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シューベルト「乙女の嘆き(Des Mädchens Klage)」全3作(D 6, D 191, D 389)を聴く

Des Mädchens Klage
 乙女の嘆き

Der Eichwald [brauset](1),
Die Wolken [ziehn](2),
Das Mägdlein [sitzet](3)
An Ufers Grün,
Es bricht sich die Welle mit Macht, mit Macht,
Und sie seufzt hinaus in die finstre Nacht,
Das Auge [von](4) Weinen [getrübet](5).
 樫の森はざわめき、
 雲は流れ行く。
 娘は
 岸辺の緑野に座っている。
 波は勢いよく、勢いよく砕け散る。
 彼女は暗い夜にため息をもらし、
 目は泣きはらして曇っている。

"Das Herz ist gestorben,
Die Welt ist leer,
Und weiter giebt sie
Dem Wunsche nichts mehr.
Du Heilige [rufe](6) dein Kind zurück,
Ich habe genossen das irdische Glück,
Ich habe gelebt und geliebet!"
 「この心は死に、
 世の中はむなしい、
 そしてこれ以上世の中は
 望みをもはや何もかなえてくださらないのです、
 汝、聖母様、汝の子を召還してください、
 私はこの世の幸せを充分味わいました、
 私は生き、愛してきました。」

Es rinnet der Thränen
Vergeblicher Lauf,
Die Klage, sie wecket
Die Todten nicht auf,
Doch nenne, was tröstet und heilet die Brust
Nach der süßen Liebe [verschwundener](7) Lust,
Ich, die himmlische, wills nicht versagen.
 涙が
 むなしく流れつづける。
 嘆き、それが
 死者を目覚めさせることはない。
 だが、甘い愛の喜びが消えたあとに
 その胸を慰め、癒すものを挙げるがよい、
 天上にいる私はそれまで拒むつもりはない。

Laß rinnen der Thränen
Vergeblichen Lauf,
Es wecke die Klage
Den Todten nicht auf,
Das süßeste Glück für die [traurende](8) Brust,
Nach der schönen Liebe [verschwundener](7) Lust,
Sind der Liebe Schmerzen und Klagen.
 むなしく涙が
 流れるままにしてください。
 嘆いても
 死者が目覚めないようにしてください。
 悲しむ胸にとって、
 美しい愛の喜びが消えたあとの、最も甘い幸せは、
 愛の苦しみと嘆きなのです。

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※註
(1) Schubert (D.191 and D.389): "braust"
(2) Schubert (D.6, first occurrence only): "ziehen"
(3) Schubert (D.191 and D.389): "sitzt"
(4) Schiller (editions from 1810), and Schubert: "vom"
(5) Schubert (D.6): "getrübt"
(6) Schubert (D.6): "ruf'"
(7) Schubert (D.191, second version only): "verschwund'ner"
(8) Schubert (D.191 and D.389): "trauernde"

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詩:Friedrich Schiller (1759-1805)
音楽:Franz Peter Schubert (1797-1828)

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シューベルトは、シラーの詩によって多くの歌曲を書きましたが、いくつかの作品は同じテキストに異なる作曲を試みています。
この「乙女の嘆き」は、三十年戦争を題材にした「ヴァレンシュタイン(Wallenstein)」というシラーの作品の第2部第3幕第7場で、ヴァレンシュタインの娘テークラによって歌われる詩の最初の2節分とほぼ同じ内容とのことです。
岩波文庫から濱川祥枝氏の訳したものが出ているのですが(2003年)、その解説によると、詩が1798年に発表され、「ヴァレンシュタイン」は1798-1799年に書かれたようなので、すでに発表していた詩を、戯曲の中に取り入れたということになるのかもしれません。

シューベルトはこの詩に、14、15歳頃に最初に作曲し、さらに18歳の時に第2作を作り、その翌年には第3作を作曲します。
しかし、出版された第2作のみがとてもよく知られるようになり、リストもピアノ・ソロ用に編曲しているほどです。

第2作は2つの稿があり、出版された前奏付のものは2稿目です。
「ヴァレンシュタイン」の中では、テークラがギターを奏でつつ歌うというト書きがある為、シューベルトもそれを意識したのかもしれません(14、15歳頃の作曲では前奏がなく、いきなり歌が始まります)。

シューベルトが同じ詩からどのような解釈の変化を反映させたのか興味深い例だと思います。
お時間があれば、D 6からD 191、D 389の順番にお聞きになると、シューベルトの作曲の変遷が分かると思います。

同じ詩にツェルターとメンデルスゾーンが作曲した作品との比較も興味深いと思います。

●シラーの詩の朗読(Susanna Proskura)

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シューベルト作曲の3つの作品(作曲順)
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)
1977/78年録音

●第1作(D 6)(1811年または1812年作曲):通作形式

●第2作(D 191)(1815年5月15日作曲):有節形式

●第3作(D 389)(1816年3月作曲):有節形式 (ここでは全4節中、第1~2節のみが歌われています)

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●シューベルト作曲の第2作(D 191)に基づくフランツ・リスト(Franz Liszt)によるピアノ独奏用編曲版の演奏(Valentina Lisitsa)

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●ツェルター(Carl Friedrich Zelter: 1758-1832)作曲による作品(有節形式)
Duo con emozioneによる演奏
こちら
この動画は埋め込めないので、上記のリンク先からお聴き下さい。

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●メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn: 1809-1847)作曲による作品(第1~2節のみの通作形式。シラーの戯曲の箇所のみに作曲したということになります)
Andrea Folan(S) & Tom Beghin(fortepiano)

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