最近購入したCD(プライ&ドイチュ「冬の旅」、ボストリッジ&ドレイク「シューベルト・ライヴ2」ほか)
ここのところ、CDショップで実際に現物を手にとってCDを購入するということからめっきり遠ざかっていたのですが、つい最近久しぶりにCDショップを訪れ、気になる5枚を購入しました。
1)シューベルト/「冬の旅」 ヘルマン・プライ(Br)ヘルムート・ドイチュ(P) (1987年5月17日, Schwetzingen, Schloss, Rokokotheater)
2)シューベルト/歌曲集2 イアン・ボストリッジ(T)ジュリアス・ドレイク(P) (2014年5月22日, Wigmore Hall, London)
3)ブラームス/歌曲集 マティアス・ゲルネ(Br)クリストフ・エッシェンバッハ(P) (2013年4月、2015年12月, Teldex Studio Berlin)
4)シューベルト/「美しい水車屋の娘」 ルドルフ・ショック(T)ジェラルド・ムーア(P) (1958年11月, Gemeindehaus Berlin-Zehlendorf)他3曲(アドルフ・シュタウホのピアノ:1959年6月10日, Gemeindehaus Berlin-Zehlendorf)
5)シューベルト/「冬の旅」 ジョン。・ヴィッカーズ(T)ジェフリー・パーソンズ(P) (1983年7月9-13日, Salle Wagram, Paris)他インタビュー付き
現在のところ、5のみ未聴ですが、他の4枚は程度の差はあれど、聴いてみました。
2のボストリッジとドレイクのシューベルトはウィグモア・ホールでのシューベルト・ライヴの第2集で珍しいレパートリー満載で、シューベルト・ファン必聴の録音です。
3のゲルネとエッシェンバッハのブラームスですが、実は以前ゲルネがインタビューで「ブラームスはあまり好きではないので録音もしないかもしれない」というようなことを読んだことがあったので、今回興味をもって聞いてみました。
Op.32全9曲と、ハイネの詩による5曲、そして「4つの厳粛な歌」全4曲という内容です。
まだ聞きこんでいない為、はっきりと断言はしませんが、ゲルネのアプローチは若干ブラームスの歌曲とは相性がよくないのかもしれないと感じました。
もちろんいつものふくよかで包み込むような声はブラームス歌曲の温かみをしっかり感じさせてくれますし、ゲルネに合ったレパートリーを選んでいるとは思います。
ただ、彼の表現がドラマティックになる際に、ブラームス特有の器楽的なバランスが崩れがちに感じられ、同じことがピアノのエッシェンバッハにも感じられました。
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今回、この記事ではプライとドイチュの「冬の旅」について、感想を記したいと思います。
この日のプライは声の調子もすこぶる良く、音程がぴたっとはまっています。
比較的軽快なリズムで第1曲「おやすみ」が始められ、悲壮感よりもわき目もふらずに前進していく感じが出ています。
1987年といえば、当時の彼の録音ではすでに第三者的な諦観をすら漂わせていたプライですが、ここではライヴゆえか、かなり振幅の大きいドラマティックな表現も聞かせ、若かりし頃のプライを彷彿とさせる「なりきり」感が嬉しく感じられました。
声はあくまで自然に語るように、しかしメロディーラインは壊さずにという姿勢が感じられるのは、いつものプライですが、一言一言への軽重の比重の付け方が細やかで、言葉へのプライの寄り添い方は傾聴に値します。
例えば、「風見」の中の"reiche Braut(金持ちの嫁)"という言葉にアクセントを付けているのを聞くと、プライなりの強烈な皮肉を込めているように感じられます。
その他にも聞くべき箇所は多々あります。
例えば、
・「休息」での単語による"r"の巻き舌の付け方の軽重や、めりはりのきいた語り口。
・「春の夢」での甘美さな夢と冷たい現実の対比、そして最後の恋人をいつになったら抱けるのだろうというわずかに盛り上がって沈み込む箇所。
・「道しるべ」の最後の"zurück"に込められた思いの深さ!
・「宿」で墓地にも眠りを拒否されて、ただ進むのだと歌う箇所の決然とした歌いぶり!
「ライアー弾き」ではプライの歌う主人公は絶望しているようには聞こえません。
力強く自分の分身のようなライアー弾きに言葉をかけます。
プライはそこを大きなクレッシェンドの後に軽いデクレッシェンドで若干のアーチを作りますが、基本はよく響く声で、前を向いて歩きだす様を想像させる終わり方でした。
これより前に映像収録してDVDでも発売されている、同じくドイチュとの共演による演奏では、室内での演奏ということもあるのでしょうが、もっと振幅を抑えた、内向きの演奏だったように感じられます。
このライヴ、プライの甘美な美声がまだまだ健在だったことにまず喜びを感じますが、さらに言葉の語り方の軽重の付け方が微に入り細を穿つのは、歌いこんできた年輪のなせる業なのかもしれません。
そして、忘れてならないのがヘルムート・ドイチュのピアノです!
安定したテクニックに裏付けられたピアノは、粒立ちが明瞭で、クリアな響きが冬の凍てつく雰囲気をあらわす一方、「ボダイジュ」などでは包み込むような温かい響きも聞かせています。
その演奏はテキストとぴったり一致し、まさに変幻自在と言ってよいでしょう。
レガートとノンレガートの使い分けが絶妙にうまいのもドイチュの美点だと思います(ペダリングのうまさも)。
「からす」でのつきまとうような右手の響きのなんといううまさ!
リズムにのったテンポ感がプライの歌をどれほど助けていることでしょう。
まさにプライとドイチュが二人三脚で作り上げた、深遠だけれども、達観していない、最後に希望が見える世界を描き出してくれたように思います。
興味のある方はぜひお聞きになってみて下さい!
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コメント
フランツさん、こんにちは。
プライ&ドイチュの「冬の旅」、素敵なレビュー記事をありがとうございます(*^^*)
ライヴになると特に「なりきる」のかもしれませんね。
私もこの演奏から「生きる!」を感じました。
この演奏時、彼は56歳。
枯れるには早く、かと言ってもう青臭い若者でもない(でも、なんか若々しいんですよね)。
そう言う年齢が歌わせている演奏なのだと思いました。
これまでにない一枚が加わったことで、彼が歌った「冬の旅」の歴史の隙間がまた少し埋められたように思います。
ついつい声に聞き入ってしまうのですが、フランツさんの解説を思い起こしながら、次はピアノにもしっかり耳を傾けようと思います。
投稿: 真子 | 2016年7月26日 (火曜日) 14時43分
真子さん、こんばんは。
ご覧くださり、有難うございます(^^)
真子さんが、この演奏から「生きる」という印象を感じられたというのはよく分かる気がします。
プライがここで歌い、語った主人公は、感情のおもむくままに素直に心のうちを吐露していますが、決して達観しておらず、最後には希望の光を見出しているように感じました。
若々しくもあり、彼の年輪のなせる演奏でもあり、確かに彼の「冬の旅」の録音史にまた新しいページが加わったようですね。
私がプライをはじめて生で聞いた時のピアニストがドイチュだったこともあり、プライとドイチュの組み合わせは、歌曲鑑賞の原点を思い出させてくれるのです。
今や引く手あまたの名ピアニストですが、プライとの共演できっと多くのことを学んだのでしょうね。
ここでも素敵な演奏を聞かせてくれています。
投稿: フランツ | 2016年7月26日 (火曜日) 21時26分
フランツさん、こんにちは。
もうお持ちかもしれませんが、HMVからこんな案内が来ました。
「在庫特価 シューベルト歌曲オン・レコード(17CD)」
http://www.hmv.co.jp/news/article/1607190027/
1900年初頭から、最近の録音まで、EMI音源から集められているようです。
様々な名歌手が歌っているのと、CD17には数人の歌手のディスカッションが収録されています。
アメリング、ディースカウさんのもありましたよ。
お持ちだったらすみません。
投稿: 真子 | 2016年8月 4日 (木曜日) 08時21分
真子さん、こんばんは。
シューベルト歌曲CDの情報を有難うございます(^^)
実は私もすでに購入済みなのですが、分厚い本のようなデザインがまず素敵で、内容もEMIの膨大な録音をたっぷり収録してあって、お買い得ですよね。録音データがブックレットにしっかり書かれているのもEMIらしい充実感を感じさせてくれます。
私はまだ最初の方と、アーメリングのあたりしか聴いていないのですが(笑)、これだけあると、立派なシューベルト録音史ですよね。
プライもムーアやエンゲルとの録音が収録されていますね。
全部聴くには何日かかるのでしょう(笑)
でも17枚組で5千円でお釣りが来るのは有難いですね。
投稿: フランツ | 2016年8月 4日 (木曜日) 21時21分
フランツさん、こんにちは。
さすがフランツさんはすでにお持ちだったのですね。
これはシューベルトの録音史として聴くのもよさそうですね。ハイペリオンの録音ともまた違った趣がありそうで。
EMI音源ということで、プライさんの歌は持っていますが、(ドイツ語が分からないくせに)ディスカッション目的で買いました(笑)
ほんと、聴くのに何日もかかりそうです。
今回はさらにお安くなって、3000円を切っていましたよ(驚)。
名歌手揃いなので、申し訳ない気がします(ありがたいですが)。
投稿: 真子 | 2016年8月 5日 (金曜日) 16時18分
真子さん、こんばんは。
>名歌手揃いなので、申し訳ない気がします(ありがたいですが)。
本当にいい時代になりましたよね。
過去の名録音がひとつのボックスCDにまとめられて、安価で入手できるのですからね(3000円以内ですか!)。
EMIの財産の重みを感じますよね。
今はEMIはWarnerレーベルに吸収されてしまいましたが、慣れるまでにしばらくかかりそうです。
ハイペリオンの全集がシューベルトのほぼ全曲を網羅しているのに対して、こちらのEMIのボックスはEMIのシューベルト演奏の歴史を味わえるのが貴重ですね。
最後のディスカッション、まだ聴いていませんが、
きっとハンプソンが貴重な話をいろいろ語っているのでしょうね。
投稿: フランツ | 2016年8月 6日 (土曜日) 21時43分