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ロベルト・ホル&みどり・オルトナー/~心のふるさと - 春のドナウへの旅~(2015年5月16日 川口リリア・音楽ホール)

ロベルト・ホル(バス・バリトン)
~心のふるさと - 春のドナウへの旅~

2015年5月16日(土)14:00 川口リリア・音楽ホール

ロベルト・ホル(Robert Holl)(バス・バリトン)
みどり・オルトナー(Midori Ortner)(ピアノ)

シューベルト/
春の信仰D686
さすらい人D489
菩提樹D911-5

川のほとりでD539
エアラーフ湖D586
ドナウにてD553

水の上に歌うD774
湖上にてD543
船乗りD536

~休憩~

シューマン/
「ミルテの花」より
 自由な想いOp.25-2
 私はただひとりでOp.25-5(西東詩集・酌童の巻より)
 手荒くするなOp.25-6(西東詩集・酌童の巻より)

亡き友の杯にOp.35-6
旅の歌Op.35-3

ロベルト・ホル/「ヴァッハウ地方の民謡集」より
 我がドナウの谷
 孤独な道
 ヴァッハウの歌
 ヴァッハウ、夢見る娘

~アンコール~
シューベルト/楽に寄すD547
シューベルト/夕映えの中でD799

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オランダの名バスバリトン、ロベルト・ホルのリサイタルを川口リリアホールで久しぶりに聴いた。
ピアノはいつものみどり・オルトナー。
みどりさんのトークとホルへの簡単なインタビューをはさみながらのトークコンサートといった趣だった。

今回は「心のふるさと - 春のドナウへの旅」と題されたプログラミングがされていたが、みどりさん曰く「春の歌を集めて来日したら夏だった」と言って会場を沸かす。
みどりさんのトークははじめて聞くが、ユーモアも交えながらなかなか達者である。
ドナウ川というのはただ良いイメージだけではなく、水難事故も引き起こすおそろしい一面ももっているのだとか。
様々なお話を分かりやすくかみくだいて話してくれたみどりさんには、ぜひ今後もこのようなトークを交えたコンサートを続けてほしいものである。

前半はすべてシューベルト。
比較的知られた春と水の歌が並び、ホルの声は相変わらず朗々と豊かに響き渡る。
体の中から豊麗な響きが分厚く会場を満たすのを存分に堪能したが、もちろんホルの歌唱は作品への誠実で血肉となった自然な表情を伴っていた。
丁寧にじっくり歌われる歌はシューベルトの音楽の温かさを感じさせるものだった。

後半の最初はシューマンのミルテの花から3曲と、ケルナーの詩によるOp.35からの2曲。
こちらは酒の歌が中心。
特に「ミルテの花」の酌童の巻からの2曲は、酔っ払いホルの名演技も見られて楽しかった。「私はただひとりで」は確か2回繰り返して歌われた。

最後のホル自身による作曲(むしろアレンジだろう)の「ヴァッハウ地方の民謡集」のヴァッハウというのは、ドナウ河畔で最も美しい地方とされるワインの名産地だそうだ。
この土地の民謡(作曲者は分かっているらしい)にホルがピアノ伴奏を付けたものらしい。
みどりさん曰く「ホルも20世紀の作曲家だから、独特の和音が感じられる」とのこと。
歌の内容は「孤独な道」を除くと、素朴なヴァッハウ賛歌といった感じだ。
確かにホルによるピアノパートは独特の和音が置かれて、単なる民謡に芸術の香りを付与していると言えるだろう。

アンコールはシューベルトの名歌2曲。
もはや何も語ることはない。
心の底からの名歌唱で感動的だった。

ピアノのみどり・オルトナーはすべてにおいて目の行き届いた細やかな演奏を聴かせてくれた。
ホルの暗めの響きに清澄さを加えていたのはみどりさんの響きゆえだろう。
素敵なピアニストである。

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リートの巨匠ロベルト・ホルによるオープン・レッスン
シューベルトの光と影~リリアのシューベルティアーデ

2015年5月16日(土)16:45 川口リリア・音楽ホール(自由席)

ロベルト・ホル(Robert Holl)(講師)
みどり・オルトナー(Midori Ortner)(ピアノ・通訳)

シューベルト(Schubert)/若き尼D828
大江美里(ソプラノ)
みどり・オルトナー(ピアノ)

シューベルト/丘の少年D702
小野山幸夏(メゾ・ソプラノ)
山内三代子(ピアノ)

シューベルト/ますD550
今井照子(ソプラノ)
西祥子(ピアノ)

シューベルト/ガニメートD544
小島博(バリトン)
小島まさ子(ピアノ)

シューベルト;野田暉行(Teruyuki Noda)(合唱編曲)/アヴェ・マリアD839
女声合唱団リーダークライス
関根裕子(指導・指揮)
高松和子(ピアノ)

シューベルト;リディア・スモールウッド(Lydia Smallwood)(合唱編曲)/楽に寄すD547
混声合唱団アン・ディー・ムジーク
人見共(指導・指揮、ソプラノ)
みどり・オルトナー(ピアノ)

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ロベルト・ホルのレッスンが、演奏会に引き続いて行われた。
みどり・オルトナーも通訳とピアノで登場したが、実際にはレッスンもしていた(特にピアニストに対して)。
当初は18:30終演の予定が大幅にずれこみ、「ガニメード」が終わった時にすでに18:30になっていた。
私は所用の為、残念ながら合唱団のレッスンは聞かずに、「ガニメード」終了時に退出した。

レッスンは一度受講生が1曲まるまる演奏した後で、ホルの指示により、最初から再度少しづつ演奏しては止めて、指導を受けるという形だった。
ホルは簡潔に問題点を語り、それをオルトナーが通訳する。
そして、その通りに受講生が歌えた時はホルはよく出来たというサインをする。
穏やかで気さくな気持ち良い先生だった。

ホルが指導の際よく言っていたのが、「子音をもっと強調して発音する」ということだった。
日本語と異なるドイツ語での歌唱なので、発音に重きが置かれるのは当然であり、リートを歌ううえでやはり外せないところだろう。
また、テキストには重要な単語とそうでない単語があり、すべてを同等に歌うのではなく、重要性を考慮して歌うということが言われていた。
それから曲にのめりこむあまり、演奏が停滞しがちなコンビにはもっと流れるようにテンポを保って演奏するように言っていた。
メカニックに過ぎる演奏者に対しては、むしろオルトナーさんが注意していた。

「ガニメート」の最後の長いフレーズについて、ホル氏が面白いエピソードを披露していた。
彼の師でもあるハンス・ホッターは最後のフレーズを一息で歌えない人はこの歌を歌ってはいけないと言っていたそうだ。
だが、そうすると、この曲を歌える人はわずかしかいなくなってしまうので、息継ぎをしてもいいから、音楽的に演奏することが大事だとホルは言う。
確かにリートはもともと選ばれた大歌手のためだけのものではなく、サロンのこじんまりとして雰囲気の中で歌われていたものだから、高度なテクニックを持たない者にも門戸は開かれているべきだろう。

今回聴いた歌手たちの中で私は最初の大江美里さんの美声と歌唱の素晴らしさに強い印象を受けた。
今後に期待したい歌手である。

また、珍しい「丘の少年」のレッスンもなかなか聞けない貴重な機会で、この曲を選曲したのは勇気がいることだったと思う。
中身の濃いレッスンであった。

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コメント

フランツさん、こんにちは。

素敵なコンサートをお聴きになられたのですね。
ホルといえば、その昔、「プライ型の美声と、ディースカウの語り口と、ホッターの世界観を持っている」などと評されていて、私もブラームス歌曲集を買ったことがあります。
かれこれ20年近く昔ですから、今もご活躍なさっていることを知り嬉しく思います。
先生としても穏やかな方だったとのこと、ジャケット写真を見ても優しそうな人ですものね。
日本の若い歌手たちが名歌手から多くを吸収して、素晴らしいリート歌いになって行ってくれたら嬉しいですね。

投稿: 真子 | 2015年5月27日 (水曜日) 16時16分

真子さん、こんばんは。

とても味わい深いコンサートでした!
まだまだ素敵な歌声は健在でしたよ(^^)
ホルは沢山シューベルトを録音していましたが、ブラームス歌曲集も録音していましたね。
ホルはホッターに師事していて、彼と声質も似ている為か、ホッターの影響を受けすぎているという評もかつて聞いたことがありますが、ホッターの実演を知らない私にとっては、ホルの歌唱は十分オリジナリティを感じます。
レッスンの様子などを拝見して、穏やかなお人柄だと感じました。こういう人に教えてもらえる歌手たちは幸せだと思います。
真子さんもおっしゃるように、名歌手の教えを受けて、日本の歌手たちが大きく羽ばたいてくれたらいいですね。

投稿: フランツ | 2015年5月27日 (水曜日) 20時29分

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