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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2015《PASSIONS パシオン》(2015年5月4日 東京国際フォーラム)

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2015《PASSIONS パシオン》

●2015年5月4日(月) 19:45 ~ 20:30
東京国際フォーラム ホールD7

公演番号:356
“恋の物語~プーランクによる狂乱のオペラ”

中村まゆ美 (ソプラノ)
大島義彰 (ピアノ)

プーランク/オペラ《人間の声》(演奏会形式)

●2015年5月4日(月) 21:00 ~ 22:00
東京国際フォーラム ホールA

公演番号:316
“LFJ2015の大団円を飾るパシオンの饗宴”

アマンダ・パビアン (ソプラノ)*
アレッサンドロ・リベラトーレ (テノール)**
ユリアンナ・アヴデーエワ (ピアノ)***
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ロベルト・トレヴィーノ (指揮)

プッチーニ/オペラ《ジャンニ・スキッキ》より 「私のお父さん」*
プッチーニ/オペラ《ラ・ボエーム》より 「私の名前はミミ」*
ドニゼッティ/オペラ《愛の妙薬》より 「人知れぬ涙」**
ヴェルディ/オペラ《ラ・トラヴィアータ》より 「乾杯の歌」* & **

グリーグ/ピアノ協奏曲 イ短調 op.16 ***

ショパン/ワルツ第5番Op.42(アヴデーエワのピアノ独奏アンコール)***

マルケス/ダンソン2番

~アンコール~
ヴェルディ/オペラ《ラ・トラヴィアータ》より 「乾杯の歌」* & **
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番

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2015年も例年通り東京国際フォーラムにてラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭が催された。
5月2日から4日の3日間にかけて、様々な会場で同時進行的に催される数々のコンサートはもはやゴールデンウィークの恒例行事として定着した感がある。
私も以前はフレンズ登録して、発売日にネット予約を格闘したりしていたが、ここ数年は直前にとれたチケットだけ聴くという形にしている。
今回は最終日の最後の方の2公演を聴くことが出来た。
国際フォーラムに到着した時にはすでに日が暮れていて、祭りの終焉を間近に控えた寂しさのようなものが感じられた。

最初はホールD7でプーランクのオペラ《人間の声》をピアノ伴奏バージョンで聴いた。
登場人物は、恋人と別れたばかりの女性1人だけ。
彼女が元恋人や電話交換手と電話で話す内容が歌われる。
はじめは余裕を装っていた彼女だが、徐々に未練をのぞかせ、最後には電話線を首に巻きつけて愛を訴えるという内容。
ちょうど45分ぐらいなので、LFJにはぴったりという感じだった。

ソプラノの中村まゆ美さんはもうずっとこの作品を歌い続けてきたそうだが、それがよく分かる名唱だった。
衣装と簡単なセット(テーブルに置かれた電話、椅子)だけで、見事に主人公の面影が浮かんでくる。
そのなりきり方はまさに女優といってもいいぐらいだった。
声は澄んでリリカルだが、言葉はしっかり発音され、歌は主人公の心の機微を表現したものだった。
女心の移り行きが繊細に、説得力をもって表現され、中村さんの歌を通して、迫真のモノドラマを目の当たりにした。
素晴らしい名演であり、表現者としての中村さんの素晴らしさをたっぷり堪能した。
そして、ピアノで電話の呼び鈴をはじめ、様々な心理描写やドラマの展開を描き尽くした大島義彰さんにも拍手を贈りたい。
かつて大島正泰さんという日本のピアノ伴奏者の先駆者的な方がいて、ムーアの著書の翻訳なども手掛けていたが、ひょっとして血縁関係がおありなのだろうか。

続いて、ホールAで今年のLFJのラストコンサート。
私の目当てはピアノのアヴデーエワだが、有名なオペラアリアが4曲も聞けるのも楽しみだった。

ソプラノのパビアンは緑の衣装を着た若干恰幅のよい女性。
巨大なAホールの天井桟敷に座っていた私の席まで確かに彼女の声は届いた。
細かいビブラートは好みが分かれるだろうが、心をこめて歌っていたのは十分伝わってきたし、大画面に映し出される彼女の近影を見ても、表情の豊かな歌だったと思う。
だが、テノールのリベラトーレはさらに魅力的だった。
イタリアの明るいテノールの伝統を受け継いでいるような天性の美声と表現。
低音で一部かすれた箇所もあったものの、それを上回る感銘を与えてくれた。
「乾杯の歌」では歌手二人のダンスまで披露して、芸達者なところを見せてくれた。

会場が大いに沸いたところで、ピアニストのユリアンナ・アヴデーエワが登場。
いつも通りパンツスーツ姿が決まっている。
彼女のグリーグの協奏曲ははじめて聴くが、とても良かった。
民俗色をしっかり残しながらも、彼女特有の清冽で真摯な表現が耳に心地よく、細部まで作りこまれた演奏はただただ見事だった。
確かな技術に裏付けられたはったりのない正攻法の演奏は、作品の良さをストレートに伝えてくれた。
何度もカーテンコールに呼ばれた彼女はショパンのワルツをアンコールに演奏して、そちらも自然な表情がなんとも快い演奏だった。

最後のオケ曲「ダンソン2番」は、メキシコの作曲家マルケスによる比較的最近の作品。
メキシカンな響きとリズムがありながら、徐々に盛り上がっていく感じ。
悪くはないが、最初から惹きつけられたわけではなかった。
もう少し聴きこまないとなんとも言えない。

だが、ロベルト・トレヴィーノ指揮のシンフォニア・ヴァルソヴィアは表情豊かな演奏を聴かせてくれた。

お祭りの最後にふさわしい楽しいコンサートだった。
グリーグの協奏曲の第1楽章の後で拍手が起きたり、ピアノを片づけるスタッフが数人登場したところで拍手が起きるなど、LFJらしい懐の大きな雰囲気が味わえてかえって楽しめた。

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コメント

フランツさん、今晩は。
ラ・フォルに行かれたんですね。
私は、2年前までは、結構足を運んだのですが、だんだん事前のチケット争奪戦にストレスを感じるようになり、昨年はとうとうパス。今回も3日の最後の「ヨハネ」を聴いただけでした。
コルボさん指揮の演目はこれだけだったので、聴けて良かったです。
ただ、ホールAの2階S席で、視界は良かったのですが、ホールが大きすぎ、ローザンヌ声楽アンサンブルや、小編成オケとのバランスが、余り良くない気がして、ちょっと残念でしたが、演奏はとても良かったと思います。満足して帰ってきました。
何度か聴いて、ファンになってしまった声楽アンサンブルとか、室内楽など、もっと聴きたかったのですが・・。
来年のテーマは「自然」だそうですが、どんなプログラムになるのでしょうね。

投稿: Clara | 2015年5月 6日 (水曜日) 23時28分

Claraさん、こんばんは。

Claraさんもですか。私もチケット争奪戦はここ数年やっていません。でも案外残り物に福があるなぁと感じています。

Claraさんは「ヨハネ受難曲」を聴かれたのですね。
素敵なアリアがありますよね。
コルボはご高齢かと思いますが、大作を振るぐらいまだまだお元気なのですね。
素晴らしいことだと思います。
生で聴くバッハは格別ですよね。
ホールAの音響はクラシックには確かに不向きでしょうね。
それでも会場が聴衆で埋め尽くされるのですから、この音楽祭の動員力は凄いですね。
私が聴いたホールA公演もよく埋まっていました。

来年のテーマが「自然」と聞いて、歌曲ファンとしては期待に胸がふくらみます。
来年もいいコンサートと出会えればいいですね!

投稿: フランツ | 2015年5月 7日 (木曜日) 20時05分

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