ナタリー・デセイ(ドゥセ)&フィリップ・カサール/デュオ・リサイタル(2014年4月14日 サントリーホール)
ナタリー・デセイ(ドゥセ)&フィリップ・カサール デュオ・リサイタル
2014年4月14日(月)19:00 サントリーホール
ナタリー・デセイ(ドゥセ)(Natalie Dessay)(Soprano)
フィリップ・カサール(Philippe Cassard)(Piano)
クララ・シューマン(C.Schumann)作曲
美しいために私を愛するのなら(Liebst du um Schönheit)作品12-2
ひそやかな語らい(Geheimes Flüstern)作品23-3
彼らは互いに愛し合っていた(Sie liebten sich beide)作品13-2
風雨の中を彼はやって来た(Er ist gekommen in Sturm und Regen)作品12-1
ブラームス(Brahms)作曲
ひばりの歌(Lerchengesang)作品70-2
私の歌(Meine Lieder)作品106-4
秘めごと(Geheimnis)作品71-3
デュパルク(Duparc)作曲
旅への誘い(L'Invitation au voyage)
恍惚(Extase)
R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
私の心は迷う(Ich schwebe)作品48-2
すいれん(Wasserrose)作品22-4
夜(Die Nacht)作品10-3
春のひしめき(Frühlingsgedränge)作品26-1
~休憩~
フォーレ(Fauré)作曲
夢のあとに(Après un rêve)作品7-1
月の光(Clair de lune)作品46-2
牢獄(Prison)作品83-1
マンドリン(Mandoline)作品58-1
ひめやかに(En sourdine)作品58-2
プーランク(Poulenc)作曲
偽りの婚約(Les Fiançailles pour rire)
1.アンドレの貴婦人(La Dame d'André)
2.草の中に(Dans l'herbe)
3.飛んでいる(Il vole)
4.私の屍は手袋のように柔らかい(Mon cadavre est doux comme un gant)
5.ヴァイオリン(Violon)
6.花(Fleurs)
ドビュッシー(Debussy)作曲
現れ(Apparition)
アリエルのロマンス(Romance d'Ariel)
~アンコール~
ショーソン(Chausson)/はちどり(Le colibri)
ラフマニノフ(Rachmaninov)/ここは素晴らしい場所(Zdes′ khorosho)Op.21-7
ドリーブ(Delibes)/歌劇「ラクメ(Lakmé)」より〜あなたは私に一番美しい夢をくれた
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世界の歌姫ナタリー・ドゥセの日本初リサイタルをサントリーホールで聴いた。
ちなみに、彼女の名前、「デセイ」という表記が一般的のようだが、何度かネットラジオで聞いた限りでは「ナタリ・ドゥセ」というのが原音に近い。
以下の動画の6:17あたりから彼女自身と司会者の2人が「ナタリ・ドゥセ」と発音しているのを確認することが出来る。
ドゥセの歌曲リサイタルはドイツリートから始まった。
しかも、最近取り上げられる機会も増えてきたクラーラ・シューマンによる作品4曲である。
どちらかというと素直でつつましやかで内面的な曲調の作品を選んだドゥセの意図は想像するしかないが、オペラでの超絶技巧とは一線を画した歌を歌おうという決意のようなものもあるのではないだろうか。
続くブラームスの3曲もひそやかな美しさをもった佳品であり(私の大好きな3曲でもあった!)、ドゥセの披露したいドイツリートがこれらの小さく咲く花にあるのが想像される。
そしてデュパルクで官能の響きに包み、前半最後はシュトラウスのやはり重く激しい曲を避けた選曲で締めくくる。
休憩をはさんで、今度はドゥセのお国もので、フォーレ、プーランク、ドビュッシーの名品が歌われたが、フォーレの「牢獄」などいくつかが重い曲である以外はおおむね特有の軽やかさをもった作品が多い。
ドゥセが数々のオペラで魅せたのとは全く異なる側面を披露しようとしているように感じられた。
さて、ステージに登場したドゥセは体のラインにぴったりな輝くドレスに身を包み、シンプルだがゴージャスなオーラを発散していた。
彼女は風邪をひいていたのだろう、声がしばしばかすれ(特にソットヴォーチェで)、曲間でも咳をしていた。
だが、一流の歌姫は肝心の聴かせどころでは朗々とした美声を響かせるのがさすがと思った。
高く透明でよく響く彼女の声は天性のものだろう。
この声の魅力にあらがうことは出来ない。
聴き手はまず、その声の魅力にとらえられる。
しかし、それだけではない。
彼女のディクションはお国ものだけでなく、ドイツリートでもしっかりしていた。
彼女はここぞというところではもちろんボリュームをあげてホールを包み込むが、むしろこのリサイタルでは張りあげない声の表現にも美質があったように感じられた。
抑制した声を維持している時のホールの響きに包まれる素晴らしさ。
ダイナミクスを自在にコントロール出来る彼女だからこその世界だろう。
これで調子が良かったらどんなに良かったろうと思うが、彼女は出来る範囲で最善のことはしたと思う。
時折声がかすれながらも決して投げやりにならずに丁寧に歌を紡いでいった。
そのことにも感銘を受けた。
また、彼女は歌いながら腕をひらひら動かしたり、体をくねらせたりしていたのが印象的だった。
プーランクの「ヴァイオリン」での色気のある表現がとりわけ素晴らしかった。
アンコールでラフマニノフのロシア語歌曲まで披露したのには驚いた。
語学の才能に恵まれているのだろう。
今回、彼女の共演者として同行したのはフランスのフィリップ・カッサール。
彼がドゥセを歌曲の世界(特にドビュッシー)に引き寄せたとのことで、我々はカッサールに感謝せねばならない。
そして、カッサールのピアノの響きの素晴らしさもまた特筆すべきものだった。
あのサントリーの大ホールを完全にコントロールしきったピアノは、ドゥセを支えると共に、各歌曲の核心を伝えるものだった。
小さな曲のつらなりが完結しながらつながっていく様はカッサールの豊かな音楽性によるところが大きいと思う。
ソロも伴奏も自在にこなすこのピアニストに今後注目していきたい。
大好きなブラームスや馴染みの薄かったC.シューマンの歌曲、さらにネイティヴによる美しい発音によるフランス歌曲の数々を、オペラスターによって聴けたのは得難い機会だった。
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コメント
mixiの畏敬すべきマイミクさんも、このコンサートに行かれた様です。コンディションが悪いにもかかわらず、素晴らしかったとの事です。
私はこのコンビによるドビュッシーのCDを持っています。繊細な世界が繰り広げられていて、大好きです。
投稿: 田中文人 | 2014年4月20日 (日曜日) 09時39分
田中文人さん、こんにちは。
畏敬すべきマイミクさんも行かれたそうですね。
確かにコンディションは良くないようでしたが、歌曲をたっぷり堪能できたいいコンサートでした。
このコンビのドビュッシー歌曲集、私も持っているのですが、あまり聴きこんでいなかったので、じっくり聴いてみようと思います。
投稿: フランツ | 2014年4月20日 (日曜日) 15時26分
へー、来たんですね いよいよリートに。
私は、動画サイトのロッシーニにメロメロでした。
ナタリー デセイのフォーレが聴きたい。
デセイの都会的な感覚でフォーレの官能とかを歌えばどうなんだろうと。
またジャンスとは違う素晴らしさを期待して。
記事を見るかぎり素晴らしいとは無いので合わないのかな。
早く,リート歌手の定番を、op42,op39 も聴きたいです。
ドイツ歌曲はかちっりとドイツ風なのを。
そして、モーツァルト すべてそぎ落とし、天上のモーツァルトを。
ここへ書いておけば叶うんですよね。
ハイレゾで出ないかな しかしCDもなければライナーがないな。
ついでで、
ヴォルフ「あの季節だ!」を聴く
訳詩が素晴らしい ほんわか春
歌は私には、哲学的な春に感じる。
音の響きが素晴らしい。
私にはディースカウのシューベルトはドイツの森を感じさせるのですが。
声のせいかと思えばすべての曲ではないのでそう言う表現なのだろうか。
あ、アーメリングはやく聴かなければ。
投稿: tada | 2014年4月21日 (月曜日) 21時59分
tadaさん、こんばんは。
ドゥセ&カッサールのリサイタル、素晴らしかったですよ。ただドゥセが風邪気味だったのが残念ですが。
>フォーレが聴きたい。
フォーレは「夢のあとで」や「月の光」など親しみやすい曲を歌ってくれました。ネイティブだけあって言葉の美しさが印象的でした。
>ここへ書いておけば叶うんですよね。
えっ、いつからそのような都市伝説が出来たのでしょうか(笑)
いずれリートのCDが出ればいいですね。
>私には、哲学的な春に感じる。
そういう感じ方もあるのですね。私は待ちに待ったすえの爆発するような喜びをヴォルフの曲から感じます。
>ディースカウのシューベルトはドイツの森を感じさせる
なるほど面白いたとえですね。彼がフランス歌曲を歌ったりすると素晴らしいのですが、ドイツ人っぽさが如実に現れる気がします。
投稿: フランツ | 2014年4月22日 (火曜日) 21時05分
フランツさん、こんにちは。
ナタリー・デセィ、懐かしいです。
私が一番CDを買って聴いていた頃、デセィが彗星のように現れました。
フランスオペラ・アリア集と、あと1枚何か買った記憶があります。
やや暗めな、しかしとびっきりの美声に引き込まれました。
そして、オペラ歌手と思えないスリムなスタイルにも驚かされましたね。
棚に並んでいるCDを見ると、私は本当に「声(好きな音色)」で歌を聴いているなあと思います。
昔、習っていた先生に「声で聞くとは、まだまだ未熟やな」と言われました。
それなら私は未だ未熟です。
でも、心から「ああ、いいなあ」と思う声を聴いて幸せなら一生未熟でもいいです(笑)
好きなものは好きだから仕方ありませんよね。
投稿: 真子 | 2014年5月23日 (金曜日) 16時28分
真子さん、こんばんは。
ナタリー・ドゥセもお聴きになられているとは真子さんの好みの幅広さは素晴らしいですね!おっしゃるようにとびっきりの美声に恵まれていますね。このコンサートの日は彼女ちょっと風邪気味だったみたいなのですが、それでも声の美しさは充分伝わってきました。
「声で聴くのは未熟」とおっしゃった先生にはおそらく何らかの思いがあったことと思いますが、それでも声が好きかどうかは大きな要素だと思いますよ。理屈を超えた引力が聴き手に訴えかけているのではないかなぁと思います。
そういう意味で私もドゥセの声は好きなタイプでした。
真子さんもお好きな声の歌手をこれからも楽しんでくださいね。
投稿: フランツ | 2014年5月23日 (金曜日) 23時05分