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イングリート・ヘブラー若かりし頃のシューベルト演奏映像

1980年代に私が入れ込んだピアニストの一人がオーストリア、ヴィーン出身のイングリート・ヘブラー(Ingrid Haebler)でした。
彼女は1960年頃からモーツァルトのスペシャリストとして知られ、前後2回のモーツァルト・ソナタ全集の録音も残しています。
モーツァルト以外にはハイドン、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ショパン、ドビュッシーなどをレパートリーに持っていましたが、決して何でも弾くタイプのピアニストではありませんでした。
レコ芸の来日インタビューで「ブラームスは弾かれますか」と質問されて、「ブラームスは大好きですが、例えば彼のコンチェルトを弾くには私の手は小さすぎるのです。まぁ他の人に任せておきましょう」というような返答をしていた記憶があります。

私が彼女に惹かれたきっかけは1回目のモーツァルトのソナタ全集の録音(PHILIPSレーベル)でしたが、その後80年代に2回目の全集をDENONレーベルに録音していき、そちらの円熟した響きにますます惹かれていったのを覚えています。
彼女は80年代に2~3年おきに来日してくれたので、来日するたびに彼女のコンサートを聴きに行ったのも懐かしい思い出です。
最後に来日する予定だった時、病気の為、長時間の飛行機搭乗が不可能とのことで来日中止になり、それっきりになってしまいました。
また、その中止を知らせる招聘元からの封書には彼女の診断書のコピーも同封されていて、彼女が1929年生まれであることも記載されていました(1926年説もあり、そちらが正しいのではと思っていました)。

長々と思い出話をしてしまいましたが、動画サイトに彼女の1968年のコンサート動画がアップされていたのを見つけ、歓喜して急いでこの記事を書きました。

彼女はピアノの一音一音が磨かれていて、本当に美しい。
それは録音だけでなく、実際にコンサートで聞いても同様でした。
とにかく一つとして気の抜けた音がなく、常にコントロールの効いた美しい音が保たれていました。

今回はじめて彼女の若かりし頃の映像を見ても、その印象は変わりませんでした。
確かに他のピアニストに比べると、モーツァルトを得意とするためかペダルが少なめで乾いたように感じられる箇所もありますが、それもまた彼女の極めた解釈なのだと思います。

ぜひお聞き下さい。

シューベルト/「楽興の時」より第1,2,3曲
イングリート・ヘブラー(P)
録音:1968年

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アーメリングの2017年IVCマスタークラス映像(追加情報)(2017.9.13, オランダ, セルトーヘンボス)

2017年12月6日付の記事で触れたエリー・アーメリング(Elly Ameling)とピアニストのハンス・エイサッカース(Hans Eijsackers)のマスタークラスの動画がYouTubeにもアップされましたので、こちらに引用しておきます。
たまにアーメリングが一緒に歌う場面もあって、ファンにとってはお宝映像です(例えば彼女がステージで「4つの厳粛な歌」を歌うことなどおそらく一度もなかったでしょうから、13分54秒からの歌声は聞きものです!)。
彼女はオランダ語と英語を織り交ぜて情熱的に指導していきます。
お時間のある時にぜひご覧ください!

51st International Vocal Competition 's-Hertogenbosch (IVC)
13th September 2017
Theater aan de Parade 's-Hertogenbosch

0:00-
Brahms: Denn es gehet dem Menschen wie dem Vieh (aus "Vier ernste Gesänge")
ブラームス: 人の子らに臨むところは獣にも臨むからである (「4つの厳粛な歌 Op. 121」より第1曲)
Berend Eijkhout, baritone
Daan Boertien, pianist

36:00頃-
R.Strauss: Die Georgine
R.シュトラウス: ダリア Op. 10 No. 4
Helena Koonings, soprano
Heleen Vegter, pianist

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シューベルト「流れ(Der Fluß) D 693」を聴く

Der Fluß, D 693
 流れ

Wie rein Gesang sich windet
Durch wunderbarer Saitenspiele Rauschen,
Er selbst sich wieder findet,
Wie auch die Weisen tauschen,
Daß neu entzückt die Hörer ewig lauschen:
 澄みきった歌が
 妙なる弦楽のざわめきを縫って響くと、
 彼自身も再び分かる、
 たとえ調べが替わろうとも
 新たに魅了されて聞く者は永遠に耳そばだてることを。

So fließet mir gediegen
Die Silbermasse, schlangengleich gewunden,
Durch Büsche, die sich wiegen
Vom Zauber süß gebunden,
Weil sie im Spiegel neu sich selbst gefunden;
 そのように私に向かって確かに流れてくるのは
 蛇のようにくねる銀色の塊、
 通り抜ける茂みは
 水鏡に映る新たな自分に気づいた為に
 魔力に甘美に呪縛されて揺れ動いている。

Wo Hügel sich so gerne
Und helle Wolken leise schwankend zeigen,
Wenn fern schon matte Sterne
Aus blauer Tiefe steigen,
Der Sonne trunkne Augen abwärts neigen.
 丘は喜び、
 明るい雲はそっとゆらめいている、
 遠くにすでに弱々しい星々が
 青い深みから立ち昇り、
 太陽の酔いしれた瞳が下方に傾くときに。

So schimmern alle Wesen
Den Umriß nach im kindlichen Gemüthe,
Das zur Schönheit erlesen
Durch milder Götter Güte
In dem Krystall bewahrt die flücht'ge Blüthe.
 こうして万物はほのかな光を放つ、
 輪郭に沿って、子供の無邪気な気持ちを抱いて。
 万物は美しくえり抜かれる、
 穏やかな神々の善意によって。
 結晶の中ではかない花はその姿をとどめるのだ。

詩:Friedrich von Schlegel (1772-1829)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

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Zu-Simolinさんのリクエストにより、フリードリヒ・シュレーゲルの詩による歌曲「流れ」の聞き比べ記事を書いてみました。
今回も詩の訳に手こずり、遅くなってしまったことをお詫びいたします。
訳の出来については正直自信ありませんので、大体の雰囲気をつかんでいただけたらと思います。
楽しんでいただければ幸いです。
シューベルトの歌曲には珍しいほどのメロディーラインの長大さが特徴的な作品で、ピアノ伴奏と二重唱のような美しいハーモニーを奏でます。

グンドゥラ・ヤノヴィツ(Gundula Janowitz)(S) & アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage)(P)

1970年代後半録音。彼女の気品あふれる美声はこの曲の弧を描くようなフレーズを楽器のように素晴らしく響かせています。

ルチア・ポップ(Lucia Popp)(S) & アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage)(P)

1983年録音。ポップはその容姿にも比例した可愛らしさを伴った細みの美声でチャーミングに歌っていて、人肌も感じられる名唱です。

チェリル・ステューダー(Cheryl Studer)(S) & アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage)(P)

ステューダーはオペラ歌手の印象が強いですが、リートの録音も残してくれました。ここまでの3つの演奏すべてのピアノを受け持っているアーウィン・ゲイジの声と共に歌う演奏が素晴らしいです。

マティアス・ゲルネ(Matthias Goerne)(BR) & アンドレアス・ヘフリガー(Andreas Haefliger)(P)

2013年録音。ゲルネのふんわりとしたカーペットのような声で聴くのも心地よいです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(BR) & ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)(P)

F=ディースカウとムーアはこの作品をオペラアリアのようにではなく、あくまでもリートとして再現しているところに、非凡さが感じられます。

ロベルト・ホル(Robert Holl) & デイヴィッド・ルッツ(David Lutz)

低声歌手のホルによる歌はいつも通りの丁寧な表現で、この曲の息の長いメロディーラインを美しく歌っています。

Hye-Kyung Chung(P)

ピアノパートのみ。この美しいピアノパートをじっくり聴いてみて下さい。とてもいい演奏です。そしてご一緒にぜひ歌ってみて下さい。

こうして聞いてみると、やはりこの曲は女声で歌われた時により魅力的に響くという印象を受けました。
皆様はいかがだったでしょうか。

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