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河原忠之/リサイタル・シリーズ 2014 ~歌霊(うたたま)~第6回 フランシス・プーランクⅡ(2014年03月28日 東京文化会館 小ホール)

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河原忠之リサイタル・シリーズ 2014 ~歌霊(うたたま)~第6回 フランシス・プーランクⅡ
デビュー30周年記念

2014年03月28日(金)18:30 東京文化会館 小ホール(全自由席)

河原忠之(Tadayuki Kawahara)(ピアノ / Piano)
羽根田宏子(Hiroko Haneda)(ソプラノ / Soprano)
林美智子(Michiko Hayashi)(メゾ・ソプラノ / Mezzo-soprano)
村田健司(Kenji Murata)(バリトン・レジェ / Baritone martin)※プレ・トークと語り

第1部 ポール・エリュアールの詩による歌曲

歌曲集「5つの詩」(林美智子)
1.睡るその男は…
2.彼は彼女を…
3.透きとおった水の羽…
4.ガラスの額をもち…
5.恋する女たち…

歌曲集「こんな日 こんな夜」(林美智子)
1.うららかな日…
2.空の貝殻…
3.ちぎれた軍旗…
4.災難にあった馬車…
5.まっしぐらに…
6.野の花は…
7.きみだけを…
8.猛々しい顔…
9.私達は夜を創った…

歌曲集「燃える鏡」(羽根田宏子)
1.君は夕暮れの火を見る…
2.お前の額に名前を…

歌曲「この優しい顔」(羽根田宏子)

歌曲「・・・だが それは滅ぶこと」(羽根田宏子)

歌曲「心に支配される手」(羽根田宏子)

歌曲集「冷気と火」(林美智子)
1.眼から太陽から…
2.朝枝々は…
3.すべて消え去った…
4.庭の闇の中に…
5.冷気と火を…
6.おとこやさしい微笑…
7.流れて行く大河は…

歌曲集「画家の仕事」(林美智子)
1.パブロ・ピカソ
2.マルク・シャガール
3.ジョルジュ・ブラック
4.フアン・グリス
5.パウル・クレー
6.ホアン・ミロ
7.ジャック・ヴィヨン

歌曲「磁器の歌」(林美智子)

~休憩~

第2部 反戦と詩人

~マックス・ジャコブ詩~

歌曲集「5つの詩」(羽根田宏子)
1.ブルターニュの唄
2.お墓
3.かわいい女中
4.子守歌
5.スリックとムリック

歌曲集「パリジアーナ」(羽根田宏子)
1.コルネットを吹くこと
2.あなたもう書かないの?

~ルイ・アラゴン詩~

歌曲集「2つの詩」(羽根田宏子)
1.セー
2.みやびやかな宴

~ロベール・デスノス詩~

歌曲「消えた男」(林美智子)

歌曲「最後の詩」(羽根田宏子)

~休憩~

第3部 子供の世界

ジャン・ド・ブリュノフ作詞・絵
「子象ババールの物語」(語り:村田健司)

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河原忠之リサイタル・シリーズ“歌霊”も今年で第6回目を迎え、プーランクのⅡ回目が東京文化会館小ホールで演奏された。
Ⅰ回目を聴けなかったのが残念だが、前回と同じメンバーによるとのこと。
今回は6時半にスタートし、2回の休憩をはさみ、終演が9時20分頃というボリュームのある内容だった。
それでもちらしで予告されていたいくつかの歌曲はプログラムから省かれたというのも致し方ないことだろう(「村人たちの歌」が省かれたのは残念だったが)。

仕事を終えて会場に着くと、すでに村田健司氏のプレ・トークが始まっていた。
舞台上手側に立ち、穏やかで冷静に詩人と作曲家のかかわりを語る村田氏のトークは興味深いものだった。
スクリーンも利用され、詩人の写真や、演奏中の訳詩、さらに「子象ババールの物語」ではもとの絵本の中からの絵も映し出され、視覚からも楽しませてもらった。

エリュアールの詩はシュルレアリスムの言葉のとらえがたい内容を理屈でとらえずに、感覚で浴びることが大事とのこと。
確かに日本語に訳されたもので意味をとろうとすることは難しく、またそうする必要もないのかもしれない。
フェリシティ・ロットのリサイタルで好きになった歌曲集「こんな日 こんな夜」も理屈に合わない場面の連続であり、むしろその不思議な感覚そのものを楽しめばよいのだろう。
またちょっと変わった猥雑な人だったというマックス・ジャコブや、ロベール・デスノスといった詩人たちは、いずれもユダヤ人であった為に収容所で亡くなったとのこと。
そういう事実を知ったうえで、デスノスの「消えた男」というユダヤ人の友人がある日ぱったり町から消えたという内容の曲を聴くと、その重みが(曲の軽さも相まって一層)実感される。
プーランクの音楽はしゃれていたり、真面目くさっていたり、早口言葉だったり、悲しげだったり、そのころころ変わる楽想は飽きることがない。
だが、じっくり聴いていると、同じような曲想を異なる作品で使ったりもしている。
例えば、歌曲集「村人たちの歌」の中の「乞食」の前奏の音楽は、「子象ババールの物語」の中で母象が子象を背中に乗せて歩く場面で流用され、重い足取りを表す時のプーランクのお決まりの音楽なのかもしれない。

今回20歳でデビューして30周年の記念も兼ねているという河原忠之のピアノはまったくもって素晴らしい!
先日望月哲也のリサイタルで世紀末のウィーンの歌曲集を聴いたばかりだが、この短期間にプーランクの多彩で雄弁で難しい(であろう)音楽をよくここまで見事に自分のものにして演奏していることか。
河原氏の能力に脱帽するだけでなく、彼の各作品への愛情が演奏する姿勢からも感じられ、本当に素晴らしいピアニストだとあらためて実感させられた。
音があいかわらず温かみのあるみずみずしい響きなのが素敵だ。

歌手も多彩だ。
今が旬のさなかのメゾソプラノの林美智子は、舞台姿も美しく、さらに深みのあるメゾの美声がそれぞれの歌曲に息吹を与えているのを心地よく聴くことが出来た。
ベテランのソプラノ、羽根田宏子は全曲暗譜(!)で、どの曲も味わいがにじみ出た血肉となった表現が素晴らしかった。
そして各ブロック演奏前のトークもこなした村田健司がフランス語の語りで出演した「子象ババールの物語」のなんという名演!
目をつむっていればここにいるのが日本人であるとは誰も思わないだろう。
名俳優さながらの起伏に富みドラマティックに演出する村田氏の語りは、映像がもしなかったとしても聴き手の胸に温かいものを灯したであろうことは間違いない。
目の前にババールが、町の老婦人が、象の国の王様が、ぱっと目に浮かぶような迫真の語りであった。
これはよいものが聴けて大満足である。
前回の再演とのことだが、これは次回のプーランクの時にもぜひ再演を重ねてほしい演目である。

長丁場だが全く疲れを感じずに一気に楽しめた(演奏者は大変だったろうが)。
唯一注文をつけるとすれば、この文化会館の小ホールの構造上の問題なのかもしれないが、舞台裏の話し声や物音が結構聞こえるのが多少気になった。
だが演奏と選曲自体は大満足で、プーランクがますます身近になり、好きになった。

なお“歌霊”シリーズの次回は来年の3月31日、R.シュトラウスのⅡ回目とのこと。
楽しみである。

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