クリストフ・プレガルディエン&ミヒャエル・ゲース/〈歌曲(リート)の森〉 ~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第16篇(2015年5月13日 トッパンホール)
〈歌曲(リート)の森〉 ~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第16篇
クリストフ・プレガルディエン(テノール)
2015年5月13日(水)19:00 トッパンホール
クリストフ・プレガルディエン(Christoph PRÉGARDIEN)(テノール)
ミヒャエル・ゲース(Michael GEES)(ピアノ)
マーラー(Mahler)/さすらう若人の歌(Lieder eines fahrenden Gesellen)
第1曲 いとしいひとがお嫁に行く日は(Wenn mein Schatz Hochzeit macht)
第2曲 今朝ぼくは野原を歩んだ(Ging heut morgen übers Feld)
第3曲 ぼくは燃える剣をもっている(Ich hab' ein glühend Messer)
第4曲 いとしいあの子のつぶらな瞳が(Die zwei blauen Augen von meinem Schatz)
ヴィルヘルム・キルマイヤー(Wilhelm Killmayer: 1927-)/ヘルダーリンの詩による歌曲集 第2巻より(Lieder aus Hölderlin-Lieder II)
やさしい青空に(In lieblicher Bläue)
人間(Der Mensch)
あたかも雲を(Wie Wolken)
ギリシア(Griechenland)
~休憩~
マーラー/《子供の魔法の角笛》より(Aus "Des Knaben Wunderhorn")
この歌をつくったのはだれ?(Wer hat das Liedlein erdacht?)
高い知性への賛美(Lob des hohen Verstandes)
ラインの伝説(Rheinlegendchen)
原光(Urlicht)
トランペットが美しく鳴りひびくところ(Wo die schönen Trompeten blasen)
死んだ鼓手(Revelge)
~アンコール~
マーラー/《5つのリュッケルトの詩による歌》より 私はこの世に捨てられて(Ich bin der Welt abhanden gekommen)
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クリストフ・プレガルディエンとミヒャエル・ゲースによるドイツリートのコンサートがトッパンホールで2夜にわたって行われた。
その1日目を聴いた。
本当は2日目のゲーテ歌曲集も聴きたかったが、残念ながらそちらは見送り。
空席の多さに驚いたが、演奏は真に感動的だった。
1日目のプログラムはマーラー歌曲を中心に、途中に1927年ミュンヒェン生まれというキルマイアーという作曲家のヘルダーリン歌曲集(全3巻)から第2巻最後の4曲が歌われた。
キルマイヤーの歌曲は、最初の「やさしい青空に」が長大なテキストによる規模の大き目な作品である以外は、どれもコンパクトな作品だった。
現代音楽の尖鋭性はここにはほとんどなく、後期ロマン派リートの伝統に位置付けてもおかしくないような曲調だったように感じられる。
ヘルダーリンのテキストによっていることもあってか、どこか深淵なところがあったようにも感じられる。
最初の3つの曲はいずれもピアノ後奏が長めだったのが印象的だった。
プレガルディエンの声は絶好調だった。
前から5列目ぐらいで聴くと、彼の声は確かにテノールなのだなぁと感じられる。
清澄で美しい声は健在で、高音に年齢から来るのであろう若干の苦しい箇所もあったものの、それすらも表現の一部に取り込んでしまう。
もはや細かい箇所をあれこれ論じることが無意味に感じられるほど、一貫して充実した音楽が響き渡った。
その語り口の素晴らしさと、各曲の空気を一瞬にして作り上げる表現は至芸と言っていいだろう。
マーラーの「さすらう若人の歌」では彼の歌唱がまだまだ十分に若者になりきって苦悩を表現していたのが素晴らしかった。
「子供の魔法の角笛」のコミカルかつシニカルな表現をかなり大胆に表現していたのも印象的だった。
ピアノのゲースは相変わらずの濃い演奏であった。
かつて彼の演奏をはじめて聞いた時は鼻白んだものだったが、こうして繰り返し彼の演奏に接していると、ドラマを強烈に強調した彼の音楽づくりはプレガルディエンの歌唱と不思議なほど相性がよいようなのだ。
そこに演奏姿勢の違いからくる居心地の悪さがないのである。
ゲースが蓋全開のピアノから大粒の音を鳴らしても、それがプレガルディエンの表現の一部として確かに絶妙なバランスを保っている。
長年のパートナーだからこそ得られた境地なのかもしれない。
生演奏ならではのハプニングもあった。
プレガルディエンは「ラインの伝説」の確か2節目後半の箇所で突然歌詞を忘れたのか、黙ってしまったのである。
すると、すかさずゲースがかなりのボリュームで歌詞を唱え、助け舟を出したのであった。
ピアノ伴奏者のエピソードとしてよく出てくる類の話だが、実際にこのような場面に出くわしたのは珍しいことである。
ピアノが奏でられている中でそっと気づかれないように歌詞をささやくだけでは、歌手には聞きとれないだろう。
ゲースは楽譜を見ながら弾いていたのは確かだが、あの咄嗟のサポートはおそらく歌詞を暗記していなければ出来なかったのではないか。
そういう意味で私は歌曲ピアニストとしてのゲースにちょっと尊敬の念を抱いたのであった。
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