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ソフィー・ダヌマン&イアン・ボストリッジ&ジュリアス・ドレイク/東京春祭 歌曲シリーズ vol.14(2014年4月12日 東京文化会館 小ホール)

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2014-
東京春祭 歌曲シリーズ vol.14
ソフィー・ダヌマン(ソプラノ)&イアン・ボストリッジ(テノール)

2014年4月12日(土)18:00 東京文化会館 小ホール

ソフィー・ダヌマン(Sophie Daneman)(Soprano)
イアン・ボストリッジ(Ian Bostridge)(Tenor)
ジュリアス・ドレイク(Julius Drake)(Piano)

シューマン(Robert Schumann)作曲

4つの二重唱曲(Vier Duette) op.78(ダヌマン&ボストリッジ)
 舞踏歌(Tanzlied)
 彼と彼女(Er und Sie)
 あなたを想う(Ich denke dein)
 子守歌-病気で寝ている子供のために-(Wiegenlied am Lager eines kranken Kindes)

5つのリート(Fünf Lieder) op.40(ボストリッジ)
 においすみれ(Märzveilchen)
 母親の夢(Muttertraum)
 兵士(Der Soldat)
 楽師(Der Spielmann)
 露見した恋(Verratene Liebe)

「子供のための歌のアルバム」op.79より(from Liederalbum für die Jugend)(ダヌマン)
 もう春だ(Er ist's)
 てんとう虫(Marienwürmchen)
 眠りの精(Der Sandmann)
 ゆきのはな(Schneeglöckchen)
 牛飼いの別れ(Des Sennen Abschied)
 ミニョン(Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn)

「ロマンスとバラード 第4集(Romanzen und Balladen)」op.64
 兵士の花嫁(Die Soldatenbraut)(ダヌマン)
 捨てられた女中(Das verlassene Mägdlein)(ダヌマン)
 悲劇(Tragödie)
  Ⅰ. ぼくと駆け落ちして(Entflieh mit mir)(ボストリッジ)
  Ⅱ. 春の夜に霜がおり(Es fiel ein Reif in der Frühlingsnacht)(ボストリッジ)
  Ⅲ. 2人の墓の上には(Auf ihrem Grab)(ダヌマン&ボストリッジ)

〜休憩〜

歌曲集「ミルテの花」op.25より(from Myrthen)
 献呈(Widmung)(ダヌマン)
 自由な心(Freisinn)(ボストリッジ)
 くるみの木(Der Nussbaum)(ダヌマン)
 『西東詩集』-"酌童の巻"よりⅠ(Aus den Schenkenbuch des "Westöstlichen Divan" I)(ボストリッジ)
 『西東詩集』-"酌童の巻"よりⅡ(Aus den Schenkenbuch des "Westöstlichen Divan" II)(ボストリッジ)
 まだ見ぬ人(Jemand)(ダヌマン)
 2つのヴェネツィアの歌Ⅰ(Zwei venezianisches Lieder I)(ボストリッジ)
 2つのヴェネツィアの歌Ⅱ(Zwei venezianisches Lieder II)(ボストリッジ)
 はすの花(Die Lotosblume)(ダヌマン)
 ぼくの心はくらい(Mein Herz ist schwer)(ボストリッジ)
 ズライカの歌(Lied der Suleika)(ダヌマン)
 きみは花のよう(Du bist wie eine Blume)(ボストリッジ)
 東方のばらより(Aus den östliche Rosen)(ダヌマン)
 終りに(Zum Schluss)(ボストリッジ)

4つの二重唱曲(Vier Duette) op.34(ダヌマン&ボストリッジ)
 愛の苑生(Liebesgarten)
 求愛のセレナーデ(Liebhabers Ständchen)
 窓の下で(Unterm Fenster)
 家族の肖像(Familien-Gemälde)

~アンコール~
シューベルト(Schubert)/光と愛(Licht und Liebe) D352(ダヌマン&ボストリッジ)

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本来メゾソプラノのアンゲリカ・キルヒシュラーガーとボストリッジ&ドレイクによって、ヴォルフの「スペイン歌曲集」抜粋が演奏される予定だったのだが、キルヒシュラーガーが体調不良とのことで来日できず、代役にソフィー・ダヌマンを迎えて、オール・シューマン・プログラムに変更になった。
キルヒシュラーガーの「スペイン歌曲集」が聴けなくなったのは楽しみにしていただけあって本当に残念だが、迅速な対応で別プログラムを開催してくれただけでも有難いことである。

よく考えてみたら、このようにシューマンの独唱曲、重唱曲だけで一夜のプログラムを組むのは珍しいことではないだろうか。
かなり昔にエディット・マティスと小松英典がコルト・ガルベンのピアノでシューマン・プログラムを組んだのを聴いたことがあったが、それ以来だろうか。

代役を引き受けてくれたソプラノのソフィー・ダヌマン(発音は「デーンマン」ではないのだろうか?)は生で聴くのは初めてだが、CDではメンデルスゾーンやヴォルフの歌曲集にその名前があり、聴いていたことになる。
実際に聴いた彼女は古楽で活躍しているということもあるのだろう、癖のない清澄な声で丁寧に歌を紡いでいくリリック・ソプラノという印象である。
声量は必ずしも豊かというほどではないが、届かないわけではない。
だが、コンサートの最初のころはまだ硬さが感じられ、声が届ききっていない感じだった。
彼女の素晴らしいところは、その歌の丁寧さもそうだが、まずはその笑顔である。
ボストリッジがいつも難しい顔をしているから余計に目立つのかもしれないが、ダヌマンはステージへの出入りも含め、拍手に応じる時など、本当に気持ちのいい笑顔をしているのである。
芸の内容さえ良ければよいという考え方もあるだろうが、パフォーマーである以上、笑顔で微笑みかけてくれたら、悪い気は誰もしないだろう。
きっと素敵な人に違いないと思わせてくれる自然な笑顔の持ち主は、聴き手を視覚的にも心地よくさせてくれたのである。

今回のプログラムは、前半最初と後半最後に二重唱曲を置き、その間に独唱曲をはさむ形をとっていた(その他には前半最後の「悲劇Ⅲ」も二重唱曲)。

その二重唱曲は楽譜立てに楽譜を置いて歌われたが、そこで面白いことを発見した。
普段ソロだと気まぐれに歩き回るボストリッジだが、楽譜立ての前だと、多少動きはつけるものの、その場から移動しなかったのである。
楽譜を見なければならないという事情はあるだろうが、まっすぐ立って歌うボストリッジは新鮮だった(というか、それが普通のような気もするが)。
だが、独唱曲になると、やはり移動したり、上半身を反ったり折り曲げたりと、忙しい。
そうすることで彼の素晴らしい歌が生まれてくるのなら、その動きも許容しなければならないだろう。
だが、テキストの内容にもよるが、たまに意味もなくポケットに手をつっこんで歌うのは直した方がいい気もするが。

とはいえ歌に関してはやはりボストリッジ、素晴らしい。
シューマンのテキストを完全に自分のものとして、ドラマティックに表現する。
彼特有の声のユニークな美しさも相まって、シューマンの歌曲の様々な表情が分かりやすく表現される。
文化会館小ホールの親密な空間に彼の豊かな響きが満ちあふれるのは素晴らしい瞬間だ。
それから時々声色を変えて言葉の重みを加えるのも印象的だった。
例えば「母親の夢」では、眠る赤ちゃんに母親がうっとりと喜びをかみしめる一方で、外のカラスがいずれ自分たちの餌になるのさと歌う箇所があるが、そこでの苦み走ったような歌い方は、ボストリッジのテキスト解釈を分かりやすい形で表現したのだろう。

最初に歌われた「4つの二重唱曲」op.78の最初の2曲はムーアの引退コンサートでシュヴァルツコプフとF=ディースカウが披露したので知っていたが、男女二人だからこそのレパートリーもこうした優れた作品があるのだから、こういう二重唱の機会はもっとあってもいいのかもしれない。
この曲集の最後に置かれた「子守歌-病気で寝ている子供のために-」はピアノの響きがいかにもシューマネスクで、一度聴いただけで印象に残ったものだった。
久しぶりに今回聴いて、やはり個性的で優れた作品だなと思った。

「ロマンスとバラード 第4集」op.64は最後に3曲からなる「悲劇」という歌曲群があるのだが、なぜか3曲目のみ二重唱なので、こういう機会でもないとなかなか取り上げられない。
そういう意味でも今回の選曲はうれしい。
「悲劇」の2曲目「春の夜に霜がおり」はF=ディースカウがよく歌っていたので、懐かしく聴いた。
ボストリッジでさえF=ディースカウと比べると、まだダイナミクスの変化も大人しい方だった(どちらがいいということではないが)。

「ミルテの花」では有名曲ももれなく網羅して、短縮版としてよい選曲だった。
今回は歌わない方は上手のいすに座り、ほぼ1曲ごとに入れ替わるのだが、座っている時のボストリッジも体を左右に大きく曲げたりと自由さ全開だった。
だが、こうしてあらためてまとめて聴いてみると「ミルテの花」はやはりシューマンのういういしさが感じられて素敵な歌曲集だと感じた。

最後の「4つの二重唱曲」op.34は2曲目と3曲目が男を女の家に入れる入れないの駆け引きで面白い。
こういう機会でもないと聴けないので大いに楽しんだ。
4曲目の「家族の肖像」は2つの異なる世代のカップルの心温まる交流を歌っている。こういうテーマの歌曲は珍しいのではないか。

アンコールのシューベルト「光と愛」も美しい作品である。

ドレイクの安定した、かつ立体的なピアノがどれほどこのコンサートの成功に大きく寄与したことか。
今回もピアノの蓋はわずかに開けられただけだったが、繊細に歌を支える時でも音が薄くなってしまわず、絶妙のバランスを保っていたのである。

なお、このコンサートは、いずれ東京春祭のサイトで期間限定の映像配信がされる予定だそうだ。

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コメント

mixiをしています。畏敬すべき某マイミクさんが、このコンサートを聴いて狂喜乱舞していました。
普通に立っているボストリッジとは、確かに珍しいですね(笑)。

投稿: 田中文人 | 2014年4月14日 (月曜日) 15時09分

田中文人さん、こんばんは。
田中さんのマイミクさんも聴かれたのですね。
とても貴重な素敵なコンサートでした。
楽譜立ての前のボストリッジは、たまにダヌマンの方に顔を向けて歌ったりして、結構英国紳士でした(笑)

投稿: フランツ | 2014年4月14日 (月曜日) 21時35分

フランツさん、こんにちは。

素敵なシューマン歌曲の夕べでしたね。
ボストリッジは本当に個性的な人ですね。
私は映像でしか見たことがないですが、初めて見たときはびっくりしました。
それにしても椅子に座って待っている間にも体が動くとは(ダヌマンの歌に合わせて揺れてしまったのでしょうか)。

ひとつ前の記事で、ボストリッジのコンサートがHNKで放映される、と書いてくださっていたので、今からとても楽しみにしています。

ダヌマンも初耳の歌手でした。
ナクソスのHPでクープランを聴いてみました。
好みの声でした(*^^*)
古楽や宗教曲も好きなので、このCD買ってみようかなと思います。
声が好きだとどうしてもCDが欲しくなってしまいます。

投稿: 真子 | 2014年4月15日 (火曜日) 11時56分

真子さん、こんばんは。
ボストリッジは素晴らしい演奏家であることは確かなのですが、我が道を行くタイプのように思えます。ステージ上でのあの自由な振舞いが彼の名唱につながっているのだとしたら、受け入れるべきなのかもしれませんね。
NHKのBS放送でぜひご覧ください。私も再度見られるのを楽しみにしています(まだ7月ごろということしか決まっていないようですが)。

ダヌマンは素直な発声が心地よく感じられました。しかもステージマナーがとてもチャーミングでした。
Naxosでクープランをお聴きになられたそうですね。真子さんにも気に入っていただけたようですね。私も動画サイトでヘンデルを聴き、いいなぁと思いました。こうして新しい歌手を知ることが出来るのも楽しいものですね。

投稿: フランツ | 2014年4月16日 (水曜日) 02時08分

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