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ヴォルフ「あの季節だ!」を聴く

ヴォルフの53曲からなる「メーリケ歌曲集」の6曲目に置かれている曲です。
一般的には「春だ」「もう春だ」などと訳されるタイトルですが、Erは男性名詞(ドイツ語の名詞には男性、女性、中性の3種類あります)を受ける代名詞ですので、タイトルに「春」という言葉は入っていないのです。
ここではそんな原詩の雰囲気を少し感じていただけるように「あの季節だ!」としてみました。
本当は「彼だ!」でもいいのですが、日本語では春のことを「彼」とは言いませんから難しいところです。
ヴォルフの音楽は分散和音の華やかなピアノにのって、軽やかに上下する歌声が春の喜びをいっぱいに表現します。
ピアノ後奏の華やかさも聴きどころです。

Er ist's!
 あの季節だ!

Frühling läßt sein blaues Band
Wieder flattern durch die Lüfte;
Süße, wohlbekannte Düfte
Streifen ahnungsvoll das Land.
Veilchen träumen schon,
Wollen balde kommen.
Horch, von fern ein leiser Harfenton!
Frühling, ja du bist's!
Dich hab ich vernommen!
 春がその青いリボンを
 再び風になびかせる。
 甘い、馴染みの香りが
 予感に満ちて、地上をかすめる。
 すみれはもう夢見ている、
 じきに花開きたいのだ。
 ほら、遠くからかすかな竪琴の音!
 春よ、おまえなんだね!
 私にはおまえだと分かったよ!

詩:Eduard Friedrich Mörike (1804.9.8, Ludwigsburg – 1875.6.4, Stuttgart)
曲:Hugo Philipp Jakob Wolf (1860.3.13, Windischgraz – 1903.2.22, Wien)

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メーリケの詩の朗読(フリッツ・シュターフェンハーゲン)

ヴォルフの曲がいかに朗読と一致しているか分かります。

バーバラ・ボニー(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

ひんやりした質感のボニーの声が春の爽快感を素敵に歌っています。パーソンズはテクニックのうまさを存分に生かして雄弁な演奏で盛り上げています。

ディアナ・ダムラウ(S)&シュテファン・マティアス・ラーデマン(P)

ダムラウの細やかな語り口と余韻を感じさせる歌は魅力的です。ラーデマンも見事な演奏です。

アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)&ギュンター・ヴァイセンボルン(P)

ローテンベルガーは生き生きした表情で春の喜びを歌いあげています。ヴァイセンボルンは丁寧な演奏です。

ヴェルナー・ギューラ(T)&ヤン・シュルツ(P)

ギューラの全身全霊をこめた歌は感銘を受けます。シュルツも見事に盛り上げています。

小川明子(A)&山田啓明(P)

ゆったりとしたテンポでしっとりと歌い上げるのもいいものです。二人の演奏は息がぴったりです。

ソフィア・ラーション(S)&マノン・アブレット(P)

ラーションは懸命な歌いぶりが好感もてます。ピアノのアブレットはあのF=ディースカウの孫にあたるそうです。現在はF-Dの姓を使っているようです。

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コメント

フランツさん、こんにちは。

男性名詞ということは、春はドイツでは男性的なイメージなんでしょうかね。
日本人にとっての春は、四月。
桜や、春霞などのはかない暖かさのイメージですが、ドイツで春といえば五月でしたね。
一気に花が開き、生命の躍動を私達より感じるのかもしれませんね。
ピアノパートもそう言っているようですものね。

さて演奏ですが、ボニーという歌手は計算され尽くした緻密性がありながら、どこまでも自然な歌として聞かせる素晴らしい歌手ですね。
さわやかに吹き抜ける春の風でした。

ローテンベルガーも大好きな歌手です。
春の昼下がり、たんぽぽに囲まれているような演奏でした。

ディアナ・ダムラウは初めて聞きましたが、CDが出ていたら買おうかなと思うほど気に入りました。
カーテンをそよそよと揺らすそよ風のような声だと思いました。

小川さんのアルトの声は、ソプラノ陣と違った味わいがありますね。
ひだまりの中で聴いているような感じがしました。

ソフィア・ラーションも初めて聴きました。
フランツさんがおっしゃるように懸命な歌いぶりは、野のすみれのようでした。
ピアニストが、ディースカウさんのお孫さんというのも感慨深いです。

ヴェルナー・ギューラは、この写真ではちょっとプライさんに似ているな~と思い聴いてみると、演奏はちょっとディースカウさんの要素を感じました(笑)

春らしい素敵な曲のご紹介ありがとうございました。

投稿: 真子 | 2014年4月14日 (月曜日) 10時52分

真子さん、こんばんは。
今回も丁寧なご感想を有り難うございます!うれしく拝見しました。

名詞の性って不思議ですよね。月はドイツ語だと男性、フランス語だと女性なのは国民性の違いなんでしょうかね。面白いなぁと思います。
おっしゃるようにドイツの春は5月で、かなり劇的な訪れらしいですね。待ちに待った感じがヴォルフの音楽でよく表現されているように思います。

各歌手のコメントを有り難うございました。
それぞれの良さがありますよね。

たんぽぽに囲まれているようなローテンベルガー、カーテンを揺らすそよ風のようなダムラウ、など真子さんの比喩は素晴らしいですね。
すごく分かりやすくて、納得です。

ギューラは確かにプライに少し似ていますね。そういえばプライがこの曲を歌ったのも素晴らしかったです。

投稿: フランツ | 2014年4月14日 (月曜日) 21時32分

フランツさん、こんにちは。

>そういえばプライがこの曲を歌ったのも素晴らしかったです。
というのは、以前に名盤だとおっしゃっていた、ムーア伴奏のメーリケ歌曲集のLP(DECCA)に入っている演奏でしょうか。
やっと、レコードプレーヤーを購入しましたので、いの一番にこのメーリケを聴きました。
のっけから「あ~、いい声やなあ~♪」とため息をつきました。

若き日のプライさんの、屈託のない伸びやかな声は、使い古された表現ですが、理屈抜きに歌を聴く喜びを与えてくれます。
ドイツリートって、こんな楽しく美しいのだと。

「あの季節だ!」も、待ち望んだ春の喜びを、沸き立つ思いを止められないという感じで歌っていますね。
これはドイツ人ヘルマン・プライの、心からの想いなのかもしれません。
聴いているこちらまでて嬉しくなる歌です。
そして、ムーアのピアノ、いいですね。

ところで、DECCAのLPはCD化されているものが少ないように思います。
私が知らないだけかもしれませんが、「白鳥の歌」「シューベルト&シューマン歌曲集」「偉大なる名歌手たち ヘルマンプライ」しか手に入っていません。
他にCDになったものをご存知でしょうか?
もし、未CD化なら、このヴォルフ&メーリケ始め、R・シュトラウスもCDにして欲しいですね。

気のせいか、同じ時期の録音でも、EMIに入れたものよりDECCAに入れたものほうが、感情が激しく出ているように思います。
「白鳥の歌」然り、R・シュトラウス然り。
プロデューサーの意向か、プライさんの思いかは分かりませんが。

投稿: 真子 | 2014年4月23日 (水曜日) 14時15分

 コメントを差し上げるのが遅くなりました。
 XPから新しいWindows に乗り換えるのにバタバタしていて久しぶりに貴サイトを訪問させていただいた次第です。
 春の到来を喜ぶ歌を楽しませていただきました。
 特に今回は小川明子さんのアルトに耳を傾けました。
 因みにコメントで真子さんがDECCAでの録音を味わっておられるとのことですが、私もそうです。
 プライの声は私もDECCAが一番好きです。かつてはレコード会社によって録音の性質は全く違いましたし、それを楽しんでもいましたが、CDでの復刻盤ではすでにかつてのLP時代の味わいは残念ながら薄れているようにも思います。どうでしょう?

投稿: Zu-Simolin | 2014年4月23日 (水曜日) 16時49分

真子さん、こんばんは。
レコードプレーヤーを買われたのですね。これでますます楽しめますね。プライの「あの季節だ」はおっしゃるとおりDECCAのLPに入っている演奏です。こういう曲を歌うプライはまさに本領発揮という気がします。

>理屈抜きに歌を聴く喜びを与えてくれます。

それが一番大切なことですよね。そういう意味でもプライは稀有の存在だとあらためて思います。

>「あ~、いい声やなあ~♪」

真子さんの心からの一言ですね!
プライを聴くといつもそういう気持ちにさせてくれるのが凄いところですね。

>ムーアのピアノ、いいですね。

ですよね(^^)ムーアの奏でる音はどうしてこれほど魅力的なのだろうとよく思います。

>他にCDになったものをご存知でしょうか?

私の知る限りではヴォルフもシュトラウスも未CD化なんですよね。DECCAさん、気付いてくださいと祈ることにしましょう。あの「白鳥の歌」の情熱は素晴らしかったですね。

投稿: フランツ | 2014年4月24日 (木曜日) 03時21分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
新しいパソコンに変えられて、快適にお使いのことと思います。
「あの季節だ」を楽しんでいただけたようで良かったです!
小川明子さんは実はこの曲を2回アップしていて、この記事に掲載したのよりもっと若い頃の演奏は、声がすっきりとしていて魅力的です。機会があれば探してみてください。

プライをDECCA盤で楽しんでおられるとのこと、確かにプライ初期の噴き出てくるような声の充実は素晴らしいですね。「白鳥の歌」の熱い歌唱は記念碑的な記録だと思います。
ムーアとのヴォルフやシュトラウス歌曲集のLPがいずれ復活するといいのですが。

>CDでの復刻盤ではすでにかつてのLP時代の味わいは残念ながら薄れているようにも思います。

そのように感じる方も多そうですね。私はあまりLPとCDの違いに気付かない方なので、よく分からないのですが、CDは人間の耳には聞こえないとされる音域をカットしているそうなので、やはり敏感な方には分かるのでしょうね。

投稿: フランツ | 2014年4月24日 (木曜日) 03時22分

フランツさん、こんばんは。

こちらでご紹介いただいたディアナ・ダムラウの「この季節だ!」がとても良かったので、CDを注文しました。
ピアニスト名と、ライブであることをを手がかりに調べたら、2005年のザルツブルグのライヴのCDがありました。
「後期ロマン派リート集」にこの曲が入っていました。
同じ音源だといいのですが・・・。

ところでこのダムラウは、夜の女王のアリアで有名な人だったんですね。
以前何度も、YouTubeで素晴らしいコロラトゥーラを視聴していましたが、まさか同じ人だと思いませんでした。
しかし、「あの季節だ!」の最後の高音の、余裕ある響きを聞けば納得です。

いつも、素晴らしい演奏をご紹介くださって感謝です。

投稿: 真子 | 2014年4月25日 (金曜日) 19時37分

真子さん、こんばんは。
ディアナ・ダムラウのCD、探して買われたそうですね。彼女の歌、気に入っていただけて良かったです!このCDは後期ロマン派の作品が集められた素敵な選曲ですので楽しんでくださいね。
彼女はおっしゃるようにもともとコロラトゥーラを操る人なので夜の女王などを得意としていますね(YouTubeでの歌唱も素晴らしいですね)。このCDではシュトラウスの"Amor"でその持ち味が生かされています。
ただ彼女の素晴らしいところは、技巧だけでなく、リリカルな表現にも秀でていることで、それゆえに幅広いレパートリーをもっているのだと思います。同じ人とは思えないほどの多様な魅力をもった歌手ですね。

投稿: フランツ | 2014年4月26日 (土曜日) 00時18分

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