シューベルト「愛はいたるところに群がっている(Liebe schwärmt auf allen Wegen)」D 239-6(ジングシュピール「ベラ荘のクラウディーネ」より)を聴く
Liebe schwärmt auf allen Wegen
愛はいたるところに群がっている
Liebe schwärmt auf allen Wegen;
Treue wohnt für sich allein.
Liebe kommt euch rasch entgegen;
Aufgesucht will Treue sein.
愛はいたるところに群がっているが、
誠実は独りきりでいる。
愛はあなた方のもとにさっと近づいていくが、
誠実は相手が訪ねてくれることを望んでいる。
詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)
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なお、上記のテキストがシューベルトの作品では下記のように繰り返されます([ ]内が繰り返しの箇所)。
Liebe schwärmt auf allen Wegen;
Treue wohnt für sich allein.
Liebe kommt euch rasch entgegen;
Aufgesucht will Treue sein.
[Liebe schwärmt auf allen Wegen;
Treue wohnt für sich allein.]
[Liebe schwärmt auf allen Wegen;]
[Aufgesucht will Treue sein.]
[Aufgesucht will Treue sein.]
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文豪ゲーテの書いたジングシュピール「ベラ荘のクラウディーネ(Claudine von Villa Bella)」にシューベルトが曲を付けています。シューベルトは全曲を完成したらしいのですが、後に楽譜を所持していた人の女中さんが暖炉の焚き付けに使ってしまったようで、完全に残っているのが第1幕だけというのが残念です。
ORFEOレーベルに第1幕の録音がありますので、興味のある方はそちらもチェックしてみて下さい。
井形 ちづる著『シューベルトのオペラ―オペラ作曲家としての生涯と作品』(水曜社)という本にこのジングシュピールのあらすじが書かれています。
このアリアはクラウディーネという人物によって歌われるのですが、どうやら主役級の登場人物ではなさそうです。
1分ぐらいのチャーミングなアリアです。
ちなみに、動画サイトにはなかったのですが、アーメリングがオリジナルのオーケストラ伴奏でもこの曲を録音しており、SACDで聴くことが出来ます(オリジナルはPHILIPSレーベル、SACD化はPentatoneレーベル。Hybrid SACDなので、通常のCDプレイヤーで再生出来ます)。
エリー・アーメリング(S) & イェルク・デームス(P)
Elly Ameling(S) & Jörg Demus(P)
1970年録音。アーメリングの清冽な美声と細やかな音楽の流れ、明晰なディクション等いつもながら聴き惚れてしまいます。デームスも味わい深い演奏です。
エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)
1961年録音。放たれる気品はシュヴァルツコプフならではでしょう。ムーアもよく歌っています。
グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)
1977/78年録音。素直な美声のヤノヴィッツがいつも以上に可愛らしい少女に変身したような歌唱でした。また、ピアノ後奏での色合いの付け方などゲイジらしい演奏でした。
キャスリーン・バトル(S) & ジェイムズ・レヴァイン(P)
Kathleen Battle(S) & James Levine(P)
バトルのクリーミーな美声がチャーミングです。レヴァインの抑えた表現も見事でした。
アーリーン・オジェー(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)
Arleen Auger(S) & Dalton Baldwin(P)
オジェーの透明な美声が慎ましやかに表現されていました。ボールドウィンの熟練したピアノは素晴らしいです。
ベルナルダ・フィンク(MS) & ゲロルト・フーバー(P)
Bernarda Fink(MS) & Gerold Huber(P)
2008年録音。メッゾの温かい声と美しいディクションに魅了されました。フーバーも歌を生かしたいい演奏でした。
エディト・ヴィーンス(S) & ルドルフ・ヤンセン(P)
Edith Wiens(S) & Rudolf Jansen(P)
ヴィーンスは陰影に富んだ歌唱で魅力的です。ヤンセンもいいサポートぶりです。
Hye-Kyung Chung(P)
ピアノ伴奏のみです。ぜひ歌ってみて下さいね。
←井形 ちづる著『シューベルトのオペラ―オペラ作曲家としての生涯と作品』
←ORFEOレーベルの第1幕録音
←アーメリングのオーケストラ伴奏録音(Hybrid SACD。通常のCDプレーヤーで再生可能)
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コメント
フランツさん、こんにちは。ご無沙汰していますm(__)m
このゲーテの詩は深いですね。
その割に軽やかなメロディだなあと思っていたのですが、そう言う理由なのですね。
女中さん、気ぃつけなアカン(笑)
よく聞いているアメリングのこの曲。
無条件に美しい。そしてチャーミング。。
フレージングのなめらかさと、言葉への切込のバランスが絶妙だといつも感じます。
シュワルツコップは、老練なイメージがあったのですがこの演奏は軽やかで品のあるチャーミングさを感じました。54歳時の声とは思えないですね。
羽の生えたようなバトルの軽やかなソプラノはいつ聴いても心地いいですね。このメロディにぴったりですね。。高音なるほど柔く軽やかになるバトルの声。でも、芯があるから水笛の音のようです。
発声が特殊なのかなあ・・。
オジェーほど誠実という言葉が当てはまる歌手もいないですね。彼女が歌ったあとにはいつもそよ風が吹く感じです。この人もフランツさんに教えていただいた歌手のうちのひとりです(*^^*)
フィンクさん、初めて聴きます。
メゾで聞くとまた印象が変わりますね。
深身が出るのは勿論ですが、色がころっと変わる。
調の雰囲気や音の高低の違いがこんなにも違う表情を持つとは、音楽は深いですね。
ヴィーンスさんも初めて聞きました。
これまで出てきたソプラノ立ちに比べて陰影がありますね。
その陰影が、曲想の変わるところで非常に効いていると思いました。
バトルの演奏と対極にある感じですね。
ピアノだけでも美しいですね。
シューベルトは目に見えないものを音にする天才だと、改めて思います。
シャガールは「モーツァルトは天才だけど、シューベルトは奇跡だ」ち言ったそうです。
投稿: 真子 | 2018年5月 9日 (水曜日) 13時11分
真子さん、こんばんは。
お体の調子は良くなられましたでしょうか。
一つ一つ丁寧なご感想を有難うございます!
とても嬉しく拝見しました(^^)
このゲーテの詩は、ゲーテのジングシュピール(歌芝居)の中でタイトルロールのクラウディーネが歌う設定になっています。
愛と誠実が対比されて、一種の人生訓をさらっと説いているような内容ですね。
楽譜が焼かれてしまわなければ、劇場の演目になっていたかもしれませんね。楽譜の保管は重要です!
アーメリングについて「フレージングのなめらかさと、言葉への切込のバランスが絶妙」と書かれておられ、私も大いに共感しました!全体と部分のどちらにも目が届いている感じですね。
シュヴァルツコプフの歌唱、おっしゃるように軽やかでチャーミングですね。曲のキャラクターになりきるのが本当にうまい人だと思います。
バトルの魅力には抗えないですね。真子さんは「水笛」に例えておられますね。恵まれた素材プラス訓練された発声法なのでしょうか。
オジェーはまさに「誠実」そのものですね。良く分かります!アメリカ人の彼女がヨーロッパに出てきて別の文化圏の芸術を自分のものにするというのはきっと大変だったでしょう。でもそういう苦労を超越した透明度の高い美声は素晴らしいです。
フィンクはリートのアルバムを何枚か出しているのですが、私もちゃんと聞いていなくて、この機会にじっくり聞いてみて、いい歌手だなぁと思いました。メゾが歌うと「こんなにも違う表情を持つ」のですね。とても新鮮でした。
ヴィーンスはおっしゃるようにソプラノなのに「陰影」がありますね。声の質の違いなのでしょうか。同じ声域でも異なる雰囲気があるのがまさに聞き比べの醍醐味だなぁと改めて感じました。
シャガールの言葉、教えて下さり有難うございます。シューベルトは「奇跡」ー嬉しい例えです。
やはりシューベルトの魅力は国境を超えていますね。
「目に見えないものを音にする天才」の芸術をこれからも楽しんでいきましょう!
記事の一つ一つへの素敵なコメント、本当に有難うございました!
投稿: フランツ | 2018年5月10日 (木曜日) 01時00分
こんばんは、フランツさん。
落ち着いてアップされている歌唱を聴く気分が生まれたりすぐなくなったりで困っています。
家では私が料理長ですので!、今、料理を作りながら(といっても結構今日は作り置きに頼ってますが。とにかく料理という作業は楽しい。雑念が消えますから)少し作業してからから一人、また作業してから一人、という大変失礼な聴き方をしています。
楽譜をごみと認識して燃やした女中さんをえらそうに責められないです。
何人もはじめて聴く方がおられ、楽しませていただきました。ありがとうございます。因みに、ムーアの伴奏は一味も二味もちがうなあ、という印象。どうでしょう?
投稿: Zu-Simolin | 2018年5月23日 (水曜日) 18時54分
Zu-Simolinさん、こんばんは。
コメントを有難うございます!
聴く気分になられた時に少しずつでも聴いていただければ有難く思います。
Zu-Simolinさんはおうちではコックさんなのですね。素晴らしいことだと思います!確かに楽しいことをしている時は雑念が消えて集中できますよね。音楽家で料理好きと言えばロッシーニが思い出されます。
ムーアの件ですが、確かに彼の演奏は素晴らしいですね。ここに挙げた演奏のピアニストたちはみな素晴らしいのですが、ムーアの何が素晴らしいのか考えてみると、一つにはF=ディースカウも述べていたようにリズム感の良さがあると思います。シュヴァルツコプフの伴奏をしているこの録音を聞くと、ゆったりとしたテンポながら、決して恣意的なテンポの揺れがなく、正確でありながらも機械的ではなく、温かみのあるタッチで歌をしっかり支えています。音色もやはり素晴らしいですよね。
ピアニストの個性もそれぞれ違って興味深いと思います。
投稿: フランツ | 2018年5月24日 (木曜日) 19時22分