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佐藤卓史/シューベルトツィクルス ピアノ曲全曲演奏会 第1回(2014年4月2日 東京文化会館 小ホール)

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佐藤卓史 シューベルトツィクルス ピアノ曲全曲演奏会 第1回
「幻想曲 -Fantasien-」

2014年4月2日(水)19:00 東京文化会館 小ホール

佐藤卓史(Takashi Sato)(ピアノ)

シューベルト(Schubert)作曲

幻想曲 ハ短調 D2E (1811)

アンダンテ ハ長調 D29 (1812)

10の変奏曲 ヘ長調 D156 (1815)
 Thema Andante
 Var. I
 Var. II
 Var. III Piu moto
 Var. IV (Minore)
 Var. V Andante con moto
 Var. VI
 Var. VII Scherzando
 Var. VIII
 Var. IX Adagio
 Var. X Allegro - Presto - Adagio - Tempo I - Presto

幻想曲 ハ長調 D605A 「グラーツ幻想曲」 (1818?)

~休憩~

12のウィーン風ドイツ舞曲 D128 (1812?)
 序奏 ヘ長調
 1. ヘ長調
 2. ヘ長調
 3. ニ長調
 4. 変ロ長調
 5. ハ長調
 6. 変イ長調
 7. ニ長調
 8. ニ長調
 9. ハ短調
 10. ヘ長調
 11. ホ長調
 12. ハ長調

アダージョ ト長調 D178 (第1稿) (1815)

幻想曲 ハ長調 D760「さすらい人幻想曲」 (1822)
 Allegro con fuoco ma non troppo -
 Adagio -
 Presto -
 Allegro

~アンコール~
シューベルト;リスト編曲/さすらい人 D489/493
シューベルト;佐藤卓史編曲/さすらい人 D649

--------------

ピアニストの佐藤卓史が年2回のペースでシューベルトのピアノ曲(ソロ、4手、室内楽を含む)全曲を演奏するシリーズを始めた。
全部で30回以上の計算になるらしい。
今日はその記念すべき第1回目である。
若き名手(とはいってももう30代らしいが)としてその名前は知っていたが、実際に演奏を聴くのは今回がはじめて。
評判に違わぬうまさだった。

まずはテクニックの面でとても安定している点が頼もしい。
「さすらい人幻想曲」も見事に弾きこなしていた。
その上、ベーゼンドルファーのピアノを歌うように美しく鳴らす。
そのタッチの素晴らしさも特筆したい。
解説もすべて彼自身が担当し、その博学ぶりを生かした文才と徹底した楽譜調査は驚くほどだ。
無料で配布されるプログラムを毎回保存しておけば、今後シューベルトのピアノ曲を聴く時のこのうえない参考になるだろう。

最初に演奏された「幻想曲 ハ短調 D2E」は、ドイチュ番号が示している通り彼の最初のピアノ独奏曲で、14歳のころの作品とのこと。
聴いてみるとモーツァルトの「幻想曲ハ短調K.475」と似ている箇所がしばしばあり、モーツァルトの影響のもとに作られたのが明白である。
あまりにも似ていて微笑ましい箇所もあるほどだ。
こうして習作として書かれたものをコンサートホールで聴く機会などめったにない為、これは貴重なチャンスだった。
当然ながらまだ作品としてこなれてはいないものの、すでに才能の萌芽を感じることは出来るように思える。

次の「アンダンテ D29」は一転して愛らしい小品で、彼の早熟ぶりを感じさせる。
佐藤氏自身の解説によると、このテーマは弦楽四重奏の断章D3のピアノ用編曲とのことで、他の作品にもさらに流用されているらしい。
初期からシューベルトはテーマの流用を行っていたというのは興味深い。

続く「10の変奏曲 ヘ長調 D156」は意欲作であろう。
シューベルトのやる気がひしひしと伝わってきた。
シューベルトは「変奏曲」と題されたものよりも、そうでない作品に変奏形式を使うことが多かったようだが、この初期作品は「変奏曲」というジャンルに真正面からとりくんだものということだろう。
佐藤氏も指摘しているように装飾的な変奏が続くが、その分かりやすさはやはり習作的な意味合いが強いのだろう。
だが、決して駄作ではなく、それなりに楽しめる作品と感じた。

佐藤氏はここまで3曲を拍手の中断なしに連続して演奏して、いったん袖に引っ込み、前半最後の「グラーツ幻想曲」となった。
この「グラーツ幻想曲」、シューベルトの友人だったアンゼルム・ヒュッテンブレンナーの弟ヨーゼフの筆跡で表紙が書かれた筆写譜(楽譜は別人が写譜したらしい)が1969年に公になるまで知られていなかったのだそうだ。
だが、一聴してショパンの「ノクターン」のような楽想は、偽作の疑いを持たれてきたようだが、それもよく分かる気がする。
ヒュッテンブレンナーがシューベルトの名前を拝借したのではという可能性もあるだろうが、新シューベルト全集では真作の扱いとなっているそうである。
美しいカンタービレが連綿と流れるこの作品は異色だがこれはこれで充分素晴らしい。

後半は「12のウィーン風ドイツ舞曲」で始まった。
自筆譜には鉛筆やインクで数字が書かれているらしいが、シューベルトの筆跡ではないとの判断から佐藤氏はその番号を無視して、シューベルトの書いた通りの順番で演奏した。
この順序はドイチュの作品目録の順序と一致するのだが、この順序による出版譜はないそうだ。
佐藤氏の判断した順序による「非常に珍しい機会」に立ち会えて幸いである。

ここでいったん袖に引っ込んだ佐藤氏は次に「アダージョ」という小品と、有名な「さすらい人幻想曲」を続けて演奏した。

「アダージョ」はシューベルトお得意の長短短のリズムが繰り返される静かで美しい小品。
2つの稿が存在するらしいのだが、第2稿は未完とのことで、今回は第1稿が演奏された。

そして最後に「さすらい人幻想曲」が演奏された。
佐藤氏は多くのピアニストがやるように派手に演奏するわけでもなく、かといって地味に演奏するわけでもなく、耳にうるさくならない程度の華麗さをもって演奏していた。
それにしても鍵盤を弾く姿を見ていると、ほとんど常に忙しそうなのだが、特に第4楽章の右手の下行パッセージの連続は、シューベルト自身が「悪魔にでも弾かせろ」と叫んだのも分かるほどせわしない。
いかに跳躍を正確にとらえるかということも演奏家のテクニック次第なのだろう。
佐藤氏は理想的な演奏で聴き手を興奮させてくれた。

そしてアンコールで「さすらい人幻想曲」の原曲となった歌曲「さすらい人」のリストによる編曲版が演奏されるまでは想定の範囲内だったのだが、その後再び舞台に登場して彼自身の説明によって、もう一つのF.シュレーゲルの詩による歌曲「さすらい人」が佐藤氏自身の編曲で演奏されるとは思わなかった。
第1節では低音、第2節では高音が歌声部を奏で、伴奏パートも最初はシューベルトのオリジナルに則って、第2節では佐藤氏のアレンジを加えてという感じだった。
まさかこうくるとは思わなかったので、このピアニストの今後からますます目が離せなくなりそうだ。

シューベルトの珍しい作品が披露されるという以上の音楽の喜びを感じさせてくれた演奏会だった。
次回は10月10日に王子ホールで短調のソナタ3曲が演奏されるとのこと。
楽しみである。

ちなみに、このシリーズと連動して佐藤氏によるブログが開設された。こちらも充実しているので興味のある方はぜひご覧ください。
 こちら

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