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シューベルト「男なんてみんな悪者よ!(Die Männer sind méchant!) D 866-3」を聴く

Die Männer sind méchant! D 866-3
 男なんてみんな悪者よ!

Du sagtest mir es, Mutter:
Er ist ein Springinsfeld!
Ich würd' es dir nicht glauben,
Bis ich mich krank gequält!
Ja, ja, nun ist er's wirklich;
Ich hatt' ihn nur verkannt!
Du sagtest mir's, o Mutter:
»Die Männer sind méchant!«
 私にこう言っていたわよね、お母さん、
 あいつは軽い男だよって!
 私はお母さんが信じられなかったの、
 病むほどに苦しむまでは!
 そう、そうなのよ、あいつはまさにその通りだったの、
 私はあいつのことを分かっていなかったの!
 私にこう言っていたわよね、ねぇお母さん、
 「男なんてみんな悪者なのよ!」と。

Vor'm Dorf im Busch, als gestern
Die stille Dämm'rung sank,
Da rauscht' es: »Guten Abend!«
Da rauscht' es: »Schönen Dank!«
Ich schlich hinzu, ich horchte;
Ich stand wie festgebannt:
Er war's mit einer Andern -
»Die Männer sind méchant!«
 村の前にある茂みの中でね、昨日
 静かな夕日が沈んだころに、
 こう聞こえたの、「こんばんは!」って。
 すると別の声がしたわ、「ありがとう!」って。
 私そっと近づいて行って、聞き耳を立てていたの、
 私、金縛りにあったかのように立ちつくしてしまったわ、
 だってあいつったら他の女と一緒だったのよ、
 「男ってひどい!」

O Mutter, welche Qualen!
Es muß heraus, es muß! -
Es blieb nicht bloß beim Rauschen,
Es blieb nicht bloß beim Gruß!
Vom Gruße kam's zum Kusse,
Vom Kuß zum Druck der Hand,
Vom Druck, ach liebe Mutter! -
»Die Männer sind méchant!«
 ああ、お母さん、なんて苦しいの!
 さらに言わなくちゃ!
 ただ声をかけただけじゃなかったのよ、
 ただ挨拶をしただけじゃなかったの、
 挨拶してからキスをしたの、
 キスをしてから手を握ったわ、
 手を握ったあとで...ああ、お母さん!
 「男って最低!」

詩:Johann Gabriel Seidl (1804-1875)
音楽:Franz Schubert (1797-1828)

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シューベルトはザイドル(最後の歌曲「鳩の便り」の詩人)の詩によって「4つのリフレイン歌曲集(Vier Refrainlieder)」を作曲しました。その3曲目が「男なんてみんな悪者よ!」です。
私がはじめてこの曲を聴いたのは、アーメリング&ボールドウィンのシューベルト歌曲集のLP(PHILIPSレーベル)だったのですが、他の歌曲と明らかに毛色の異なる曲調に驚いたものでした。
シューベルトは詩によっては大衆的な音楽をつけることがたまにあったのですが、これなどもなかなかパンチのきいた内容になっています。

彼氏に二股かけられていたことを知った若い女性が母親にその苦しみを訴えるという内容で、いつの世も男女の間に同じような問題が起きていたのだなと思うと、人間は本質的には何も変わっていないのではないかと思ってしまいます。
シューベルトは各節最後に繰り返される「Die Männer sind méchant!」に同じ音楽が付くようにしつつも、物語の展開を迫真のドラマにしていて、映像が目に浮かぶようです。

ズザンナ・プロスクラ(speaker)
Susanna Proskura(speaker)

テキストの朗読です。語りの口調を聞いてからシューベルトの音楽を聴くと、シューベルトが実に話法を巧みに取り入れているのが感じられます。

エリー・アーメリング(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S) & Dalton Baldwin(P)

アーメリングの芝居の上手さは際立っています。ボールドウィンも一体になって見事にドラマを作り上げています。

グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)

1977/78年録音。さすがヤノヴィツは役者です。怒りと悲しみの入り混じった少女の感情を巧みに表現して、聞き手を惹きつけます。ゲイジも情景を雄弁に演奏しています。

ルネ・フレミング(S) & クリストフ・エッシェンバハ(P)
Renée Fleming(S) & Christoph Eschenbach(P)

1996年録音。フレミングは声色の変化を巧みに使い、オペラで鍛えた表現力で聞かせます。エッシェンバハも雄弁な演奏です。

キャスリーン・バトル(S) & ジェイムズ・レヴァイン(P)
Kathleen Battle(S) & James Levine(P)

1987年録音。バトルはあまり感情を込めず淡々と歌っているので、実はこの歌の女性も後ろめたいことがあって、彼氏に本気で怒ってはいないという設定なのかなという気もします。

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コメント

フランツさん、こんばんは。

この曲、ピアノパートも巧みですね。
アメリングはさすがの表現ですね!
声に感情が乗って、その声が美しいのがより一層少女の悔しさ、怒り、悲しみを引き出しているように思いました。

ヤノヴィッツはいつもは貴婦人のイメージなのですが、アメリングの演奏より更に早いテンポで、心の動揺を表しているように思いました。
アメリング共々うまいですね!

フレミングは、抑揚や緩急を巧みに使い、おっしゃるように、オペラのアリアを思わせる演奏ですね。
年若い少女と言うより、妙齢のご婦人と言った感じがします。

バトルは、このCDを持っています。
ドイツグラモフォン盤ですね。
バトルは、説を追うほどに気持ちが入ってくるような演奏ですね。
墓の歌手に比べておとなしい「訴え」で、おっとりしたお嬢さんなのかな、と思いました。
>「実はこの歌の女性も後ろめたいことがあって、彼氏に本気で怒ってはいないという設定なのかなという気もします。」
というフランツさんの解釈が斬新でした。
日本でも、和歌を詠むのは貴族の宮廷における言葉の上の恋愛お遊びのような部分もあったように、起こったふりをしているのかもしれませんね。

こんな風に空想や想像しながら聴けるので、それもまた歌曲の世界の楽しさですよね。


投稿: 真子 | 2018年6月 6日 (水曜日) 21時25分

バトルの段落、他の歌手が墓の歌手になっていました(^^;(^^;
すみませんm(_ _)m

投稿: 真子 | 2018年6月 6日 (水曜日) 21時27分

真子さん、こんばんは。
今回もご丁寧なコメントを有難うございます(^^)

アーメリングについて全く同感です!
彼女は声の美しさゆえに、より一層悲しみが引き立つのですよね。彼女がヴォルフのミニョン歌曲群を歌った時にも同じことを感じました。

ヤノヴィツも芸達者ですよね。最後に一瞬間をとるところは、彼女のアイディアなのか、ゲイジの提案なのか気になるところです。

フレミングは声自体が成熟した女性の趣がありますよね。彼女はオペラでの印象が強いのですが、ハルトムート・ヘルに師事していて歌曲にも造詣が深いようです。

バトルの録音はおっしゃるようにドイツグラモフォン盤ですね。レヴァインは彼女の声にほれ込んだのか、よく共演していますよね。
バトルのここでの表現は意外とあっさりしているのですが、そこからいろいろ想像がふくらみ、他の演奏者と異なる解釈を楽しめるのはやはり歌曲を聴く醍醐味ですよね。

和歌における男女のやりとりも、時に微笑ましい情景があるようですね。昔国語の授業で習った額田王の歌のやりとりなど、意味を知ると一気に親しみがわいたものでした。古今東西、恋歌は普遍的に感じられます。

投稿: フランツ | 2018年6月 7日 (木曜日) 20時48分

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