クリスティアン・ゲアハーアー&ゲロルト・フーバーのシューベルト歌曲集録音第2弾(SONY CLASSICAL)
バリトンのクリスティアン・ゲアハーアー(ゲルハーヘル)とピアノのゲロルト・フーバーのコンビによるシューベルト歌曲集の新譜がSONY CLASSICALから発売された。
第1弾が録音されたのが2005年とのことなので、7年ぶりの新録音ということになる。
NACHTVIOLEN: SCHUBERT LIEDER (はなだいこん:シューベルト歌曲集)
SONY CLASSICAL: 88883712172
録音:2012年7月20-24日, Studio 2, Bayerischer Rundfunk, München
Christian Gerhaher (クリスティアン・ゲアハーアー) (baritone)
Gerold Huber (ゲロルト・フーバー) (piano)
1. An den Mond in einer Herbstnacht (秋の夜の月に寄せて) D 614
2. Hoffnung (希望) D 295
3. Im Jänner 1817 (Tiefes Leid) (1817年1月に:深い悩み) D 876
4. Abschied (別れ) D 475
5. Herbst (秋) D 945
6. Über Wildemann (ヴィルデマンの丘で) D 884
7. Der Wanderer (さすらい人) D 649
8. Der Wanderer an den Mond (さすらい人が月に寄せて) D 870
9. Der Zwerg (小人) D 771
10. Abendstern (夕星) D 806
11. Im Walde (森で) D 843
12. Nach einem Gewitter (嵐のあとで) D 561
13. Der Schiffer (舟人) D 694
14. An die Nachtigall (ナイチンゲールに寄せて) D 196
15. Totengräber-Weise (墓掘り人の歌) D 869
16. Frühlingsglaube (春の想い) D 686
17. Nachtviolen (はなだいこん) D 752
18. Abendlied für die Entfernte (遥かな女性に寄せる夕べの歌) D 856
19. Wehmut (悲しみ) D 772
20. Der Strom (川) D 565
21. Der Hirt (羊飼い) D 490
22. Lied eines Schiffers an die Dioskuren (双子座に寄せる舟人の歌) D 360
23. Nachtgesang (夜の歌) D 314
24. Der Sänger am Felsen (岩山の歌手) D 482
今や、最もリートに力を入れている歌手の一人となった名バリトン、ゲアハーアーは40代半ば。
ピアノのフーバーも同年である。
この2人によるシューベルト歌曲集第2弾を聴いて、なんと心地よい時間が流れていくのかと感じながら、歌曲を聴く喜びをこころゆくまで堪能した。
私はゲアハーアーの明晰なハイバリトンの声質が大好きである。
そして絶妙に美しいドイツ語の語りと、誇張のないレガートが本当に素晴らしい!
彼の美声と芸術はまさに今が旬と言ってもいいのではないか。
彼の師匠だったフィッシャー=ディースカウもハイバリトンの美声だったが、ディースカウは明らかに大ホール向きの声のボリュームを持っていた。
実際に大ホールでディースカウを聴いて、彼のフルボリュームのすごさに驚いたものだった。
ゲアハーアーが声量がないわけでは決してないのだが、彼はむしろより自然な語り口とメロディーへの誠実な寄り添い方が特徴と思う。
ディースカウは今聴くと若干誇張に感じられることもないわけではないが、ゲアハーアーは徹底して自然さを貫く。
彼が来日公演で中小ホールのみでリサイタルを開くのも自身の特性をわきまえてのことと思われる。
そしてリートが本来サロンの中で親密に演奏されたというルーツを彼の歌唱が思い出させてくれるのである。
それにしてもシューベルトは歌曲のピアノパートに時にソロ曲と思えるほどの愛らしさを与えることがある。
「秋の夜の月に寄せて」や「嵐のあとで」、「はなだいこん(夜咲きすみれ)」の前奏を聴いて心惹かれない人は少ないだろう。
ピアノのフーバーは現役の中で特にリート伴奏者としての存在感を増している。
生で彼を聴くと、唸り声が結構目立つのと、演奏ものめりこむタイプで、曲によってはもう少し素直に弾いた方が好ましく感じられる場合もあった。
だが、CD録音で彼の演奏を聴く限りでは、唸り声も聞こえないし、ゲアハーアーとのバランスも絶妙で演奏は細やかで成熟した充実感が感じられる。
つまり、フーバーの美点のみが味わえるというわけである。
私が中学生の頃、はじめて聴いてその魅力にとりつかれた「川」も含まれているのがうれしかった。
選曲はかなり渋めだが、素晴らしい作品が厳選されているので、シューベルト歌曲に馴染みの薄い人でも充分に楽しめると思う。
曲の雰囲気もバラエティに富んでいるのでシューベルトの多面性が味わえる。
「春の想い」はお馴染みの名曲である。
あまり知られていない中では「夕星」「悲しみ」などはリートファンの琴線に触れるのではないか。
「小人」や「ヴィルデマンの丘で」のドラマティックな展開も聴きものである。
「秋」の冷え冷えとした雰囲気に強い印象を受ける方もおられるだろう。
「さすらい人」は有名なリューベックの詩によるものではなく、F.シュレーゲルの詩による曲だが、いかにもシューベルトらしい慎ましやかな名作である。
このアルバムで貴重なのはゲアハーアーのハミングが聴ける曲があることである。
F.シュレーゲルの詩による「舟人」がそれである。
シューベルト歌曲の中でハミングが歌われるのはおそらくこの曲のみではないか。
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