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R.シュトラウス「好ましい(親しげな)幻影Op.48-1」を聴く

R.シュトラウスの歌曲の中でも繊細な美しさをもった「好ましい幻影(Freundliche Vision)」を聴きたいと思います。
エリー・アーメリングのマスタークラスのDVDでこの曲がとりあげられていましたが、生徒が8行目の"Frieden(平和)"という語を非常に抑制のきいた美しい表現で歌った時にアーメリングが見せた満足気な表情が印象に残っています。
この曲の一番の聴きどころ、そして聴かせどころはその"Frieden"の高音をいかに抑えながら美しく歌うかにあるといっても過言ではないでしょう。
ゆったりとしたレガートをどのように歌手たちが歌うか、そして静謐感をいかに保ちながらピアニストが表現するかに注目してみるのもいいかと思います。

Freundliche Vision, op. 48, no. 1
 好ましい幻影

Nicht im Schlafe hab' ich das geträumt,
Hell am Tage sah ich's schön vor mir:
Eine Wiese voller Margeriten;
Tief ein weißes Haus in grünen Büschen;
Götterbilder leuchten aus dem Laube.
Und ich geh' mit Einer, die mich lieb hat,
Ruhigen Gemütes in die Kühle
Dieses weißen Hauses, in den Frieden,
Der voll Schönheit wartet, daß wir kommen.
[Und ich geh' mit Einer, die mich lieb hat,
in den Frieden, voll Schönheit]
 眠りの中で私はそれを夢に見たのではなかった。
 明るい昼間に私の目の前に美しいそれを見たのだ。
 フランスギクでいっぱいの草原。
 緑の茂みの奥深くにある白い家。
 神像が木の葉の間から輝いている。
 そしてぼくは、ぼくを愛してくれる女(ひと)と行く、
 穏やかな心で
 この白い家の冷気の中へ、
 美にあふれて、ぼくらが来ることを待ちわびていた平和の中へ。
 [そしてぼくは、ぼくを愛してくれる女(ひと)と行く、
 平和の中へ、美にあふれて。]

詩:Otto Julius Bierbaum (1865 - 1910)
曲:Richard Georg Strauss (1864 - 1949)

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アーリーン・オジェー(S)&アーウィン・ゲイジ(P)

オジェーのとびきりの美声で語りかけるように歌われるのは至福の時間です。ゲイジもゆったりとしたたゆたうような演奏がよいです

ディアナ・ダムラウ(S)&ミュンヒェン・フィルハーモニー管弦楽団&クリスティアン・ティーレマン(C)

ダムラウの豊麗な美声に細やかな表情を付けて歌われて素晴らしいです。

グンドゥラ・ヤノヴィツ(S)&アカデミー・オヴ・ロンドン&リチャード・スタンプ(C)

ヤノヴィツの芯のある美声が素晴らしいです。オケも感情がこもっていて美しいです。

ヘルマン・プライ(BR)&クルト・パーレン(P)

1975年録画。プライの抑えた声の温かみが胸に沁みます。パーレンのざっくばらんな演奏も味があります。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

ディースカウの知性だけでない感性も込められた歌唱はユニークで美しいです。ムーアも安定した演奏です。

フランシスコ・アライサ(T)&ミュンヒェン放送管弦楽団(指揮者不明)

アライサの開放的な美声をコントロールしながらの歌唱も感動的です。

ヨナス・カウフマン(T)&ヘルムート・ドイチュ(P)

今年の来日公演が残念ながらキャンセルになったカウフマンがほぼ弱声だけで聴き手を惹きこむ歌唱を聴かせています。ドイチュも堅実に支えています。

ヴァルター・ギーゼキング(P & ARR)

往年のピアノの巨匠ギーゼキングがピアノ独奏用に編曲して演奏しています。原曲に忠実な編曲です。

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新国立劇場/ワーグナー作曲「パルジファル」(2014年10月11日 新国立劇場 オペラパレス)

新国立劇場
2014/2015シーズン オペラ
パルジファル/ワーグナー作 全3幕〈ドイツ語上演/字幕付〉
2014年10月11日(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス
(第1幕:115分-休憩:45分-第2幕:70分-休憩:35分-第3幕:75分)

【アムフォルタス】エギルス・シリンス
【ティトゥレル】長谷川 顯
【グルネマンツ】ジョン・トムリンソン
【パルジファル】クリスティアン・フランツ
【クリングゾル】ロバート・ボーク
【クンドリー】エヴェリン・ヘルリツィウス
【第1・第2の聖杯騎士】村上 公太、北川 辰彦
【4人の小姓】九嶋 香奈枝、國光 ともこ、鈴木 准、小原啓楼
【花の乙女たち(声のみの出演)】三宅 理恵、鵜木 絵里、小野 美咲、針生 美智子、小林 沙羅、増田 弥生
【アルトソロ】池田 香織

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指 揮】飯守 泰次郎

【演 出】ハリー・クプファー
【演出補】デレク・ギンペル
【装 置】ハンス・シャヴェルノッホ
【衣 裳】ヤン・タックス
【照 明】ユルゲン・ホフマン
【舞台監督】大仁田 雅彦
【合唱指揮】三澤 洋史

【芸術監督】飯守 泰次郎

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新国立劇場のヴァーグナー作曲「パルジファル」を見た。
飯守 泰次郎の指揮ということも注目だった。

ハリー・クプファーが新国立劇場のためにつくった新演出は、あちこちで情報を目にしていたので、ある程度は予想できるものだったが、それにしても舞台装置が凄かった。
ステージの手前から奥までジグザグの道があり、その道が様々な映像に変化する仕掛けになっている。
さらに道は途中で上げ下げが出来るようになり、断絶させて意味をもたせることも出来るし、上がってきた時に新しい人物が登場したりもする。
さらに槍の先のような細長い棒が動き回り、そこにクンドリが乗っていたり、アンフォルタスが乗っていたりする。
その棒は様々な色に光輝くようになっていて、物語の進行に合わせて、変化する。
さらに聖杯の置き場所にもなっていた。
そんな大がかりなセットの中、登場人物の衣装は基本的に斬新さはなかったように思うが、合唱団演じる聖杯騎士たちは白地の宇宙服っぽい感じに見えた(4階席から見たので違っているかもしれません)。
第2幕の花の乙女たちは歌手は登場せずに奥で歌い、女性ダンサー8人ぐらいがエロティックなダンスでパルジファルを誘惑していた。

そして最初から最後まで頻繁に舞台後方に現れて、パルジファルたちの行く手を見守っていたのが、クプファー・オリジナルの仏教僧3人である。
彼らがこの演出の最後の鍵を握ることになるのだが、クプファーによると、ヴァーグナーは仏教にも関心をもっていて、この「パルジファル」においてキリスト教と仏教を「倫理的なレベルで結び合わせた」のだそう。
両者の信者がこの演出を見たらどう思うのかは分からないが、一つの解釈として成立するものではあるだろう。

歌手陣は総じて声のよく通る見事な出来栄えを示したが、私が断トツに感銘を受けたのがグルネマンツを演じたジョン・トムリンソンである。
すでに70近いそうだが、その渋みあふれる語り口と、登場人物を包み込むような大きな包容力が、どれほどこのオペラの奥行きを深めていたことか。
主役を食ってしまうほどの素晴らしさだった。
カーテンコールの時の拍手の大きさもそれを物語っているだろう。

そしてタイトルロールのクリスティアン・フランツは以前「ジークフリート」でスーパーマンTシャツを着て出演していたのを思い出すが、彼の凛々しいテノールもまた素晴らしいものだった。
惜しむらくは見栄えが中年のおじさん(失礼)なので、タイトルロールとしての華には若干欠けるものの、パルジファルの純真無垢な性格には合っていると言えるかもしれない。
クンドリのエヴェリン・ヘルリツィウスは声質はバーバラ・ヘンドリックスを思い出させたが、ヴァーグナー歌手の声の迫力をしっかり有していた。
それに加え、見た目も美しく、第2幕では官能的な演技でクリングゾルと渡り合っていた。
それにしても聖俗併せ持つクンドリという女性は本当に不思議な存在だなといつも思う。
ヘルリツィウスはその点、真逆のキャラクターをうまく演じ分けていたと思う。
それからアンフォルタスのエギルス・シリンスと、クリングゾルのロバート・ボークも声量の豊かさと語りのうまさ、さらに演技力で惹きつけられた。

二期会の応援も得た新国立劇場合唱団の歌はいつもながら力強く深みもあった。
飯守泰次郎の指揮はどうやら遅めだったようだが、私はあまり聴き込んでいないのでそのへんはよく分からない。
ただ第3幕でグルネマンツやパルジファルがオケに合わせてゆっくり歌っているようには聞こえた。
だが、飯守氏の指揮による東京フィルは健闘したのではないか。
弦のトレモロなど実に美しかった。
最後のシーンに感動したのは舞台上の視覚的な要素だけではないと私には思えた。

長丁場だが、作り込んだプロダクションによって、充実した感銘を受けることが出来た。

Parsifal_20141011_chirashi

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北村朋幹/Vol.2―室内楽(2014年10月8日 トッパンホール)

〈エスポワール シリーズ 10〉
北村朋幹(ピアノ) Vol.2―室内楽

2014年10月8日(水)19:00 トッパンホール

北村朋幹(Tomoki Kitamura)(ピアノ)
ダニエル・ゼペック(Daniel Sepec)(ヴァイオリン)
オリヴィエ・マロン(Olivier Marron)(チェロ)

ベートーヴェン(Beethoven)/ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調 Op.30-2
I Allegro con brio
II Adagio cantabile
III Scherzo. Allegro
IV Finale. Allegro

ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第4番 イ短調 Op.23
I Presto
II Andante scherzoso, più allegretto
III Allegro molto

~休憩~

ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第5番 二長調 Op.70-1《幽霊》
I Allegro vivace con brio
II Largo assai ed espressivo
III Presto

~アンコール~
フンメル(Hummel)/ピアノ三重奏曲 第4番 Op.65 第3楽章 ロンド ヴィヴァーチェ
ハイドン(Haydn)/ピアノ三重奏曲 ホ短調 Hob.XV-12 第2楽章 アンダンテ

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若き俊英、北村朋幹のトッパンホール、エスポワール シリーズの第2回を聴いた。
共演はアルカント・カルテットの公演で来日中のダニエル・ゼペック(VLN)とオリヴィエ・マロン(VLC)。
プログラムはオール・ベートーヴェンで、前半はゼペックとのヴァイオリン・ソナタ2曲、後半はマロンを加えた三重奏曲《幽霊》である。

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの中でも短調の2作品を選曲したのはどうやら北村ではなかったようだ(ちらしでのインタビューによる)。
だが、これらの2作品、隠れた名曲ではないか。
印象的な音楽が揃っている。
さすがベートーヴェン様という感じだ。

室内楽奏者としての北村のピアノは、ソロを弾く時と基本的には変わっていないように感じられる。
もちろんパートナーとの呼吸を合わすという基本はしっかり踏まえている。
その上でピアノとヴァイオリンが対等に対話をしながら進めていく。
そこによどみも躊躇もなく、積極的かつ爽快な響きが追求されていたように感じられた。
大音楽家を前にしても臆することなく、雄弁な音楽を奏でていた。
演奏に安定感があり、楽曲の構成感を失わずに丁寧に弾きこまれていた。
ペダリングもきっと細心の注意が払われていたのだろう。
音が濁らず明晰でいながら、必要なところではペダルを効果的に使っていたように感じた。

ゼペックのヴァイオリンは朗々と歌うというよりは、むしろ語りかけるような表現をしていたのが印象的だった。

後半ではチェロを加えた三重奏曲。
不気味な第2楽章では真摯な雰囲気が感じられたが、両端楽章は3人に生き生きとした躍動感があり、楽器間の掛け合いも見事だった。
私は弦楽器奏者には全く疎いのだが、ゼペックもマロンも必要以上にヴィブラートをかけていなかったように感じられた。
今の潮流なのか、それとも彼らの個性なのか、ベートーヴェンの作品に過度な思い入れがこめられ過ぎず、ちょうどよい塩梅だったように思えた。

それにしてもこの3人、すでに打ち解けているようでとても仲が好さそうだ。
中でもマロンはいたずらっ子といった感じだ。
拍手にこたえる北村がこれほど相好を崩して楽しげなのは珍しい。
演奏の成功にも影響しているのだろう。

北村のシリーズ、来年は小菅優とのピアノデュオとのこと。
こちらも楽しみにしたい。

Kitamura_20141008_chirashi

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伴奏者フーベルト・ギーゼンを動画で見る

早世した名テノール、フリッツ・ヴンダーリヒが歌曲の録音を残した時、そのピアノ伴奏をつとめたのは多くの場合、フーベルト・ギーゼン(Hubert Giesen)でした。
ジェラルド・ムーアより1歳年長のこのピアニストは往年のヴァイオリニスト、メニューヒンなどとも共演していました。
ヴンダーリヒにギーゼンを勧めたのは親友プライだったそうですが、そのギーゼンの動画を見つけたのでご紹介します。

歌っているのはヴンダーリヒではなく、ヴォルフガング・ヴィントガッセン(Wolfgang Windgassen)。
歌はシュトラウスの名曲「たそがれを通る夢(Traum durch die Dämmerung)」です。

ギーゼンの話し声も聞けて、レアな動画だと思います。
ギーゼンのタッチも確認できます。
もちろんヴィントガッセンの味わい深い歌唱も素晴らしいです。
往年の演奏家たちの実際に演奏する姿が見られるのは有難いことです。

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