シューベルト「流れ(Der Fluß) D 693」を聴く
Der Fluß, D 693
流れ
Wie rein Gesang sich windet
Durch wunderbarer Saitenspiele Rauschen,
Er selbst sich wieder findet,
Wie auch die Weisen tauschen,
Daß neu entzückt die Hörer ewig lauschen:
澄みきった歌が
妙なる弦楽のざわめきを縫って響くと、
彼自身も再び分かる、
たとえ調べが替わろうとも
新たに魅了されて聞く者は永遠に耳そばだてることを。
So fließet mir gediegen
Die Silbermasse, schlangengleich gewunden,
Durch Büsche, die sich wiegen
Vom Zauber süß gebunden,
Weil sie im Spiegel neu sich selbst gefunden;
そのように私に向かって確かに流れてくるのは
蛇のようにくねる銀色の塊、
通り抜ける茂みは
水鏡に映る新たな自分に気づいた為に
魔力に甘美に呪縛されて揺れ動いている。
Wo Hügel sich so gerne
Und helle Wolken leise schwankend zeigen,
Wenn fern schon matte Sterne
Aus blauer Tiefe steigen,
Der Sonne trunkne Augen abwärts neigen.
丘は喜び、
明るい雲はそっとゆらめいている、
遠くにすでに弱々しい星々が
青い深みから立ち昇り、
太陽の酔いしれた瞳が下方に傾くときに。
So schimmern alle Wesen
Den Umriß nach im kindlichen Gemüthe,
Das zur Schönheit erlesen
Durch milder Götter Güte
In dem Krystall bewahrt die flücht'ge Blüthe.
こうして万物はほのかな光を放つ、
輪郭に沿って、子供の無邪気な気持ちを抱いて。
万物は美しくえり抜かれる、
穏やかな神々の善意によって。
結晶の中ではかない花はその姿をとどめるのだ。
詩:Friedrich von Schlegel (1772-1829)
曲:Franz Schubert (1797-1828)
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Zu-Simolinさんのリクエストにより、フリードリヒ・シュレーゲルの詩による歌曲「流れ」の聞き比べ記事を書いてみました。
今回も詩の訳に手こずり、遅くなってしまったことをお詫びいたします。
訳の出来については正直自信ありませんので、大体の雰囲気をつかんでいただけたらと思います。
楽しんでいただければ幸いです。
シューベルトの歌曲には珍しいほどのメロディーラインの長大さが特徴的な作品で、ピアノ伴奏と二重唱のような美しいハーモニーを奏でます。
グンドゥラ・ヤノヴィツ(Gundula Janowitz)(S) & アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage)(P)
1970年代後半録音。彼女の気品あふれる美声はこの曲の弧を描くようなフレーズを楽器のように素晴らしく響かせています。
ルチア・ポップ(Lucia Popp)(S) & アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage)(P)
1983年録音。ポップはその容姿にも比例した可愛らしさを伴った細みの美声でチャーミングに歌っていて、人肌も感じられる名唱です。
チェリル・ステューダー(Cheryl Studer)(S) & アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage)(P)
ステューダーはオペラ歌手の印象が強いですが、リートの録音も残してくれました。ここまでの3つの演奏すべてのピアノを受け持っているアーウィン・ゲイジの声と共に歌う演奏が素晴らしいです。
マティアス・ゲルネ(Matthias Goerne)(BR) & アンドレアス・ヘフリガー(Andreas Haefliger)(P)
2013年録音。ゲルネのふんわりとしたカーペットのような声で聴くのも心地よいです。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(BR) & ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)(P)
F=ディースカウとムーアはこの作品をオペラアリアのようにではなく、あくまでもリートとして再現しているところに、非凡さが感じられます。
ロベルト・ホル(Robert Holl) & デイヴィッド・ルッツ(David Lutz)
低声歌手のホルによる歌はいつも通りの丁寧な表現で、この曲の息の長いメロディーラインを美しく歌っています。
Hye-Kyung Chung(P)
ピアノパートのみ。この美しいピアノパートをじっくり聴いてみて下さい。とてもいい演奏です。そしてご一緒にぜひ歌ってみて下さい。
こうして聞いてみると、やはりこの曲は女声で歌われた時により魅力的に響くという印象を受けました。
皆様はいかがだったでしょうか。
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コメント
フランツさん、こんばんは。
聞き比べ、待っていました!
美しい曲ですね♪ お恥ずかしい事ですが、初めて聞きました。
まだ全部聞けていませんので、感想はまた後日に書かせて頂きますね。
また、寒くなるようですね。私はこの冬二度の風邪をひいてしまいました。ようやく平熱になりましたが、まだ少しだるいです。
フランツさんも、どうぞお体に気をつけて下さいね(^^)
投稿: 真子 | 2018年3月 5日 (月曜日) 21時59分
真子さん、こんにちは!
2度も風邪をひいてしまわれたのですね。その後お体はいかがですか。
体調を崩しやすい陽気なので、くれぐれもお大事になさってくださいね!
この作品はZu-simolinさんからリクエストをいただいて久しぶりに頑張ってみました。
なんとか苦労してつくった訳がお粗末でお恥ずかしいのですが、音楽はシューベルトにしては珍しい息の長いメロディがとても美しいです。
お体がよくなられましたら、楽しんで下さいね(^^)
投稿: フランツ | 2018年3月 6日 (火曜日) 12時43分
フランツさん、いつも素晴らしい、歌曲や歌唱をご紹介下さって有り難うございます。
今回も、シューベルトの美しい曲、堪能させて戴きました。
同じ曲でも、歌手と、伴奏者によって、表現の仕方が微妙に違うのですね。
最初から、それぞれの録音を聞き比べてみました。
丁寧に、美しく歌っている点は、甲乙付けがたいですが、私の好みに一番ぴったりしたのが、ロベルト・ホル(Robert Holl) & デイヴィッド・ルッツ(David Lutz)のものでした。
最近、ソプラノやテノールの高音よりも、女性のメゾ・ソプラノか、カウンターテナーのアルト歌唱、または、柔らかいバリトンの声が心地よく聞けるようになり、以前は、フィッシャー・ディースカウのシューベルトが好きだったのですが、初めて聴いたこのルッツも、中々いいと思いました。
年代によって好みも違ってくるのかも知れませんが、シューベルトの歌曲は、どんなときにも、一番、心が安らぎます。
有り難うございました。
またお邪魔させて戴きます。
投稿: Clara | 2018年3月 6日 (火曜日) 14時38分
Claraさん、こんばんは。
コメント嬉しく拝見しました。
Claraさんのおっしゃるように、演奏者によって同じ曲でも異なる趣があって、それが聞き比べの醍醐味だと思います。
ロベルト・ホルはオランダのバスバリトン歌手で、若い頃からシューベルトの歌曲を多く歌ってきた人です。昔、FMラジオで放送された彼のライヴ録音をよくカセットテープに録音した思い出があります。
彼の特徴はまさに「丁寧さ」にあると思います。一語一語に思いを込めてじっくり聞かせてくれるタイプです。
実演を何度か聞きましたが、シューベルト愛に溢れた歌をいつも聞かせてくれました。
年代によって確かに好みは変化していきますね。より低声に惹かれるようになるというのは私も感じます。例えばハンス・ホッターの響きが昔以上に心に沁みるようになりました。Claraさんは古楽もお詳しいので、カウンターテナーの歌うリートも馴染みがおありでしょうね。
「シューベルトの歌曲は、どんなときにも、一番、心が安らぎます」というお言葉、シューベルトファンの私にとってとても嬉しく感じます。
これからもマイペースにブログを続けていきたいと思いますので、たまに覗いていただけたら幸いです。
有難うございました(^^)
投稿: フランツ | 2018年3月 7日 (水曜日) 03時50分
すみません!リクエストした張本人の私が、コメント遅くなってしまって。ここ数日、いろいろとバタバタしていて(まだ少し続きそうです)、ちゃんと聴けていません。本当に申し訳ないです。
ちゃんとじっくり味わった後、コメントを送ります。お許しください。
投稿: Zu-Simolin | 2018年3月14日 (水曜日) 00時47分
Zu-Simolinさん、こんばんは。
ご連絡を有難うございます。
お忙しい時はあると思うので、落ち着いてからで構いませんよ!
私の方こそアップが遅くなりましてすみませんでした。
投稿: フランツ | 2018年3月15日 (木曜日) 00時36分
フランツさん、ありがとうございます。久しぶりにPOPPの歌を聞き、楽しみました。C.シェーファー、白井光子さんの録音もありますよ。アメリンクはこの曲を録音していないのですよね。
昔、京都でのマスタークラスでアメリンクはHollさんは隠しブレスがとても上手で、子音を発音すると同時に息を吸うことができるのよ、と言っていたのを思い出しました。
投稿: LIEDERKREIS | 2018年3月16日 (金曜日) 16時22分
LIEDERKREISさん、こんばんは。
楽しんでいただけたようで嬉しいです。
ルチア・ポップの歌も素敵ですよね。
彼女の実演を一度だけ聞けたことが私にとって良い思い出です(彼女の亡くなる前年でした)。
シェーファーや白井光子の録音は私も持っていますが、某動画サイトにアップされていませんでしたので、こちらに引用できませんでした。お二人とも定評のある歌曲歌手ですね。
アーメリングのマスタークラスでの言葉のご紹介、有難うございました。実は去年の5月にも同じようなことを彼女がおっしゃっていました。若い歌手にとっていかにフレージングを崩さずに息を保つかというのはなかなか大変なようで、アーメリング先生は助け船として、こっそり気づかれないように息を吸うという方法(「キャッチ・ブレス」とおっしゃっていました)を提案しておられました。
投稿: フランツ | 2018年3月17日 (土曜日) 20時55分
コメントが遅くなり本当に申し訳ありません。
何とかかんとか、試聴させていただきました。
どの歌唱演奏もすばらしいですが、個人的には、ステューダーとホルが特に気に入りました。
ふと気になって、ディースカウの『シューベルトの歌曲をたどって』を久しぶりに調べてみましたら、この歌曲が取り上げられていました。そうか、ディースカウがヴェルディの曲といってもよいと言っていたのは、この曲だったのか、そうか、そうだったのか、と今更ながら感心しました。
フランツさん、本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。
投稿: Zu-Simolin | 2018年4月 1日 (日曜日) 21時20分
Zu-Simolinさん、こんばんは。
コメントを有難うございました。
喜んでいただけてほっとしました。
Zu-Simolinさんはステューダーとホルが気に入ったそうですね。
聴く人によって好みが異なるので興味深いです。
F=ディースカウのシューベルトの著作に確かにヴェルディを思わせる曲だと書いてありましたね。
イタリアオペラのアリアのような長大なフレーズは、リートとしては異質かもしれませんが、それでもシューベルトらしい細やかな味わいもあって、素敵な曲だと思います。
こちらこそ、こういう機会を作ってくださり、有難うございました!
投稿: フランツ | 2018年4月 2日 (月曜日) 23時46分