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R.シュトラウス「春」(「四つの最後の歌」より)を聴く

R.シュトラウス作曲の「四つの最後の歌」の第1曲目で、ヘルマン・ヘッセの詩による作品です。
シュトラウス晩年の作品群であり、軽やかさよりは深みが感じられます。
春の音楽でこれほど爽やかさと無縁の濃厚な音楽はまれではないでしょうか。

Frühling
 春

In dämmrigen Grüften
Träumte ich lang
Von deinen Bäumen und blauen Lüften,
Von deinem Duft und Vogelsang.
 薄暗い墓穴で
 私は長いこと夢見ていた、
 おまえの木々や青い風のこと、
 おまえの香りや鳥の歌のことを。

Nun liegst du erschlossen
In Gleiß und Zier,
Von Licht übergossen
Wie ein Wunder vor mir.
 今おまえは姿をあらわし、
 輝きと装飾をまとい、
 光を注がれ、
 奇跡のように私の前にいるのだ。

Du kennst mich wieder;
Du lockst mich zart.
Es zittert durch all meine Glieder
Deine selige Gegenwart!
 おまえは再び私に気付き、
 やさしく私を誘う。
 私の全身に震えが走る、
 おまえがここにいる幸せに!

詩:Hermann Hesse (1877.7.2, Calw - 1962.8.9, Montagnola, Switzerland)
曲:Richard Strauss (1864.6.11, München - 1949.9.8, Garmisch-Partenkirchen, Germany)

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詩の朗読(ズザンナ・プロスクラ)

シュトラウスは詩のリズムにはあまりこだわっていないのがわかります。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)ベルリン放送交響楽団;ジョージ・セル(C)

シュヴァルツコプフの艶やかで濃密な歌唱はいつ聴いても素晴らしいです。

グンドゥラ・ヤノヴィツ(S)ベルリン・フィル;ヘルベルト・フォン・カラヤン(C)

気品を感じさせるヤノヴィツのつやつやした名唱です。

ルチア・ポップ(S)シカゴ交響楽団;ゲオルク・ショルティ(C)(+2曲目)

ライヴ映像。ポップのチャーミングな美声と美貌に魅せられます。

エリー・アーメリング(S)コンセルトヘボウ管弦楽団;ヴォルフガング・サヴァリシュ(C)

言葉さばきの巧みさがいかにもアーメリングらしく見事です。

アーリーン・オジェー(S)ヴィーン・フィル;アンドレ・プレヴィン(C)

オジェーの澄んだクリスタルヴォイスがオケの響きの中に埋もれずしっかり主張しているのが素晴らしいです。

ジェシー・ノーマン(S)ゲヴァントハウス管弦楽団;クルト・マズア(C)

ノーマンのあふれんばかりの豊麗な歌の輝きがまぶしいほどです。

ソイレ・イソコスキ(S)共演者名不明

2005年ライヴ映像。バランスのとれた知的な歌唱で私にとって掘り出し物の名演でした!

ニーナ・ステンメ(S)コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団;アントニオ・パッパーノ(C)

ステンメのどこをとってもむらのない深みのある声は素晴らしいです。

フェリシティ・ロット(S)スコットランド国立管弦楽団;ネーメ・ヤルヴィ(C)

ロットの細身で優美な歌唱が楽しめます。

ヴァルトラウト・マイアー(MS)ヨーゼフ・ブラインル(P)

ピアノ伴奏版です。マイアーはもともと豊かな声の持ち主ですが、ピアノとの共演でもその豊かな声を惜しげもなく披露していますね。ブラインルも雰囲気のある演奏です。

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二期会/プッチーニ作曲「蝶々夫人」(2014年4月27日 東京文化会館 大ホール)

東京二期会オペラ劇場《二期会名作オペラ祭》
「蝶々夫人」

オペラ(トラジェーディア・ジャポネーゼ)全3幕
日本語字幕付き原語(イタリア語)上演
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ、ルイージ・イッリカ
原案:デイヴィッド・ベラスコ「マダム・バタフライ」
作曲:ジャコモ・プッチーニ

2014年4月27日(日)14:00 東京文化会館 大ホール
第1幕:50分-休憩:25分-第2・3幕:80分

蝶々夫人:木下美穂子
スズキ:小林由佳
ケート:谷原めぐみ
ピンカートン:樋口達哉
シャープレス:泉 良平
ゴロー:栗原 剛
ヤマドリ:鹿野由之
ボンゾ:佐藤泰弘
神官:渥美史生
子供:今野后梨

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京都交響楽団
指揮:ダニエーレ・ルスティオーニ

演出:栗山昌良

舞台美術:石黒紀夫
衣裳:岸井克己
照明:沢田祐二
舞台設計:荒田 良
合唱指揮:佐藤 宏
演出助手:澤田康子
舞台監督:菅原多敢弘
公演監督:高 丈二

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二期会のオペラ「蝶々夫人」の最終日を見た。
御年88歳の長老、栗山昌良の演出は、「日本人で良かった」と感じることの出来る美しさで満ちていた。
ステージも衣装も紛れもなく日本の美を自然に表現しており、外国の演出家ではこうはいくまいと思える細やかな所作も素晴らしい。
日本人としての矜持を徹底的に追求して出来上がった舞台は観客をなんの違和感もない光景に導いてくれた。
外国の演出家には、栗山氏の演出を見てほしい。
もちろん偽物の和風蝶々夫人がいけないわけではない。
プッチーニだってそこまで厳密なものを求めたわけでもないだろうし。
だが、この上演を見たうえで、新しいものをつくるなりしてほしいと思う。
それほど日本人の心に寄り添った演出であり、本物の舞台であった。

歌手たちは脇役も含めてよく揃っていたと思う。
みなそれぞれの持ち場をしっかり演じていた。
シャープレスの泉 良平は個性的な声だが、人情味のある雰囲気は充分に伝わってきたし、スズキの小林由佳も抑制した表現や顔をそむける所作などが美しかった。
ゴローの栗原 剛はこにくたらしい感じを実に巧みに演じていた。
にっくきピンカートンの樋口達哉もその華やかなオーラで聴き手の心をつかんだ。
だが、やはり蝶々夫人を演じた木下美穂子の素晴らしさに尽きるだろう。
ピンカートンを信じ、愛し、けなげに待ち続ける心の美しさがそのまま彼女の歌唱からも伝わり感動的だった。
「ある晴れた日に」の後の猛烈な拍手は会場の皆が同じように思っていた証だろう。
声をどこまでも維持する見事さも特筆したい。
彼女の歌う蝶々夫人も今後これまでの歌手たちの伝説に連なっていくのかもしれない。

若手イタリア人指揮者のダニエーレ・ルスティオーニの意欲的な指揮に導かれて、東京都交響楽団は立体的な響きをつくりあげていた。

どこまでも純日本的な極めて美しい舞台を見て、私の涙腺もまたやられてしまったのであった。

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新国立劇場バレエ団/ファスター[日本初演]、カルミナ・ブラーナ(2014年4月19&26日 新国立劇場 オペラパレス)

ファスター[日本初演]/カルミナ・ブラーナ

2014年4月19日(土)18:00 新国立劇場 オペラパレス
2014年4月26日(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス
(40分-休憩25分-65分)

「ファスター」

4月19日(土)
闘う:小野絢子、福岡雄大
投げる:福田圭吾、米沢唯、寺田亜沙子
跳ぶ:本島美和、菅野英男、奥村康祐
チームA:五月女遥、石山沙央理、盆子原美奈、広瀬碧
チームB:髙橋一輝、小野寺雄、宇賀大将、野崎哲也
シンクロ:今村美由起、若生愛、川口藍、原田舞子
マラソン:五月女遥 ほか全員

4月26日(土)
闘う:奥田花純、タイロン・シングルトン(バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
投げる:八幡顕光、堀口純、丸尾孝子
跳ぶ:長田佳世、小口邦明、輪島拓也
チームA:竹田仁美、石山沙央理、盆子原美奈、広瀬碧
チームB:髙橋一輝、小野寺雄、宇賀大将、野崎哲也
シンクロ:今村美由起、若生愛、川口藍、原田舞子
マラソン:竹田仁美 ほか全員

「カルミナ・ブラーナ」

4月19日(土)
運命の女神フォルトゥナ:湯川麻美子
神学生1:菅野英男
神学生2:八幡顕光
神学生3:タイロン・シングルトン(バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
恋する女:さいとう美帆
ローストスワン:長田佳世

4月26日(土)
運命の女神フォルトゥナ:米沢唯
神学生1:奥村康祐
神学生2:福田圭吾
神学生3:福岡雄大
恋する女:小野絢子
ローストスワン:本島美和

芸術監督・振付:デヴィッド・ビントレー
Artistic Director / Choreographer : David Bintley

「ファスター」
音楽:マシュー・ハインドソン
Music : Matthew Hindson
衣裳:ベックス・アンドリュース
Costumes : Becs Andrews
照明:ピーター・マンフォード
Lighting : Peter Mumford

「カルミナ・ブラーナ」
音楽:カール・オルフ
Music : Carl Orff
装置・衣裳:フィリップ・プロウズ
Designs : Philip Prowse
照明:ピーター・マンフォード
Lighting : Peter Mumford

ソリスト歌手:
SoloSingers
安井陽子(ソプラノ)
Yasui Yoko
高橋淳(テノール)
Takahashi Jun
萩原潤(バリトン)
Hagiwara Jun
(『カルミナ・ブラーナ』)

合唱:新国立劇場合唱団(『カルミナ・ブラーナ』)
Chorus : New National Theatre Chorus

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
Orchestra : Tokyo Philharmonic Orchestra
指揮:ポール・マーフィー
Conductor : Paul Murphy

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新国立劇場バレエ団の「カルミナ・ブラーナ」ほかを2回にわたり見てきた。
カール・オルフの作品「カルミナ・ブラーナ」によるバレエは今期でバレエ団の芸術監督を離れるデヴィッド・ビントレーの振付作品で、再演である。
一緒に上演されるのが2012年のロンドンオリンピックを祝して振付られた「ファスター」で、今回が日本初演となる。

まずは40分ほどの作品「ファスター」である。
様々なアスリートが登場して、それぞれの競技をスピーディーに演じていく。
照明も競技ごとに工夫されている。
そして、大詰めは全員がマラソンランナーとなり(着替えが忙しかっただろう)、マスゲームのように大勢で動いたり、ばらばらに動いたり変化を付けて見るものを楽しませる。
時に準備運動のような所作も見られ、競歩の人がにこやかに横切っていくなど、ビントレーのユーモアが感じられる。
中ほどで「闘う」2人がゆるやかに舞う場面があるほかはほぼリズミカルで急速な場面の連続で、一糸みだれず音楽にのった演技はバレエ団の高い技術と訓練の賜物だろう。
それにしてもダンサーたちはステージ全体をぐるぐる走りまくる。
見ている方は楽しいが、きっと演じている人たちは大変だろう。
だが、ビントレーが去った後も再演を重ねてほしいものである。

そして休憩後は目当ての「カルミナ・ブラーナ」である。
前回「カルミナ・ブラーナ」を鑑賞したのが2010年5月、そして、新国立劇場バレエ団をはじめて鑑賞したのもその時だったので、懐かしさを感じた。

「カルミナ・ブラーナ」の内容については前回の感想文をご覧ください。
 こちら

歌手、合唱団、オーケストラ、バレエ団、それぞれが持てる力を出し切って、壮大だがしゃれたバレエをつくりあげていたことにまず感銘を受ける。
振付師としてのデヴィッド・ビントレーの代表作の一つと言ってもいいだろうし、運命の女神役の湯川麻美子(4年前も演じていた)にとっても代表的な役と言えるのではないか。
ビントレー自身が語っているところでは、最初日本でこの作品を上演することになった際、イギリスの文化が盛り込まれた振付に対して理解されるか不安があったという。
だが、実際そのネタもとを知らなくても充分にそのメッセージとストーリーが伝わってくる普遍性があると感じた。
バレエでは3人の神学生が3つのパートそれぞれで若さを謳歌し、酒、喧嘩、女といった甘酸っぱい思いを体験する。
最後に神学生が運命の女神フォルトゥナに足蹴にされてすごすごと引っ込んでいくところは、運命に逆らえない人生を感じさせる。

神学生いずれのキャストも見事だったが、やはり主役は運命の女神だろう。
今回初役だった米沢唯は演技自体は見事だと思ったが、やはりこの非情な女神を演じるには可愛らし過ぎる気がする。
湯川さんのキレとオーラは誰にも真似できない境地に達していた。

オケも合唱も大健闘。
そして独唱者3人も素晴らしく、特にソプラノの安井陽子はリリックで美しい声がよく伸びて、最後に歌う曲のハイトーンも見事に決めて素晴らしかった。
テノールの高橋淳はこの曲のようなキャラクターピースが合っている。
もう少しでやり過ぎになるぎりぎりぐらいの思い切った表情を聴かせてくれた。
私は今回2回見たが、1階席前方の時よりも3階後方右端の安価な席の方が音が迫力をもって伝わってきた。
「ファスター」も1階席の方がダンサーの細かい表情や息遣いなどは分かって楽しいのだが、全体としてのフォーメーションの美しさは3階席の方が圧倒的に素晴らしかった(作品にもよるのだろうが)。
近い席と遠い席で1回ずつ見ると、それぞれの良さがあることを発見できた。

両演目とも数年後にまた再演されることを祈りたい。

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Every Little Thing/Concert Tour 2014~FUN-FARE~(2014年4月20日 市川市文化会館、7月5日 東京国際フォーラム ホールA)

Every Little Thing Concert Tour 2014~FUN-FARE~

2014年4月20日(日)17:00(終演は19:30頃) 市川市文化会館
2014年7月5日(土)18:00(終演は20:30頃) 東京国際フォーラム ホールA

※以下ネタバレがありますので、これからライヴ参戦される方はお気をつけ下さい。


セットリスト

1. BFF
2. Take Me Tell Me
3. Sympathy

4. stray cat

-Medley-
5. Grip!
6. ON AND ON (Jazztronik Remix)
7. Season

8. 五月雨
9. ハリネズミの恋
10. キミト

11. START
12. Graceful World
13. NEROLI
14. Mighty Boys (Instrumental)
15. ファンダメンタル・ラブ

16. Shapes Of Love
17. 出逢った頃のように (アレンジ・ヴァージョン)

18. 一日の始まりに…

-ENCORES-
1. fragile (ELTの二人のみによる演奏)

2. Dear My Friend
3. 愛の謳

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Every Little Thingが今年もツアーを行っている。
11thオリジナルアルバム「FUN-FARE」(fanfareと楽しみのfunをかけている)が2月19日にリリースされ(軽快な曲の多い素敵なアルバム!)、それをひっさげたツアーが2月22日の伊勢原市文化会館を皮切りに全国各地で催されている。
伊勢原は若干遠いので、今回はじめて千葉県の市川市文化会館に出かけてきた。
総武線の本八幡(もとやわた)駅から徒歩10分の場所である。
スクリーンに映写されるライヴ開始を告げる動画はいつもCGで町並みなどが描かれていることが多いのだが、今回は持田さんが出演していて、その動画と連動して第1曲目「BFF」 (Best Friend Foreverの略らしい)が歌われる。
そしてその「BFF」でなんと持田さんはヘッドセットをつけてダンスをしながら歌うのである。
それもこれまでの彼女のなんとなくの踊りというレベルを超えた、かなり本格的なダンスなのが驚きであり、うれしいサプライズでもあった。
そのまま3曲目まで同じようにダンスが披露されたが、一番徹底していたのは最初の「BFF」だった。
それはダンサブルな曲調によるところも大きいのだろう。
なんでもオランダ人の作家たちによる作品らしく、洋楽のテイストがこれまでのELTの楽曲よりも強く感じられ、新鮮であった。
「Take Me Tell Me」はメナードのCMでも流れているが、HIKARIさんらしい、「ハイファイメッセージ」を思わせる楽曲で、聴いていてわくわくする。
「Sympathy」は千葉銀行のイメージソングで、トークで触れられていたところによると、銀行でも流しているらしい。
ちょっとリズムが凝っていて、音の跳躍が多い可愛らしい楽曲に仕上がっている。
この3曲は前述のアルバム内でも出色の出来栄えと感じた。
持田さんは今回声が力強い。
特に高音の張りは気持ちよいほど。
ただ時々音程がフラットする傾向があり(特に低音域で)、彼女聴力が弱っていなければいいが。

「stray cat」や「五月雨」「Graceful World」など懐かしい楽曲も披露されて嬉しかったが、どうやらリクエストに応えた選曲のようだ。
メドレーはいつもは五十嵐さんの楽曲を3曲続けることが多かったが、今回は「Season」のみ五十嵐さんの曲という珍しいパターンだった。
だが、前回のツアーでも披露した「ON AND ON」はシングルのカップリングに収録されているリミックスヴァージョンを披露するなど、工夫の跡が感じられる。
それにしても「Season」はごく初期の曲なので本当に懐かしく、聴けたのが貴重に感じられた。
しかもシングル収録のオリジナルヴァージョンだったのが嬉しい。

それからアルバムの最後に収められている「キミト」はほのぼのとしたポップな楽曲で心地よい。
こういう曲を歌う持田さんがまた魅力的だ。

「NEROLI」は持田さんのアーティストとしての実力のほどを実感させられる。
こういうダークな曲調にも自身の声をすっと合わせてしまうのは大したものである。

「Mighty Boys」は伊藤さんのインスト曲で、この時が持田さんの衣装替えのタイミングである。
この曲、ノリノリではじけていて、無条件に楽しい。
こういうタイプの曲も伊藤さんは書くのかとちょっと驚くほど。

そして、再び持田さんが登場すると、これまた懐かしい「ファンダメンタル・ラブ」ではっちゃける。
この曲、歌うのが難しそうだが、シングルリリース時よりも持田さんの歌いぶりが安定している気がする。
やはり彼女も進化しているのである。

そして、その後は定番2曲が続き、「Shapes Of Love」では、とうとう二人のメッセージ付きカラーテープをゲット出来た(これまでは席が後ろすぎて届かなかったのだ)。
「出逢った頃のように」は最近よく披露される聴衆との掛け合いありのアレンジ・ヴァージョンである。

そして正規のプログラム最後の曲は、スタッフで話し合って決めたという「一日の始まりに…」だった。
この曲地味かもしれないが、つくづくいい曲だと感じた。

そしてアンコールの1曲目ではサポートメンバーを除いたELT二人だけによる「fragile」が披露された。
伊藤さんのアコースティックギターだけに支えられた持田さんの歌がまたいいのである。
こういう形態はなかなかないので貴重だし、演奏も素晴らしかった。

その後恒例のタオル投げがあったが、ゲットした人が持田さんの誕生日に結婚したばかりとのことで、お客さんみなで歌を催促。
そこで「恋文」と「UNSPEAKABLE」をワンコーラス披露してくれたのがうれしい。
そして「Dear My Friend」で盛り上がった後、最後に「愛の謳」でしっとり締めくくった。

Elt_20140420←戦利品。「今日は来てくれてどうもありがとう!!/ふぁんふぁーれーい 年女っ/さんきゅう~/2014、ツアー始まりました」

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(2014年7月6日追記)

7月5日(土)18時開演の東京国際フォーラム ホールAでの公演に出かけた。
セットリストは市川公演と全く同じ。
今回が過去のツアーを含めて350回目に当たる記念の日ということで、アンコールの「fragile」後のMCの時に客席も含めて記念撮影が行われた。
さらにもう1つの発表があり、ELTが2014年12月のホノルルマラソンのオフィシャルアーティストに決定し、持田さんも走るそうだ。
ちなみに伊藤さんは「膝に難があって(笑)」と見守る側に回るそう。

この日の歌唱は全体的に素晴らしかった。
WOWWOWの収録があったということも関係しているのかもしれないが、どの曲も力強さが感じられ、私が生でELTを聴きはじめてから最も素晴らしい出来だったように感じた。
音程もかなり改善されていた。
「キミト」を歌う段取りで間違えて持田さんが「きみの て」を歌いますと言ってしまい、実際にバンドが即興で演奏しだした為、引っ込みが付かなくなり、「歌詞が出てこない」とあせりながらも、一節歌ってくれたのはうれしいハプニングだった。

それにしてももう中堅といってもいい二人、ライヴの進行も実にうまくこなす。
ELTは全力で観客を楽しませ、観客もELTを全力で盛り上げ、相思相愛の充実感に満ちた楽しいライヴだった。
Elt_funfare_2014

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ナタリー・デセイ(ドゥセ)&フィリップ・カサール/デュオ・リサイタル(2014年4月14日 サントリーホール)

ナタリー・デセイ(ドゥセ)&フィリップ・カサール デュオ・リサイタル

2014年4月14日(月)19:00 サントリーホール

ナタリー・デセイ(ドゥセ)(Natalie Dessay)(Soprano)
フィリップ・カサール(Philippe Cassard)(Piano)

クララ・シューマン(C.Schumann)作曲
美しいために私を愛するのなら(Liebst du um Schönheit)作品12-2
ひそやかな語らい(Geheimes Flüstern)作品23-3
彼らは互いに愛し合っていた(Sie liebten sich beide)作品13-2
風雨の中を彼はやって来た(Er ist gekommen in Sturm und Regen)作品12-1

ブラームス(Brahms)作曲
ひばりの歌(Lerchengesang)作品70-2
私の歌(Meine Lieder)作品106-4
秘めごと(Geheimnis)作品71-3

デュパルク(Duparc)作曲
旅への誘い(L'Invitation au voyage)
恍惚(Extase)

R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
私の心は迷う(Ich schwebe)作品48-2
すいれん(Wasserrose)作品22-4
夜(Die Nacht)作品10-3
春のひしめき(Frühlingsgedränge)作品26-1

~休憩~

フォーレ(Fauré)作曲
夢のあとに(Après un rêve)作品7-1
月の光(Clair de lune)作品46-2
牢獄(Prison)作品83-1
マンドリン(Mandoline)作品58-1
ひめやかに(En sourdine)作品58-2

プーランク(Poulenc)作曲
偽りの婚約(Les Fiançailles pour rire)
 1.アンドレの貴婦人(La Dame d'André)
 2.草の中に(Dans l'herbe)
 3.飛んでいる(Il vole)
 4.私の屍は手袋のように柔らかい(Mon cadavre est doux comme un gant)
 5.ヴァイオリン(Violon)
 6.花(Fleurs)

ドビュッシー(Debussy)作曲
現れ(Apparition)
アリエルのロマンス(Romance d'Ariel)

~アンコール~
ショーソン(Chausson)/はちどり(Le colibri)
ラフマニノフ(Rachmaninov)/ここは素晴らしい場所(Zdes′ khorosho)Op.21-7
ドリーブ(Delibes)/歌劇「ラクメ(Lakmé)」より〜あなたは私に一番美しい夢をくれた

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世界の歌姫ナタリー・ドゥセの日本初リサイタルをサントリーホールで聴いた。
ちなみに、彼女の名前、「デセイ」という表記が一般的のようだが、何度かネットラジオで聞いた限りでは「ナタリ・ドゥセ」というのが原音に近い。
以下の動画の6:17あたりから彼女自身と司会者の2人が「ナタリ・ドゥセ」と発音しているのを確認することが出来る。

ドゥセの歌曲リサイタルはドイツリートから始まった。
しかも、最近取り上げられる機会も増えてきたクラーラ・シューマンによる作品4曲である。
どちらかというと素直でつつましやかで内面的な曲調の作品を選んだドゥセの意図は想像するしかないが、オペラでの超絶技巧とは一線を画した歌を歌おうという決意のようなものもあるのではないだろうか。

続くブラームスの3曲もひそやかな美しさをもった佳品であり(私の大好きな3曲でもあった!)、ドゥセの披露したいドイツリートがこれらの小さく咲く花にあるのが想像される。
そしてデュパルクで官能の響きに包み、前半最後はシュトラウスのやはり重く激しい曲を避けた選曲で締めくくる。

休憩をはさんで、今度はドゥセのお国もので、フォーレ、プーランク、ドビュッシーの名品が歌われたが、フォーレの「牢獄」などいくつかが重い曲である以外はおおむね特有の軽やかさをもった作品が多い。

ドゥセが数々のオペラで魅せたのとは全く異なる側面を披露しようとしているように感じられた。

さて、ステージに登場したドゥセは体のラインにぴったりな輝くドレスに身を包み、シンプルだがゴージャスなオーラを発散していた。
彼女は風邪をひいていたのだろう、声がしばしばかすれ(特にソットヴォーチェで)、曲間でも咳をしていた。
だが、一流の歌姫は肝心の聴かせどころでは朗々とした美声を響かせるのがさすがと思った。
高く透明でよく響く彼女の声は天性のものだろう。
この声の魅力にあらがうことは出来ない。
聴き手はまず、その声の魅力にとらえられる。
しかし、それだけではない。
彼女のディクションはお国ものだけでなく、ドイツリートでもしっかりしていた。
彼女はここぞというところではもちろんボリュームをあげてホールを包み込むが、むしろこのリサイタルでは張りあげない声の表現にも美質があったように感じられた。
抑制した声を維持している時のホールの響きに包まれる素晴らしさ。
ダイナミクスを自在にコントロール出来る彼女だからこその世界だろう。
これで調子が良かったらどんなに良かったろうと思うが、彼女は出来る範囲で最善のことはしたと思う。
時折声がかすれながらも決して投げやりにならずに丁寧に歌を紡いでいった。
そのことにも感銘を受けた。
また、彼女は歌いながら腕をひらひら動かしたり、体をくねらせたりしていたのが印象的だった。

プーランクの「ヴァイオリン」での色気のある表現がとりわけ素晴らしかった。
アンコールでラフマニノフのロシア語歌曲まで披露したのには驚いた。
語学の才能に恵まれているのだろう。

今回、彼女の共演者として同行したのはフランスのフィリップ・カッサール。
彼がドゥセを歌曲の世界(特にドビュッシー)に引き寄せたとのことで、我々はカッサールに感謝せねばならない。
そして、カッサールのピアノの響きの素晴らしさもまた特筆すべきものだった。
あのサントリーの大ホールを完全にコントロールしきったピアノは、ドゥセを支えると共に、各歌曲の核心を伝えるものだった。
小さな曲のつらなりが完結しながらつながっていく様はカッサールの豊かな音楽性によるところが大きいと思う。
ソロも伴奏も自在にこなすこのピアニストに今後注目していきたい。

大好きなブラームスや馴染みの薄かったC.シューマンの歌曲、さらにネイティヴによる美しい発音によるフランス歌曲の数々を、オペラスターによって聴けたのは得難い機会だった。

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ソフィー・ダヌマン&イアン・ボストリッジ&ジュリアス・ドレイク/東京春祭 歌曲シリーズ vol.14(2014年4月12日 東京文化会館 小ホール)

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2014-
東京春祭 歌曲シリーズ vol.14
ソフィー・ダヌマン(ソプラノ)&イアン・ボストリッジ(テノール)

2014年4月12日(土)18:00 東京文化会館 小ホール

ソフィー・ダヌマン(Sophie Daneman)(Soprano)
イアン・ボストリッジ(Ian Bostridge)(Tenor)
ジュリアス・ドレイク(Julius Drake)(Piano)

シューマン(Robert Schumann)作曲

4つの二重唱曲(Vier Duette) op.78(ダヌマン&ボストリッジ)
 舞踏歌(Tanzlied)
 彼と彼女(Er und Sie)
 あなたを想う(Ich denke dein)
 子守歌-病気で寝ている子供のために-(Wiegenlied am Lager eines kranken Kindes)

5つのリート(Fünf Lieder) op.40(ボストリッジ)
 においすみれ(Märzveilchen)
 母親の夢(Muttertraum)
 兵士(Der Soldat)
 楽師(Der Spielmann)
 露見した恋(Verratene Liebe)

「子供のための歌のアルバム」op.79より(from Liederalbum für die Jugend)(ダヌマン)
 もう春だ(Er ist's)
 てんとう虫(Marienwürmchen)
 眠りの精(Der Sandmann)
 ゆきのはな(Schneeglöckchen)
 牛飼いの別れ(Des Sennen Abschied)
 ミニョン(Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn)

「ロマンスとバラード 第4集(Romanzen und Balladen)」op.64
 兵士の花嫁(Die Soldatenbraut)(ダヌマン)
 捨てられた女中(Das verlassene Mägdlein)(ダヌマン)
 悲劇(Tragödie)
  Ⅰ. ぼくと駆け落ちして(Entflieh mit mir)(ボストリッジ)
  Ⅱ. 春の夜に霜がおり(Es fiel ein Reif in der Frühlingsnacht)(ボストリッジ)
  Ⅲ. 2人の墓の上には(Auf ihrem Grab)(ダヌマン&ボストリッジ)

〜休憩〜

歌曲集「ミルテの花」op.25より(from Myrthen)
 献呈(Widmung)(ダヌマン)
 自由な心(Freisinn)(ボストリッジ)
 くるみの木(Der Nussbaum)(ダヌマン)
 『西東詩集』-"酌童の巻"よりⅠ(Aus den Schenkenbuch des "Westöstlichen Divan" I)(ボストリッジ)
 『西東詩集』-"酌童の巻"よりⅡ(Aus den Schenkenbuch des "Westöstlichen Divan" II)(ボストリッジ)
 まだ見ぬ人(Jemand)(ダヌマン)
 2つのヴェネツィアの歌Ⅰ(Zwei venezianisches Lieder I)(ボストリッジ)
 2つのヴェネツィアの歌Ⅱ(Zwei venezianisches Lieder II)(ボストリッジ)
 はすの花(Die Lotosblume)(ダヌマン)
 ぼくの心はくらい(Mein Herz ist schwer)(ボストリッジ)
 ズライカの歌(Lied der Suleika)(ダヌマン)
 きみは花のよう(Du bist wie eine Blume)(ボストリッジ)
 東方のばらより(Aus den östliche Rosen)(ダヌマン)
 終りに(Zum Schluss)(ボストリッジ)

4つの二重唱曲(Vier Duette) op.34(ダヌマン&ボストリッジ)
 愛の苑生(Liebesgarten)
 求愛のセレナーデ(Liebhabers Ständchen)
 窓の下で(Unterm Fenster)
 家族の肖像(Familien-Gemälde)

~アンコール~
シューベルト(Schubert)/光と愛(Licht und Liebe) D352(ダヌマン&ボストリッジ)

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本来メゾソプラノのアンゲリカ・キルヒシュラーガーとボストリッジ&ドレイクによって、ヴォルフの「スペイン歌曲集」抜粋が演奏される予定だったのだが、キルヒシュラーガーが体調不良とのことで来日できず、代役にソフィー・ダヌマンを迎えて、オール・シューマン・プログラムに変更になった。
キルヒシュラーガーの「スペイン歌曲集」が聴けなくなったのは楽しみにしていただけあって本当に残念だが、迅速な対応で別プログラムを開催してくれただけでも有難いことである。

よく考えてみたら、このようにシューマンの独唱曲、重唱曲だけで一夜のプログラムを組むのは珍しいことではないだろうか。
かなり昔にエディット・マティスと小松英典がコルト・ガルベンのピアノでシューマン・プログラムを組んだのを聴いたことがあったが、それ以来だろうか。

代役を引き受けてくれたソプラノのソフィー・ダヌマン(発音は「デーンマン」ではないのだろうか?)は生で聴くのは初めてだが、CDではメンデルスゾーンやヴォルフの歌曲集にその名前があり、聴いていたことになる。
実際に聴いた彼女は古楽で活躍しているということもあるのだろう、癖のない清澄な声で丁寧に歌を紡いでいくリリック・ソプラノという印象である。
声量は必ずしも豊かというほどではないが、届かないわけではない。
だが、コンサートの最初のころはまだ硬さが感じられ、声が届ききっていない感じだった。
彼女の素晴らしいところは、その歌の丁寧さもそうだが、まずはその笑顔である。
ボストリッジがいつも難しい顔をしているから余計に目立つのかもしれないが、ダヌマンはステージへの出入りも含め、拍手に応じる時など、本当に気持ちのいい笑顔をしているのである。
芸の内容さえ良ければよいという考え方もあるだろうが、パフォーマーである以上、笑顔で微笑みかけてくれたら、悪い気は誰もしないだろう。
きっと素敵な人に違いないと思わせてくれる自然な笑顔の持ち主は、聴き手を視覚的にも心地よくさせてくれたのである。

今回のプログラムは、前半最初と後半最後に二重唱曲を置き、その間に独唱曲をはさむ形をとっていた(その他には前半最後の「悲劇Ⅲ」も二重唱曲)。

その二重唱曲は楽譜立てに楽譜を置いて歌われたが、そこで面白いことを発見した。
普段ソロだと気まぐれに歩き回るボストリッジだが、楽譜立ての前だと、多少動きはつけるものの、その場から移動しなかったのである。
楽譜を見なければならないという事情はあるだろうが、まっすぐ立って歌うボストリッジは新鮮だった(というか、それが普通のような気もするが)。
だが、独唱曲になると、やはり移動したり、上半身を反ったり折り曲げたりと、忙しい。
そうすることで彼の素晴らしい歌が生まれてくるのなら、その動きも許容しなければならないだろう。
だが、テキストの内容にもよるが、たまに意味もなくポケットに手をつっこんで歌うのは直した方がいい気もするが。

とはいえ歌に関してはやはりボストリッジ、素晴らしい。
シューマンのテキストを完全に自分のものとして、ドラマティックに表現する。
彼特有の声のユニークな美しさも相まって、シューマンの歌曲の様々な表情が分かりやすく表現される。
文化会館小ホールの親密な空間に彼の豊かな響きが満ちあふれるのは素晴らしい瞬間だ。
それから時々声色を変えて言葉の重みを加えるのも印象的だった。
例えば「母親の夢」では、眠る赤ちゃんに母親がうっとりと喜びをかみしめる一方で、外のカラスがいずれ自分たちの餌になるのさと歌う箇所があるが、そこでの苦み走ったような歌い方は、ボストリッジのテキスト解釈を分かりやすい形で表現したのだろう。

最初に歌われた「4つの二重唱曲」op.78の最初の2曲はムーアの引退コンサートでシュヴァルツコプフとF=ディースカウが披露したので知っていたが、男女二人だからこそのレパートリーもこうした優れた作品があるのだから、こういう二重唱の機会はもっとあってもいいのかもしれない。
この曲集の最後に置かれた「子守歌-病気で寝ている子供のために-」はピアノの響きがいかにもシューマネスクで、一度聴いただけで印象に残ったものだった。
久しぶりに今回聴いて、やはり個性的で優れた作品だなと思った。

「ロマンスとバラード 第4集」op.64は最後に3曲からなる「悲劇」という歌曲群があるのだが、なぜか3曲目のみ二重唱なので、こういう機会でもないとなかなか取り上げられない。
そういう意味でも今回の選曲はうれしい。
「悲劇」の2曲目「春の夜に霜がおり」はF=ディースカウがよく歌っていたので、懐かしく聴いた。
ボストリッジでさえF=ディースカウと比べると、まだダイナミクスの変化も大人しい方だった(どちらがいいということではないが)。

「ミルテの花」では有名曲ももれなく網羅して、短縮版としてよい選曲だった。
今回は歌わない方は上手のいすに座り、ほぼ1曲ごとに入れ替わるのだが、座っている時のボストリッジも体を左右に大きく曲げたりと自由さ全開だった。
だが、こうしてあらためてまとめて聴いてみると「ミルテの花」はやはりシューマンのういういしさが感じられて素敵な歌曲集だと感じた。

最後の「4つの二重唱曲」op.34は2曲目と3曲目が男を女の家に入れる入れないの駆け引きで面白い。
こういう機会でもないと聴けないので大いに楽しんだ。
4曲目の「家族の肖像」は2つの異なる世代のカップルの心温まる交流を歌っている。こういうテーマの歌曲は珍しいのではないか。

アンコールのシューベルト「光と愛」も美しい作品である。

ドレイクの安定した、かつ立体的なピアノがどれほどこのコンサートの成功に大きく寄与したことか。
今回もピアノの蓋はわずかに開けられただけだったが、繊細に歌を支える時でも音が薄くなってしまわず、絶妙のバランスを保っていたのである。

なお、このコンサートは、いずれ東京春祭のサイトで期間限定の映像配信がされる予定だそうだ。

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イアン・ボストリッジ&ジュリアス・ドレイク/ヴォルフ&ブリテン(2014年4月10日 王子ホール)

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イアン・ボストリッジ&ジュリアス・ドレイク
2014年4月10日(木)19:00 王子ホール

イアン・ボストリッジ(Ian Bostridge)(テノール)
ジュリアス・ドレイク(Julius Drake)(ピアノ)

ヴォルフ(Hugo Wolf)/「ゲーテ歌曲集(Goethe Lieder)」
 51. 人間性の限界(Grenzen der Menschheit)
 50. ガニュメート(Ganymed)
 16. ぶしつけで楽しくⅠ(Frech und froh I)
 17. ぶしつけで楽しくⅡ(Frech und froh II)
 13. 良い夫と良い妻(Gutmann und Gutweib)
 11. ねずみをとる男(Der Rattenfänger)

ブリテン(Benjamin Britten)/「ミケランジェロの7つのソネット(7 Sonnets of Michelangelo)」Op. 22
 1.ソネット第16番:ペンとインクの中には(Sonnet XVI: Sì come nella penna e nell'inchiostro)
 2.ソネット第31番:一体なぜ私はこの激しい欲求を(Sonnet XXXI: A che più debb'io mai)
 3.ソネット第30番:あなたの美しい目を借りて私は見る(Sonnet XXX: Veggio co' bei vostri occhi un dolce lume)
 4.ソネット第55番:君は知っているね(Sonnet LV: Tu sa, ch'io so)
 5.ソネット第38番:泉よ 川よ 僕の目に返しておくれ(Sonnet XXXVIII: Rendete agli occhi miei, o fonte o fiume)
 6.ソネット第32番:もし清らかな愛が(Sonnet XXXII: S'un casto amor)
 7.ソネット第24番:優れた精神よ(Sonnet XXIV: Spirto ben nato)

~休憩~

ブリテン/「6つのヘルダーリン断章(6 Hölderlin-Fragmente)」Op. 61
 1.世に認められ(Menschenbeifall)
 2.故郷(Die Heimat)
 3.ソクラテスとアルキビアデス(Sokrates und Alcibiades)
 4.若さ(Die Jugend)
 5.人生のなかば(Hälfte des Lebens)
 6.人生の行路(Die Linien des Lebens)

ヴォルフ/「メーリケ歌曲集(Mörike Lieder)」
 1. 病の癒える希望(Der Genesene an die Hoffnung)
 2. 子供と蜜蜂(Der Knabe und das Immlein)
 9. 飽くことなき恋(Nimmersatte Liebe)
 13. 春に(Im Frühling)
 33. ペレグリーナⅠ(Peregrina I)
 34. ペレグリーナⅡ(Peregrina II)
 53. 別れ(Abschied)

~アンコール~
ブリテン/民謡編曲第3集 《イギリスの歌》より「流れは広く(おお悲しい)」(The water is wide (O Waly, Waly))
ブリテン/民謡編曲第1集 《イギリスの歌》より「オリヴァー・クロムウェル」(Oliver Cromwell)

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ボストリッジとドレイクによる歌曲のコンサートを王子ホールで聴いた。
今回のプログラムはヴォルフの「ゲーテ歌曲集」「メーリケ歌曲集」からの抜粋と、ブリテンの2つの歌曲集。
しかもブリテンの歌曲集は英語ではなく、イタリア語とドイツ語による作品が選ばれている。
中でもヴォルフのゲーテ歌曲集はなかなか実演で接する機会がなく、ボストリッジもまだ「良い夫と良い妻」「ガニュメート」以外は録音していなかったはずなので、これはどうしても聴きたかった。
しかも、現役最高のリート伴奏者の一人ドレイクのピアノで聴けるのだから期待もふくらむ。

最初のヴォルフ「ゲーテ歌曲集」では冒頭の「人間性の限界」の選曲に驚かされる。
この曲は低音歌手のために書かれ、おそろしく低い音も歌わなければならない。
だが実際ボストリッジが歌うのを聴くと、この曲を低音歌手だけに限定することもないとあらためて感じさせられた。
確かにボストリッジは低音を出すのに余裕があったわけではなかったが、メロディの流れの中でうまく処理していたように感じた。
「ガニュメート」の官能的な響きを描き出すドレイクの表現力にもあらためて脱帽。
ボストリッジは言葉を鋭く発する。
そして強弱の変化を大きく付ける。
そのやり方はF=ディースカウの歌い方をある部分で引き継いでいると言えるのかもしれない。
「良い夫と良い妻」ではメーリケの物語をドラマティックに描いてみせた。
ピアノ後奏が充実して長い時、ボストリッジはピアノの蓋に体重をかけてドレイクの弾く姿を覗き込む。
以前ほど激しくはないものの相変わらずあちこち歩き回り、ポケットに手をつっこみ、足を交差させたりと自由な人である。

ブリテンの「ミケランジェロの7つのソネット」はブリテン特有の世界が築かれていて、イタリア語が使われていても、そこにあるのは英国歌曲のたたずまいだ。
詩の中身はミケランジェロらしく芸術を織り交ぜたものもあるが、結局のところ愛の歌である。
堂々たる曲もあれば、諧謔味のある曲もあり、静かな曲もあるという具合だが、どれもどこか不思議なハーモニーに彩られた感情の機微が感じられる。
歌とピアノは完全に対等で、あたかも二重奏である。
ボストリッジは朗々と豊かに声を響かせ、ドレイクは雄弁に磨き抜かれた音を響かせる。

後半に移り、今度はブリテンのドイツ語歌曲集「6つのヘルダーリン断章」である。
こちらはヘルダーリンの渋みあふれるテキストにブリテンの多彩な音楽が付けられている。
「世に認められ」はリズムに特徴があり、「故郷」はピアノが歌を遅れてなぞっていくのが印象的。
「ソクラテスとアルキビアデス」は偉人の問答を少ない音で表現している。
「若さ」はテキストに応じて柔軟に曲調が変化し、例えばヘリオス、ルナといった名前が登場するとピアノパートは竪琴の響きになる。
「人生のなかば」はアンニュイな歌とピアノの緊密な絡み合いが聴きもの。
そして終曲の「人生の行路」はコラール風の和音を進めるピアノが人生の"線(Linien)"を描いていき、最後には壮大なクライマックスを築く。
ボストリッジは自在に気ままに歌っているように見えて、実は細やかな設計がされているのではないか。
その設計が前面に出てこないところがボストリッジの非凡なところと思った。

最後のブロックはヴォルフの「メーリケ歌曲集」。
こちらは私にとって馴染みの作品ということもあって気楽に楽しめた。
「病の癒える希望」もまた低音歌手のレパートリーという印象があり、特に歌い収めの下降するフレーズはテノールには厳しいと思われるが、そこもあえてチャレンジしていたのだろう。
ここでも、単独では弱くなる低音も、歌の流れの中でうまく処理していたように思う。
「飽くことなき恋」のかなり直截的な恋のありようをボストリッジも誇張して表現していたように感じたが、それによってヴォルフの意図も生きたように思える。
「ペレグリーナ」も情熱的な名唱である。
最後の「別れ」は批評家をおちょくった内容で、ヴォルフも大いにおふざけをしているが、ボストリッジは心から楽しんでそのおふざけに乗っかっていたし、ドレイクが見事なまでにヴォルフの皮肉を表現していた。

アンコールは2曲のブリテンによる民謡編曲だが、どちらも有名な作品で、特に「オリヴァー・クロムウェル」はその早口であっという間に終わってしまうのが惜しいぐらいの楽しさだった。

ピアノのジュリアス・ドレイクはいまどき珍しくピアノの蓋をわずかに開けただけの状態で演奏したが、それでもあれほど雄弁でずっしりとした立体的な表現が出来るのは素晴らしかった。
タッチは磨き抜かれ、音楽づくりは考え抜かれ、時に迫力をもって、時に繊細にと自在に表現し、ステージマナーも素晴らしく、伴奏者の鏡を見ているようだった。
こういう人にピアノを弾いてもらえるボストリッジも幸せだと思う(レコード会社はもっと専門の伴奏者の素晴らしさを理解すべきだ)。

なおNHKのカメラが入っており、7月ごろにクラシック倶楽部で放映予定とのこと。
楽しみにしたい。

Bostridge_drake_20140410_chirashi


Bostridge_drake_autographs←二人のサイン

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アーメリングの「マタイ受難曲」(1970年)&「魔笛」(1958年)配信(Radio4 Concerthuis)

期間限定で貴重なライヴ音源を配信してくれるオランダのRadio 4 Concerthuisが、またエリー・アーメリングのファンを喜ばせてくれました。
彼女の参加したヨッフム指揮コンセルトヘボウ管弦楽団の「マタイ受難曲」全曲とハイティンク指揮オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団の「魔笛」全曲(彼女は第一の童子役)が配信されています。
「魔笛」はちょい役ですがアーメリング25歳の若かりし美声を聴けますし、タミーノはあのヴンダーリヒです!
「マタイ」は上り調子の力強さすら感じさせるアーメリングの名唱を味わえますし、エヴァンゲリストのヘフリガーは端正な語り口が、イエスのマクダニエルはおおらかな美声が魅力的です。
お時間のある時にじっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。

「マタイ受難曲」

「魔笛」

詳細データは以下の通り

●J.S.バッハ(Bach)作曲「マタイ受難曲(Matthäus Passion)」BWV.244

録音:1970年3月22日, Concertgebebouw, Amsterdam

Ernst Haefliger (tenor)
Barry Macdaniel (bas)
Elly Ameling (sopraan)
Marga Hoeffgen (alt)
John van Kesteren (tenor)
Max van Egmond (bas)
Toonkunstkoor Amsterdam
Willibrorduskerk Jongenskoor Amsterdam
Koninklijk Concertgebouworkest
Eugen Jochum (Dirigent)

第一部
00:21:16- 8.アリア「血を流せ、わが心よ!(Blute nur, du liebes Herz!)」
00:35:02-/00:36:43- 12.レチタティーヴォ(Wiewohl mein Herz in Tränen schwimmt)/13.アリア「われは汝に心を捧げん(Ich will dir mein Herze schenken)」
01:08:46- 27.二重唱「かくてわがイエスはいまや捕らわれたり(So ist mein Jesus nun gefangen)」
第二部
00:18:11- 38.レチタティーヴォ(第1の下女)
00:40:15- 45.レチタティーヴォ(ピラトの妻)
00:43:32-/00:44:52- 48.レチタティーヴォ(Er hat uns allen wohlgetan)/49.アリア「愛によりわが救い主は死に給わんとす(Aus Liebe will mein Heiland sterben)」
01:46:32- 67.レチタティーヴォ

●モーツァルト(Mozart)作曲「魔笛(Die Zauberflöte)」KV.620

録音:1958年5月24日, オランダ

Maria van Dongen (Pamina; sopraan)
Fritz Wunderlich (Tamino; tenor)
Albert van Haasteren (Sarastro/spreker; bas)
Juliane Farkas (Köningin der Nacht; sopraan)
Jan Derksen (Papageno; bariton)
Nel Duval (Papagena; sopraan)
Annette de la Bije (Erste Dame; sopraan)
Lucienne Bouwman (Zweite Dame; mezzosopraan)
Annie Deloirie (Dritte Dame; mezzosopraan)
Reinier Schweppe (Monostatos; tenor)
Elly Ameling (Erste knabe)
Thea van de Steen (Zweite knabe)
Cora Canne Meyer (Dritte knabe)
Jan Waayer (Erster Priester & Erster geharnischter Mann; bas)
Sybert van Keeken (Zweiter Priester & Zweiter geharnischter Mann; bas)
Nederlands Omroep Koor
Radio Filharmonisch Orkest
Bernard Haitink (Dirigent)

第1幕
00:39:44- No.8: Zum Ziele führt dich diese Bahn
第2幕
0:39:43- No.21: Bald prangt, den Morgen zu verkünden

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新国立劇場/アルバン・ベルク作曲 オペラ「ヴォツェック」(2014年4月5日 新国立劇場 オペラパレス)

2013/2014シーズン
オペラ「ヴォツェック(Wozzeck)」/アルバン・ベルク(Alban Berg)
全3幕〈ドイツ語上演/字幕付〉
上演時間:約1時間35分(休憩なし)

2014年4月5日(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス

【ヴォツェック(Wozzeck)】ゲオルク・ニグル(Georg Nigl)
【マリー(Marie)】エレナ・ツィトコーワ(Elena Zhidkova)
【鼓手長(Tambourmajor)】ローマン・サドニック(Roman Sadnik)
【アンドレス(Andres)】望月哲也(Mochizuki Tetsuya)
【大尉(Hauptmann)】ヴォルフガング・シュミット(Wolfgang Schmidt)
【医者(Doktor)】妻屋秀和(Tsumaya Hidekazu)
【第一の徒弟職人(1. Handwerksbursch)】大澤 建(Osawa Ken)
【第二の徒弟職人(2. Handwerksbursch)】萩原 潤(Hagiwara Jun)
【白痴(Der Narr)】青地英幸(Aochi Hideyuki)
【マルグレート(Margret)】山下牧子(Yamashita Makiko)
【マリーの子供(Mariens Knabe)】池袋遥輝(Ikebukuro Haruki)
【兵士(Ein Soldat)】二階谷洋介(Nikaitani Yosuke)
【若者(Ein Bursche)】寺田宗永(Terada Munenaga)

【合唱】新国立劇場合唱団(New National Theatre Chorus)
【児童合唱】NHK東京児童合唱団(NHK Tokyo Children Chorus)
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
【指揮(Conductor)】ギュンター・ノイホルト(Günter Neuhold)

【演出(Production)】アンドレアス・クリーゲンブルク(Andreas Kriegenburg)
【美術(Scenery Design)】ハラルド・トアー(Harald Thor)
【衣裳(Costume Design)】アンドレア・シュラート(Andrea Schraad)
【照明(Lighting Design)】シュテファン・ボリガー(Stefan Bolliger)
【振付(Choreographer)】ツェンタ・ヘルテル(Zenta Haerter)
【再演演出(Revival Director)】バルバラ・ヴェーバー(Barbara Weber)

[共同制作]バイエルン州立歌劇場

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新国立劇場の「ヴォツェック」を久しぶりに聴いた。
前回に聴いたのは2009年11月でもう5年も経つとは驚きである。
そして前回聴いた「ヴォツェック」が私の新国立劇場での初鑑賞であった。
そういう意味でも忘れられない思い出と結びついた演目である。

今回も例の水にひたされた舞台の上で登場人物や助演の黙役たちがぴしゃぴしゃやっている。
その上に吊るされた四角い空間はヴォツェックの家族の部屋という設定である。
子役の子も当然前回とは変わったが、相変わらず芸達者で、大人を食ってしまう。
1時間35分で全3幕を続けて上演したが、子役の子はほとんど出ずっぱりで、いつもながら凄いと思ってしまう。
なお、前回は子役の子は最後のシーンでも歌わなかった記憶があるが、今回はベルクの指示通り「ホップホップ」と歌っている。

ヴォツェック役のゲオルク・ニグルはウィーン少年合唱団出身で、過去に何度か歌いに来日しているそうだ。
すっかり大人のバリトンの声になったニグルはヴォツェックの危うさを見事に演じた。

マリー役のエレナ・ツィトコーワは声もよく通り、すれた感じと家庭内の母親の顔をうまく演じ分けた。

大尉役のヴォルフガング・シュミットも特徴ある語り口をうまく表現していたし、前回も医者役を演じた妻屋秀和はその奇妙ないでたちと同様強く印象に残った。
なお、プログラム冊子の演出家の話によると、この演出ではヴォツェック目線で描いている為、家族以外はモンスターのように見えるように設定したとのこと。
そうすることによって家族のもとでのみヴォツェックが人間性を維持できることをあらわしているらしい。
確かにヴォツェック以外の登場人物はみなグロテスクないでたちである。

第3幕でヴォツェックが妻を殺して酒場に寄る場面でピアノがピアニストともどもくるくる舞台上を動き回る(黒子によって)のは、狂気の表現として印象的だった。

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Wozzeck_20140405_autographs

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ヴォルフ「あの季節だ!」を聴く

ヴォルフの53曲からなる「メーリケ歌曲集」の6曲目に置かれている曲です。
一般的には「春だ」「もう春だ」などと訳されるタイトルですが、Erは男性名詞(ドイツ語の名詞には男性、女性、中性の3種類あります)を受ける代名詞ですので、タイトルに「春」という言葉は入っていないのです。
ここではそんな原詩の雰囲気を少し感じていただけるように「あの季節だ!」としてみました。
本当は「彼だ!」でもいいのですが、日本語では春のことを「彼」とは言いませんから難しいところです。
ヴォルフの音楽は分散和音の華やかなピアノにのって、軽やかに上下する歌声が春の喜びをいっぱいに表現します。
ピアノ後奏の華やかさも聴きどころです。

Er ist's!
 あの季節だ!

Frühling läßt sein blaues Band
Wieder flattern durch die Lüfte;
Süße, wohlbekannte Düfte
Streifen ahnungsvoll das Land.
Veilchen träumen schon,
Wollen balde kommen.
Horch, von fern ein leiser Harfenton!
Frühling, ja du bist's!
Dich hab ich vernommen!
 春がその青いリボンを
 再び風になびかせる。
 甘い、馴染みの香りが
 予感に満ちて、地上をかすめる。
 すみれはもう夢見ている、
 じきに花開きたいのだ。
 ほら、遠くからかすかな竪琴の音!
 春よ、おまえなんだね!
 私にはおまえだと分かったよ!

詩:Eduard Friedrich Mörike (1804.9.8, Ludwigsburg – 1875.6.4, Stuttgart)
曲:Hugo Philipp Jakob Wolf (1860.3.13, Windischgraz – 1903.2.22, Wien)

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メーリケの詩の朗読(フリッツ・シュターフェンハーゲン)

ヴォルフの曲がいかに朗読と一致しているか分かります。

バーバラ・ボニー(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

ひんやりした質感のボニーの声が春の爽快感を素敵に歌っています。パーソンズはテクニックのうまさを存分に生かして雄弁な演奏で盛り上げています。

ディアナ・ダムラウ(S)&シュテファン・マティアス・ラーデマン(P)

ダムラウの細やかな語り口と余韻を感じさせる歌は魅力的です。ラーデマンも見事な演奏です。

アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)&ギュンター・ヴァイセンボルン(P)

ローテンベルガーは生き生きした表情で春の喜びを歌いあげています。ヴァイセンボルンは丁寧な演奏です。

ヴェルナー・ギューラ(T)&ヤン・シュルツ(P)

ギューラの全身全霊をこめた歌は感銘を受けます。シュルツも見事に盛り上げています。

小川明子(A)&山田啓明(P)

ゆったりとしたテンポでしっとりと歌い上げるのもいいものです。二人の演奏は息がぴったりです。

ソフィア・ラーション(S)&マノン・アブレット(P)

ラーションは懸命な歌いぶりが好感もてます。ピアノのアブレットはあのF=ディースカウの孫にあたるそうです。現在はF-Dの姓を使っているようです。

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佐藤卓史/シューベルトツィクルス ピアノ曲全曲演奏会 第1回(2014年4月2日 東京文化会館 小ホール)

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佐藤卓史 シューベルトツィクルス ピアノ曲全曲演奏会 第1回
「幻想曲 -Fantasien-」

2014年4月2日(水)19:00 東京文化会館 小ホール

佐藤卓史(Takashi Sato)(ピアノ)

シューベルト(Schubert)作曲

幻想曲 ハ短調 D2E (1811)

アンダンテ ハ長調 D29 (1812)

10の変奏曲 ヘ長調 D156 (1815)
 Thema Andante
 Var. I
 Var. II
 Var. III Piu moto
 Var. IV (Minore)
 Var. V Andante con moto
 Var. VI
 Var. VII Scherzando
 Var. VIII
 Var. IX Adagio
 Var. X Allegro - Presto - Adagio - Tempo I - Presto

幻想曲 ハ長調 D605A 「グラーツ幻想曲」 (1818?)

~休憩~

12のウィーン風ドイツ舞曲 D128 (1812?)
 序奏 ヘ長調
 1. ヘ長調
 2. ヘ長調
 3. ニ長調
 4. 変ロ長調
 5. ハ長調
 6. 変イ長調
 7. ニ長調
 8. ニ長調
 9. ハ短調
 10. ヘ長調
 11. ホ長調
 12. ハ長調

アダージョ ト長調 D178 (第1稿) (1815)

幻想曲 ハ長調 D760「さすらい人幻想曲」 (1822)
 Allegro con fuoco ma non troppo -
 Adagio -
 Presto -
 Allegro

~アンコール~
シューベルト;リスト編曲/さすらい人 D489/493
シューベルト;佐藤卓史編曲/さすらい人 D649

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ピアニストの佐藤卓史が年2回のペースでシューベルトのピアノ曲(ソロ、4手、室内楽を含む)全曲を演奏するシリーズを始めた。
全部で30回以上の計算になるらしい。
今日はその記念すべき第1回目である。
若き名手(とはいってももう30代らしいが)としてその名前は知っていたが、実際に演奏を聴くのは今回がはじめて。
評判に違わぬうまさだった。

まずはテクニックの面でとても安定している点が頼もしい。
「さすらい人幻想曲」も見事に弾きこなしていた。
その上、ベーゼンドルファーのピアノを歌うように美しく鳴らす。
そのタッチの素晴らしさも特筆したい。
解説もすべて彼自身が担当し、その博学ぶりを生かした文才と徹底した楽譜調査は驚くほどだ。
無料で配布されるプログラムを毎回保存しておけば、今後シューベルトのピアノ曲を聴く時のこのうえない参考になるだろう。

最初に演奏された「幻想曲 ハ短調 D2E」は、ドイチュ番号が示している通り彼の最初のピアノ独奏曲で、14歳のころの作品とのこと。
聴いてみるとモーツァルトの「幻想曲ハ短調K.475」と似ている箇所がしばしばあり、モーツァルトの影響のもとに作られたのが明白である。
あまりにも似ていて微笑ましい箇所もあるほどだ。
こうして習作として書かれたものをコンサートホールで聴く機会などめったにない為、これは貴重なチャンスだった。
当然ながらまだ作品としてこなれてはいないものの、すでに才能の萌芽を感じることは出来るように思える。

次の「アンダンテ D29」は一転して愛らしい小品で、彼の早熟ぶりを感じさせる。
佐藤氏自身の解説によると、このテーマは弦楽四重奏の断章D3のピアノ用編曲とのことで、他の作品にもさらに流用されているらしい。
初期からシューベルトはテーマの流用を行っていたというのは興味深い。

続く「10の変奏曲 ヘ長調 D156」は意欲作であろう。
シューベルトのやる気がひしひしと伝わってきた。
シューベルトは「変奏曲」と題されたものよりも、そうでない作品に変奏形式を使うことが多かったようだが、この初期作品は「変奏曲」というジャンルに真正面からとりくんだものということだろう。
佐藤氏も指摘しているように装飾的な変奏が続くが、その分かりやすさはやはり習作的な意味合いが強いのだろう。
だが、決して駄作ではなく、それなりに楽しめる作品と感じた。

佐藤氏はここまで3曲を拍手の中断なしに連続して演奏して、いったん袖に引っ込み、前半最後の「グラーツ幻想曲」となった。
この「グラーツ幻想曲」、シューベルトの友人だったアンゼルム・ヒュッテンブレンナーの弟ヨーゼフの筆跡で表紙が書かれた筆写譜(楽譜は別人が写譜したらしい)が1969年に公になるまで知られていなかったのだそうだ。
だが、一聴してショパンの「ノクターン」のような楽想は、偽作の疑いを持たれてきたようだが、それもよく分かる気がする。
ヒュッテンブレンナーがシューベルトの名前を拝借したのではという可能性もあるだろうが、新シューベルト全集では真作の扱いとなっているそうである。
美しいカンタービレが連綿と流れるこの作品は異色だがこれはこれで充分素晴らしい。

後半は「12のウィーン風ドイツ舞曲」で始まった。
自筆譜には鉛筆やインクで数字が書かれているらしいが、シューベルトの筆跡ではないとの判断から佐藤氏はその番号を無視して、シューベルトの書いた通りの順番で演奏した。
この順序はドイチュの作品目録の順序と一致するのだが、この順序による出版譜はないそうだ。
佐藤氏の判断した順序による「非常に珍しい機会」に立ち会えて幸いである。

ここでいったん袖に引っ込んだ佐藤氏は次に「アダージョ」という小品と、有名な「さすらい人幻想曲」を続けて演奏した。

「アダージョ」はシューベルトお得意の長短短のリズムが繰り返される静かで美しい小品。
2つの稿が存在するらしいのだが、第2稿は未完とのことで、今回は第1稿が演奏された。

そして最後に「さすらい人幻想曲」が演奏された。
佐藤氏は多くのピアニストがやるように派手に演奏するわけでもなく、かといって地味に演奏するわけでもなく、耳にうるさくならない程度の華麗さをもって演奏していた。
それにしても鍵盤を弾く姿を見ていると、ほとんど常に忙しそうなのだが、特に第4楽章の右手の下行パッセージの連続は、シューベルト自身が「悪魔にでも弾かせろ」と叫んだのも分かるほどせわしない。
いかに跳躍を正確にとらえるかということも演奏家のテクニック次第なのだろう。
佐藤氏は理想的な演奏で聴き手を興奮させてくれた。

そしてアンコールで「さすらい人幻想曲」の原曲となった歌曲「さすらい人」のリストによる編曲版が演奏されるまでは想定の範囲内だったのだが、その後再び舞台に登場して彼自身の説明によって、もう一つのF.シュレーゲルの詩による歌曲「さすらい人」が佐藤氏自身の編曲で演奏されるとは思わなかった。
第1節では低音、第2節では高音が歌声部を奏で、伴奏パートも最初はシューベルトのオリジナルに則って、第2節では佐藤氏のアレンジを加えてという感じだった。
まさかこうくるとは思わなかったので、このピアニストの今後からますます目が離せなくなりそうだ。

シューベルトの珍しい作品が披露されるという以上の音楽の喜びを感じさせてくれた演奏会だった。
次回は10月10日に王子ホールで短調のソナタ3曲が演奏されるとのこと。
楽しみである。

ちなみに、このシリーズと連動して佐藤氏によるブログが開設された。こちらも充実しているので興味のある方はぜひご覧ください。
 こちら

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