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マーラー「私はこの世からいなくなった」を聴く

Ich bin der Welt abhanden gekommen
 私はこの世からいなくなった

Ich bin der Welt abhanden gekommen,
Mit der ich sonst viele Zeit verdorben,
Sie hat so lange nichts von mir vernommen,
Sie mag wohl glauben, ich sei gestorben.
 私はこの世からいなくなった、
 そこで私はかつて多くの時を堕して過ごしたものだった。
 世間が私の消息を何も聞かなくなってすでに久しく、
 私が死んでしまったのだと信じているのだろう。

Es ist mir auch gar nichts daran gelegen,
Ob sie mich für gestorben hält,
Ich kann auch gar nichts sagen dagegen,
Denn wirklich bin ich gestorben der Welt.
 私には全くどうでもよいことなのだ、
 世間が私を死んだものとみなしているかどうかなどは。
 私もそのことに対して全く何も言うことが出来ないのだ。
 なぜなら本当に私は世間というものからは死んでしまったのだから。

Ich bin gestorben dem Weltgetümmel,
Und ruh' in einem stillen Gebiet.
Ich leb' allein in meinem Himmel,
In meinem Lieben, in meinem Lied.
 私は世の喧騒から死んでしまい、
 ある静かな地域で安らいでいる。
 わが天空の中で一人生きているのだ、
 わが愛の中、わが歌の中で。

詩:Friedrich Rückert (1788 - 1866)
曲:Gustav Mahler (1860 - 1911)

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マーラーがリュッケルトの詩に作曲した歌曲「私はこの世からいなくなった」をアーメリングが歌った録音がアップされていたので(Omniumレーベルから出ている放送録音と思われます)、この機会に他の歌手たちと聴き比べてみようと思います。
ちなみにマーラーはいつも通り、リュッケルトの原詩に手を加えています。
世の中の喧騒を離れた孤高の心境が、マーラーの静かで美しい音楽で語られます。

Elly Ameling(S), Radio Kamerorkest, Ed Spanjaard(C) 1991

演奏活動の最後の時期に差し掛かり、アーメリングの歌の奥行きは増すばかりです。胸にしみ渡ります。

Hermann Prey(BR), Michael Krist(P) Oct. 1972

ここではクリストのピアノ伴奏で歌われます。プライはコントロールを効かせながら、希望の光を灯しているかのように歌っています。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Berlin Philharmonic, Karl Böhm(C) 1964

ディースカウの声がつやつやしていた頃にあえてこの深みのある作品に挑戦しています。丁寧なディクションが印象的です。

Kathleen Ferrier(A), Wiener Philharmoniker, Bruno Walter(C) 20 May 1952

この夭折した英国のアルト歌手、キャスリーン・フェリアが何故現在までこれほど評価され続けているのかよく分かります。人間味に満ち溢れた声の素晴らしさ!

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アーメリング83歳誕生記念 私的お勧めシューベルト音源10選+2(動画サイト掲載の中より)

ソプラノのエリー・アーメリング(Elly Ameling)が2月8日に83回目の誕生日を迎えました。
おめでとうございます!

ファンの端くれとして、今回は動画サイトにアップされているシューベルトの歌曲の中から、お勧めしたい音源を選んでみました。
アーメリングを知らない世代の方にもこの機会に知ってもらえたら嬉しいです。

●音楽に寄せて(An die Musik)D547(ピアノ:ドルトン・ボールドウィン)

噛みしめるように歌うアーメリングの語り口が、まさに音楽への愛情を感じさせて感銘を受けました。

●トゥーレの王(Der König in Thule)D367(ピアノ:D.ボールドウィン)

グレートヒェンが口ずさむ古い歌が彼女の声によって丁寧に語られて、個人的にはこの曲のベストの一つだと思います。

●アヴェ・マリア(Ave Maria)D839(ピアノ:D.ボールドウィン)

けなげな祈りが心にしみわたります。いつ聴いてもいいですね!

●「ロザムンデ」~ロマンツェ(Romanze aus Rosamunde)D797-3b(ピアノ:D.ボールドウィン)

本来メッゾソプラノの為の作品ですが、アーメリングの美声にただただひたっていたくなる名唱です。

●至福(Seligkeit)D433(ピアノ:D.ボールドウィン)

この曲はアーメリングの十八番といって良いでしょう。こんなに生き生きと楽しげに歌われてシューベルトも幸せでしょう。

●夜と夢(Nacht und Träume)D827(ピアノ:D.ボールドウィン)

大きく弧を描く美しいレガートに酔いしれてしまいます。

●夕映えの中で(Im Abendrot)D799(ピアノ:D.ボールドウィン)

アーメリングの広がりのある美声は神々しく胸を打ちます。

●糸を紡ぐグレートヒェン(Gretchen am Spinnrade)D118(ピアノ:D.ボールドウィン)

抑制された中に熱い気持ちが感じられる歌唱です。年代ごとに彼女の歌唱にも変化があるのが興味深いです。

●愛の歌(Minnelied)D429(ピアノ:D.ボールドウィン)

同じテキストによるブラームスの歌曲ほど知られていませんが、可憐でけなげでアーメリングの為にあるような曲です。

●緑野の歌(Das Lied im Grünen)D917(ピアノ:D.ボールドウィン)

爽やかな曲調にアーメリングの魅力いっぱいの歌唱が見事に合っています。長さを感じさせません。

[番外編1]
●踊り(Der Tanz)D826(J.ベイカー、P.シュライアー、D.F=ディースカウ、G.ムーア)

この豪華メンバーで録音が残されたことはなんとも嬉しいことです。生き生きとして楽しげで大好きな作品です。

[番外編2]
●結婚式の焼き肉(Der Hochzeitsbraten)D930(P.シュライアー、D.F=ディースカウ、G.ムーア)

翌日の結婚式の料理に出そうと禁猟区でうさぎ狩りをする若いカップルと見張りとの対話による三重唱です。アーメリングのコミカルなお芝居が聞き物です。

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