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R.シュトラウス「セレナーデOp.17-2」を聴く

今回は、R.シュトラウスの歌曲の中で軽快な曲想が親しまれている作品「セレナーデ」を取り上げます。
恋する女性の窓辺に立って愛の歌を歌うというのがセレナードの習慣ですが、シュトラウスの時代はまだそういうことが行われていたのでしょうか。
それとも過去の風習を懐かしんで作曲したのでしょうか。
とにかくシチュエーションからロマンティックな情景が浮かびますし、音楽もそういう状況ですから甘く誘いかけるようなものになるでしょう。
シューベルトもシューマンもブラームスもヴォルフもセレナーデを作っていますが、シュトラウスの「セレナーデ」も彼の代表作の一つと言えるでしょう。
細かい動きをするピアノの上を声も負けじと細やかに歌っていきます。
どれだけ軽快に、しかし官能的な味わいもこめて歌われるかが聴きどころではないでしょうか。
ピアノ後奏は愛の情熱が表現され、ピアニストの腕のふるいどころです。

1886年作曲。
嬰ヘ長調、8分の6拍子-8分の9拍子-8分の6拍子-8分の9拍子-8分の6拍子-8分の9拍子、全92小節
Vivace e dolce

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Ständchen
 セレナーデ

Mach auf, mach auf, doch leise mein Kind,
Um keinen vom Schlummer zu wecken.
Kaum murmelt der Bach, kaum zittert im Wind
Ein Blatt an den Büschen und Hecken.
Drum leise, mein Mädchen, daß nichts sich regt,
Nur leise die Hand auf die Klinke gelegt.
 開けてよ、開けてくれよ、でもそっとだよ、いとしい子、
 誰も眠りから覚まさないようにね。
 小川もほとんど音を立てず、風に震えていないよ、
 茂みややぶの葉っぱ一枚すらね。
 だからそっとね、ぼくの娘よ、何も動かないようにね、
 ただそっと手を取っ手に置くんだよ。

Mit Tritten, wie Tritte der Elfen so sacht,
Um über die Blumen zu hüpfen,
Flieg leicht hinaus in die Mondscheinnacht,
Zu mir in den Garten zu schlüpfen.
Rings schlummern die Blüten am rieselnden Bach
Und duften im Schlaf, nur die Liebe ist wach.
 歩くときは、妖精の足取りのように、そっとね、
 花々を飛び越えるためにね、
 月夜に軽々と飛び出して行くのだよ、
 庭のぼくのところにすべり込んでくるためにね。
 あたりでは、流れる小川のほとりの花々が眠っていて、
 まどろみの中で香りを放ち、ただ愛だけが目覚めているんだ。

Sitz nieder, hier dämmert's geheimnisvoll
Unter den Lindenbäumen,
Die Nachtigall uns zu Häupten soll
Von unseren Küssen träumen,
Und die Rose, wenn sie am Morgen erwacht,
Hoch glühn von den Wonnenschauern der Nacht.
 腰を下ろしてよ、ここは秘密めいて日が暮れていくよ、
 ボダイジュの下でね。
 ぼくらの頭上のナイチンゲールには
 ぼくらの口づけを夢見させておけばいいさ、
 そしてバラは、朝目が覚めたときに
 昨夜の歓喜の身震いに真っ赤に燃え上がればいいよ。

詩:Adolf Friedrich, Graf von Schack (1815-1894)
曲:Richard Georg Strauss (1864-1949)

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フリッツ・ヴンダーリヒ(T)&バイエルン放送交響楽団&Jan Koetsier(C)

ヴンダーリヒの甘美で情熱的なテノールはセレナーデにうってつけです。オケ版は後奏が短縮されているのが残念ですが、シュトラウス自身の編曲なのでしょうか。

ヘルマン・プライ(BR)&カール・エンゲル(P)

1962年録音。プライの厚みのあるダンディな声でこんなふうにくどかれたら女の人は参ってしまうのではないでしょうか。エンゲルはプライとぴったり一体になっています。

ジェラール・スゼー(BR)&ドルトン・ボールドウィン(P)

スゼーがノーブルな声で表情豊かに歌っていて素晴らしい動画です。ボールドウィンは映っていませんが、しっかりと存在感のある演奏です。

ニコライ・ゲッダ(T)&ジェラルド・ムーア(P)

ゲッダは一見端正に思えますが実は熱い歌唱を聴かせます。ムーアは粒立ちのいいタッチが印象的な演奏です。

ヘルベルト・リッペルト(T)&エーリヒ・ビンダー(P)

リッペルトの明るい歌も清々しいです。ビンダーもよくサポートしています。

バーバラ・ボニー(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

ボニーは安定したうまさで細やかに表現します。パーソンズのきらめくような美しいタッチがいつもながら素晴らしいです。

キャスリーン・バトル(S)&ウォレン・ジョーンズ(P)

バトルの少女のような美声はこのような曲でも魅了させられます。ジョーンズは見事な演奏です。

アーリーン・オジェー(S)&アーウィン・ゲイジ(P)

オジェーはもう貫禄さえ感じられる素晴らしさですね。ゲイジが音楽的な演奏を聞かせてくれるのもうれしいです。

エリー・アーメリング(S)&ドルトン・ボールドウィン(P)

アーメリングはシュトラウスをそれほど頻繁に歌いませんでしたが、この曲は得意にしていたようで、さすがの語り口の巧さを聞かせます。ボールドウィンも完ぺきな演奏で見事です。

ジェシー・ノーマン(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

ノーマンの豊かな声をコントロールした歌もまた魅力的です。ここでもパーソンズの巧さが際立っています。

ビクトリア・デ・ロサンヘレス(S)&オーケストラ伴奏

1950年代のライヴ。こんなに愛らしく可愛らしく歌われた「セレナーデ」もなかなかないでしょう。ロサンヘレス、やはり良いです。

ユッシ・ビョルリング(T)&オーケストラ伴奏

TV番組でしょうか。ビョルリングが窓辺のセットでセレナーデの状況を再現しながら甘い歌を聞かせます。彼の動画が残っているというのだけでも貴重ですね。

ヴァルター・ギーゼキングによるピアノ独奏編曲版(演奏もギーゼキング自身)

ギーゼキングは高名なピアニストですが作曲もこなし、ここでも技巧的に編曲していますが、原曲を最大限に生かしたものとなっています。

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コメント

フランツさん、こんにちは。

非常に高揚感のあるロマンチックな曲ですよね。
>プライの厚みのあるダンディな声でこんなふうにくどかれたら女の人は参ってしまうのではないでしょうか。
というフランツさんのコメントに、ニヤニヤしてしまい、私のために書いてくださったのかしら、なんて思いました(笑)
このプライさん30代のシュトラウスはとにかく声が伸びやかで、どの曲もとてもスケールの大きい歌唱になっていると思います。

スゼーですが、この動画で見ますと、改めて、この人はフランス人なんだなあと思いました。
歌う時の表情が単に豊かというだけでなく、おしゃれですね。
ビロードのようと称された美声を堪能しました。

こういうロマンチックなリートを歌わせたら右に出るテノールはいないくらい、ヴンダーリヒは甘美ですね。
プライさん同様、彼も若い頃、ダンスミュジックなどを歌っていたそうですね。
だからこんなに色っぽい歌が歌えるのだろうと思います。

ゲッタは結構好きなテノールでした。
この人もまた美しい声をしていますよね。
女声陣を聞いていませんので、冬の旅「ライアーマン」共々少しずつじっくり楽しみたいと思います。

投稿: 真子 | 2014年3月 4日 (火曜日) 14時54分

真子さん、こんばんは。
この「セレナーデ」は聴いていて気持ちが高揚する曲ですよね。

プライのコメントはおっしゃる通りです(*^_^*)
こんなふうに歌われたら聴いている人は自分に向けて歌ってくれているように感じるのではないでしょうか。本当にいい歌いっぷりですよね。

スゼーはおっしゃるようにフランス人ならではの歌ですね。ネイティブの人にはない味わいがあって「おしゃれ」という言葉が確かによく合いますね。

ヴンダーリヒもダンスミュージックを歌っていたのですね。あの甘美な歌の原点なのかもしれませんね。プライとも仲が良かったそうで、もっと沢山共演したかったことでしょう。

ゲッダもいい声していますよね。一体何カ国語に通じているのだろうかと思うほど、レパートリーも幅広い人ですね。

女声編も楽しんでいただけたら幸いです。

投稿: フランツ | 2014年3月 4日 (火曜日) 21時04分

フランツさん、こんにちは。

ボニーの演奏は、本当にいつも指先にまで神経が行き渡ったような細やかさがありますね。(あとに出てきたSolveig's SangGrieg もとても美しかったです。これCDはないんですかね。)

バトルの声とシュトラウスはよく合うなあと私は思っているんですが、アリアのように歌うバトルに対して、ボニーは、前半ははやる気持ちを抑えきれないような速いテンポで歌い始め、詩の3ブロック目をゆったりとしたテンポにして歌うなど、より詩を強調しているかに見えました。

この二人は大好きでこの曲の入ったCDも持っていますが、こうして聴き比べると、同じカテゴリーの歌手でありながらアプローチの違いが浮き彫りになって面白かったです。
知性のボニーに対してどこまでもチャーミングなバトルでしょうか。

アメリングは、ソプラノとバリトンを単純に比べられないとは思いますが、プライさんの暖かさと歌心、ディースカウさんの詩への踏み込み、語り口、この両方を持っているソプラノだなあと聴く度思います。その上美声でチャーミングですよね。

オジェは、本当に清々しい声の持ち主ですね。
これはわりと晩年の映像でしょうか?美声が失われていないことに驚きます。

ロサンヘレスはおっしゃるようにとても愛らしいセレナードでした。いい演奏は時代を超えますね。
やはり名歌手はすごい、と思わされます。

最後にまたプライさんを聴いてしまいました(CD
持っているんですが(笑))
セレナードを聴き終わったあとに「Allerseeien」
が出てきますね(デッカのCD、プライさんの青い写真が表紙)。
お聴きになったかもしれませんが、この演奏がまたとてもいいのです。
「Komm am mein Herz,dass ich dich habe」
のところは何度聴いてもゾクゾクします。
伸びやかで情感たっぷりです。

投稿: 真子 | 2014年3月13日 (木曜日) 17時35分

真子さん、こんばんは。
丁寧に聴いてくださり、有り難うございます。
それぞれの歌手に対してのご感想、うれしく拝見しました!

ボニーは知的なアプローチが魅力的ですね。「指先まで〜」という真子さんの表現、分かりやすいです(^^)ちなみにボニーのソルヴェイグの歌ですが、「ダイヤモンド・イン・ザ・スノウ〜北欧歌曲集」というCDに収録されています(Amazonで国内盤がまだ手に入るようです)。

バトルはおっしゃるようにアリアのようなアプローチで心地よい歌ですね。

本当に同じソプラノでも様々なタイプがいて、楽しませてくれますね。

ロサンヘレスのチャーミングさ、アーメリングの細やかな語り口など楽しんでいただけて良かったです。アーメリングにプライとディースカウの両者の要素があるというのは同感です。私もそう思っていましたので、うなずいてしまいました。

晩年のオジェーも美声を保っていてさすがです。

締めにもう一度プライを聴くのもいいですね。そして「万霊節」も聴きましたよ。プライって本当に温かい声をしていますよね。聴いていると殺伐とした心が癒されてきます。こういうタイプのバリトン歌手はなかなかいないよなぁと思いながらプライの歌を味わいました。

投稿: フランツ | 2014年3月14日 (金曜日) 22時13分

フランツさん、こんばんは。

ボニーのCDの情報をありがとうございます。
確か、発売当時に買ったように思うのですが、棚にCDが溢れ出し、泣く泣く手放した中に入っていたのではないかと思います。
整理するとき、ドイツリートは全部手元に残していたんですが、こんないい曲が入っていたんですね。
もう一度買おうかなと思います。
それにしてもフランツさんの知識と情報の豊富さにはいつも驚かされ、助けられています。
ありがとうございます。

投稿: 真子 | 2014年3月15日 (土曜日) 22時42分

真子さん、こんにちは。
ボニーのCD、お役に立てて良かったです。
確かにCDはどんどん増えていきますよね。私は全然整理が出来ていないので、どこに目的のCDがあるか探し出すのが大変です(*^_^*)

投稿: フランツ | 2014年3月16日 (日曜日) 11時44分

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