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フランシスコ・アライサ&ジャン・ルメール/「冬の旅」「詩人の恋」DVD発売

テノールのフランシスコ・アライサ(Francisco Araiza)とピアニストのジャン・ルメール(Jean Lemaire)が共演したシューベルトの「冬の旅」とシューマンの「詩人の恋」の映像がDVDで発売されました。
海外盤なのですが国内再生可能です。
1993年ごろの録画と思われます(正式な収録日は記載されていませんでした)。
私も先日取り寄せたのですが、まだ見ていませんので、後ほど感想を追記したいと思います。
ご興味のある方はAmazonなどで購入可能です。

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ペーター・レーゼルほか/紀尾井シンフォニエッタ東京 第97回定期演奏会(2014年11月15日 紀尾井ホール)

紀尾井シンフォニエッタ東京 第97回定期演奏会

2014年11月15日(土)14:00 紀尾井ホール

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(piano)
紀尾井シンフォニエッタ東京(Kioi Sinfonietta Tokyo)
オラフ・ヘンツォルト(Olaf Henzold)(指揮)

ブラームス(Brahms)/ハイドンの主題による変奏曲 Op.56a
 Chorale St. Antoni: Andante
 Variation 1: Poco più animato
 Variation 2: Più vivace
 Variation 3: Con moto
 Variation 4: Andante con moto
 Variation 5: Vivace
 Variation 6: Vivace
 Variation 7: Grazioso
 Variation 8: Presto non troppo
 Finale: Andante

ブラームス/セレナード第2番イ長調 Op.16
 I. Allegro moderato
 II. Scherzo: Vivace - Trio
 III. Adagio non troppo
 IV. Quasi menuetto - Trio
 V. Rondo: Allegro

~休憩~

ブラームス/ピアノ協奏曲第1番ニ短調 Op.15
 I. Maestoso
 II. Adagio
 III. Rondo: Allegro non troppo

~アンコール~
モーツァルト(Mozart)/ピアノ協奏曲第27番K.595より第2楽章

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ペーター・レーゼルと紀尾井シンフォニエッタ東京の共演は、2005年ドレスデンで始まった。
それがこうして日本での共演につながり、ベートーヴェンの全ピアノ協奏曲演奏、そして3年に渡るロマン派のピアノ協奏曲の演奏と続き、今年最後の年となった。
今年の演目はブラームスのピアノ協奏曲第1番。
言わずとしれた名曲である。
ブラームスのピアノソロ曲を全曲録音したレーゼルだが、この協奏曲第1番に関しては正規の録音が存在せず、海外でCD-Rでライヴ収録されたものが販売されているのみである。
そういう意味でも注目の公演であり、チケットは完売したようだ(空席もあったが)。

レーゼルは室内楽やソロで聴かせてくれたよりも明らかに重厚感やキレの良さを前面に出して、この大作のオケの響きと立派に対峙していた。
紀尾井シンフォニエッタ東京の響きが力のこもったもので素晴らしく、レーゼルもオケのどっしりとした演奏に触発されたかのようながっちりした力強さを感じさせてくれた。
このピアノ協奏曲の特殊性を感じさせてくれた演奏とも言えるだろう。
レーゼルは全力でこの大作を表現し尽くし、しかし彼特有の味わい深い響きも感じさせてくれた。
素晴らしい演奏であり、いつか正規の録音を残してほしいと思わずにはいられない。

そしてアンコールでのモーツァルトが絶品!
この透徹した響きの素晴らしさは、私にとって彼からの最高のプレゼントになった。
これぞ天上の音楽!

思えばレーゼルを最初に生で聴いた2007年のリサイタルから、彼は2014年まで8年連続で(2011年も含めて)来日してくれたのだ。
毎年秋にレーゼルを聴くのが恒例になっていたので、来年以降聴けないのは寂しい。
また、しばらくしたら日本に戻ってきてほしいものである。
ありがとう、レーゼルさん!

なお、前半の2曲もブラームス。
なかなか聴けないセレナード第2番も含めて、ヘンツォルトの誠実な指揮がいい演奏を導き出していた。

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ペーター・レーゼル/ドイツ・ロマン派 ピアノ音楽の諸相2014(2014年11月6日&8日 紀尾井ホール)

ペーター・レーゼル
ドイツ・ロマン派 ピアノ音楽の諸相2014

【室内楽3】
ブラームスのピアノ五重奏曲

2014年11月6日(木)19:00 紀尾井ホール

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(piano)*
ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(Gewandhaus Quartett)
 フランク=ミヒャエル・エルベン(Frank-Michael Erben)(1st Violin)
 コンラート・ズスケ(Conrad Suske)(2nd Violin)
 オラフ・ハルマン(Olaf Hallmann)(Viola)
 ユルンヤーコブ・ティム(Jürnjakob Timm)(Cello)

メンデルスゾーン(Mendelssohn)/弦楽四重奏曲第6番ヘ短調Op.80
 I. Allegro vivace assai
 II. Allegro assai
 III. Adagio
 IV. Finale: Allegro molto

シューベルト(Schubert)/弦楽四重奏曲第12番ハ短調「四重奏断章」D703
 Allego assai

~休憩~

ブラームス(Brahms)/ピアノ五重奏曲ヘ短調Op.34*
 I. Allegro non troppo
 II. Andante, un poco adagio
 III. Scherzo: Allegro
 IV. Finale: Poco sostenuto — Allegro non troppo

~アンコール~
ブラームス/ピアノ五重奏曲ヘ短調Op.34より 第3楽章*

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【リサイタル3】
涙の微笑み

2014年11月8日(土)15:00 紀尾井ホール

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(piano)

ブラームス(Brahms)/3つの間奏曲Op.117
 No. 1 in E-flat major
 No. 2 in B-flat minor
 No. 3 in C-sharp minor

シューマン(Schumann)/フモレスケ変ロ長調Op.20
 I. Einfach - Sehr rasch und leicht
 II. Hastig
 III. Einfach und zart - Intermezzo
 IV. Innig
 V. Sehr lebhaft - Mit einigem Pomp - Zum Beschluss - Allegro

~休憩~

シューベルト(Schubert)/ピアノ・ソナタ第20番イ長調D959
 I. Allegro
 II. Andantino
 III. Scherzo: Allegro vivace
 IV. Rondo: Allegretto

~アンコール~
シューベルト/即興曲Op.90, D899より 第3番 変ト長調
ブラームス/ワルツ イ長調Op.39-15
シューマン/トロイメライOp.15-7

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ドイツのピアニスト、ペーター・レーゼルによる3年にわたる「ドイツ・ロマン派 ピアノ音楽の諸相2014」シリーズもいよいよ最終回を迎えた。
このシリーズは室内楽とリサイタルの2回がセットになっていたのだが、実は室内楽は去年、一昨年と聴くことが出来ず、最終年の今年になってようやく聴くことが出来たのである。
しかも伝統あるゲヴァントハウス弦楽四重奏団との共演なので、いやがうえでも期待は高まる。
レーゼルが登場したのは後半のブラームスのピアノ五重奏曲。
今回私の席は結構かぶりつきの良席で、ゲヴァントハウスの面々の表情は楽しめたのだが、肝心のレーゼルの姿はコンラート・ズスケさん(カールさんの御子息とのこと)の体と譜面台とピアノの蓋で完全に隠れてしまった。
つまり、レーゼルの姿が全く見えない中、音だけが響いてくるというある意味貴重な体験だった。
レーゼルは今年69歳とのこと。
若かりし頃のようなキレの良さやスマートさとは異なる、味のある温かい響きが会場を包む。
それは楽譜を誠実に再現するという段階を超えた、血肉となって初めて可能な境地に達したのではないかという印象を受けたのだ。
カルテットと意識的に一体になろうという肩肘張ったものではなく、もっと自然に寄り添いつつも、自分の見せ場では血の通った音楽を堂々と披露する。
そうした円熟の境地に達したレーゼルの演奏を聴けて、室内楽もいいものだなぁとあらためて思った。
ゲヴァントハウス弦楽四重奏団も各メンバーの掛け合いのやりとりが間近で見られて、聴けて、室内楽の醍醐味を味あわせてくれた。
前半のメンデルスゾーンもシューベルトも4つの弦楽器の対話が味わい深く、聴き入ってしまった。
アンコールではブラームスの五重奏曲の第3楽章をもう一度演奏してくれた。
温かい気持ちに包まれた一夜だった。

その2日後にはレーゼルのピアノ・リサイタル。
ブラームス、シューマン、シューベルトといった垂涎もののプログラミング!
特にブラームスは彼の若かりし頃の録音を愛聴していたので楽しみだったが、ここでもかつてよりも味わいの増したブラームスの心の独白が語られたかのようだった。
レーゼルは基本的に比較的テンポを早めに設定することが多いようだが、それが機械的にならず、人間的な血の通った響きが終始感じられたのが素晴らしかった。
シューマンの「フモレスケ」も殊更にシューマネスクな響きを強調しない自然体な演奏がレーゼルらしくて心地よかった。
そして後半のシューベルトのソナタイ長調D959。
多分レーゼルはこの曲を録音していないのではないか。
ここでもシューベルトの移ろいゆく感情の機微をレーゼルらしい自然さの中で、さりげなく響かせていた。
だが、第1楽章や最終楽章のダイナミズムにも欠けず、出るべきところでは、どっしりした重厚さも響かせる。
第2楽章もエキセントリックな慟哭を強調するというよりは自然に感情の起伏を追いながら、いつしか曲の中に聴き手を惹き込んでしまうような魅力があった。

アンコールは正規のプログラムの3人の作曲家の作品から1曲づつ。
この辺にもレーゼルのさりげないこだわりが感じられる。
いずれも歌にあふれた感動的な演奏だったが、私はブラームスのワルツが胸に迫ってきた。
こういう小品で一瞬のうちに聴き手を惹き込むレーゼルの凄さをあらためて感じることが出来た。

残りは次週のブラームスのピアノ協奏曲第1番のみである。

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望月友美&竹尾真紀子/シェック作曲 歌曲集《静謐なる輝き》(2014年11月7日 トッパンホール)

歌曲コンサートシリーズ
LIEDER-SEELEN ~日本・スイス国交樹立150周年記念
オトマール・シェック:歌曲集《静謐なる輝き》 Op.60

2014年11月7日(金)19:00 トッパンホール

望月友美(Tomomi MOCHIZUKI)(メゾ・ソプラノ)
竹尾真紀子(Makiko TAKEO)(ピアノ)

シェック(Othmar Schoeck: 1886-1957)/歌曲集《静謐なる輝き(Das stille Leuchten)》Op.60 (1946)
(コンラート・フェルディナント・マイヤーの詩による中声のための連作歌曲集)

「秘密と寓意」
1. 聖火
2. 歌の精霊
3. 旅の幻想
4. 若き日の肖像について
5. 天国の門にて
6. 嵐の夜に
7. 悲愁な夜ごとに
8. 春の帆走
9. 春 勝利者
10. 落ち着かぬ夜
11. 何しているの 風よ?
12. 婚礼の歌
13. 海の歌
14. ローマの泉
15. 宴の終わりに
16. 乙女
17. 新年の鐘
18. 皆

「山と湖」
19. 旅の杯
20. 白い小峰
21. 神々の饗宴
22. 私はそれを聴くだろう
23. 万年雪の光
24. 黒い陰なすカスタニエの木
25. レクイエム
26. 夕雲
27. 夜のざわめき
28. 今こそ お前が語ってくれ!

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スイスの作曲家オトマール・シェックの歌曲集「静謐なる輝き」全曲が演奏される貴重な機会ということで、トッパンホールに出かけてきた。
同じ日に内藤明美&平島誠也による毎年恒例のリーダーアーベントもあり、そちらのシェーンベルク「架空庭園の書」もぜひ聴いてみたかったのだが、今回は貴重さを優先して、シェックのコンサートを選ぶことにした。
実は以前ピアニストの竹尾真紀子さんが出演するヴォルフの「イタリア歌曲集」のコンサート会場でこの演奏会のちらしが配布されたので、それ以来聴きたいと思っていたのだ。
竹尾さんの演奏はその時も本当に素晴らしかったので、今回も楽しみだったし、メゾの望月友美は今回はじめて聴くので、そういう意味でも期待していた。

今回は休憩なしで、18曲目の第1部まででいったん演奏者たちが袖に戻ったが、すぐにステージに出てきて第2部を続けたので、演奏時間は正味1時間ほどだった。
ほとんどが1~2分の短い作品である。
他の作曲家がよくやるテキストの繰り返しがいくつかの例外を除いて殆ど無く、ピアノパートは必要最低限の効果を求めたもので、ピアノ後奏も最終曲以外は短めなのが印象的だった(嵐を扱った曲でさえ、ピアノが独立して主張する感じがあまりないほど)。
つまり、音楽による肥大化を抑えた、あくまでテキスト優先という、作曲家の詩に対する最大限のリスペクトが感じられたのである。
私はこれらの曲を聴きながらローベルト・フランツの歌曲を思い出した。
フランツもまた最低限の選ばれた音で心の琴線に触れる内的な音楽を作り上げた歌曲作曲家だったが、シェックは20世紀におけるローベルト・フランツの後継者という印象を受けたのだった。
どの曲も詩の世界をひそやかに描き出し、そっと聴き手の心に引っ掛かるものを残すような感じだ。
それゆえに例えばリヒャルト・シュトラウスなどのきらびやかで華々しい歌曲の対極にあると言えるだろうし、地味な印象を聴き手に与えているのだろう。
作曲技法的にも当時すでに保守的な範疇に入るのだろう。
だが、本当の歌曲好きにとっては、聴き手の胸にひっそりと語りかけるようなこれらの歌曲の奥ゆかしさに愛おしさを感じずにはいられないだろう。
2人の演奏者の師であるハルトムート・ヘルはかつてF=ディースカウとこの歌曲集を録音したが、彼が今回のコンサートのちらしにメッセージを寄せていて、「スイス・ヨーロッパの歌曲芸術の極めて重要な作品」と言い切っていたのは潔い。
ヘルは彼の弟子たちによるこの歌曲集の演奏をすでにチューリヒで聴いて絶賛しているのだ。
そしてヘルのメッセージは「私自身ぜひとも喜んで同席したいものなのですが。」と結ばれる。

望月友美さんは今回はじめて聴いたのだが、これまでこのような素晴らしいリート歌手を知らなかったことが悔やまれるほどの素晴らしいリート歌手だった。
まず声が素晴らしい。
みずみずしい美声はどの音域でも貫かれ、深みにあふれ、ドイツ語の発音も非常に美しく明晰で、声の押し出しは強いが、決して押しつけがましくはない。
充実した声の響きがホールに美しく響き渡る時間だったのだ。
メゾソプラノの落ち着きが、リートの親密な空間には本当にふさわしい。
彼女のような名手がまだいたとは…。
これだからコンサート通いは止められない。
しかも、彼女はこの珍しい歌曲集を全曲暗譜で歌いきり、曖昧なところもなかった。
これは凄いことではないだろうか。

竹尾さんのピアノも以前に聴いた時同様素晴らしかった。
なんというか、テクニックがしっかりしているから、安心して作品の世界に没入できるのだ。
蓋はもちろん全開で、基本的にはきれいな軽めの響きだが、ここぞという時にはずしりと手ごたえのあるフォルテも聴かせてくれる。
ぜいにくを落とした響きは、作品の魅力をありのままに伝えてくれた。
もっといろいろと聴いてみたい名手である。

ちなみに配布された歌詞対訳はピアノの竹尾さんが担当している。
ディースカウとヘルのCDではドイツ語と日本語訳が別の冊子で見にくかったので、今回は資料的にも大歓迎である。

最後に会場を出る際にサプライズがあった。
日本・スイス国交樹立150周年記念と銘打たれたコンサートだったのだが、聴衆がホールを出る際にスイスのチョコレートが配られたのだ。
なんでも竹尾さんの粋なはからいだったのだとか。
スイスの清冽な空気を最後まで楽しめたコンサートだった。

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藤村実穂子&ヴォルフラム・リーガー/メゾソプラノ特別リサイタル(2014年11月3日 東京オペラシティ コンサートホール)

日本ロレックス提供 AAR創立35周年記念チャリティコンサート#3
藤村実穂子 メゾソプラノ特別リサイタル

2014年11月3日(月・祝)14:00 東京オペラシティ コンサートホール

藤村実穂子(Mihoko Fujimura)(メゾソプラノ)
ヴォルフラム・リーガー(Wolfram Rieger)(ピアノ)

グスタフ・マーラー(Mahler)/「少年の魔法の角笛」より
 ラインの小伝説
 無駄な努力
 この世の生活
 原初の光
 魚に説教するパドゥアの聖アントニウス
 この歌を思い付いたのは誰?
 不幸の中の慰め
 高い知性への賞賛

~休憩~

ヨハネス・ブラームス(Brahms)/「ジプシーの歌」Op.103より
 さあ、ジプシーよ!
 高く波立つリマの流れ
 あの子が一番きれいな時
 神様、あなたは知っている
 日焼けした青年が
 三つのバラが
 時々思い出す
 赤い夕焼け雲が

グスタフ・マーラー/「リュッケルトの詩による歌曲」
 美しさゆえに愛するなら
 私の歌を見ないで
 私は優しい香りを吸い込んだ
 真夜中に
 私はこの世から姿を消した

~アンコール~
五木の子守歌(ア・カペラ)
山田耕筰/赤とんぼ
さくらさくら

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先日紫綬褒章受章というおめでたいニュースのあった藤村実穂子のリサイタルを聴いた。
共演は名手ヴォルフラム・リーガーで、なんでもこの公演のためだけに前日に来日してコンサート後の深夜には帰国するとのこと。
藤村さんのためならというところだろうか。

マーラーを中心に、途中でブラームスの「ジプシーの歌」をはさんだプログラム。
今回は難民を助ける会の主催ということで、コンサート開始前に会の方2人が登場して挨拶され、その後に演奏が始まった。

前半はマーラー「少年の魔法の角笛」より8曲が続けて歌われた。
藤村さんの声は相変わらず美しく光沢がある。
ヴィブラートもきわめて精巧にコントロールされていて、明晰な発音で歌われるので、ヴァーグナーのボリュームたっぷりの歌を歌っている人と同じとは一見思えないほどだ。
どこをとっても理想的なリート歌手の資質をもって歌われる。
今回聴いて感じたのは、以前に比べて声の表現の幅が広がったのではということだった。
例えば最後に歌われた「高い知性への賞賛」は耳が大きいという理由だけでナイチンゲールとカッコウの歌合戦の審査員をつとめることになったロバの話が皮肉まじりに歌われるのだが、最後の(本当は歌のことを分かっていない)ロバのいななきは藤村さんの芸の幅の広がりが感じられてうれしくなった。
もちろん「原初の光」などでの静かで深みのある表現はいつもながら素晴らしいし、「無駄な努力」や「不幸の中の慰め」での男女の駆け引きの歌い分けのうまさなども印象的だった。
だが、一方、その声の美しさゆえに「この世の生活」では飢えに苦しむ子供の悲痛さがさらに感じられたらより良かったようにも感じられた。

後半の最初はブラームスの「ジプシーの歌」で、私の大好きな歌曲集である。
原曲は合唱曲でそこから8曲を抜粋してブラームスが独唱用に編み直したものである。
ジプシー(という言い方は今は控える傾向にあるようだが)の野性味あふれる表情や民俗色豊かな響きがなんとも魅力的で、リーガーの血肉となった非常に練られたピアノと共に藤村さんの表現も見事なものだった。
6曲目の「三つのバラが」は2節あるはずだが、私の記憶が間違っていなければ、1節終わったところでリーガーが最後の和音を弾いて終わってしまった。
リーガーが勘違いしただけだろうが、生ならではのハプニングだった(正直第2節も聴きたかったが)。
2曲目の「高く波立つリマの流れ」では繰り返す箇所を、例えばクリスタ・ルートヴィヒが歌ったように最初を低い旋律で、2回目を高い旋律で歌っていて効果的だった。
それにしても7曲目の「時々思い出す」は簡素ながらいつ聴いても実に感動的な作品だ。
藤村さんは声の質から言えば必ずしも曲の野性味とは合致しているわけではないが、彼女なりの精密で澄んだ声を生かした表現で聴き手を引き込んだ。

最後はマーラーの「リュッケルトの詩による歌曲」で、ここでの藤村さんの歌唱も秀逸だった。
特に「真夜中に」や「私はこの世から姿を消した」での音数の厳選されたメロディーでの心に沁みる歌の素晴らしさはなかなか聴けないほどのものだった。

そしてアンコールは意外なことに日本歌曲ばかり3曲で、いずれもよく知られたものだった。
藤村さんの日本の歌はどこまでも自然体なもの。
それゆえに作品の良さがそのまま伝わってくる。
特に「赤とんぼ」では私の中で熱いものがこみ上げてきそうになるほどだった。

ピアノのヴォルフラム・リーガーは今やドイツだけでなく、世界を代表する名歌曲ピアニストと言えるだろう。
自己顕示欲が一切なく、必要なだけ音を響かせ、また必要なだけ音を抑え、それでいて絶妙な間合いとルバートをもって作品に捧げている。
歌と完全に一心同体となり、安定したテクニックで作品の機微を描き尽くした。
歌とのアンサンブルとして最も理想的なピアノの響きを聴かせてくれた。
藤村さんがあえてこの為だけにでもリーガーに共演を依頼したというのも納得のいく素晴らしさだった。

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日本カール・レーヴェ協会/レーヴェ&ドイツ歌曲のワンダーランド(2014年11月2日 王子ホール)

日本カール・レーヴェ協会コンサート2014(Nr.27)
レーヴェ&ドイツ歌曲のワンダーランド

2014年11月2日(日)14:00 王子ホール(全席自由)

楢崎誠広(バス・バリトン)佐藤文雄(ピアノ)
近藤京子(メゾ・ソプラノ)鈴木陽子(ピアノ)高井洋子(クラリネット)
櫻井利幸(バリトン)堀江明子(ピアノ)
西 義一(バリトン)平島誠也(ピアノ)
秋葉京子(メゾ・ソプラノ)梅澤直子(ピアノ)
佐藤征一郎(バス・バリトン)大須賀恵里(ピアノ)堀越みちこ(ヴァイオリン)

楢崎誠広(バス・バリトン)佐藤文雄(ピアノ)
ブラームス(Brahms)/月に寄せてOp.71-2
ブラームス/愛の女神は遠くの国からやってきたがOp.33-4
ブラームス/別れなければならないのか?Op.33-12
レーヴェ(Loewe)/詩人トムOp.135

近藤京子(メゾ・ソプラノ)鈴木陽子(ピアノ)高井洋子(クラリネット*)
レーヴェ/ネックOp.129-2
ブラームス/鎮められた憧れOp.91-1*
ブラームス/聖なる子守歌Op.91-2*

櫻井利幸(バリトン)堀江明子(ピアノ)
メンデルスゾーン(Mendelssohn)/あいさつOp.19-5
メンデルスゾーン/春のうたOp.19-1
メンデルスゾーン/冬のうたOp.19-3
メンデルスゾーン/旅のうたOp.34-6
レーヴェ/鐘のお迎えOp.20-30
レーヴェ/わたしの心は暗いOp.5-5

~休憩~

西 義一(バリトン)平島誠也(ピアノ)
R.シュトラウス(R.Strauss)/献呈Op.10-1
R.シュトラウス/万霊節Op.10-8
レーヴェ/アーチバルド・ダグラスOp.128

秋葉京子(メゾ・ソプラノ)梅澤直子(ピアノ)
レーヴェ/見はるかす山やまの峰しずか(「旅人の夜の歌」より)Op.9 H1-3a
レーヴェ/天より来たりて(「旅人の夜の歌」より)Op.9 H1-3b
R.シュトラウス/あしたOp.27-4
R.シュトラウス/解き放たれた心Op.39-4
R.シュトラウス/たそがれの夢Op.29-1

佐藤征一郎(バス・バリトン)大須賀恵里(ピアノ)堀越みちこ(ヴァイオリン*)
ゲーテの詩による「魔王」の作品比較演奏の試み
コローナ・シュレーター(Corona Schröter: 1751-1802)/魔王
ライヒャルト(Reichardt: 1752-1814)/魔王
シュポーア(Spohr: 1784-1859)/魔王Op.154-4*
レーヴェ/魔王Op.1-3

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バラードの大家カール・レーヴェの作品研究・演奏に人並みはずれた情熱を注いでいるバス・バリトンの佐藤征一郎氏が会長を務める日本カール・レーヴェ協会の第27回コンサートを聴いた。
14時に始まり、休憩15分をはさんで終演が16時半という大変ボリュームのある充実したコンサートだった。
6人の歌手と伴奏者が必ずレーヴェの作品を含めて、他の作曲家の作品も併せて歌うという趣向のようだ。
歌手は今回ソプラノとテノールがいない為、深みをもった声の方々の競演となった。
レーヴェの歌曲(バラードとリート)は普段めったにリートのコンサートで聴く機会がない。
それは本国ドイツでも似たような状態らしい。
佐藤征一郎さんはその長年のレーヴェに対する功績によって、国際カール・レーヴェ協会の名誉会員に外国人としてはじめて今年認定されたとのこと。
歌手としては、プライ、アダム、モル、ディースカウ、シュライアー、トレーケルに続いての認定とのことで、佐藤さんのレーヴェ演奏がいかに評価されているかの証だろう。
おめでとうございます!

演奏は若手の楢崎さん、近藤さんがういういしい歌唱を聴かせ、その後にベテランの方々の含蓄あふれる演奏が続いた。
ブラームスの作品91は普段ビオラ助奏だが、今回はクラリネット版での演奏で、貴重な機会だった(ブラームスのヴィオラ・ソナタもクラリネットで演奏されるし、両者は音色的に近いとされているのだろうか)。
櫻井さんのメンデルスゾーンはすがすがしく、「冬のうた」の悲しい表情も見事だった。
西さんのレーヴェ「アーチバルド・ダグラス」は10分以上の大作を明瞭な語り口で素晴らしく魅力的に聴かせてくれた。
秋葉さんが大好きとおっしゃるレーヴェの「旅人の夜の歌」2曲は、秋葉さんの深みが心に沁みた。

そして佐藤征一郎氏はゲーテの「魔王」による4人の作曲家による比較演奏という非常に興味深い試みを聴かせてくれた。
中でもコローナ・シュレーターは女優でもあり、「魔王」が劇中歌として歌われる芝居「漁師の娘」のヒロイン、ドルトヒェン役を演じた際に節を付けたものが楽譜として残っているようで、佐藤さんは簡素な有節歌曲にさすがのドラマを盛り込んで、聞き手の心をとらえ続けた。
ゲーテのお気に入り、ライヒャルトも簡素な作品で、そこから佐藤さんの迫真の声の演技が冴えわたっていた。
シュポーアの「魔王」はヴァイオリン助奏が加わり、ロマン派のなまめかしさも感じられた。
そして有名なレーヴェの「魔王」での佐藤氏の迫真の歌唱が聴けて大満足であった。
もう70代だそうだが、現役の素晴らしい歌いっぷりであった。

ピアニストは歌手ごとにそれぞれ異なる方々だったが、みな個性をもって歌曲の核心に触れたいい演奏を聴かせてくれた。
とりわけ平島誠也氏のシュトラウスでの雄弁かつ配慮に満ちた演奏がさすがだったし、「アーチバルド・ダグラス」のドラマを見事に構築していた。

レーヴェの普及において佐藤氏のこれまでに行ってきた活動や現在も継続中の活動がどれほど大きな意義をもっていることか。
私たちが将来もレーヴェのバラードやリートに接する機会が保たれるように、今後の協会の活動にも注目していきたい。

珍しい作品も有名な作品も様々な世代の演奏家たちで聴くことの出来た楽しいコンサートだった。
まさにリート好きにとっては「ワンダーランド」であった。

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