東京室内歌劇場の歌手たち&平島誠也/歌曲の中の生と死(2014年7月16日 渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール)
東京室内歌劇場コンサート
歌曲の中の生と死
~平島誠也氏を迎えて~
2014年7月16日(水)19:00 渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール
ソプラノ:上田桂子(うえだ・けいこ)、髙橋節子(たかはし・せつこ)、原千裕(はら・ちひろ)
メゾソプラノ:井口雅子(いぐち・まさこ)、石井真紀(いしい・まき)、樺沢わか子(かばさわ・わかこ)、長濱厚子(ながはま・あつこ)
テノール:櫻井淳(さくらい・まこと)
バリトン:杉野正隆(すぎの・まさたか)
構成・ピアノ:平島誠也(ひらしま・せいや)
企画・制作:石井真紀
F.シューベルト(Schubert)/春の信仰(Frühlingsglaube)D686 [杉野]
W.A.モーツァルト(Mozart)/ラウラに寄せる夕べの想い(Abendempfindung an Laura)K.523 [髙橋]
A.ヤルネフェルト(Järnefelt)/歌いましょう!(Laula, Laula!) [井口]
A.ヤルネフェルト/子守歌(Kehtolaulu) [井口]
A.ヤルネフェルト/夏の湖畔で(Suvirannalla) [井口]
F.リスト(Liszt)/すべての山の頂に安らぎが(Über allen Gipfeln ist Ruh) [上田]
F.リスト/三人のジプシー(Die drei Zigeuner) [上田]
F.P.トスティ(Tosti)/魅惑(Malìa) [櫻井]
F.P.トスティ/薔薇(Rosa) [櫻井]
F.シューベルト/臨終を告げる鐘(Das Zügenglöcklein)D871 [髙橋]
F.シューベルト/あなたのそばにいるだけで(Bei dir allein)D866-2 [髙橋]
~休憩~
E.W.コルンゴルド(Korngold)/君の幸せを願う(I wish you bliss)Op.38-1 [石井]
E.W.コルンゴルド/デスデモナの歌(Desdemona's song)Op.31-1 [石井]
E.W.コルンゴルド/私の恋人の眼差しは(My mistress eyes)Op.38-5 [石井]
H.プフィッツナー(Pfitzner)/五月の歌(Mailied)Op.26-5 [原]
H.プフィッツナー/わが眠りはますます浅くなり(Immer leiser wird mein Schlummer)Op.2-6 [原]
C.ドビュッシー(Debussy)/愛し合う二人の死(La mort des amants) [長濱]
G.ビゼー(Bizet)/朝(Le matin) [長濱]
F.シューベルト/水の上で歌う(Auf dem Wasser zu singen)D774 [樺沢]
R.シュトラウス(Strauss)/万霊節(Allerseelen)Op.10-8 [樺沢]
H.ヴォルフ(Wolf)/希望に思いを寄せる快復者(Der Genesene an die Hoffnung) [杉野]
J.ブラームス(Brahms)/ああ死よ おまえを思い出すのはなんとつらいことか(O Tod, wie bitter bist du)Op.121-3 [杉野]
~アンコール~
C.レーヴェ(Loewe)/甘美な埋葬(Süsses Begräbnis)Op.62-1-4 [全員]
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東京室内歌劇場による「歌曲の中の生と死」と題されたコンサートを聴いた。
会場の渋谷区文化総合センター大和田ははじめて。
渋谷駅の西口から歩道橋を渡り、ファミリーマートの両脇の細い上り坂のどちらかから上りきったところにある。
その6階にある伝承ホールが今回の会場である。
今回のコンサートは「平島誠也氏を迎えて」というサブタイトルが付けられていて、平島氏が構成も担当したそうだ。
平島氏がプログラムに寄せた文章によると、最初は「死」を歌った歌曲を特集しようとしたそうだが、「そんな暗いプログラムにお客様を付き合わせるのも申し訳ない」とのことで、同時に「生の喜び」を扱った作品も歌手たちに選曲してもらったとのこと。
今回はドイツ歌曲に留まらない選曲がされていて、それゆえすべての伴奏を担当した平島氏は大変だったろうが、八面六臂の活躍ぶりであった。
今夜の主役は平島氏だったといっても過言ではないだろう。
異なる国の異なる歌曲22曲(+アンコール1曲)をそれぞれの趣で描き分けながら、各歌手たちの表現と一体になるその演奏ぶりは、無限の色をもったパレットを感じさせた。
例えばドビュッシーの官能とトスティのストレートなラブソングをとってみても全く趣が異なり、それを違和感なく演奏することのどれだけすごいことか。
リストの「三人のジプシー」(省略なしの版で演奏された)ではジプシーの奏でる激しい音楽を情熱的に、そしてシュトラウスの「万霊節」では亡き人への思いを感動的な歌心で聴かせてくれた。
(おそらく)世代もキャリアも声質も異なる9人の歌手たちを平島氏のピアノという共通項で見事にまとめてみせた。
選曲がバラエティに富んでいたのも楽しめた。
独仏英伊にフィン語まで加わった多彩な歌のお祭りという感じだった。
当初予定されていたソプラノの塩谷靖子が降板されたとのことで、塩谷氏が歌う予定だった曲を代わりに杉野正隆と髙橋節子がコンサートの最初に歌った。
今回の歌手たちの中で私にとって馴染みのあったのは髙橋さんと石井さんだけだったが、バリトンの杉野正隆さんをはじめて聴いて、日本にまだこんなリート歌手がいたのかと驚いた。
ハンス・ホッターのマスタークラスも受けたとのことだが、ホッターの深みを思い出させる素晴らしく恵まれた声質で朗々と、そして明瞭に歌を聴かせた杉野さんに脱帽だった。
彼のリサイタルを強く希望したい。
他の歌手たちもそれぞれの持ち味をもって全力で取り組んでいるのが感じられて、充実したコンサートだった。
平島氏によると「死は…いずれ誰にも訪れる遠い日の予行練習だと思ってそういう歌曲が存在するのかもしれません」とのことなので、歌曲ファンは日頃から予行練習を頻繁に行っていることになる(冗談です)。
配布された対訳(訳者は誰なのだろう?)を読みながらこれらの歌曲を聴くと、すでにこの世にない詩人や作曲家たちが生前に死というものに思いをめぐらせた作品が、時代は変われど普遍のテーマであり続けているのが感じられた。
このようなテーマをもって様々な歌曲を集めたコンサートにこれからも出会えることを期待したい。
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コメント
フランツさん、こんにちは。
これはまた、彩りいっぱいのプログラムですね。
トスティが甘美な曲も多く好きな作曲家です。
それにしても、いつの間にか日本の声楽界も知らない人ばかりになってしまいました。
ホッターの教えを受けたという、バリトンの杉野正隆さんに大いに期待したいですね。
投稿: 真子 | 2014年7月29日 (火曜日) 17時50分
真子さん、こんばんは。
>これはまた、彩りいっぱいのプログラムですね。
そうなんです。まさに「歌の花束」でした。一晩でヨーロッパ各国を旅したような気分です。トスティの甘美な歌は聴き手の心にストレートに伝わるのがいいですよね。
>ホッターの教えを受けたという、バリトンの杉野正隆さんに大いに期待したいですね。
久しぶりに衝撃を受けました。こんな立派にリートを歌う人がいたという驚きでした。普段はオペラ中心の活動をしておられるようですが、これだけ素晴らしいリートを歌うのですから、リサイタルをしてくれたら嬉しいのですが。
投稿: フランツ | 2014年7月30日 (水曜日) 02時15分