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ペーター・レーゼルのバッハ、そしてモーツァルト(2016年5月11日 紀尾井ホール)

ペーター・レーゼルのバッハ、そしてモーツァルト
Peter Rösel plays J.S.Bach and Mozart

2016年5月11日(水)19:00 紀尾井ホール

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(P)

J.S.バッハ(Johann Sebastian Bach)/イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971 (Italian Concerto in F major, BWV971)
 I. -
 II. Andante
 III. Presto

J.S.バッハ/パルティータ第4番 ニ長調 BWV828 (Partita No.4 in D major, BWV 828)
 1. Overture
 2. Allemande
 3. Courante
 4. Aria
 5. Sarabande
 6. Menuet
 7. Gigue

~休憩~

モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)/ソナタ ニ長調 KV576(Sonata in D major, BWV576)
 I. Allegro
 II. Adagio
 III. Allegretto

モーツァルト/幻想曲とソナタ ハ短調 KV475/KV457(Fantasie in C minor, KV475; Sonata in C minor, KV457)
 I. Molto allegro
 II. Adagio
 III. Allegro assai

~アンコール~
J.S.バッハ/フランス組曲第5番ト長調BWV816より 第4曲ガヴォット
J.S.バッハ;レーゼル編/主よ人の望みの喜びよBWV147-6

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ペーター・レーゼルのリサイタルを2年ぶりに聴いた。
彼とゆかりの深い紀尾井ホールの客席はほぼ満席に近い状態で、いかに彼の演奏が日本の聴衆に受け入れられているかをうかがわせる。

1945年2月生まれのレーゼルはすでに71歳。
しかし舞台に登場した彼はこれまでとなんら変わることのない早めの足取りでピアノの前に進んだ。
お元気そうである。
私が生で彼のバッハやモーツァルトを聴くのは今回がはじめて。
これまでベートーヴェンのソナタやロマン派の多くの名作を通じて、レーゼルの高い技巧に裏打ちされた安定した演奏は知ってはいたが、今回あらためてレーゼルのもつ温かみあふれる音楽に魅了された。

バッハもモーツァルトも練習曲のように、あるいは機械のように演奏されかねない作品ではあるが、レーゼルのタッチは一瞬たりともそのような方向に陥ることはなかった。
決して思い入れたっぷりの演奏というわけでもないのに、紡ぎだされる音に常に血が通っているのである。
技術的にも最後のモーツァルトのソナタハ短調の最終楽章でやや疲れが感じられた他はほぼ完璧であった。

バッハの音楽がこれほど人間味にあふれて聞こえることはそうそうあることではない。
レーゼルはテンポやダイナミクスを決して派手に対比させる人ではないのだが、どのフレーズをとっても血が通っていて、それゆえにバッハのポリフォニーが生き生きと輝くのだ。

モーツァルトのソナタ ニ長調も奇をてらわず、あくまで正攻法なのだが、響き出す音の一音一音がとにかく温かいのである。
一方、幻想曲 ハ短調KV475とソナタ ハ短調KV457は、連続して演奏されることが多く、今回も続けて演奏されたのだが、悲劇の中にほのかな光を灯すのがレーゼルの魅力と感じた。
実は「幻想曲ハ短調KV475」は私が遠い昔、下手なピアノをかじっていた頃、先生から教材として与えられた作品だった。
当時私はその先生から楽譜を与えられるまで、この作品を一度も聴いたことがなかった。
まだ少ない小遣いをやりくりしていた学生時代なので、レコードも持っておらず、楽譜を前に格闘していたことを今でもよく覚えている。
従って、この曲に関しては、ピアニストの誰かの演奏を知る前に、自分で音を出して初めて知るという難しさと楽しさを与えてくれた思い出深い作品だった。
この作品、10分強ある様々な部分からなる曲で、とても初心者の手に負えない技術的な難所もあるのだが、それ以前に異なる音楽の羅列から一つの流れを作るのがとても難しかったのを覚えている。
そんな個人的な思い入れのある作品である為、実演でこの曲を聴く時は、純粋に作品として楽しめない嫌いがあったのだ。
だが、今回のレーゼルの演奏は、久しぶりにこの曲に接したということもあるのだろうが、モーツァルトの作品として冷静に聴くことが出来た方だと思う。
それにしてもうまい人が弾くと、こんなに違うものかと思い知らされた、この日のレーゼルの演奏だった。

アンコールはバッハを2曲。
「主よ人の望みの喜びよ」はマイラ・ヘスの編曲版が著名だが、今回聴きながらヘス版にちょっと手を加えているのかと思っていたら、レーゼル自身の編曲とのこと。
マイラ・ヘスも往年のピアニストであり、同じピアニストとしてレーゼルも自分なりのアレンジを加えたくなったのかもしれない。
心に染みる名演だった。

まだまだ現役ばりばりのテクニックと、ますます魅力を増す音楽性をもった彼のさらなる活動を楽しみにしたいと思う。

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