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ヘルマン・プライ&ジェフリー・パーソンズ/シューベルト「美しい水車屋の娘」(1976年)(Radio4 期間限定配信)

オランダのインターネットラジオ局Radio4が、ヘルマン・プライとジェフリー・パーソンズの「美しい水車屋の娘」を配信していることを某SNSでお世話になっている方の情報で知りました。
著名な歌曲ピアニストだったジェフリー・パーソンズの没後20年を記念しての配信と思われます(説明がパーソンズについて書かれているので)。

 こちら

ジェフリー・パーソンズは1929年6月15日オーストラリア、シドニー生まれで、若い頃はブラームスのピアノ協奏曲第2番などもステージで弾いていたのですが、ロンドンに渡り、ヒュッシュやシュヴァルツコプフ、ホッターなどの歌曲の伴奏者として、ムーアの後継者として位置づけられるほどにまでなりました。
そして、ニルソン、シュトライヒ、ボニー、ベイカー、ルートヴィヒ、オッター、アレン、ハンプソンなどの多くの声楽家だけでなく、イダ・ヘンデル、ミルシテイン、トルトゥリエなど楽器奏者とも共演を重ねて、この世代の最高の伴奏ピアニストの地位を確立したのです。
残念ながら1995年1月26日に癌の為に亡くなってしまうのですが、オーラフ・ベーアやジェシー・ノーマンとの来日公演で彼の至芸を何度か実際に聴けたことがいい思い出です。
1994年には本来ロス・アンヘレスの共演者として来日する予定だったので、楽しみにして会場に行ったら、ピアニスト変更の張り紙が貼ってあり、何故か嫌な予感がしたと思っていたら、翌年の新聞に訃報記事を見つけて力が抜けたことを思い出します。
ムーアの実演に接することが出来なかった私にとって、パーソンズのソリスト顔負けのテクニックに支えられた美しいタッチを生で聴くことはリートを聴き始めてからの念願で、ベーアとの来日公演でそれが実現した時は今後何度もベーアと共にパーソンズの至芸を味わえると喜んだものでした(茅ヶ崎公演の時、楽屋でサインの列に並んだのですが、ベーアとパーソンズが何かを言い合って楽しそうに笑っていたのが今でも印象に残っています)。
しかし、再度ベーアが来日した際と、ノーマンのコンサートを聴くだけで、パーソンズの実演を聴く機会は失われてしまったのです。
幸いなことにパーソンズには多くの録音が残されています。
それこそ、彼の基礎をつくったと言えるだろうシュヴァルツコプフとその夫のウォルター・レッグとの薫陶を得て作られた多くの録音はパーソンズの非凡さを示していると思います。
シュヴァルツコプフは実はムーア引退後、コンサートではパーソンズと共にブライアン・ランポートともかなりの頻度共演しているのですが、録音ではもっぱらパーソンズと共演しているのが興味深いところです。

プライとは、スタジオ録音はCapriccioレーベルのブラームス「ドイツ民謡集」1枚しか残していないのですが、ザルツブルク音楽祭では4回(1977,1978,1981,1988年)共演しており、今回のオランダでのライヴは1976年の共演です。
プライの自伝『ヘルマン・プライ自伝:喝采の時』(原田茂生、林捷訳:1993年 メタモル出版)でパーソンズについて「ジェラルド・ムーアの正統な後継者と呼ぶにふさわしいピアニストだ」と書いています。

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シューベルト(Schubert)/「美しい水車屋の娘」D795 全20曲 (Die schöne Müllerin)
シューベルト/はじめての喪失D226 (Erster Verlust)
シューベルト/ムーサ(ミューズ)の息子D764 (Der Musensohn)

録音:1976年10月20日, Sonesta Koepelkerk Amsterdam

ヘルマン・プライ(Hermann Prey) (bariton)
ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons) (piano)

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プライは厚みのある朗々とした美声はそのままに、弱声でも魅力を聴かせています。
熱っぽさよりはコントロールの利いた歌唱で、「好きな色」での消え入りそうな声が特に印象的でした。
パーソンズは粒立ちの良い明晰なタッチが特徴的で、リズムがかっちりしているので、いつものホカンソンとは違った演奏になっていると思います。
アンコールの「ミューズの子」はパーソンズのがっちりしたリズムに乗って、プライ本来の明るさが全開で、とても楽しい演奏でした。

Wigmore HallのライヴCDシリーズでもパーソンズの没後20年を記念して、ヴォルフガング・ホルツマイアとの「美しい水車屋の娘」がリリースされています。
私も近く入手して聴いてみたいと思っています。

ヴォルフガング・ホルツマイア&ジェフリー・パーソンズ「さすらい」

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コメント

フランツさん、ありがとうございます!

貴重な録音ですね。
よく見つけてくださいました!!
じっくり聴きます。
取り急ぎお礼まで。感謝、感謝(*^^*)♪

投稿: 真子 | 2015年9月23日 (水曜日) 08時41分

真子さん、こんにちは!

この音源、私の発見ではなく、mixiの知り合いの方に教えていただきました。
これは貴重な音源ですよね!
期間限定なので、早めに楽しんで下さいね(^ ^)

投稿: フランツ | 2015年9月23日 (水曜日) 09時20分

フランツさん、こんにちは。

ゆっくりと聴いてみました。
今までの解釈と変わったところはありませんが、おっしゃる通り、ピアニッシモの美しさが際立っていました。
もちろん張りのあるフォルテにも魅了されますが。

アンコールの「初めての喪失」は胸に染み入る演奏、「ミューズの子」では、会場の空気を一転、軽やかなものに変えていました。
対極にある曲を、作為なく歌い分けてしまう彼のうまさには、いつもながら舌を巻くばかりです。
「ミューズの子」を歌う前にご自分でアナウンスされた、その話し声にもやられました(笑)

投稿: 真子 | 2015年9月25日 (金曜日) 14時27分

真子さん、こんにちは。
コメントを有難うございます!

プライはビンビン響く豊かな強声も魅力的なのですが、優しい弱声もまた素晴らしいですよね。
「水車屋」の主人公の繊細さが伝わってくるようです。

アンコールに異なるタイプの2曲を選び、いずれも見事に歌いこなしてしまうプライにはあっぱれですね!
特に「ミューズの子」では本来のプライ節全開で、聴いていて本当に楽しくなりました。
アンコール前のアナウンスも、プライファンの真子さんにとっては貴重ですよね。
楽しんでいただけて良かったです!

投稿: フランツ | 2015年9月26日 (土曜日) 16時26分

 申し訳ありません。コメントをちゃんとさせていただきたいのですが、再生すると、コマメにひっかかってしまってしまうのです。windows10にアップした影響でしょうか。困ったもんです。
 プライのファルセットは昔から大好きでしたから、聴きたいところなのに……。
 すみません。何とか努力してうまく再生してみます。
期間に間に合えばいいのですが。

投稿: ZImolin | 2015年9月28日 (月曜日) 19時43分

ZImolinさん、こんばんは。

そう言えばお名前変えました?

Windows 10に対応していないかもしれませんね。
ネットカフェで聴くという方法もあると思います。

うまく聴けるといいですね!

投稿: フランツ | 2015年9月30日 (水曜日) 05時58分

名前、変えてません。キーボード打ち間違いです。

さて、ありがたいことに、何度も何度もがちゃがちゃやっておりましたら、プライ&パーソンズの『水車屋』を滞りなく聴くことができました。BOSEのステレオも壊れたままですので、テレビに繋いで聴きました。
久しぶりです。プライさんの『水車屋』を通しで聴いたのは。途中で料理のために席を離れはしましたが。

とても楽しみました。プライさんのファルセット、エンゲルのものより、よいかも?
有難うございます。

投稿: Zu-Simolin | 2015年9月30日 (水曜日) 18時56分

Zu-Simolinさん、こんばんは。

お名前、元通りということで安心しました!

「水車屋」無事お聴きになれたようで良かったですね!
楽しんでいただけて私もうれしいです。

プライファンのZu-Simolinさんはきっといろいろなことを感じながらお聴きになったことでしょう。

ファルセットもうまく使うといいですよね。
私はその昔、「カルミナ・ブラーナ」でプライのファルセットを聴いて、こんな歌い方をさせる曲があるのかと驚いたことを思い出します。

投稿: フランツ | 2015年9月30日 (水曜日) 20時43分

わおぅ!プライの「カルミナ・ブラーナ」ですか。
誰誰の演奏だったか、覚えておいでですか?

ところで、・・・またシューベルトの「ロザムンデ」なんですが、第8曲に「狩人の合唱 緑の明るい野山に」という曲もあるんですが・・・・・・。2分ほどのとても小さい曲です。確かこれもいい曲だったなあというおぼろげな記憶なのですみません。今、BOSEも壊れて、パソコンのCD再生もWindows10にしてからうまくできなくなっていて、確かめようがにんです。あ、車のステレオで再生できるか。
今、気付きました!
でも、よければ、フランツさん、トライしていただけますでしょうか。聴いてしょ~もな、と思われたら、それはそれでノー・プロブレムです。

いつも勝手ばかり言ってます。嫌われそうかな?

投稿: Zu-Simolin | 2015年10月 1日 (木曜日) 17時18分

Zu-Simolinさん、こんばんは。

1984年4月の日本公演で、ポップ、小林一男、プライがサヴァリッシュ指揮N響と共演したライヴがテレビ放映されたのですが、それが私が「カルミナ・ブラーナ」を見た最初でした。
詳細は以下をご覧くださいね(^^)
http://franzpeter.cocolog-nifty.com/taubenpost/2008/04/19846_5e93.html

「ロザムンデ」の「狩人の合唱」、承知しました!トライします。
膨大な数のシューベルトの合唱曲は、どれから聴けばよいか迷ってしまうので、Zu-Simolinさんに教えていただけるのは有難いです!
全然勝手だとは思っていませんので安心して下さいね(笑)
でも、こちらも少々お時間いただくことになると思いますので、気長~にお待ち下さい!

投稿: フランツ | 2015年10月 2日 (金曜日) 20時43分

サヴァリッシュさんの指揮でしたか。それはさぞ素晴らしい演奏だったではないか、と思います。
N響の音は指揮者によってコロコロ変わる中、サヴァリッシュさんのは、大好きでしたから、そう推察するのです。

こちらのリクエストにていねいに応えてくださり、頭が下がります。甘えてしまいますよ。すでに甘えてるか。

シューベルトの合唱曲は、名曲の宝庫だと思います。歌曲と並んで。

では今後とも、ヨロシク!

投稿: Zu-Simolin | 2015年10月 3日 (土曜日) 17時41分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
Zu-Simolinさんはサヴァリッシュがお好きだったのですね。
私はN響ではないですが、サヴァリッシュを1度だけ生で聴いたことがあります。
ヴァラディ、ポップ、リポヴシェク等、錚々たる歌手たちとの共演でしたが、その翌年にポップが亡くなってしまうなんて、その時には想像もしていませんでした。
サヴァリッシュとN響との関係も緊密だったようですね。
オケのことは疎い私ですが、彼のすっきりした指揮だとなんとなく安心して聴ける感じがしました。

名曲の宝庫のシューベルトの合唱曲、少しずつ聴いていけたらいいなと思います。
さきほど「狩人の合唱」を動画サイトで聴いてみましたが、小さな楽しい曲ですね。
甘えてくださっても構いませんが、期待にこたえられるかは保証しませんよ(笑)
でも頑張ります!

投稿: フランツ | 2015年10月 3日 (土曜日) 20時44分

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