マルリス・ペーターゼン&イェンドリック・シュプリンガー/東京春祭 歌曲シリーズ vol.12(2014年3月29日 東京文化会館 小ホール)
東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2014-
東京春祭 歌曲シリーズ vol.12マルリス・ペーターゼン(ソプラノ)
2014年3月29日(土)18:00 東京文化会館 小ホール
マルリス・ペーターゼン(Marlis Petersen)(ソプラノ)
イェンドリック・シュプリンガー(Jendrik Springer)(ピアノ)
R.シュトラウス(R.Strauss)/献呈(Zueignung) op.10-1
シューマン(Schumann)/《女の愛と生涯(Frauenliebe und -leben)》op.42
1.彼に会ってから(Seit ich ihn gesehen)
2.だれにもまさる彼(Er, der Herrlichste von allen)
3.私にはわからない、信じられない(Ich kann's nicht fassen, nicht glauben)
4.私の指につけた指環よ(Du Ring an meinem Finger)
5.姉妹よ、手をかして(Helft mir, ihr Schwestern)
6.やさしい友よ、あなたは見つめる(Süsser Freund, du blickest)
7.私の心に、私の胸に(An meinem Herzen, an meiner Brust)
8.あなたは初めての悲しみを私に与えた(Nun hast du mir den ersten Schmerz getan)
R.シュトラウス/《おとめの花(Mädchenblumen)》op.22
1.矢車菊(Kornblumen)
2.けしの花(Mohnblumen)
3.きづた(Epheu)
4.すいれん(Wasserrose)
~休憩(Intermission)~
R.シュトラウス/オフィーリアの歌(Lieder der Ophelia)(《6つの歌》op.67より)
1.どうしたらほんとうの恋人を見分けられるだろう(Wie erkenn' ich mein Treulieb)
2.おはよう、今日は聖ヴァレンタインの日(Guten Morgen, 's ist Sankt Velentinstag)
3.彼女は布もかけずに棺台にのせられ(Sie trugen ihn auf der Bahre bloss)
リーム(Rihm: 1952-)/《赤(Das Rot)》
1.真紅(Hochrot)
2.すべては音もなくうつろに(Ist alles stumm und leer)
3.少年の朝のあいさつ(Des Knaben Morgengruss)
4.少年の夜のあいさつ(Des Knaben Abendgruss)
5.クロイツァーへ(An Creuzer)
6.あなたは暗闇を好む(Liebst du das Dunkel)
R.シュトラウス/ツェチーリエ(Cäcilie) op.27-2
~アンコール~
R.シュトラウス/万霊節(Allerseelen) op.10-8
シューマン/献呈(Widmung) op.25-1
即興「さくら」
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二日連続で東京文化会館の小ホールに来ることも珍しい。
しかもどちらも歌曲の夕べ。
私としてはうれしい2 daysだ。
今年は東京・春・音楽祭が10周年を迎えたとのこと。
おめでとうございます。
このシリーズは実行委員長の鈴木幸一氏が私財を投げ打って始めたと聞いた。
最初は動員も厳しかったそうだが、今はすっかり春の恒例イベントに定着した感がある。
今回は(いつも通り無料で)配布される分厚いプログラムに過去10年の全公演の記録も掲載されているので、このプログラムめあてに何か1公演聴かれるのもいいかもしれない。
今日聴くのは、ドイツ出身の今活躍中のソプラノ、マルリス・ペーターゼンの初リサイタル。
ピアノ共演はこの音楽祭ではお馴染みのイェンドリック・シュプリンガー。
今回のコンサートについて、演奏者2人の名前によるコメントがあり、テーマは「女性」とのこと。
シューマンの「女の愛と生涯」や、ハムレットによるシュトラウスの「オフィーリアの歌」は言うまでもないが、シュトラウスの歌曲集「おとめの花」は男性が女性を花にたとえた内容である。
そしてリームの「赤」という歌曲集の詩はカロリーネ・フォン・ギュンダーローデという女性の手による。
この人は、演奏者のコメントによれば「既婚の愛人、文献学者のフリードリヒ・クロイツァーが最終的に彼女のもとを去った時、26歳で自害」したとのこと。
歌曲集の5曲目の「クロイツァー」というのは愛人に向けての内容ということになる。
そのリームの歌曲集「赤」は、あまり現代音楽特有の趣は強くなく、歌の旋律などは後期ロマン派の流れといってもいいぐらいに親しみやすい。
ピアノパートもそれほど奇抜ではなく、歌唱パートに寄り添っているのは明らかだ。
ペーターゼンはカラフルな花をあしらった明るいドレスで登場した。
髪も一部をピンクに染めて、快活な現代っ子という感じ。
だが、その歌唱はリート歌唱の伝統を受け継ぐに足る充実したものだった。
声は基本リリックソプラノのようだが、芯があり、ボリュームも豊かで朗々とよく響く。
クールな美声と恵まれた容姿をもち、すでに完成されたアーティストという印象だ。
リームの歌曲集のみ楽譜を見ながらの歌唱だったが、他はもちろん暗譜。
シュトラウスの名品の数々も生き生きと躍動感にあふれて歌われ、しっとりとした趣の「おとめの花」の中の歌も魅力的な歌唱。
シューマンの「女の愛と生涯」はテキストに沿った丁寧な歌唱で、主人公になりきって歌ってはいるものの、第三者的な冷静な目も感じさせる。
そのクールな声の質感からそう感じさせられるのか。
リームの歌曲集では音の跳躍やら音程やらのおそらく難関を余裕で突破した見事な歌唱。
そして「ツェチーリエ」でドラマティックに締めくくる。
リート歌手としての知性と感性のバランスの良さを感じさせる逸材と思う。
アンコールはシュトラウスとシューマンから名作を1曲ずつ。
そして、最後は桜の美しさに触発されて短い即興を歌ってみせた(シュプリンガーのみやびやかな分散和音にのって)。
ピアノのイェンドリック・シュプリンガーはその対応能力の高さを感じさせた。
1972年ゲッティンゲン生まれというからまだ40台に入ったところ。
軽めのタッチだが、曲の特徴をよくつかんだ演奏を聴かせる。
上半身をゆっくり回転させながら演奏するのが特徴的だ。
今後の成熟が楽しみである。
演奏会前に寄った上野公園はすでに花見客でごったがえしている。
しかし、その活気もまた今の日本には必要なものだろう。
上野の森に耳と目を堪能させてもらった。
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