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大沼徹&朴令鈴/おと と おと と vol.5「美しき水車小屋の娘」(2014年7月13日 sonorium)

おと と おと と vol.5
シューベルト歌曲集シリーズ 第2回
美しき水車小屋の娘

2014年7月13日(日)14:00 sonorium(自由席)

大沼 徹(おおぬま・とおる)(BR)
朴 令鈴(ぱく・りんりん)(P)

シューベルト/「美しき水車小屋の娘(Die schöne Müllerin)」
 1.遍歴の旅
 2.どこへ?
 3.止まれ!
 4.小川への感謝の言葉
 5.仕事じまいに
 6.知りたがり
 7.焦燥
 8.朝の挨拶
 9.粉屋の花
 10.涙の雨
 11.僕のもの!
 12.中断
 13.リュートの緑のリボンで
 14.猟師
 15.嫉妬とプライド
 16.好きな色
 17.嫌いな色
 18.萎れた花
 19.粉ひき職人と小川
 20.小川の子守歌

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「美しい水車小屋の娘」を聴きに、京王井の頭線の永福町から徒歩7分のところにあるsonoriumにはじめて出かけた。
私の家からは東京メトロ丸ノ内線の方南町からの方が行きやすいので、そちらから向かったのだが、進むべき道を間違え徒歩10分で行くはずのところを30分以上さまよってぎりぎり間に合った。
方南町の西改札を出て1番出口から地上に出たら、右の信号をマツモトキヨシ&ジョナサンのある道(方南通り)へ渡り、右折してずっと進み、大宮八幡の標識の交差点で左折し、商店街を進むと右側にある。
分かりにくい場所だったので、はじめて行く方は時間に余裕をもって行かれた方がいいと思う。

以前二期会の「ホフマン物語」で悪役4役を聴いたことのある大沼 徹が「水車屋」を歌うというので興味をもった。
どちらかというとオペラの人という印象が強いが、それゆえにどんなリートを聴かせてくれるのか楽しみだった。
ピアノの朴 令鈴さんは「おと と おと と」という歌曲シリーズを続けてこられたことは知っていたのだが、今回はじめて聴いた。

最初、朴 令鈴さんが登場して、挨拶と簡単な解説をしてから大沼 徹さんが登場して演奏が始まった。

大沼 徹は男性的な低い声の持ち主。
ドイツ語の発音は明晰で、さすがオペラで経験を積んだだけあって、顔の表情からちょっとした仕草まで若者になりきった歌唱だった。
ヴィブラートが思ったよりも薄く、時々声が生々しく聞こえる箇所もあったが、純朴で繊細な青年像が明確に伝わってきた。
声のボリュームはさすがで、小さなサロン風なこのホールを豊麗な声がいっぱいに満たした。
希望に満ちた前半から不安、落胆、怒りなどが交錯する後半まで、シューベルトの音楽を丁寧に生き生きと活気に満ちて再現しながら、そこに真実味があった。

朴 令鈴のピアノは楽曲を完全に自身のものにした安定した演奏。
有節歌曲における内容に応じた描き分けも見事だった。
ふたは全開で、響きは絶妙にコントロールされていた。
美しいタッチで共感をこめて演奏されていた。

それにしても「美しい水車小屋の娘」はあらためて魅力あふれる作品だと実感した。
朴さんはこの主人公を「中二病的」と表現したが、その繊細さゆえに、シューベルトが共感して、このような名作が生まれたのだから、この詩を書いたミュラーに感謝したい気持ちである。

このコンビでいずれ「白鳥の歌」も披露される予定とのこと。
そちらも楽しみにしたい。

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コメント

フランツさん、こんにちは。

>男性的な低い声の持ち主。
という言葉に惹かれて、動画を探してみました。残念ながら歌声は見つけられなかったのですが、インタビューを聞いてみました。
話し声もよく響く低音ですね。

水車小屋は「中二病」!!
なるほど、うまい表現ですね。
繊細であるとともに、青くさいといえばそうかもしれません。
シューベルトが、ゲーテやハイネの詩につけた曲は研ぎ澄まされていて、緊張感を感じるのですが、ミュラー他のあまり有名でない?詩人の詩につけた曲は牧歌的なものが多く、シューベルトらしさがあふれている気がします。

シューベルトの曲に比べ、詩が平凡と書いていたのを何かで読んだ記憶があるのですが、この詩だったからこそ生まれた名曲なのでしょうね。
誰もが一度は抱いた感情を素直に歌った、万人が共感するこの詩を選んだシューベルトの選球眼も素晴しかったという事ですね。

投稿: 真子 | 2014年7月22日 (火曜日) 16時29分

真子さん、こんばんは。

大沼さんのインタビューは「ホフマン物語」の時のものですね。
歌手って話し声もいい声の人が多いですよね。歌っているから話声もいい声になるのか、それとももともといい声の人が歌手になるのか、いずれにしても歌手の話声は魅力的なことが多いですね。大沼さんも然りです。

「水車屋」の若者は、感情の振幅が極端に揺れて、ある時は「なんて幸せなんだろう」と喜んでみたり、ある時はこの世の終わりかと思うほど落ち込んでみたりして、冷静に見ると青くさいところが確かにありますよね。でもこの青くささは多くの人がある時期経験したことでもあって、それゆえにシューベルトも共感して作曲し、聴き手の私たちも主人公の感情を共感しながら追体験し、作品の魅力に惹きつけられるのだと思います。真子さんのおっしゃった「誰もが一度は抱いた感情を素直に歌った、万人が共感する」詩であるがゆえに、シューベルトの作曲意欲を掻き立てたのでしょうね。
それにしても牧歌的な雰囲気を纏いながら、なんと切なく、胸をしめつけられるような名作なのでしょう。やはりミュラーとシューベルトに感謝です。

投稿: フランツ | 2014年7月24日 (木曜日) 04時07分

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