マイアベーアの歌曲を聴く
今年はドイツ生まれのユダヤ系作曲家ジャコモ・マイアベーア(Giacomo Meyerbeer: 1791-1864)の没後150年記念です。
そこで彼の歌曲をいくつか聴いてみようと思います。
まずはシューベルトが「彼らがここにいたことD775(Daß sie hier gewesen)」というタイトルで作曲したリュッケルトの詩と同じ詩による「彼女と私」を聴いてみます。
Sie und ich
彼女と私
Daß der Ostwind Düfte
Hauchet durch die Lüfte,
Dadurch tut er kund,
Daß du hier gewesen.
東風が香りを
大気中に吹きつける、
それで香りが知らせてしまうのだ、
あなたがここにいたことを。
Daß hier Tränen rinnen,
Dadurch wirst du innen,
Wär's dir sonst nicht kund,
Daß ich hier gewesen.
ここに涙が流れているので、
あなたは気付くのだ、
そうでなければ気付かなかっただろう、
私がここにいたことを。
Schönheit oder Liebe,
Ob versteckt sie bliebe,
Düfte tun's und Tränen kund,
Daß sie hier gewesen.
美しいもの、もしくは愛するものが
隠れていることなどできようか。
香りや涙が知らせてしまうのだから、
彼らがここにいたことを。
詩:Friedrich Rückert (1788-1866)
曲:Giacomo Meyerbeer (1791-1864)
マイアベーア作曲「彼女と私」
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&カール・エンゲル(P)
いかがでしょうか。
ピアノソロと歌が交互にあらわれ、言葉を交わしているようではないでしょうか。
ピアノは女性(美しいもの)の香りの気配だったり、男性(愛するもの)の涙の形跡だったりをあらわしているかのようで、そこに少し前まで彼女あるいは彼がいたのではないかと歌声部がいぶかっているかのようです。
高音域で愛らしく演奏されるピアノの間奏・後奏は、男性あるいは女性のお相手の気配を確信できてひそかに喜んでいるかのようです。
ちなみにシューベルトが同じ詩に作曲した音楽はさらに神秘的な響きが唐突に現れ、日常と異なる世界に聴き手を一気に引き込みます。
その魔力はさすがシューベルトと言うほかない素晴らしさです。
シューベルト作曲「彼らがここにいたことD775」
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS)&ベンクト・フォシュベリ(P)
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続いて「おいで(Komm!)」という歌曲です。
Komm!
おいで
Du schönes Fischermädchen,
Treibe den Kahn ans Land:
Komm zu mir, setz dich nieder,
Wir kosen Hand in Hand.
美しい漁師の娘さん、
小舟を陸に付けてさ
オレのところに来て座りなよ、
手をとりあっていちゃいちゃしちゃおうぜ。
Leg an mein Herz dein Köpfchen
Und fürchte dich nicht zu sehr,
Vertraust du dich doch sorglos
Täglich dem wilden Meer.
オレの胸にきみの頭をもたれかけなよ、
怖がることなんか全然ないぜ。
きみは毎日荒れた海にだって
怖れずに身を委ねているじゃんか。
Mein Herz gleicht ganz dem Meere,
Hat Sturm und Ebb' und Flut,
Und manche schöne Perle
In seiner Tiefe ruht.
オレの心は海そのものだよ、
嵐もあれば潮の満干もある。
それからきれいな真珠がいっぱい
深ーいところにあるんだぜ。
Komm! Komm!
Du schönes Fischermädchen, komm, komm,
wir kosen Hand in Hand.
Komm! Komm! Komm!
おいでよ!おいで!
美しい漁師の娘さんよ、おいでったら、おいでよ、
手をとりあっていちゃいちゃしちゃおうぜ。
おいでよ、来いよ、来いったら!
詩:Heinrich Heine (1797-1856)
曲:Giacomo Meyerbeer (1791-1864)
この詩は読めばすぐにピンとくると思うのですが、ハイネの詩にシューベルトが作曲した「漁師の娘D957-10(Das Fischermädchen)」と同じテキストです。
ただ、マイアベーアは歌の最後に詩から適宜切り取って「おいで、美しい漁師の娘さんよ~」などと追加しています。
さらに別の詩人(ヨハン・バプティスト・ルソー)の詩による節まで加えて有節歌曲として歌えるようにもしているのです。
歌手によってはハイネの詩だけにとどめておく場合もあり、ここで聴いていただくハンプソンもハイネの詩のみを歌っています。
漁師の娘をナンパする軽薄っぷりはシューベルトよりも強いかもしれません。
マイアベーア作曲「おいで」
トマス・ハンプソン(BR)&ヴォルフラム・リーガー(P)
シューベルト版の「漁師の娘」は軟派な男に見えないという見方もされますが、ムーアも著書で指摘しているように"Hand(手)"の箇所の高い音程への跳躍や装飾音でシューベルトなりに軽薄さを表現していると思います。
シューベルト作曲「漁師の娘」
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)[&ジェラルド・ムーア(?)(P)]
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