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藤村実穂子&ヴォルフラム・リーガー/リーダーアーベントⅣ(2014年3月19日 紀尾井ホール)

藤村実穂子 リーダーアーベントⅣ
2014年3月19日(水)19:00 紀尾井ホール

藤村実穂子(Mihoko Fujimura)(MS)
ヴォルフラム・リーガー(Wolfram Rieger)(P)

R. シュトラウス(Strauss)/
薔薇のリボン(Das Rosenband) Op.36-1
白いジャスミン(Weißer Jasmin) Op.31-3
高鳴る胸(Schlagende Herzen) Op.29-2
愛を抱きて(Ich trage meine Minne) Op.32-1
愛する人よ、別れねばならない(Ach Lieb, ich muss nun scheiden) Op.21-3
憧れ(Sehnsucht) Op.32-2

静かな歌(Leise Lieder) Op.41-5
解放(Befreit) Op. 39-4
岸で(Am Ufer) Op.41-3
帰郷(Heimkehr) Op. 15-5
小さな子守唄(Wiegenliedchen) Op.49-3
子守唄(Wiegenlied) Op. 41-1

~休憩~

マーラー(Mahler)/歌曲集「子供の魔法の角笛」より(aus "Des Knaben Wunderhorn")
ラインの小伝説(Rheinlegendchen)
この世の生活(Das irdische Leben)
原初の光(Urlicht)
魚に説教するパドゥアの聖アントニウス(Des Antonius von Padua Fischpredigt)
この歌を思い付いたのは誰?(Wer hat dies Liedlein erdacht?)
不幸の中の慰め(Trost im Unglück)
無駄な努力(Verlorene Müh)
高い知性への賞賛(Lob des hohen Verstandes)

~アンコール~

マーラー/歌曲集「若き日の歌」より~ハンスとグレーテ(Hans und Grethe)
マーラー/歌曲集「若き日の歌」より~たくましい想像力(Starke Einbildungskraft)
マーラー/歌曲集「若き日の歌」より~別離と忌避(Scheiden und Meiden)

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藤村実穂子のリーダーアーベントを聴くのも今回で4回目となった。
毎回充実した歌唱を聴かせてくれる藤村だが、今回は特に血肉となった見事な歌の連続に深い感銘を受けた。
共演のピアニストは、第2回からずっと共演しているヴォルフラム・リーガー。
この人も国際的に活躍しているリートピアニストだが、今回が最も藤村さんとのアンサンブルが密に感じられた。

前半が12曲のリヒャルト・シュトラウス歌曲、後半がマーラーの「子供の魔法の角笛」からの8曲ですっきりまとめられていた。

青みがかった紫っぽい初お披露目と思われるドレスを着て舞台に登場した藤村さんはいつも通りの威厳が感じられた。
リーガーは髪に白いものが増えたような気がした。

最初の「薔薇のリボン」からすでに鍛えられて美しく充実した藤村さんの声が、あたかもなんともないかのような自然なディクションで響く。
ドイツ人でもないのに、この美しいディクションを聴くと、ドイツ語がとても美しい言語であるように感じられる。
そして曲が進むにつれて彼女の声がふくよかさを増し、つやつやと輝き、充分なボリュームで聴き手の耳を幸福に満たす。
「高鳴る胸」で"Kling-klang(クリン、クラン)"と胸のときめきを表現する時の藤村さんの愛らしいこと!
彼女の笑顔が聴く者の緊張をほぐしていく。
続いて甘美な「愛を抱きて」を情感こめて歌い、「愛する人よ、別れねばならない」の簡潔な悲しみの表現を見事に歌った。
そして不安げな雰囲気のピアノパートが印象的な「憧れ」で藤村さんは言葉の意味を歌唱で伝えきった。
例えば「君が冷たい眼を向けても」という時の"kalt(冷たい)"という言葉を彼女の声の質で表現し、何度も繰り返される"ich liebe dich(君を愛す)"をそのたびごとに表情を変えて表現した。
この曲が終わると、二人は拍手を受けていったん袖に戻ってからシュトラウスの次のグループに入った。
中でも名曲の評判高い「解放」をドラマティックに息の長いフレーズも含め見事に歌ったが、彼女はこの曲をリートの枠組みの中で歌いきった。
そこが他のオペラ歌手がシュトラウス歌曲をオペラアリアのように歌いたがるところと異なる美質だろう。
シュトラウスのグループ最後は2曲の「子守唄」が並んだ。
そして前半最後を締めくくる「子守唄」では完璧な彼らにしては珍しいミスがあった。
最初にリーガーが異なる音をぽんと鳴らすと、すぐに藤村さんも調子を崩したのである。
ほんのちょっとしたミスが伝染するというのは、藤村さんがピアノパートを実によく聴きながら歌っていることの証ではなかろうか。
もちろん二人はすぐに持ち直したが、緊密な関係であるからこそのミスの連鎖だったように私には思えた。

休憩後はオール・マーラーだが、こちらは本当に肩のこらない楽しい曲が中心だった。
だが、中には「この世の生活」のような曲もあったが、飢えた子どもと母親の会話による悲痛というよりは皮肉な表現を、彼女は声色を変えはしたがストレートに表現する。
そうすることによって、聴き手の想像力を掻き立てる節度のある歌唱だったと言えるのではないか。
「原初の光」はぴんと背筋が伸びるような真摯な表現が胸に迫った。
「ラインの小伝説」では王様の声色を変え、「不幸の中の慰め」や「無駄な努力」は恋人同士の一人二役をこなし、オペラ歌手の本領を発揮した。
「魚に説教するパドゥアの聖アントニウス」や「高い知性への賞賛」では彼女にしては珍しいコミカルな歌唱で、マーラーの皮肉を巧まずに表現した。
どの歌も藤村さんの自我が前面に出てくることは一切なく、曲そのものの姿をありのままに美しく提示してくれる。
そこに藤村さんの歌唱の素晴らしさがあるのではないだろうか。

なお、ピアノのヴォルフラム・リーガーの細やかで柔軟な表現力はさすが世界を股に活躍しているだけのことはある。
「憧れ」の後奏のように慈しむようにゆったりと弾きおさめる面があるかと思うと、「無駄な努力」のように雄弁な演奏で積極的に歌をつくりあげたりもする。
その対応の幅広さが彼を理想的なリート伴奏者としているのだろう。
音色は常に練られていて、耳に心地よい。
こういうピアニストを選んだ藤村さんの耳も素晴らしい。

なお、今回の来日ツアーの別公演のインタビューが興味深いのでぜひご覧ください。
 こちら

いかに彼女が使命感をもって日常のすべてを歌に捧げているかが伝わってくる。
このような生活を続けていて、彼女曰く「体が高速道路をファーストギアで走り続け、焼け焦げた車のモーターみたいになってしまいました」とのことで、残念ながら歌曲リサイタルは一時休止するとのこと。
一日も早く歌曲リサイタルを再開する日が来ることを祈りたい。

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