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トーマス・ハンプソン&アムステルダム・シンフォニエッタ/Tides of Life: 弦楽オーケストラ伴奏による歌曲集

Tides of Life(タイズ・オヴ・ライフ)

Tides_of_life


CHANNEL CLASSICS: CCS 38917

Recording: 22 September 2015 (Wolf, Schubert), 14 & 15 April 2016 (Brahms, Barber), TivoliVredenburg, Utrecht

Thomas Hampson(トーマス・ハンプソン)(BR) (1-8, 10-14)

Netherlands Female Youth Choir(オランダ・ユース女声合唱団) (8)
Wilma ten Wolde(ヴィルマ・テン・ヴォルデ)(Choirmaster) (8)

Amsterdam Sinfonietta(アムステルダム・シンフォニエッタ)
Candida Thompson(カンディダ・トンプソン)(VLN, artistic director)

1. Wolf(ヴォルフ): Auf einer Wanderung(旅先で)(Arr. David Matthews)
2. Wolf: Fussreise(散歩)(Arr. David Matthews)
3. Schubert(シューベルト): An die Leier(竪琴に), D.737 (Arr. David Matthews)
4. Schubert: Memnon(メムノン), D.541 (Arr. David Matthews)
5. Wolf: Anakreons Grab(アナクレオンの墓)(Arr. David Matthews)
6. Wolf: Der Rattenfänger(ねずみ取りの男)(Arr. David Matthews)
7. Schubert: Geheimes(ひめごと), D.719 (Arr. David Matthews)
8. Schubert: Ständchen(セレナーデ), D920 (Arr. Bob Zimmerman)
9. Wolf: Italienische Serenade(イタリア・セレナーデ)
10. Brahms(ブラームス): Vier ernste Gesänge(四つの厳粛な歌), Op. 121: No. 1, Denn es gehet dem Menschen(人の子らに臨むところは獣にも臨むからである)(Arr. David Matthews)
11. Brahms: Vier ernste Gesänge, Op. 121: No. 2, Ich wandte mich und sahe(わたしはまた、日の下に行われるすべてのしえたげを見た)(Arr. David Matthews)
12. Brahms: Vier ernste Gesänge, Op. 121: No. 3, O Tod, wie bitter bist du!(ああ死よ、おまえを思い出すのはなんとつらいことか)(Arr. David Matthews)
13. Brahms: Vier ernste Gesänge, Op. 121: No. 4, Wenn ich mit Menschen und mit Engelszungen redete(たといわたしが、人々の言葉や御使たちの言葉を語っても)(Arr. David Matthews)
14. Barber(バーバー): Dover Beach(ドーヴァー・ビーチ), Op. 3

※上記の邦訳は原則として付属の日本語帯に従いましたが、数か所私が変更したり、インターネットを参照したところもあります。

※amazonのサイトはこちら

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アメリカを代表する名バリトン、トーマス・ハンプソンによる歌曲の新譜が出たので、早速聴いてみました。
1955年6月生まれとのことなので、この録音時すでに60歳になっていたことになります。
共演はカンディダ・トンプソン率いるアムステルダム・シンフォニエッタです。

このCDではシューベルト、ブラームス、ヴォルフ、サミュエル・バーバーの歌曲が集められていますが、おまけとしてヴォルフのよく知られた弦楽合奏曲「イタリア・セレナーデ」も収録されています。
その「イタリア・セレナーデ」とバーバーによる弦楽合奏伴奏歌曲「ドーヴァー・ビーチ」がオリジナルなのを除いて、他の曲はすべて別の人が弦楽合奏用にアレンジしています。
最近ピアノパートを他の楽器群に置き換えてアレンジするのが流行りのようで、それ自体は様々な可能性や新たな魅力を付与するという意味で意義深いことだと思っています。
ただ、あまりにもピアノ伴奏の歌曲が好き過ぎる私は、これまで他の楽器群に編曲した試みをあまり積極的には聴いてこなかったことも率直に申し上げます。
しかし、結論から言ってこのCDは先入観を覆すに足る見事さで、とても素晴らしかったです。
まず弦楽合奏の編曲が原曲を崩さず、ピアノだとどうしてもポツリポツリと音が減衰してしまう箇所が弦楽器によって真のレガートになっているのが特に美しく感動的でした。

ヴォルフのメーリケの詩による「旅先で」は、途中で旅のさなかの光景に酔いしれ感極まる箇所があるのですが、そこの弦の恍惚感は、弦楽合奏だからこそ実現できたものだと深く胸に響きました。
続くヴォルフの「散歩」では爽やかな朝の散歩に人生の喜びを感じる内容が弦楽合奏の歯切れのいいリズムに合っています。
シューベルトの「竪琴に」は、弦楽器が歌のない箇所のメロディーを朗々と奏でるのが何とも美しく響き、これは聴きものの一つです。
ヴォルフのゲーテの詩による名作「アナクレオンの墓」はただでさえ美しいピアノ伴奏を弦楽合奏のレガートに置き換えたことにより、このうえない感動的な響きとなっていました。
続く「ねずみ取りの男」は完全なるスケルツォで、歌手も弦楽合奏も慌ただしくて大変だと思うのですが、実に鋭利な切れ味で楽しい演奏でした。
グリルパルツァーの詩によるシューベルトの合唱付き歌曲「セレナーデ」は、オリジナルのピアノパートが細かく分散和音を刻むので、もともと弦楽合奏に向いているのでしょう。
とても自然な編曲だと感じました。
合唱団も美しく独唱に呼応していました。
ブラームスの「四つの厳粛な歌」は確かに重く深刻なのですが、ピアノのようなアタックの強さの代わりに包み込むような響きの魅力が増し、救いや癒しという要素も感じられ、ハンプソンの歌唱もその方向に沿った歌を聞かせてくれます。

アメリカの作曲家バーバーの「ドーヴァー・ビーチ」は、このCDのタイトル「Tides of Life(人生の潮流という感じでしょうか)」のきっかけとなったものと想像されますが、テキストは人生の栄枯盛衰を悲観的に歌っています。
詩と対訳を「詩と音楽」さんで御覧ください。

 こちら

最後の詩句など、現代においてもいささかも変わらない状況のようにすら思えますし、ハンプソンたちが、この作品を今選んだことにも意図があるように思えてなりません。

ハンプソンは円熟のさ中にあり、どのフレーズにしても完全に血肉にした表現が聴けるので、作品の美しさが素直に感じられるのが素晴らしいです。
往年の声のつややかさの代わりに包容力が増して、味わい深い成熟した歌が聴けるのがなんとも嬉しいです。
ドイツ語の語りかけなど、今が旬のネイティヴの歌手たちと比べていささかの遜色がないばかりか、むしろ極限に洗練された発音のように感じられたほどです。
声には温かみが加わり、テキストの細やかな表現に真実味が感じられます。
この境地に達したハンプソンに敬意を払うのと同時に、ドイツの文化に根付いた芸術であるリートが他国の歌手によってこれほどまでにネイティヴの歌手と肩を並べるほどの充実を示しているのは本当に凄いことなのではないでしょうか。

アムステルダム・シンフォニエッタはオリジナル作品でない難しさを感じさせない非常に美しい演奏を聴かせてくれます。
ハンプソンの歌と実に見事に溶け合って、停滞することなく、よく歌う演奏でした。

以下のサイトで少しずつ試聴が出来ますので、興味のある方はぜひお聴き下さい。

 こちら

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歌曲を扱ったサイトの草分け的存在であり、Schubertiadeのレポートやシューベルトの「冬の旅」「美しき水車小屋の娘」の聞き比べなど、とても充実した内容のWebサイト「LIEDERKREIS」の共同管理人のお一人であった奥様の龍田靖子様が昨年お亡くなりになりました。

私が知ったのもつい最近のことでした為、こちらに触れさせていただくのが今になりました。
ただただ驚いて言葉になりません。
そして二人三脚でサイトを作り上げてこられたご主人英世様のお気持ちを思うと何と申しあげてよいものか思い浮かびません。

靖子様とは昔ハンプソンの掲示板に書き込んでやり取りをさせていただいたことはあったかと記憶していますが、直接やり取りさせていただく機会は残念ながらございませんでした。
しかし、「LIEDERKREIS」のサイトでは、リート・ファンの私たちが知りたいと思うことを情熱をもって取り上げて下さり、特にオーストリアのシューベルティアーデに毎年お出かけになり、詳細なレポートを書かれていたのを拝見するのがいつも楽しみでした。
コンサートだけでなく、旅行の道中での様々な出来事なども書いて下さり、海外へコンサートに行こうと思っておられる方々にとっても大きな道しるべとなられたことと思います。

そして、靖子様といえば、トーマス・ハンプソンです。
ハンプソンの歌を求めて国内、海外を問わず精力的に回られたのは、本当に素晴らしいことと思います。
これほど限りない愛情を注がれたハンプソンは本当に幸せな歌手だったのではないでしょうか。
昨年7月のシューベルティアーデでは、ハンプソンのコンサートとマスタークラスのチケットをとられ、楽しみにされていたそうですが、お聴きになれず、さぞかし無念だったこととお察しいたします。

歌曲ファンの端くれとして、心からご冥福をお祈り申し上げます。
そして、今回のこの駄文を靖子様に捧げさせていただきたいと存じます。
天上にハンプソンのこの新しい録音が届きますように。
どうぞ安らかにお休み下さい。

                                  フランツ

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コメント

フランツさま、靖子への心からの献辞をありがとうございます。靖子は多くのハンプソン・ファンの友人、50年以上の合唱の友人たちに囲まれ幸せな一生でした。
HPのhampson Discography も相当古くなってきていますがこのCDは持っていませんので早速注文を出しています。ブラームスは珍しいですね。あまり録音のないシューベルトも珍しいです。逆によく録音しているシューマン、マーラーがありませんね。CDはたぶん火曜に届くはずです。
ハンプソンは今年もMETで椿姫のジェルモン役で出演していました。出演機会は減っているもののまだまだ健在のようです。
これからも時々訪問させていただきます。

投稿: LIEDERKREIS | 2017年5月28日 (日曜日) 22時02分

LIEDERKREIS様。
このたびの事につきまして心よりお悔やみ申し上げます。
そしてコメントを有難うございます。
LIEDERKREISさんはすでに前を向いて歩き出されているように感じましたので、私も前向きに靖子さんをお送りしようという気持ちで記事を書かせていただきました。
靖子さんは多くのお仲間に囲まれて充実した時間をお過ごしになられたとのこと、素晴らしい人生を全うされたのですね。
このハンプソンのCDは今年リリースされたようですので、入手されましたらぜひ靖子さんにも届くようにじっくりお聞きになって下さいね。
確かにハンプソンのシューベルトといえば、サヴァリッシュとの「冬の旅」や、G.ジョンソンのシューベルト全集のギリシャに因んだ巻を担当したぐらいで、いわゆる名曲集の類は録音していなかったのではないでしょうか。
ブラームスは「子供の不思議な角笛」の詩にまつわる作品集で歌っていたぐらいでしょうか。
ハンプソンは生涯に渡ってマーラー歌曲を頻繁に歌っている印象を受けますが、彼にとってマーラーは特別な存在なのかもしれませんね。
「椿姫」はMETのライブビューイングで先月上映されたようですね。
リートもオペラもどちらもこなすハンプソンはやはり凄い歌手なのですね。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: フランツ | 2017年5月29日 (月曜日) 20時30分

フランツさん、こんばんは。

パンプソンも、もう60を超える大御所になったんですね。
とても女性人気の高い歌手でしたね。
数年前に購入したプライさんのドキュメントDVDに出ておられて、素敵に年を重ねられたなあと思って見ました。
プライさんをとても尊敬していたそうですよ。

ハンプソンの歌うブラームスの4つの厳格な歌、興味があります。
朗々とスケールの大きな歌唱もいいですが、包み込むような癒しを感じるこの曲集もいいですね(*^^*)

投稿: 真子 | 2017年5月30日 (火曜日) 21時21分

真子さん、こんばんは。

ハンプソンが60歳というのは私もびっくりしました。
いつまでも若々しいイメージだったので。
甘いマスクで紳士的な立ち居振る舞いで歌っている印象でしたから女性ファンが多いというのも納得ですね。
プライのドキュメントDVDにも出演しているのですね。きっと先人たちの業績をしっかり勉強しているのでしょうね。ハンプソンとプライはタイプは異なるものの、オペラ、リート、コンサートのいずれにも力を入れ、録音も多いという共通点はありますね。

ハンプソンのこの録音は本当に穏やかな声に癒されると思います。「4つの厳粛な歌」もとても良かったですよ。
まずはamazonのサイトでちょっとずつ試聴してみて下さいね。

投稿: フランツ | 2017年5月30日 (火曜日) 22時30分

CDを聞きました。弦楽伴奏ということでチョット引いていましたが、編曲が良かったのでしょうね。違和感はなかったです。
最近、シューベルトをピアノ、ヴァイオリン2、ビオラ、チェロという伴奏のコンサートに行ったのですが、弦が声を邪魔しているようなところがあって不満でした。
今回は声が始まると伴奏が抑制されていて問題なかったですね。
私の印象ではWOLFが伴奏も声もいきいきしていたように思いました。
今日は2005年のウィーン芸術週間でのハンプソンのマーラーの録音を聞いていました。いいですね。

投稿: LIEDERKREIS | 2017年6月 9日 (金曜日) 20時21分

LIEDERKREISさん、こんばんは。

CDを聴かれたのですね。
コメントを有難うございます!
私もこのCDの弦楽伴奏は違和感はありませんでした。
とてもよく考えられた編曲と演奏だと思います。
原曲の良さを引き出しているかのようなアレンジですよね。
ヴォルフ、いいですよね!
私も好きな曲ばかりですが、弦楽の響きがとても美しく、「ネズミ捕り」のようなユーモラスで鋭利な表現も見事だと思いました。

シューベルトのピアノと弦の伴奏によるコンサートというのはシュトゥッツマンのコンサートのことでしょうか。私は今回どうしようか迷いつつも結局パスしてしまったのでなんとも言えないのですが、やはりピアノのオリジナルだったら聴きに行っていたかもしれません。

2005年のハンプソンのマーラー録音というのがあるのですね。今度CDショップで探してみますね。

投稿: フランツ | 2017年6月 9日 (金曜日) 21時38分

おはようございます。
ええ、シュトゥッツマンのコンサートでした。数曲でしたが、声が聴きにくいほどの弦の音だったような気がしました。席の影響もあったかも知れませんが。でも全体に弦と声の音量のバランスが良くなかったと思いました。
ごめんなさい。ハンプソンのマーラーは放送録音です。市販のものではないんです。録音したMDが200枚弱あるのですが、MDプレーヤーが壊れて長らく聞けない状態でした。最近、古いMD+CD+Radioのセットの機会をもらってきてアンプにつないだので聞けるようになりました。

投稿: LIEDERKREIS | 2017年6月10日 (土曜日) 07時42分

LIEDERKREISさん、こんばんは。
やはりシュトゥッツマンだったのですね。
低音域は伴奏にかき消されやすいので、どんなに声量のある歌手でも注意しないといけないというようなことをムーアが本の中で言っていました。
練習が充分とれなかったのかもしれませんね。

ハンプソンの音源は放送録音でしたか。
MDはすっかり廃れてしまいましたね。
私もMDプレーヤーが壊れているのでLPから録音したMDは聞けない状態です。いずれマルチプレーヤーを買って、別の形に変換したいと思っています。

投稿: フランツ | 2017年6月10日 (土曜日) 20時12分

フランツさん。ご無沙汰してごめんなさい。遅くなりましたが、本日拙著『ヴィルヘルム・ミュラーの生涯と作品 ―― 「冬の旅」を中心に』が東北大学出版会から上梓されましたので、ご報告します。紹介ページはこちらです。
http://www.tups.jp/book/book.php?id=354
なお、拙Webサイトはプロバイダーにより閉鎖となりました。ご連絡が遅れて申し訳ありません。しばらく前にメールがすべて消えてしまい、コメントでのご挨拶となったことも、お詫びいたします。

投稿: 渡辺美奈子 | 2017年7月 6日 (木曜日) 15時40分

渡辺美奈子さん、ご無沙汰しております。
コメントを有難うございます。
渡辺さんのライフワークが出版されたのですね。
おめでとうございます!
私も購入して拝読させていただきますね。

渡辺さんのサイトは閉鎖されてしまったのですか。
プロバイダーの都合でせっかくの労作が消えてしまうとは残念ですね。
リンク集からは外しておきますね。
ご連絡を有難うございました。

学究活動のますますのご発展をお祈りしております。
ミュラーの真の姿が少しでも多くの人に伝わるといいですね。

投稿: フランツ | 2017年7月 6日 (木曜日) 21時17分

フランツさん。ありがとうございます。Webサイトの件はご迷惑をおかけしました。書籍については、よろしければご連絡ください。

投稿: 渡辺美奈子 | 2017年7月 7日 (金曜日) 10時59分

渡辺美奈子さん、こんばんは。
いえいえ、とんでもないです。お知らせ下さり、有難うございました。

渡辺さんの作品は教えていただいた出版社のサイトに注文しましたので、読ませていただけるのを楽しみにしていますね。

投稿: フランツ | 2017年7月 9日 (日曜日) 20時49分

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