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シューベルトの誕生日に寄せて(名曲名演十選の試み)

シューベルトの誕生日(1月31日)を少し過ぎてしまいましたが、シューベルトをこよなく愛する一人として、彼の歌曲の名演を比較的スタンダードな中から10曲選んでみました。
今回は歌手と曲目の組み合わせに注目してみました(歌手は私が学生時代に夢中になって聞いていた思い入れの強い人を中心に選びましたので、最近の歌手は選んでいません。また他にも優れた歌手や伴奏者は沢山いますが、10曲に絞った為、泣く泣く諦めた人たちも多くいることをお断りしておきます)。
これはあくまでも私の選んだ10曲であって、皆様にとっての10曲はまた異なると思われます。
一ファンの試みとして捉えていただければ幸いです。
ちなみに順番は歌手の生年の古い順です。

1.「冬の旅(Winterreise) D 911」より第1曲「おやすみ(Gute Nacht)」
ゲルハルト・ヒュッシュ(Gerhard Hüsch: 1901-1984)(BR) & ハンス・ウード・ミュラー(Hanns Udo Müller: 1905-1943)(P)

往年のドイツリートファンはヒュッシュのSPレコードに親しんでいたそうです。
謹厳実直で威厳の漂う歌唱は、当時の愛好家たちを癒してきたのでしょう。
今聞いても古さを感じない優れた歌唱です。
彼の無二の共演者ミュラーのピアノもしっかりとしたタッチが美しいです。
この録音で第2節が欠けているのは、当時の一度に録音出来る時間の制約の為だそうです。
速めのテンポ設定もそのためです。


2.音楽に寄せて(An die Musik) D 547
ハンス・ホッター(Hans Hotter: 1909-2003)(BSBR) & ジェラルド・ムーア(Gerald Moore: 1899-1987)(P)

1949年の録音。ホッターの包み込むような豊かな低音は、この音楽への感謝を伝える作品にまさにぴったりで素晴らしいです。ムーアの味わい深い音色もホッターの歌唱とよく合っています。


3.糸を紡ぐグレートヒェン(Gretchen am Spinnrade) D 118
エリーザベト・シュヴァルツコプフ(Elisabeth Schwarzkopf: 1915-2006)(S) & エトヴィン・フィッシャー(Edwin Fischer: 1886-1960)(P)

シュヴァルツコプフは「糸を紡ぐグレートヒェン」のドラマを迫真の声の表情で伝えてきます。フィッシャーの他にも様々な伴奏者との録音が残されており、聞き比べをするのも興味深いと思います。


4.魔王(Erlkönig) D 328
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau: 1925-2012)(BR) & ジェラルド・ムーア(Gerald Moore: 1899-1987)(P)

1960年代後半につくられたシューベルト歌曲大全集の中の録音。私のクラシック音楽との出会いとなった原点の作品であり、録音です。私にとって「魔王」と言えば、今でもこの録音が真っ先に思い浮かびます。「魔王」におけるムーアのピアノの秘訣は、彼の「歌手と伴奏者」という邦題の著書に詳しく書かれていますので、興味のある方は読んでみて下さい。


5.死と乙女(Der Tod und das Mädchen) D 531
クリスタ・ルートヴィヒ(Christa Ludwig: 1928-)(MS) & ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons: 1929-1995)(P)

ルートヴィヒの包み込むような声は母性を感じさせ、この曲の特に後半の死神の台詞に乙女が抵抗出来なくなっていく様が目に浮かぶようです。パーソンズは前半と後半の描き分けが見事です。


6.馭者クロノスに(An Schwager Kronos) D 369
ヘルマン・プライ(Hermann Prey: 1929-1998)(BR) & カール・エンゲル(Karl Engel: 1923-2006)(P)

エンゲルとのPHILIPS盤のLPで聴いた時、ドイチュとの録音での遅めのテンポとの余りの違いに驚いたことを今でも思い出します。
この動画は1960年代初頭の録音とのことですが、PHILIPS盤のテンポ設定を予感させる速めの速度でプライの魅力全開で溌剌と歌っています。


7.ます(Die Forelle) D 550
フリッツ・ヴンダーリヒ(Fritz Wunderlich: 1930-1966)(T) & フーベルト・ギーゼン(Hubert Giesen: 1898-1980)(P)

「ます」をはじめて聴いたのはヴンダーリヒのこの録音でした。なんとみずみずしく魅力的な声と表現!イタリア人歌手のような声自体の魅力に満ち溢れています。夭折が本当に惜しまれます。


8.至福(Seligkeit) D 433
エリー・アーメリング(Elly Ameling: 1933-)(S) & ドルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin: 1931-)(P)

アーメリングの十八番と言ったらこの曲。シューベルトを一番多く歌った女声歌手の一人と思われますが、この歌唱の魅力には抗えません。ボールドウィンとのコンビは常に一体となっていて素晴らしいです。


9.ミューズの息子(Der Musensohn) D 764
ペーター・シュライアー(Peter Schreier: 1935-)(T) & ヴァルター・オルベルツ(Walter Olbertz: 1931-)(P)

シュライアーと言えば「美しい水車屋の娘」の名演が有名ですが、シューベルトのゲーテ歌曲集も得意にしており、この「ミューズの息子」でのディクションの明晰さとオルベルツのリズミカルな演奏はとても魅力的です。


10.流れ(Der Fluß) D 693
ルチア・ポップ(Lucia Popp: 1939-1993)(S) & アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage: 1939-)(P)

名伴奏者のゲイジはこの余り知られていない「流れ」をヤノヴィツ、ポップ、シェーファーと録音しています。ゲイジの提案で選ばれたのはと想像してしまいますが、それほど美しい作品で、ポップの美声にもぴったりです。

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コメント

ありがとうございます。1曲ずつ、次は何の曲の誰の歌かしらと、ゆっくり楽しませていただきました。久しぶりです。
特に、私にとって興味深かったのは2点。

あまりホッターの歌唱を今まで何十年も真剣に聴いてきませんでした。ところが、「音楽に寄せて」、心に沁みました。とても。
それから、D693の「流れ」。初めて聴きました。今も聴きながら書いています。こんな曲があったんですね。ありがとうございます。

で、で、久々のリクエストしてしまいます。
ダメもとで。
そのD693の「流れ」の歌唱を、あれこれ、紹介してもらえませんか?

 ※家にあるホッターの「冬の旅」CDを購入後何十年後にはじめて真剣に聴きます。

投稿: Zu-Simolin | 2018年2月 6日 (火曜日) 21時43分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
楽しんでいただけたようで嬉しいです!
有難うございます!

ホッターは一見とっつきにくいですよね。私の場合、年を重ねてからホッターの歌の本当の素晴らしさに気付かされた気がします。
朴訥だけれど、全てを包み込んでしまうような人間味のある歌は、世知辛い世の中で真の癒しを与えてくれます。特にお勧めなのがブラームスの歌曲集!最高です!

「流れ」D 693を気に入っていただけて嬉しいです。
この曲、隠れたシューベルトの名曲だと思っています。
息の長いフレージングでピアノパートと美しいアンサンブルを奏でていますね。
名手アーウィン・ゲイジが沢山録音していますが、彼の歌手たちに「こんないい曲があるよ」と提案して録音したのではないかと想像しています。ちなみにゲイジは上述の歌手以外にチェリル・ステューダーとも録音していました。
リクエストを頂いたので、久しぶりに記事にしますね。
いつものことですが、マイペースな私ですので気長にお待ちいただけると幸いです。

投稿: フランツ | 2018年2月 8日 (木曜日) 02時02分

こんにちは。興味深いスレなのでお邪魔します。
シューベルトのリート10選とのことで、ちょっとドキドキしながら開けてみたら・・・約半数が私のベストチョイスと一致するので、不思議な印象を持ちました。
バスバリトンのホッターは大好きですので、この An die Musik は宝ですね。いみじくもムーアが「低い声の歌手の声の響きを引き出すためのピアノ演奏には細心の注意が必要」と書いていたように、ここでは見事なアンサンブルにブラヴォーです。

そして「クロノス」!これもプライとエンゲルのものに痺れてしまいます。この1971年録音のCDの中で、私が偏愛しているのが、D.259の「月に寄せて」なんです。シンプルな有節歌曲ですが、プライとエンゲルのピアノが絶妙な調和を見せてくれています。

ソプラノ...。Gretchen はやっぱりこのシュヴァルツコップを超える名演はないのではと思ってしまいます。
エリー・アーメリング。不世出のリート歌手ですね。Selikeitを歌うソプラノは多いですが、透明感と天上の声で歌われる素晴らしい録音です。D.882の Im Frühlingの演奏も大好きです。

私が今所属している、バッハやバッハ以前の宗教曲を歌う合唱団の団員にプロの人もいて、その人がアーメリングのマスタークラスで指導を受けた話を聞かせてくれます。

テノールはシュライアーが大好きですが、ヴンダーリヒにも名録音が残されています。「魔笛」のタミーノもですね。

あとはゆっくり考えないと、ついフィッシャー・ディースカウ&ムーアを選んでしまいがちですが・・・。
ムーアの命日が、フーゴー・ヴォルフの誕生日というのも、縁を感じてしまいます。

投稿: リート好きまつかぜ | 2018年2月18日 (日曜日) 17時03分

リート好きまつかぜさん、こんばんは。
今回の私の独断で選んだ十選に丁寧にコメントいただき、有難うございます!
まつかぜさんのベストチョイスと一致する曲が半数もあったということは何かのご縁を感じますね。

ホッターはまつかぜさんもお好きとのことで共感していただき嬉しいです。「音楽に寄せて」はホッターの歌が本当に染みますね。そしてこの曲と言えばムーアですね。フェアウェルコンサートのアンコールでのあの演奏もそうですが、このホッターとの演奏でも決して自分の解釈をおしつけず、シューベルトの音楽にすべてを捧げたアーティストの姿が感じられます。

シュヴァルツコプフの「グレートヒェン」はシュトラウスの「四つの最後の歌」と共に彼女の代表的な録音だと思います。凄みさえ感じられます!

「クロノス」の入っているプライとエンゲルのPHILIPSゲーテ歌曲集はみな素晴らしいですが、まつかぜさんがお好きという「月に寄せて」D259は私も彼らの録音ではじめて知り、素敵な曲だなぁと感じた思い出があります。同じ詩による別の曲もありますが、こちらの素朴な有節形式の作品はシューベルトらしい美しさに満ちていて、心洗われます。こういう曲を歌うプライは本当に最高ですね。

まつかぜさんは宗教曲の合唱団に所属しておられるのですか。そのメンバーの中にアーメリングのマスタークラスを受講された方がいらっしゃるのですね。私も昨年5月の京都でのマスタークラスを聴講してきましたが、アーメリングの音楽に対する真摯な思いが常にひしひしと伝わってきました。彼女はウィットにも富んでいて、聴講する人をも楽しませようという気持ちにあふれていて素敵な方だなぁといつも感じます。

ヴンダーリヒのタミーノはこれ以上ないぐらいの素敵な組み合わせですね。彼のリートもとてもチャーミングです。

シュライアーは「水車屋の娘」や「ゲーテ歌曲集」なども素晴らしいのですが、中古レコード屋で偶然見かけた珍しいシューベルトの歌曲ばかり集めた1枚のLPがあって、何故かCD化されていないのでもったいないなぁと思っています。いつか復活すればいいのですが。

私もシューベルトを聞き始めたばかりの頃はF=ディースカウ&ムーアの全集を貪るように聞きました。彼らの演奏が私にとってのスタンダードになっている曲も多いです。あの全集は本当に人類の宝ですね!

ムーアの命日とヴォルフの誕生日が同じというのは私も不思議な縁を感じていました。
何かのCDのライナーノーツにムーアに教わった日本人バリトン歌手の方のエピソードが載っていて、ムーアに「シューベルトとヴォルフのどちらが好きですか」と聞いたところ、ムーアは「ヴォルフ」と答えたそうです。ディースカウとムーアとのヴォルフ全集が今はCDで全部復刻されているので、私もたまに聞いて楽しんでいます。

長くなってしまいました。素敵なコメントを有難うございました!

投稿: フランツ | 2018年2月18日 (日曜日) 21時06分

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