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望月友美&竹尾真紀子/シェック作曲 歌曲集《静謐なる輝き》(2014年11月7日 トッパンホール)

歌曲コンサートシリーズ
LIEDER-SEELEN ~日本・スイス国交樹立150周年記念
オトマール・シェック:歌曲集《静謐なる輝き》 Op.60

2014年11月7日(金)19:00 トッパンホール

望月友美(Tomomi MOCHIZUKI)(メゾ・ソプラノ)
竹尾真紀子(Makiko TAKEO)(ピアノ)

シェック(Othmar Schoeck: 1886-1957)/歌曲集《静謐なる輝き(Das stille Leuchten)》Op.60 (1946)
(コンラート・フェルディナント・マイヤーの詩による中声のための連作歌曲集)

「秘密と寓意」
1. 聖火
2. 歌の精霊
3. 旅の幻想
4. 若き日の肖像について
5. 天国の門にて
6. 嵐の夜に
7. 悲愁な夜ごとに
8. 春の帆走
9. 春 勝利者
10. 落ち着かぬ夜
11. 何しているの 風よ?
12. 婚礼の歌
13. 海の歌
14. ローマの泉
15. 宴の終わりに
16. 乙女
17. 新年の鐘
18. 皆

「山と湖」
19. 旅の杯
20. 白い小峰
21. 神々の饗宴
22. 私はそれを聴くだろう
23. 万年雪の光
24. 黒い陰なすカスタニエの木
25. レクイエム
26. 夕雲
27. 夜のざわめき
28. 今こそ お前が語ってくれ!

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スイスの作曲家オトマール・シェックの歌曲集「静謐なる輝き」全曲が演奏される貴重な機会ということで、トッパンホールに出かけてきた。
同じ日に内藤明美&平島誠也による毎年恒例のリーダーアーベントもあり、そちらのシェーンベルク「架空庭園の書」もぜひ聴いてみたかったのだが、今回は貴重さを優先して、シェックのコンサートを選ぶことにした。
実は以前ピアニストの竹尾真紀子さんが出演するヴォルフの「イタリア歌曲集」のコンサート会場でこの演奏会のちらしが配布されたので、それ以来聴きたいと思っていたのだ。
竹尾さんの演奏はその時も本当に素晴らしかったので、今回も楽しみだったし、メゾの望月友美は今回はじめて聴くので、そういう意味でも期待していた。

今回は休憩なしで、18曲目の第1部まででいったん演奏者たちが袖に戻ったが、すぐにステージに出てきて第2部を続けたので、演奏時間は正味1時間ほどだった。
ほとんどが1~2分の短い作品である。
他の作曲家がよくやるテキストの繰り返しがいくつかの例外を除いて殆ど無く、ピアノパートは必要最低限の効果を求めたもので、ピアノ後奏も最終曲以外は短めなのが印象的だった(嵐を扱った曲でさえ、ピアノが独立して主張する感じがあまりないほど)。
つまり、音楽による肥大化を抑えた、あくまでテキスト優先という、作曲家の詩に対する最大限のリスペクトが感じられたのである。
私はこれらの曲を聴きながらローベルト・フランツの歌曲を思い出した。
フランツもまた最低限の選ばれた音で心の琴線に触れる内的な音楽を作り上げた歌曲作曲家だったが、シェックは20世紀におけるローベルト・フランツの後継者という印象を受けたのだった。
どの曲も詩の世界をひそやかに描き出し、そっと聴き手の心に引っ掛かるものを残すような感じだ。
それゆえに例えばリヒャルト・シュトラウスなどのきらびやかで華々しい歌曲の対極にあると言えるだろうし、地味な印象を聴き手に与えているのだろう。
作曲技法的にも当時すでに保守的な範疇に入るのだろう。
だが、本当の歌曲好きにとっては、聴き手の胸にひっそりと語りかけるようなこれらの歌曲の奥ゆかしさに愛おしさを感じずにはいられないだろう。
2人の演奏者の師であるハルトムート・ヘルはかつてF=ディースカウとこの歌曲集を録音したが、彼が今回のコンサートのちらしにメッセージを寄せていて、「スイス・ヨーロッパの歌曲芸術の極めて重要な作品」と言い切っていたのは潔い。
ヘルは彼の弟子たちによるこの歌曲集の演奏をすでにチューリヒで聴いて絶賛しているのだ。
そしてヘルのメッセージは「私自身ぜひとも喜んで同席したいものなのですが。」と結ばれる。

望月友美さんは今回はじめて聴いたのだが、これまでこのような素晴らしいリート歌手を知らなかったことが悔やまれるほどの素晴らしいリート歌手だった。
まず声が素晴らしい。
みずみずしい美声はどの音域でも貫かれ、深みにあふれ、ドイツ語の発音も非常に美しく明晰で、声の押し出しは強いが、決して押しつけがましくはない。
充実した声の響きがホールに美しく響き渡る時間だったのだ。
メゾソプラノの落ち着きが、リートの親密な空間には本当にふさわしい。
彼女のような名手がまだいたとは…。
これだからコンサート通いは止められない。
しかも、彼女はこの珍しい歌曲集を全曲暗譜で歌いきり、曖昧なところもなかった。
これは凄いことではないだろうか。

竹尾さんのピアノも以前に聴いた時同様素晴らしかった。
なんというか、テクニックがしっかりしているから、安心して作品の世界に没入できるのだ。
蓋はもちろん全開で、基本的にはきれいな軽めの響きだが、ここぞという時にはずしりと手ごたえのあるフォルテも聴かせてくれる。
ぜいにくを落とした響きは、作品の魅力をありのままに伝えてくれた。
もっといろいろと聴いてみたい名手である。

ちなみに配布された歌詞対訳はピアノの竹尾さんが担当している。
ディースカウとヘルのCDではドイツ語と日本語訳が別の冊子で見にくかったので、今回は資料的にも大歓迎である。

最後に会場を出る際にサプライズがあった。
日本・スイス国交樹立150周年記念と銘打たれたコンサートだったのだが、聴衆がホールを出る際にスイスのチョコレートが配られたのだ。
なんでも竹尾さんの粋なはからいだったのだとか。
スイスの清冽な空気を最後まで楽しめたコンサートだった。

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コメント

望月さんと竹尾さんのシェックは素晴らしかったようですね。フランツさんの絶賛評とは大変に興味をそそられます。次の機会にはぜひ聴いてみたいです。仰るとおり、シェックの歌曲は詩を重視し、奉仕していることでは、ヴォルフに勝るとも劣らぬものがありますね。彼の歌曲集はそれぞれアンソロジーとしても価値が高いと思います。晩年のフィッシャー=ディースカウが熱心に録音していたことも、その価値を裏付けるものですね。

フランツさんのシェック歌曲評を拝読して、改めて、シェーンベルクの『架空庭園の書』は、いろいろな意味でシェックの歌曲と対極的な作品と理解できました。こちらはピアノパートの雄弁さも大きな魅力であり、画期的な手法で時代を変革したエポックメイキングな作品であり。これまで難解な作品として敬遠気味だったのですが、この機会にある程度予習したことと、内藤さんと平島さんの名演奏で鑑賞できたことで、大好きな作品になりました。CDも何種類か聞きましたが、どうも現代音楽のスペシャリストによる即物的な演奏より、ロマン派作品の表現力に長けた演奏家のものが好ましく思えます。その点で両方とも得意とする内藤・平島コンビの演奏はまさに理想的と言うべきで、濃厚なロマンティシズムと精緻な響き・リズムが両立した名演と思いました。

投稿: 甲斐 | 2014年11月11日 (火曜日) 06時57分

フランツさん、こんにちは。

芸術の秋を満喫しておられますね♪
私はこの歌曲集を聞いたことがないのですが、本当に《静謐なる輝き》を体験なさったのだなあと思いながら、記事を拝見しました。
秋が深まってくると、静かに音楽に身を沈めたくなりますね。
そういう時は、やはり、バリトンやメゾがいいですね。
最後にスイスのチョコレートが配られたとの事、最後まで望月さんのお人柄がしのばれる素敵なコンサートでしたね。
こういうお話は、お聞きしているこちらまでほっこりいたします(*^^*)

投稿: 真子 | 2014年11月11日 (火曜日) 13時08分

甲斐さん、こんばんは。

内藤さんと平島さんの『架空庭園の書』、素晴らしかったそうですね。ご感想をうかがって、私も聴きたかったなぁと思いました。
一度別の演奏家でこの歌曲集の実演を聴いたことがあるのですが、あまり予習していなかったにもかかわらず、それほど難しいと感じなかったのは、音楽的に面白かったからだと思います。ピアノパートも充実していた記憶があるので、平島さんも素晴らしかったことでしょう。現代音楽のスペシャリストの歌唱は、知り尽くした強みがあると思いますが、内藤さんのような幅広いレパートリーを持っている方に歌われると、きっとマニアックさに陥らない親しみやすさがありそうですね。濃厚さと精緻さが両立していたとはさすが内藤さんですね。

シェックのコンサートは、音楽も歌手もピアニストも、素晴らしく、非常に堪能しました。
シェックの曲は、甲斐さんも訳されていましたよね。歌曲好きにはすんなり楽しめる作品だと思いました。シェックはすごくテキストを尊重していますよね。まさに「奉仕」しているという言葉がぴったりくると思いました。マイアーの詩もなかなかいいですね。共感出来ました。秋の夜長にディースカウとヘルの録音を聴き直してみたいと思います。

投稿: フランツ | 2014年11月12日 (水曜日) 20時04分

真子さん、こんばんは。
芸術の秋ですね!
"静謐なる輝き"の時間を過ごしてきました(^o^)
この時期は深く落ち着いた音楽が聴きたくなります。
今回のメゾの方もとても心地よい美声を聴かせてくれて、素晴らしかったですよ。
スイスのチョコレートはピアニストの竹尾さんが現地で買ってこられたようです。
ちょっとしたお心遣いに気持ちが温まりますよね(^^)

投稿: フランツ | 2014年11月12日 (水曜日) 20時09分

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