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R.シュトラウス「万霊節Op.10-8」を聴く

万霊節とは、キリスト教で11月2日の死者の霊を祀る記念日のことを指すそうです。
亡くなった女性への変わらぬ愛の告白がシュトラウスによって厳かさと情熱をもった作品として永遠の命を吹き込まれました。
動画サイトでこの曲を演奏した人の多さが人気の高さを物語っています。
各節最後の"Wie einst im Mai(かつての五月のように)"にそれぞれ異なったメロディが付けられていますが、最後にいたってようやくトニックに解決して、これまで引きずっていた亡き人の五月の思い出が吹っ切れたかのようです。

Allerseelen, Op.10-8
 万霊節

Stell auf den Tisch die duftenden Reseden,
Die letzten roten Astern trag herbei,
Und laß uns wieder von der Liebe reden,
Wie einst im Mai.
 テーブルに、香るモクセイソウを置いて、
 最後の赤いアスターをこちらへ持ってきておくれ、
 そして再び愛を語ろう、
 かつての五月のように。

Gib mir die Hand, daß ich sie heimlich drücke
Und wenn man's sieht, mir ist es einerlei,
Gib mir nur einen deiner süßen Blicke,
Wie einst im Mai.
 手を出してごらん、ひそかに握れるように、
 見られても、ぼくはかまわない、
 きみの甘いまなざしをただ一度ぼくに向けておくれ、
 かつての五月のように。

Es blüht und duftet heut auf jedem Grabe,
Ein Tag im Jahr ist ja den Toten frei,
Komm an mein Herz, daß ich dich wieder habe,
Wie einst im Mai.
 今日はどの墓も花咲き、香る。
 年に一日、亡き人が自由になるのだ。
 ぼくの胸においで、きみは再びぼくのものだ、
 かつての五月のように。

詩:Hermann von Gilm zu Rosenegg (1812-1864)
曲:Richard Georg Strauss (1864-1949)

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ヘルマン・プライ(BR)&カール・エンゲル(P)

プライの人肌の温もりが感じられる歌は切々と訴えかけてきて真に感動的です。エンゲルは控えめにプライの良さをサポートしています。

ヨナス・カウフマン(T)&ヘルムート・ドイチュ(P)

カウフマンの熱い歌唱は聴き手の気持ちを動かすものを持っています。ドイチュのしっとりとした美しいピアノも素晴らしいです。

ルチア・ポップ(S)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)

ポップの細い美声がテキストに的確に反応して歌う歌は素晴らしいです。サヴァリシュの滴るようなみずみずしい音色が説得力に満ちています。

エリー・アーメリング(S)&ドルトン・ボールドウィン(P)

アーメリングの細やかな語り口が爽やかな感動をもたらします。ボールドウィンは前奏からよく歌う名演です。

バーバラ・ボニー(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

ボニーの声特有の浮遊感がテキストの雰囲気とマッチしているように感じられます。パーソンズは安定したよい演奏です。

ブリギッテ・ファスベンダー(MS)&アーウィン・ゲイジ(P)

ファスベンダーの暗めの声色が曲に深みを与えています。ゲイジはここでもピアノでよく歌っています。

ペーター・シュライアー(T)&ノーマン・シェトラー(P)

シュライアーの折り目正しい歌唱もまた魅力的です。シェトラーが実に歌心の豊かな音楽を奏でていて素晴らしいです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

ディースカウが技巧を前面に出さずに真摯に歌っているのが良いです。そしてムーアの温かい音色!

ジェシー・ノーマン(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

パーソンズのややゆっくり目のテンポのピアノに乗って、ノーマンも悠然と落ち着いた味わいを聴かせます。

ロッテ・レーマン(S)&オーケストラ伴奏

1948年ライヴ。レーマンの感情を乗せた情熱的な歌唱は生き生きと聞き手の心に訴えかけてきます。

ピアノパートのみ

楽譜を見ながら、伴奏がどのようになっているのか注目してみてください。

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コメント

白井さんとグルベローヴァのCDで聴いています。白井さんの格調高い名唱、グルベローヴァの愛の告白に重点を置いた甘美な味わい。いずれも素晴らしいです。

投稿: 田中文人 | 2014年8月19日 (火曜日) 10時27分

フランツさん、こんにちは。

待ってました!万霊節。
プライさんは、フィリップス盤にもこの曲を録音していて、そちらももいいですが、断然、DECCAのこれが大好きです。
彼の高音は、一般のバリトンより、胸の響きの比率が高いように思います。
そのためか、特に若い頃の高音部は、かなりドラマチックですよね。

「 einen deiner süßen Blicke」の心を溶かすような甘さ。
そして、こんな風に情熱的に「Komm an mein Herz, daß ich dich wieder habe,」などと歌われたら、天国からでも舞い戻ってきます!
最後の「Wie einst im Mai.」のなんと安らぎに満ちていることか!
心をわしづかみにしておいて、最後は優しく包み込む。
罪な演奏です(笑)


R・シュトラウスの曲には、私は「夜」を感じます。
相対的になまめかしい気がします。

そう言う観点からすると、女声では、以前フランツさんがおっしゃっていたように、ひんやりしたボニーの声が案外この曲と合うようにも思います。
ボニーの声は、芯がしっかり通っていながらしなやかで、メロディがたゆとうのが心地いいですね。
バトルのシュトラウスも私は好きなんです。
声は細いけど、響きが豊かなのでメロディ負けしていないように思います。

ただ、やはりサビの部分は、男声の厚みのある響きでないと少し物足りなさを感じてしまいます。
テノールでは、今大人気のカウフマンが良かったです。
シューベルトでは若干、声が大振りすぎるように感じるのですが、シュトラウスはオペラ的な要素があるからか、とても声とマッチしているように思いました。

このような曲を前にすると、ディースカウさんのような理知的な方も、知的アプローチが少し後退するのでしょうか。

アメリングは、歌曲の女王だなと改めて思います。
細やかな歌い口が決して、メロディの美しさを壊していないですね。

この曲は、日本人はお盆の頃に聴くとなじみやすいかもしれませんね。
フランツさんの選曲のタイミングも素晴らしいと感じました。

投稿: 真子 | 2014年8月19日 (火曜日) 14時10分

田中文人さん、こんばんは。
白井はヘルとのカプリッチョ録音、グルベローヴァはハイダーとの2枚組録音ですね。
屈指の名曲だけに名唱も数多いですね。
白井さんは実演でシュトラウスのみのリサイタルを聴いたことがあって印象に残っています。

投稿: フランツ | 2014年8月20日 (水曜日) 03時24分

真子さん、こんばんは。

お待たせしました!
実は真子さんもお気付きの通り、この時期に意識的にこの曲をアップしてみました。お盆と万霊節は、精神的には近いのではないかと感じます。

演奏に関する詳細なご感想、今回も楽しく拝見しました(^^)
有難うございました!

プライが甘美な声で"süßen Blicke"なんて歌うのは本当に素敵ですよね。
シュトラウスがこの曲に込めたものを最も魅力的な形で再現した名演だと思います。やはりプライは「シュトラウス歌手」でもありますね。
女性にとって「罪」な歌というのも分かる気がします(笑)

真子さんはシュトラウス歌曲に「夜」を感じるそうですね。シュトラウス歌曲は艶っぽい響きが多いので、「夜」の雰囲気と共通する面はあると私も思います。
ボニーのアンニュイでなまめかしい歌はそういう意味でもぴったりですね。

バトルのシュトラウスも合いそうですね。女声とシュトラウス歌曲は本当に相性がいいですよね。
女性歌手たちがこぞってプログラムにシュトラウスを入れるのは、きっと歌手にとっても歌いたいという気持ちにさせる何かがあるのだろうなと思います。

カウフマンもいいですよね。オペラに引っ張りだこですが、歌曲でもシュトラウスのような熱い作品がよく合うと思います。

シュトラウス歌曲は知性だけでない他の要素も求められていると思うので、ディースカウの歌唱は他の作曲家の時とは違って、感情を多めに出しているような気がします。

「歌曲の女王」アーメリングはあらためて聴いてみるとやはり上手いです。知性と感性のバランスが絶妙なんですよね。真子さんのおっしゃる通り、知的なのに「メロディの美しさを壊していない」んです。細やかさと自然さが同居しているのがアーメリングの凄いところだなぁとあらためて実感しました。

投稿: フランツ | 2014年8月20日 (水曜日) 03時26分

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