt' ihn nur verkannt!
Du sagtest mir's, o Mutter:
»Die Männer sind méchant!«
 私にこう言っていたわよね、お母さん、
 あいつは軽い男だよって!
 私はお母さんが信じられなかったの、
 病むほどに苦しむまでは!
 そう、そうなのよ、あいつはまさにその通りだったの、
 私はあいつのことを分かっていなかったの!
 私にこう言っていたわよね、ねぇお母さん、
 「男なんてみんな悪者なのよ!」と。

Vor'm Dorf im Busch, als gestern
Die stille Dämm'rung sank,
Da rauscht' es: »Guten Abend!«
Da rauscht' es: »Schönen Dank!«
Ich schlich hinzu, ich horchte;
Ich stand wie festgebannt:
Er war's mit einer Andern -
»Die Männer sind méchant!«
 村の前にある茂みの中でね、昨日
 静かな夕日が沈んだころに、
 こう聞こえたの、「こんばんは!」って。
 すると別の声がしたわ、「ありがとう!」って。
 私そっと近づいて行って、聞き耳を立てていたの、
 私、金縛りにあったかのように立ちつくしてしまったわ、
 だってあいつったら他の女と一緒だったのよ、
 「男ってひどい!」

O Mutter, welche Qualen!
Es muß heraus, es muß! -
Es blieb nicht bloß beim Rauschen,
Es blieb nicht bloß beim Gruß!
Vom Gruße kam's zum Kusse,
Vom Kuß zum Druck der Hand,
Vom Druck, ach liebe Mutter! -
»Die Männer sind méchant!«
 ああ、お母さん、なんて苦しいの!
 さらに言わなくちゃ!
 ただ声をかけただけじゃなかったのよ、
 ただ挨拶をしただけじゃなかったの、
 挨拶してからキスをしたの、
 キスをしてから手を握ったわ、
 手を握ったあとで...ああ、お母さん!
 「男って最低!」

詩:Johann Gabriel Seidl (1804-1875)
音楽:Franz Schubert (1797-1828)

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シューベルトはザイドル(最後の歌曲「鳩の便り」の詩人)の詩によって「4つのリフレイン歌曲集(Vier Refrainlieder)」を作曲しました。その3曲目が「男なんてみんな悪者よ!」です。
私がはじめてこの曲を聴いたのは、アーメリング&ボールドウィンのシューベルト歌曲集のLP(PHILIPSレーベル)だったのですが、他の歌曲と明らかに毛色の異なる曲調に驚いたものでした。
シューベルトは詩によっては大衆的な音楽をつけることがたまにあったのですが、これなどもなかなかパンチのきいた内容になっています。

彼氏に二股かけられていたことを知った若い女性が母親にその苦しみを訴えるという内容で、いつの世も男女の間に同じような問題が起きていたのだなと思うと、人間は本質的には何も変わっていないのではないかと思ってしまいます。
シューベルトは各節最後に繰り返される「Die Männer sind méchant!」に同じ音楽が付くようにしつつも、物語の展開を迫真のドラマにしていて、映像が目に浮かぶようです。

ズザンナ・プロスクラ(speaker)
Susanna Proskura(speaker)

テキストの朗読です。語りの口調を聞いてからシューベルトの音楽を聴くと、シューベルトが実に話法を巧みに取り入れているのが感じられます。

エリー・アーメリング(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S) & Dalton Baldwin(P)

アーメリングの芝居の上手さは際立っています。ボールドウィンも一体になって見事にドラマを作り上げています。

グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)

1977/78年録音。さすがヤノヴィツは役者です。怒りと悲しみの入り混じった少女の感情を巧みに表現して、聞き手を惹きつけます。ゲイジも情景を雄弁に演奏しています。

ルネ・フレミング(S) & クリストフ・エッシェンバハ(P)
Renée Fleming(S) & Christoph Eschenbach(P)

1996年録音。フレミングは声色の変化を巧みに使い、オペラで鍛えた表現力で聞かせます。エッシェンバハも雄弁な演奏です。

キャスリーン・バトル(S) & ジェイムズ・レヴァイン(P)
Kathleen Battle(S) & James Levine(P)

1987年録音。バトルはあまり感情を込めず淡々と歌っているので、実はこの歌の女性も後ろめたいことがあって、彼氏に本気で怒ってはいないという設定なのかなという気もします。

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