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マイアベーアの歌曲を聴く

今年はドイツ生まれのユダヤ系作曲家ジャコモ・マイアベーア(Giacomo Meyerbeer: 1791-1864)の没後150年記念です。
そこで彼の歌曲をいくつか聴いてみようと思います。

まずはシューベルトが「彼らがここにいたことD775(Daß sie hier gewesen)」というタイトルで作曲したリュッケルトの詩と同じ詩による「彼女と私」を聴いてみます。

Sie und ich
 彼女と私

Daß der Ostwind Düfte
Hauchet durch die Lüfte,
Dadurch tut er kund,
Daß du hier gewesen.
 東風が香りを
 大気中に吹きつける、
 それで香りが知らせてしまうのだ、
 あなたがここにいたことを。

Daß hier Tränen rinnen,
Dadurch wirst du innen,
Wär's dir sonst nicht kund,
Daß ich hier gewesen.
 ここに涙が流れているので、
 あなたは気付くのだ、
 そうでなければ気付かなかっただろう、
 私がここにいたことを。

Schönheit oder Liebe,
Ob versteckt sie bliebe,
Düfte tun's und Tränen kund,
Daß sie hier gewesen.
 美しいもの、もしくは愛するものが
 隠れていることなどできようか。
 香りや涙が知らせてしまうのだから、
 彼らがここにいたことを。

詩:Friedrich Rückert (1788-1866)
曲:Giacomo Meyerbeer (1791-1864)

マイアベーア作曲「彼女と私」

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&カール・エンゲル(P)

いかがでしょうか。
ピアノソロと歌が交互にあらわれ、言葉を交わしているようではないでしょうか。
ピアノは女性(美しいもの)の香りの気配だったり、男性(愛するもの)の涙の形跡だったりをあらわしているかのようで、そこに少し前まで彼女あるいは彼がいたのではないかと歌声部がいぶかっているかのようです。
高音域で愛らしく演奏されるピアノの間奏・後奏は、男性あるいは女性のお相手の気配を確信できてひそかに喜んでいるかのようです。

ちなみにシューベルトが同じ詩に作曲した音楽はさらに神秘的な響きが唐突に現れ、日常と異なる世界に聴き手を一気に引き込みます。
その魔力はさすがシューベルトと言うほかない素晴らしさです。

シューベルト作曲「彼らがここにいたことD775」

アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS)&ベンクト・フォシュベリ(P)

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続いて「おいで(Komm!)」という歌曲です。

Komm!
 おいで

Du schönes Fischermädchen,
Treibe den Kahn ans Land:
Komm zu mir, setz dich nieder,
Wir kosen Hand in Hand.
 美しい漁師の娘さん、
 小舟を陸に付けてさ
 オレのところに来て座りなよ、
 手をとりあっていちゃいちゃしちゃおうぜ。

Leg an mein Herz dein Köpfchen
Und fürchte dich nicht zu sehr,
Vertraust du dich doch sorglos
Täglich dem wilden Meer.
 オレの胸にきみの頭をもたれかけなよ、
 怖がることなんか全然ないぜ。
 きみは毎日荒れた海にだって
 怖れずに身を委ねているじゃんか。

Mein Herz gleicht ganz dem Meere,
Hat Sturm und Ebb' und Flut,
Und manche schöne Perle
In seiner Tiefe ruht.
 オレの心は海そのものだよ、
 嵐もあれば潮の満干もある。
 それからきれいな真珠がいっぱい
 深ーいところにあるんだぜ。

Komm! Komm!
Du schönes Fischermädchen, komm, komm,
wir kosen Hand in Hand.
Komm! Komm! Komm!
 おいでよ!おいで!
 美しい漁師の娘さんよ、おいでったら、おいでよ、
 手をとりあっていちゃいちゃしちゃおうぜ。
 おいでよ、来いよ、来いったら!

詩:Heinrich Heine (1797-1856)
曲:Giacomo Meyerbeer (1791-1864)

この詩は読めばすぐにピンとくると思うのですが、ハイネの詩にシューベルトが作曲した「漁師の娘D957-10(Das Fischermädchen)」と同じテキストです。
ただ、マイアベーアは歌の最後に詩から適宜切り取って「おいで、美しい漁師の娘さんよ~」などと追加しています。
さらに別の詩人(ヨハン・バプティスト・ルソー)の詩による節まで加えて有節歌曲として歌えるようにもしているのです。
歌手によってはハイネの詩だけにとどめておく場合もあり、ここで聴いていただくハンプソンもハイネの詩のみを歌っています。
漁師の娘をナンパする軽薄っぷりはシューベルトよりも強いかもしれません。

マイアベーア作曲「おいで」

トマス・ハンプソン(BR)&ヴォルフラム・リーガー(P)

シューベルト版の「漁師の娘」は軟派な男に見えないという見方もされますが、ムーアも著書で指摘しているように"Hand(手)"の箇所の高い音程への跳躍や装飾音でシューベルトなりに軽薄さを表現していると思います。

シューベルト作曲「漁師の娘」

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)[&ジェラルド・ムーア(?)(P)]

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新国立劇場/池辺晋一郎作曲 オペラ「鹿鳴館」(2014年6月21日 新国立劇場 中劇場)

新国立劇場
2013/2014シーズン
オペラ「鹿鳴館」/池辺晋一郎
Rokumeikan/Ikebe Shinichiro
全4幕〈日本語上演/字幕付〉

2014年6月21日(土)14:00 新国立劇場 中劇場
上演時間:約3時間15分(第Ⅰ・Ⅱ幕90分 休憩30分 第Ⅲ・Ⅳ幕75分)

【影山悠敏伯爵】黒田 博
【同夫人 朝子】大倉由紀枝
【大徳寺侯爵夫人 季子】手嶋眞佐子
【その娘 顕子】高橋薫子
【清原永之輔】星野 淳
【その息子 久雄】鈴木准
【女中頭 草乃】山下牧子
【宮村陸軍大将夫人 則子】鵜木絵里
【坂崎男爵夫人 定子】池田香織
【飛田天骨】早坂直家

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】飯森範親

【原作】三島由紀夫
【上演台本】鵜山 仁
【演出】鵜山 仁
【作曲】池辺晋一郎
【美術】島 次郎
【衣裳】前田文子
【照明】沢田祐二
【振付】上田 遙

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池辺晋一郎のオペラ「鹿鳴館」をはじめて見た。
日本に多くの優れたオペラがあることは承知していたが、生で日本のオペラを見るのは今回がはじめて。
新国立劇場の委嘱作品で、2010年6月に初演されたとのこと。
三島由紀夫の原作を演出の鵜山仁が台本にして池辺晋一郎がオペラ化した。

なかなか長大などっしりとした手ごたえのある作品だった。
政治絡みの抗争に人間同士の愛憎を織り交ぜた内容で、あたかも芝居を見ているかのような緊迫感があった。

池辺氏の音楽は親しみやすい。
決して分かりやすいメロディーが出てくるわけではないのだが、映画やドラマでの音楽づくりに近いものがあるのではないか。
それぞれの場面の雰囲気を決定づける音楽が自然にドラマを展開していくのである。
日本語の扱いは比較的言葉の抑揚に沿ったものと言えるだろう。
時には字幕を見てはじめて分かる言葉もあったが、ある程度はオペラの宿命で仕方ないのだろう。
だが、若干日本語の抑揚との違いに違和感を感じた個所がないわけではなかった。
まぁ一度聴いただけなので即断は避けたい。

歌手はみな適材適所。
いい日本人歌手が沢山いるものだなぁとあらためて感じる。
主役級から脇役まで見事に揃っていた。
だが、群を抜いて素晴らしかったのが影山伯爵の黒田博だった。
こ憎たらしい役作りを役者顔負けの演技と歌唱で伝えきる。
名優を目の前にしているかのような充実した表現だった。
そして夫人 朝子の大倉由紀枝は伯爵夫人としての威厳と包容力をあわせもち、声は清澄で表現力豊か、彼女もまた名女優をまのあたりにしているかのような充実ぶりだった。

重要な役柄の久雄役は本来経種廉彦が予定されていたが、体調不良のため、別キャスト組の鈴木准が代役。
つまり彼は4日連続でこの出番の多い役柄を歌うことになる。
声は若々しく美しく、こちらも役柄に合っていた。
その恋人、顕子の高橋薫子は可憐だが芯のある声質がこれまたぴったり。

その他、清原永之輔役の星野淳の存在感、女中草乃の山下牧子の安定感など、キャストはみな素晴らしかった。

セットも衣装も鹿鳴館時代の洋装が視覚的にも楽しませた。

飯森範親指揮の東京フィルもドラマチックに演奏した。

一つ気になったのがダンサーたちの珍妙な踊りである。
あえて社交ダンスにしなかったのはおそらく演出家の意図なのだろう。
社交場でのダンスに滑稽さを意味づけようとしたのかもしれないが、私的にはあまり好きになれなかった。
そこだけが別空間になり、本質とずれたままのような感じがしたのだ。
滑稽なダンスにするにしても、もう少しやりようがあったような気がするのだが。

カーテンコールでは池辺先生も登場。
だが、拍手にこたえるだけで得意のダジャレが聞けないのはちょっと寂しい(しょうがないけれど)。

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(2014年7月20日追記)

テノールの経種廉彦(いだね・やすひこ)さんが2014年7月17日、膵臓(すいぞう)がんのため、お亡くなりになったそうです。
この日はじめて聴くはずだったのに、聴く機会を永遠に逸してしまいました。
ご冥福をお祈りいたします。

 ソース

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アルド・チッコリーニ/ピアノ・リサイタル(2014年6月18日 東京芸術劇場 コンサートホール)

アルド・チッコリーニ ピアノ・リサイタル

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2014年6月18日(水)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール

アルド・チッコリーニ(Aldo Ciccolini)(Piano)

ブラームス/4つのバラード 作品10
Johannes BRAHMS / 4 Ballades Op.10
 第1曲 ニ短調 アンダンテ
 第2曲 ニ長調 アンダンテ
 第3曲 間奏曲 ロ短調 アレグロ
 第4曲 ロ長調 アンダンテ・コン・モート

グリーグ/ピアノ・ソナタ ホ短調 作品7
Edvard GRIEG / Piano Sonata in e-minor Op.7
 第1楽章 アレグロ・モデラート
 第2楽章 アンダンテ・モルト・カンタービレ
 第3楽章 アラ・メヌエット、マ・ポコ・ピウ・レント
 第4楽章 フィナーレ:モルト・アレグロ

~休憩~

ボロディン/小組曲
Alexandre BORODINE / Petite Suite
 第1曲 尼僧院にて
 第2曲 間奏曲
 第3曲 マズルカ
 第4曲 マズルカ
 第5曲 夢
 第6曲 セレナード
 第7曲 夜想曲

カステルヌオーヴォ=テデスコ/ピェディグロッタ 1924 ナポリ狂詩曲
Mario CASTELNUOVO-TEDESCO / Piedigrotta 1924, Rapsodia napoletana
 第1曲 タランテッラ スクーラ
 第2曲 ノッテ エ ルーナ
 第3曲 カラシュナテ
 第4曲 ヴォーチェ・ルンタナ
 第5曲 ラリウラ

~アンコール~
D.スカルラッティ/ソナタ ホ長調 K380
ドビュッシー/前奏曲集第1巻~ミンストレル
ファリャ/「恋は魔術師」~火祭りの踊り

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現在88歳のピアニスト、アルド・チッコリーニを聴いた。
2年前に聴いた時は感銘を受けつつも、これで聴きおさめなのかもしれないと思っていたが、再び来日してくれて感激である。
ご本人と招聘者に感謝あるのみだ。

チッコリーニは杖をついて猫背気味にゆっくりとした足取りでステージ中央まで歩き、一見ちょっと大丈夫かなと思わせる。
しかし、ピアノに向かった彼はまだまだ一流のピアニストであった。
「この年齢のわりには」という前置きが一切必要なく、テクニックは驚くほど安定していて、テンポも崩れず、美しいタッチを聴かせる。
88歳まで健在でいることだけでもすごいことなのに、ピアニストとしての技能を維持しているその姿勢が素晴らしい。

それからプログラミングが守りに入らず、広範な彼のレパートリーから知られざる作品をこうして紹介してくれるのもうれしい。
ブラームス以外は生ではじめて聴く作品ばかりであり、グリーグにピアノソナタがあったということさえ初めて知った。
コンサート前に音源でどういう作品なのかは確認したが、生で聴ける機会の少ない作品だけに楽しみだった。

チッコリーニの演奏を聴いて感じたのが、いい具合に脱力していることだ。
決して気の抜けた音ではなく、音にまるみがあって優しいのだ。
テンポはだれずにさくさく進むが、機械的にはならず、ちょうど快適なテンポ感である。
テクニックはほぼ万全といっていいのではないだろうか。
目立った傷はほとんど感じられなかった。
小品の連続とはいえ、かなりのスタミナが要求される内容にも感じられ、ゆっくりと歩いていた足取りからは信じられないほどである。
アンコールの最後で激しい「火祭りの踊り」まで見事に披露できるぐらいだから、最後まで余力はあったのだろう。
ドビュッシーのミンストレルの洒落たリズムさばきも良かった。

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作品としては、グリーグのソナタの第3楽章、ボロディンの第1曲とセレナード、終曲、カステルヌオーヴォ=テデスコの第2曲、終曲などは特に気に入った。

チッコリーニの美しい響きに包まれ、珍しい作品とも出会い、またとない貴重な時間だった。
もし可能ならばまたいずれ聴けたらどんなにいいだろう。

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新国立劇場バレエ団/パゴダの王子(2014年6月14日 新国立劇場 オペラパレス)

パゴダの王子

2014年6月14日(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス
(第1幕40分-休憩25分-第2幕45分-休憩25分-第3幕40分)

さくら姫:奥田 花純
王子:奥村 康祐
皇后エピーヌ:長田 佳世
皇帝:山本 隆之
北の王:江本 拓
東の王:古川 和則
西の王:マイレン・トレウバエフ
南の王:貝川 鐵夫
道化:福田 圭吾

新国立劇場バレエ団

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:ポール・マーフィー

音楽:ベンジャミン・ブリテン
振付:デヴィッド・ビントレー
装置・衣装:レイ・スミス
照明:沢田祐二

芸術監督:デヴィッド・ビントレー

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新国立劇場の芸術監督、デヴィッド・ビントレーにとって任期最後の上演となった「パゴダの王子」を見た。
音楽はベンジャミン・ブリテン。
前回は2011年秋の上演だったので3年ぶりだが、各幕がコンパクトで分かりやすい筋は相変わらず面白い。
ビントレーは舞台を日本に移し、衣装も日本を意識したものとなっていた為、舞台装置やコールドバレエの所作など美しい。

今回初主役コンビの奥田花純と奥村康祐のフレッシュで明るい演技も素晴らしい。
東西南北の王がその個性的なコスチュームも含めてなかなか活躍してくれて面白い。
第3幕は早々と勧善懲悪の方が付き、後は主役たちのバレエ大会となるので、ここからは純粋に踊りの華やかさを楽しんだ。

久しぶりの山本隆之が演じた皇帝の悲哀のこもった演技が素晴らしかった。

ビントレーが監督を離れても、新国立劇場のレパートリーとして数年置きに繰り返し上演してもいいのではないだろうか。
初心者でも十分楽しめる(タツノオトシゴやタコなどのキャラクターが登場するので子供にも楽しめそう)ストーリーは貴重なレパートリーではないか。

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ヘルマン・プライ&ジェラルド・ムーア/ヴォルフ&プフィッツナー、シュトラウス歌曲集 初CD化(DECCA)

DECCAレーベルの"MOST WANTED RECITALS"でプライ&クリーンの「白鳥の歌」ほか数々の名盤がCD化されたことは既述のとおりですが、このシリーズ中、日本でなぜか今のところ流通していない複数のCDの中にヘルマン・プライ&ジェラルド・ムーアの「ヴォルフ&プフィッツナー歌曲集」があります。
しかもボーナストラックとして同じコンビによるR.シュトラウス歌曲集も含まれているというお得な盤です。
amazonなどでいずれ扱うのかどうか不明ですが、メキシコのDECCAの企画とのことで、どうしてもすぐに欲しい方はPresto Classicalというイギリスのサイトからお求めになるのがいいかと思います。

私はこのプライ&ムーアの「ヴォルフ&プフィッツナー歌曲集」と「ホッター&パーソンズ/リサイタルVol.2」を注文しましたが、1週間も経たないうちに届きました。
さらに「スゼー&ボールドウィン/フランス歌曲集(これも初CD化)」も追加で注文しているので届くのが楽しみです。

このCDの購入については下の記事の追記をご覧ください。
 こちら

ではこのCDの中身をご紹介します。

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DECCA: 480 8172
MOST WANTED RECITALS 35

ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(Baritone)
ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)(Piano)

録音:1965年4月2-5日, Decca Studios, West Hampstead, London (1-19)
1963年6月4-7日, Decca Studios, West Hampstead, London (20-33)

ヴォルフ(Wolf)作曲/「メーリケ歌曲集」より
1.庭師
2.依頼
3.飽くことのない愛
4.出会い
5.狩人の歌
6.春だ!
7.散歩
8.旅路で
9.郷愁
10.祈り
11.隠棲
12.ヴァイラの歌
13.告白
14.鼓手

プフィッツナー(Pfitzner)作曲/「5つの歌曲」Op.9
15.庭師
16.孤独な娘
17.秋に
18.勇敢な男
19.別れ

R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
20.献呈Op.10-1
21.何もOp.10-2
22.夜Op.10-3
23.ぼくの頭上に広げておくれOp.19-2
24.ぼくたち、隠しておいていいものだろうかOp.19-4
25.わが思いのすべてOp.21-1
26.あなた、わが心の冠よOp.21-2
27.ああ、恋人よ、もう別れなければならないOp.21-3
28.ああ辛い、俺はなんて不幸な男なんだOp.21-4
29.憩え、わが魂Op.27-1
30.明日Op.27-4
31.夜の散歩Op.29-3
32.親しげな幻影Op.48-1
33.あなたの青い瞳でOp.56-4

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すべて初CD化です。
録音年月日も今回明記されているのが有難いです。
1965年録音の「ヴォルフ&プフィッツナー歌曲集」全曲と、1963年録音の「R.シュトラウス歌曲集」(「白鳥の歌」のCDに含まれる3曲以外全曲)で構成されていますが、どちらも30代のプライの声の美しさ、張り、表現力、語り口は絶好調です!

ヴォルフの「メーリケ歌曲集」は全53曲からなるのですが、その中からプライの声やキャラクターに合った作品が慎重に選ばれているのが感じられます。
「庭師」では通りかかった王女様へのひそやかな愛の告白を実直なまでにストレートに歌い上げ、聴き手の気持ちを心地よく明るくしてくれます。
「依頼」では友人に好きな人の返事を代わりに聞いてもらう切迫した感じが"Warum schreibt Er aber nicht?(なぜ手紙をくれないのですか)"の歌いぶりによく表れていて、オペラの一場面のように楽しいです。
「飽くことのない愛」では"Je weher, desto besser!(痛ければ痛いほど気持ちがいいの)"の"besser"におけるプライのなんともいえないニュアンスが聴きどころです。
「春だ(あの季節だ)!」では春の到来の喜びを前半は抑制を利かせ、後半に爆発するその配分が素敵です。
「祈り」の厳かな歌唱や有名な「隠棲」での真摯で力強い歌いぶりも素晴らしいのですが、最後の「告白」「鼓手」のユーモアはまさにプライの独壇場でしょう。
「告白」では兄弟がいない為に母親から一心に期待を寄せられて重いよぉと嘆くさまが実にユーモラスに語られ、声のちょっとしたニュアンス付けなど芸達者なプライを満喫できます。
一方「鼓手」では、お母さんが魔法が使えたら酒保で働いてご馳走が食べられるのにと、「告白」とは逆の母親好きな少年を描いていて、そのプログラミングも絶妙と言えましょう。

プフィッツナーは作品番号9のアイヒェンドルフの詩による全5曲が演奏されていますが、第1曲のタイトルが「庭師」で、メーリケ歌曲集のプログラミングに合わせたとも考えられますね。
最後は「別れ」というタイトルですし、プライならではの凝った選曲&曲順ということがいえそうです。
哀愁漂う歌曲集で、プライの甘美な声が一層切なさを際立たせているように感じられます。

シュトラウスの歌曲集は作品番号順に並べられているのはプライの考えなのでしょうか。
有名で親しみやすい作品が選ばれていて魅力的な選曲です。
「献呈」での全霊を傾けた歌唱はプライの良さ全開です。
「憩え、わが魂」のような重めの作品でもプライが歌うとほのかな光が射すのがまた魅力です。
「あなたの青い瞳で」での素朴でストレートで甘美な歌はまさにプライの良さが集約されていますね。
こぼれおちそうなほど熟れたプライの美声が存分に味わえる素敵な歌曲集でした。

ムーアは60代半ばの脂の乗り切った円熟味がそのまろやかなタッチから感じられ、これまた耳を惹きつけて離しません。
「明日」など絶品です。
そしてディースカウと共演した時とは違ったプライ仕様の演奏になっているのが興味深いです。
例えばヴォルフの「出会い」をディースカウとは猛スピードで駆け抜ける風のように演奏していましたが、プライとは最初のうちややテンポをゆるやかにとり、恋人との逢瀬を歌う直前の間奏で恋の嵐を吹き荒れさせます。
そして、そのどちらにもムーアの個性が刻印されているのが素晴らしいところです。
ヴォルフの「春だ!」はF=ディースカウとのメーリケ歌曲(男声用)全集録音時に省かれてしまった為、ムーアファンにとっては、プライが録音してくれて感謝です!
ムーアの軽やかで味のあるタッチが魅力的です。

Prey_moore_wolf_lieder

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(2014年8月9日追記)

HMVでとうとう扱うようです。9月10日発売とのことです。
 こちら

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パウル・バドゥラ=スコダ/ラスト・コンサート(2014年6月5日 すみだトリフォニーホール)

Baduraskoda_20140605


パウル・バドゥラ=スコダ ラスト・コンサート
PAUL BADURA-SKODA THE LAST CONCERT

2014年6月5日(木)19:00 すみだトリフォニーホール

パウル・バドゥラ=スコダ(Paul Badura-Skoda)(ピアノ・指揮)
東京交響楽団(Tokyo Symphony Orchestra)(*)

モーツァルト/幻想曲 ニ短調 K397
Mozart / Fantasy d-moll K397

ハイドン/ピアノ・ソナタ ハ短調 Hob. XVI-20
Haydn / Sonate c-moll Hob. XVI-20

I. Moderato
II. Andante con moto
III. Finale: Allegro

シューベルト/4つの即興曲 作品90, D899
Schubert / 4 Impromptus op.90 D899

1. c-moll
2. Es-Dur
3. Ges-Dur
4. As-Dur

~休憩~

モーツァルト/ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調 K595(*)
Mozart / Concerto Nr. 27 B-Dur K595

I. Allegro
II. Larghetto
III. Allegro

~アンコール~
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第27番 K595~第2楽章(*)
モーツァルト/グラスハーモニカのためのアダージョ K356(617a)

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86歳(!)の著名なピアニスト、パウル・バドゥラ=スコダの最後の来日公演を聴いた。
私がバドゥラ=スコダの実演に接したのはこれで2度目。
前回聴いたのは2009年で当時すでに80代だった。
今回は「ラスト・コンサート」と銘打たれ、全国各地で最後のコンサートツアーが催されている。
プログラムも数種類用意されているようだ。

私はすみだトリフォニーホールの1階最後列で聴いたのだが、見渡した限りではお客さんはよく入っていた。
前回聴いた時の記事を久しぶりに見たのだが、感じたことは今回も同様だった。
つまり、バドゥラ=スコダという研究者としての側面ももつピアニストは決して演奏も学究肌ではなく、むしろ感覚的なひらめきを大切にしているタイプであった。
テクニカルな面では年齢を感じないわけにはいかなかったが、それでも果敢に作品に切り込んでいこうとする。
美音で聴かせるというタイプでもない。
しかし強弱のコントラストは思ったよりもはっきりと付け、響かせようとする箇所では思い切りのよいタッチで大胆に響かせる。
弱い箇所でも音の響きよりも流れを大事にしているかのようだった。
つまり、我々が往年の巨匠と呼ばれる演奏家たちの録音から感じる類のものを彼の演奏から聴きとることが出来たと言えるのではないか。
それはバドゥラ=スコダの場合は特有の趣や味わいではないだろうか。
現代のピアニストたちから失われつつある何か大切な趣がそこにあるからこそ、これだけ長いこと第一線で活動してこられたのではないかと感じた。

今回前半は独奏、後半は弾き振りのモーツァルトのコンチェルトが披露されたのだが、特に後半は東京交響楽団が実に協力的な姿勢でバドゥラ=スコダを見事に支えたと思う。
バドゥラ=スコダのテンポは決してオーケストラにとって有難いタイプではなかっただろう。
しかし破綻なく支え、しかも美しい音色を聴かせた東京交響楽団のメンバーに拍手を贈りたい。
バドゥラ=スコダはコンチェルトでもマイペースではある。
だが、こじんまりとまとまった演奏とは対極にある彼の自在な演奏からオーケストラも学ぶところがあったに違いないと思う。
こうして伝統は受け継がれていくのだろう。

ちなみに後半の演奏前にバドゥラ=スコダのトークがあり、この第27番のコンチェルトと関連深い歌曲「春への憧れ」の一節をバドゥラ=スコダが鼻歌のように口ずさむという場面があり、大いに盛り上がった。
この年齢にしてお茶目な人柄もまた魅力的であった。

前半のモーツァルト、ハイドン、シューベルトはいずれもバドゥラ=スコダの血肉となったレパートリーである。
多少のミスは問題ではない。
ごく当たり前のようにして聴き手の胸を打つ演奏を披露した彼はやはり偉大な巨匠の一人にちがいない。
理屈を超えたじんわりとした感銘を与えてくれた演奏だった。

アンコールで弾かれたモーツァルトのグラスハーモニカのためのアダージョはこの世のものではないかのような響き。

バドゥラ=スコダさん、長い間お疲れ様でした!
どうぞお元気で!
Baduraskoda_20140605_chirashi

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