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東京二期会/モーツァルト作曲《イドメネオ》(2014年9月13日 新国立劇場 オペラパレス)

ウィーン・オリジナル・プロダクション
《アン・デア・ウィーン劇場との共同制作》
東京二期会オペラ劇場 

《イドメネオ》

オペラ全3幕
日本語字幕付き原語(イタリア語)上演
台本:ジャンバッティスタ・ヴァレスコ
原案:アントワーヌ・ダンシェ『イドメネ』
作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

2014年9月13日(土)15:00 新国立劇場 オペラパレス
上演予定時間:約3時間30分(第1&2幕:90分-休憩:25分-第3幕:70分)

イドメネオ:又吉秀樹
イダマンテ:小林由佳
イリア:経塚果林
エレットラ:田崎尚美
アルバーチェ:北嶋信也
大祭司:新津耕平
声:倉本晋児

助演:猪ヶ倉光志、和田京三
子役(映像/イダマンテの幼少時代):岡田拓也

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団
指揮:準・メルクル

演出:ダミアーノ・ミキエレット

装置:パオロ・ファンティン
衣裳:カルラ・テーティ
照明:アレクサンドロ・カルレッティ
演出補:エレオノーラ・グラヴァグノラ
合唱指揮:大島義彰
演出助手:菊池裕美子
舞台監督:村田健輔
公演監督:曽我榮子

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二期会のオペラ「イドメネオ」の2日目キャスト公演を見てきた。
このオペラ、実際に生で見るのははじめてだが、私にとっては念願の実演だった。
ひいきのソプラノ、エリー・アーメリングがかつて唯一舞台で全幕上演に出演したのが、このオペラのイリア役だったのだ。
神話の世界を扱ったオペラセリアだが、今回のダミアーノ・ミキエレットの演出では時代を特定せず、服装もスーツやブランド服に身を包んだりしている。
舞台は一面砂が敷き詰められ、その上に無数の靴が散乱している。
戦争の跡をあらわしているようだ。
途中で椅子が大量に持ち込まれたり、中央にベッドが置かれたりする。
敵国クレタにとらわれたトロイヤの王女イリアは冒頭から登場するが、お腹が大きく、演出の結末をすでに予感させる。
イリアにとって敵国の王子でありながら恋心を抱いている相手のイダマンテは、メゾソプラノ、カウンターテノール、テノールなど、様々な声種によって歌われるようだが、今回はメゾソプラノが起用されている。
いわゆるズボン役である。
アルゴスの王女エレットラは、えせセレブ風のいでたちで登場。
気性は荒く、彼女もイダマンテを狙っているため、イリアに辛くあたる。
だが、単なるこわい女ではなく、どことなくコミカルな雰囲気がついて回る。
息子をネプチューンに生贄として捧げたくない父イドメネオの命令で、イダマンテはエレットラと共にアルゴスに避難することになるのだが、それを喜んだエレットラがブランド品の袋を大量に持って登場、脱いでは着てを繰り返す。
彼女に限らず、この演出服を脱いだり着たりの場面が多い(イダマンテ、エレットラ、映像の子役、合唱団)。
そこに演出家の意味がそれぞれ込められているのだろう。
イドメネオは戦争に勝ったものの血に対する恐怖心が生まれたようで、助演の血付け役たちがイドメネオの服にべったり血をつける場面もある。
イドメネオとイダマンテの親子関係を強調したのが、オペラの序曲中に幕に映し出された子役のイダマンテに父イドメネオがスーツを着せる場面である。
これがあって、2幕で父が息子に冷たく接することに対する息子の戸惑いが生きてくるとも言えるだろう。
最後、神の信託が下り、イドメネオが息子に王位を譲り、イリアを妃に命じたことにより、エレットラはすべてを悟り、狂い死ぬ。
その歌がまた素晴らしく、さらに泥だらけになってぶっ倒れる最期は強烈で、聴衆からの一番盛んな拍手を受ける結果となった。
また王位を譲ったイドメネオが静かに横になると息絶える設定になっていたが、その後、イドメネオの上に登場者たちが砂をかけ弔う。
群衆が去ると、イリアが産気づき、イダマンテとの子供を出産するシーンを経て、幕が下りた(この場面では普段は省略されるバレエ音楽が使われたらしい)。

登場者たちの喜怒哀楽を、この砂地と靴の舞台、さらに持ち込まれる椅子やスーツケース、ベッドなどを用いつつ、効果音も加えながら、基本的に暗めの色合いの中で描き出した。
この演出、群衆役の合唱団が一斉に体を掻き出したシーンはちょっとよく分からなかったが、それなりに納得の出来た面白い演出だったように感じた。

歌手たちは歌いにくい舞台の上で大健闘。
際立って印象に残ったのが、タイトルロールのイドメネオを歌った又吉秀樹である。
私ははじめて聴いたが、まさに逸材である。
美しいテノールの響きに奥行きも感じられ、よく伸びるボリュームも素晴らしかった。
スターの誕生を見た思いがした。

それからイダマンテの小林由佳はズボン役を見事にこなし、声、歌、容姿、演技ともに若々しい青年になりきっていた。
また、その恋人イリアの経塚果林もぴったりのキャスティング。
清楚だが芯の強い雰囲気がその歌唱と演技から伝わってきた。

エレットラの田崎尚美は己の信ずるままに生きるセレブをうまく演じてみせた。
だが、自分の思い通りにいかない悲哀のようなものも感じられ、それが表情の奥行きを作っていた。
怖いのだが、どこか憎めないコミカルなところは彼女の持ち味なのか、演出の狙ったところなのか、そこはあえて追求しないでおこう。

アルバーチェの北嶋信也はイドメネオの忠臣としてのけなげさが感じられた。
結構長めのアリアもあり、演出上も単なる脇役ではない重要さを持たされていた。

二期会合唱団は歌はもちろん、演技も健闘していて、拍手を送りたい。

準・メルクル指揮の東京交響楽団は鋭利さもありながら、軽やかさも失わず、心地よい音楽を作り上げた。
通奏低音の箇所はピアノとチェロが使用されていた。

なお、舞台写真などを多く掲載しているぶらあぼのサイトをご紹介しておきます。
 こちら

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コメント

フランツさん、こんにちは。

なかなか斬新かつ大胆な演出ですね。
写真も拝見しました。
砂を敷き詰めたステージなど初めて見ました。
王子役をメゾが歌うこともあるというのは珍しいですね(宝塚みたいな雰囲気?)。
アメリングを想い、感慨深い気持ちでご覧になったことでしょう。
記事を拝見し、日本人にも楽しみな歌手がたくさんいることを嬉しく思いました。


ところで、今、美人で声もすごいということで、田中彩子さんが海外でも注目されているようですね。
夜の女王のレコーディング映像を見ましたが、声質から言えば、夜の女王よりパミーナかパパゲーナ(かと思いますが(パパゲーナなど歌うと可愛いかも)、まず三点Fが出せるということがすごいですものね。
ああいう柔らかい、叙情的な音質は日本人のものなのでしょうね。
11月に初CDがリリースされるようです。
声色がとても好きなので予約しました(幸田浩子さんもとても好きで、CDを全部揃えました!)。
夜の女王の歌唱では、ドイテコムが好きです。
人間業とは思えない正確さ!
初めて聞いた時の衝撃が忘れられません。


投稿: 真子 | 2014年9月16日 (火曜日) 12時31分

真子さん、こんばんは。

>なかなか斬新かつ大胆な演出ですね。

そうなんです。砂は本物ではないらしいのですが、歌手の方たちはしばしば足をとられたりしていたので、歌いにくかったのではないかと思います。そんな中みないい歌を聴かせ、日本人歌手の層の厚さを頼もしく感じました。

確かにズボン役は宝塚を思い出させることが多いですよね。ただ今回の小林さんはあまり宝塚っぽくなく、若々しい青年らしさが感じられて良かったです。

アーメリングが実際にオペラの舞台に立った演目をこうして生で聴けたのは得難い体験でした。イリアはやはりアーメリングによく合った役柄だったのだなぁと思いました。

田中彩子さんというソプラノ歌手はこれまで存じ上げなかったのですが、調べてみるとテレビにも出て注目されているようですね。「夜の女王」のレコーディング風景を見てみましたが、確かに見事なコロラトゥーラを聴かせていますね。顔の表情が若干固いのは緊張していたのでしょう。初々しさが感じられます。おっしゃるようにパミーナも聴いてみたいですね。今後場数を踏んで、世界的な歌手になったら素敵ですね。

真子さんは幸田浩子さんもお好きなのですね。美人さんですから当然私もお顔は存じ上げているのですが、残念ながらまだ実演を聴いたことがないので、いずれ聴いてみたいです。

ドイテコムの夜の女王を見てみましたが、度肝を抜かれました!!
正確なうえ、常に余裕があるのが凄いです。どの音域でもまだまだ出ますよと言わんばかりの豊麗な美声。これはよいものを教えていただきました。

投稿: フランツ | 2014年9月16日 (火曜日) 21時35分

フランツさん、こんにちは。

私は好きな女声はたくさんいます。
古くは伊藤京子さん、斎藤昌子さん、細矢千鶴さん(細矢さんのことが書かれているサイトを教えてくださいましたね)、増田睦美さん(70年代に日本合唱協会でソロをされてました)等々(誰が知ってるねん!という感じですみません(笑))。
細矢さんや増田さんの、どこかはかなげなソプラノは本当に好きでしたね。
最近では、幸田さん、件の田中さん。

外国の方では、アメリング、バトル、ボニーです。
みんなレッジェーロ系のソプラノですね。
エルナ・ベルガー、エリカ・ケート、リタ・シュトライヒ、レリ・グリストも好きな歌手で、CDを買って来て、声を集めて、聴き比べなんかよくしていました。
あと、1969年録音、ショルティ指揮の「魔笛」(DECCA)のパパゲーナを歌ったレナータ・ホルム。とても可憐なパパゲーノです。彼女の録音はこれしか見つけられず残念です。
そして、ドイテコム!!
同じく1969年録音、べーム指揮の「フィガロの結婚」(グラモフォン)での、スザンナ役のマティス。
女声の、可憐で清楚、透き通た音色が好きなんですね。

思えば子どもの頃から、好きな男性アイドルや歌手もいなくて、そういう意味ではプライさんは、私の初アイドルでもあります(笑)
ただ、小学生にして、フランク永井の、まろやかな深い声を「いい声やなあ~」と思ったから(歳がバレますが(^^;))、プライさんのファンには、なるべくしてなったんですね(*^^*)
ただ、どんな声楽家も嫌いな声の人は全くないです。
鍛え抜かれた人間の声は本当に芸術です。

二期会オペラと関係のない話になりすみません(^^;)

投稿: 真子 | 2014年9月17日 (水曜日) 11時02分

真子さん、こんばんは。

真子さんのお話を拝見して、真子さんが心の底から人の声を愛しておられることがビンビン伝わってきました。人の声は偉大ですね。真子さんのお好きな歌手のリストは後世にも残ってほしい人たちですね(私の聴いたことのない人もおられますが…)。

真子さんのプライ好きの原点はフランク永井だったのですね。素敵な低音は確かにしびれますよね。でも小学生にしてその魅力を感じておられたというのはすごいですね。

>鍛え抜かれた人間の声は本当に芸術です。

おっしゃる通りですね。
様々な歌手たちの名唱を聴くことが出来るのは有難いことだとつくづく思います。

投稿: フランツ | 2014年9月18日 (木曜日) 02時28分

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