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シューベルト「春にD882」を聴く

シューベルトは春をテーマにした歌曲を多数書いています。
その中にあって、その美しさと切なさで聴き手の胸に迫ってくるのが、シュルツェの詩による「春に」です。
私がリートを聴き始めたばかりの頃、シュヴァルツコプフのシューベルト歌曲集のLPで聴いて好きになった作品です。
この天真爛漫な純朴さ、そして無垢な悲しみもたたえて、シューベルトそのものといってもいいほどの魅力が感じられます。
ピアノパートの美しさもちょっと比類がありません。

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Im Frühling, D882
 春に

Still sitz' ich an des Hügels Hang,
Der Himmel ist so klar,
Das Lüftchen spielt im grünen Tal,
Wo ich beim ersten Frühlingsstrahl
Einst, ach so glücklich war.
 私は静かに丘の斜面に座っている、
 空はとても澄み切っており、
 風は緑の谷間を戯れる。
 ここは最初の春の光が注いだとき、
 かつて、ああ、とても幸せだった場所だ。

Wo ich an ihrer Seite ging
So traulich und so nah,
Und tief im dunkeln Felsenquell
Den schönen Himmel blau und hell
Und sie im Himmel sah.
 ここは彼女の隣で
 とても心地よく、近くで歩いた場所、
 そして暗い岩の湧き水の深くに
 美しい空が青く明るく映り、
 その空の中に彼女が見えたものだ。

Sieh, wie der bunte Frühling schon
Aus Knosp' und Blüte blickt!
Nicht alle Blüten sind mir gleich,
Am liebsten pflückt' ich von dem Zweig,
Von welchem sie gepflückt!
 ほら、すでに色とりどりの春が
 蕾や花々からのぞいている!
 私にとってはどの花も同じなのではない、
 この枝から摘むのが最も好きなのだ、
 彼女が摘んだその枝から。

Denn alles ist wie damals noch,
Die Blumen, das Gefild;
Die Sonne scheint nicht minder hell,
Nicht minder freundlich schwimmt im Quell
Das blaue Himmelsbild.
 なぜならすべてが当時のままだから、
 花も野原も。
 太陽は同じように輝き、
 泉の中では同じように親しげに
 青い空の姿が漂っている。

Es wandeln nur sich Will und Wahn,
Es wechseln Lust und Streit,
Vorüber flieht der Liebe Glück,
Und nur die Liebe bleibt zurück,
Die Lieb' und ach, das Leid.
 ただ意志や空想だけが変わり、
 喜びやいさかいは移り行く、
 愛の幸福は逃げ去り、
 ただ愛だけが残される、
 愛、そしてああ、苦痛が。

O wär ich doch ein Vöglein nur
Dort an dem Wiesenhang,
Dann blieb ich auf den Zweigen hier,
Und säng ein süßes Lied von ihr,
Den ganzen Sommer lang.
 おお私が
 あそこの草原の斜面にいる小鳥ならば、
 この枝々にとまり、
 彼女のことを甘く歌うだろうに、
 夏の間ずっと。

[Ich säng von ihr den ganzen Sommer lang.]
 [夏の間ずっと彼女のことを歌うだろうに。]

詩:Ernst Konrad Friedrich Schulze (1789.3.22, Celle - 1817.6.29, Celle)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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詩の朗読(Susanna Proskura)

歌手プロスクラさんの朗読です。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&エトヴィン・フィッシャー(P)

1952年録音。シュヴァルツコプフとフィッシャーの気品に満ちた演奏はなんとも魅力的です。

エリー・アーメリング(S)&イェルク・デームス(Hammerflügel)

1965年録音。アーメリングの伸びやかな美声がなんとも気持ちよく、デームスの慈しむようなピアノも素晴らしいです。

ヘルマン・プライ(BR)&カール・エンゲル(P)

1973年録音。天性の明るいキャラクターのプライが悲哀を歌うとそこにも希望の光が見えるかのようです。エンゲルは推進力のある演奏ぶりです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

4:27からが「春に」です(1曲目は「ぼだいじゅ」)。ディースカウの言葉さばきの美しさと若さ、ムーアのタッチの絶妙さがあいまった名演です。

ハンス・ホッター(BSBR)&ジェラルド・ムーア(P)

ホッターほど聴き手の心を温めてくれる歌手はなかなかいないでしょう。ムーアも歌うようなタッチを聴かせてくれます。

マティアス・ゲルネ(BR)&ヘルムートドイチュ(P)

2014年録音。ゲルネの包みこむような奥行きのある声がなんとも素晴らしいです。ドイチュの神経の細やかなピアノがまた美しいです。

イアン・ボストリッジ(T)&ピアニスト(ジュリアス・ドレイク?)

ボストリッジの美声で繊細に歌われるのも良いです。ピアノもとても美しいタッチです(おそらくドレイク)。

アンゲリカ・キルヒシュラーガー(MS)&ヘルムートドイチュ(P)

2003年録音。キルヒシュラーガーは若い世代のリート歌手として勢いのある見事な名唱です。ドイチュがよく歌い、ピアノパートの魅力を引き出しています。

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コメント

フランツさん、こんばんは。

この曲は本当に、シューベルトらしいですよね。
牧歌的で明るい曲調なのに、悲しみをたたえていて。
大好きな曲です。

シュヴァルツコプフは、古き良きドイツの香りがして、今となってはなかなか聴くことのできない演奏ですね。

キルヒシュラーガーは、逆に現代的で、さわやかな魅力を感じました。
メゾですが、軽やかな声ですね。リートを聴くのに心地よい声のように思います。

アメリングは、やはり理屈抜きにいいですね。
美しい声を聞いているだけで幸せな気持ちになれます。

ボストリッジの繊細さは、カウンターテノールに通じるものを感じます。
映像がなくても動き回る姿が目に浮かびますね(笑)

ディースカウさんの演奏を聴いていると、多彩な変化球を持ち、緩急を付けて投げ分ける巧みなピッチャーのような歌手だなあといつも思います。
そして変化球だけでなく、ストレートもズバッと決めてくる。
バッターはきりきり舞いですね。

ホッターの持つぬくもりはプライさんとはまた違った、父性的なもののように感じながら聴きました。

ゲルネは、深くて豊かな響きがありながら繊細でもあり、人肌のぬくもりを持った声だと思います。

そしていよいよプライさん。
彼のこの演奏を聴くと、私はいつも「憧れ」という言葉を思い起こします。
温かく甘いゆえに、その甘さが逆に残酷に響く気がします。
失った彼女へのあこがれを忘れきれなくて・・、
と言ったら、読み(聴き)込みすぎるでしょうか。

投稿: 真子 | 2014年5月15日 (木曜日) 22時05分

真子さん、こんばんは。
今回もまた丁寧に聴いてくださり、有難うございます!
それぞれの歌手に対するコメントを楽しく拝見しました。

シュヴァルツコプフとキルヒシュラーガーは時代の違いがありますが、それぞれの良さがありますね。新旧の演奏を聴き比べる喜びを感じます。

アーメリングは若かりし頃の極上の美声が記録されていたことに感謝したくなる録音です。あぁ、いいなぁと思ってしまいます。

ボストリッジについてのコメント「映像がなくても動き回る姿が目に浮かびます」はまさにその通りですね(笑)繊細な歌が独自の魅力を放っています。

ディースカウについてのたとえ、野球に疎い私でもとてもよく分かりましたよ!どんなふうにも歌えてしまうけれど、その場面で最適な歌をズバッと聞かせてくれるというのはディースカウならではでしょうね。

ホッターとゲルネはその温かみと包容力で近いものを感じます。

そしてプライさん!甘さゆえに残酷とは興味深い視点ですね。失ったものをまだ気持ちが受け入れきれていない状態なのかもしれませんね。ゆえに甘美な回想にひたっていられる、そんな主人公をプライが表現しているのかなぁと感じました。手の届かないものへの「憧れ」というドイツ的な感覚が確かにプライの歌から感じられました。

投稿: フランツ | 2014年5月17日 (土曜日) 09時40分

遅まきながら、こんばんは。
PCのシャカシャカした音で聴くのはもったいなくて、少しでもマシな音で、と思い、テレビにつなぐケーブルを意を決して!買い求め、ご紹介の『春に』の数々を聴かせていただくことにしました。ですので、コメントが遅くなりました。

ディースカウはやはり別格だな、と今更ながら思いました。あの軽やかな春風そのもののような歌唱は女性でもないのに・・・などと思ってしまします。

それから、やはり、プライ。
真子さんが、温かく甘いゆえに残酷と感じられるとおっしゃっておられるのは、その通り、と私も保証いたします!
なにせ、青年時代に残酷を経験した私がプライさんに深く傾聴したのですから(笑)

投稿: Zu-Simolin | 2014年5月20日 (火曜日) 17時32分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
いい音で音楽を楽しんでおられるようでいいですね!うらやましいです。

さてご感想を有難うございます!

ディースカウはよく「テノラール」と評されますが、テノールにも匹敵する軽やかさはさすがだと私も思います。苦渋の跡がないんですよね。

苦渋の跡がないと言えばプライもそうですね。きっと考えに考えた解釈に基づいて歌っているはずなのに、一切その痕跡を残していないのが凄いと思います。Zu-Simolinさんは青年時代に残酷を経験されたのですね。きっとそういう思いを大なり小なり経験してきている人たちがリートに惹かれ、癒され、プライの歌に励まされるのでしょうね。

投稿: フランツ | 2014年5月22日 (木曜日) 00時40分

表題とは違いますが。
春際 動画 のぞいて見たら
スゴイ いっぱい 聴ききれない。
取りあえず聴いて見ました。

偉大な芸術家の思い出に~漆原啓子、向山佳絵子、野平一郎
東博でバッハ vol.18 三浦文彰(ヴァイオリン)
マキシミリアン・ホルヌング(チェロ)& 河村尚子(ピアノ)
ピアノの歴史探訪~小倉貴久子~ワルター、プレイエル、スタインウェイ
若き名手たちによる室内楽の極(きわみ)
マルリス・ペーターゼン(ソプラノ)

投稿: tada | 2014年6月 1日 (日曜日) 23時05分

tadaさん、こんばんは。
春祭のサイト、充実していますよね。
でも、これが7月ぐらいまでで見れなくなってしまうのが本当にもったいないです。
今のうちにがんがん見ておきたいですね。
tadaさんのご覧になった中では、私もマルリス・ペーターゼンのリサイタルと、三浦文彰のイザイは見ました(どちらも最高です!)。他に加藤さんのピアノも見ましたが、オピッツのベートーヴェンを今度じっくり見ようと思っています。

投稿: フランツ | 2014年6月 2日 (月曜日) 20時41分

ハンス・ホッター、いい声♪♪
バスバリトンの声大好きでよく聴きます^_^
若い頃の画像はカッコいいですよね!晩年は可愛らしいおじいちゃんになってましたが、あの渋い声はいつまで聴いてても飽きないです。
女の声は生理的にダメで、唯一聴けたのがレナータ・スコットですが歌曲は殆ど歌わないので残念でした。

投稿: 豪太 | 2016年9月11日 (日曜日) 11時24分

豪太さん、はじめまして。
コメントを有難うございます!

豪太さんはバスバリトンの声がお好きなのですね。
ホッターは私は生で聴く機会を逸してしまったのが悔やまれますが、多くの録音で彼のリートの人間味のある歌唱に癒されています。
彼の容姿も若い頃の写真など、きっとオペラでは舞台栄えしただろうなと思わせるものがありますね。

女声は苦手なのですか!
レナータ・スコットだけは大丈夫というのも面白いですね。
確かにスコットの癖のない美声は心地よく聞けますものね。
彼女はイタリア歌曲は歌っていたようですが、ドイツ歌曲は言葉の問題があって手を出さなかったのかもしれませんね。その潔さはさすがプロだと思います。

投稿: フランツ | 2016年9月11日 (日曜日) 21時19分

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