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ジェラール・スゼー&ドルトン・ボールドウィンによるシューベルト「幻の太陽」「ライアー弾き」映像(1977年)

先日シュライアーとリヒテルによるシューベルト「冬の旅」全曲の映像が見つかり喜んでいたところに、もう一つ貴重な映像がアップされた。
フランスのバリトン歌手で仏独両歌曲を得意としたジェラール・スゼー(Gérard Souzay: 1918-2004)と名パートナー、ドルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin: 1931-)による「冬の旅」最後の2曲の映像である。
この二人の演奏映像は(他の曲だが)かつてモノクロではDVDで出ていて、動画サイトにも一部アップされているが、カラー映像は私ははじめて見た。
カナダでの聴衆を前にした1977年のライヴらしい。

幻の太陽(幻日)(Die Nebensonnen)

ライアー弾き(辻音楽師)(Der Leiermann)

スゼーの声は盛期を過ぎていて、ちょっとのっぺりした歌い方が気になる方もいるだろう。
だが誠実で真摯な表現は、声が衰えていても聴き手に伝わるものなのである。
アップで映し出される顔の表情は、スゼーが歌の世界に入り込んでいることを示している。

「幻の太陽」の前半、3つの太陽が見えると歌われる間、スゼーは上方の一点を見つめて視線を離さない。
その後「おまえは私の太陽ではない」と歌うところでようやく視線を落とす。
そして「暗闇の中のほうがここちよい」と目を閉じて歌いおさめるのである。

「ライアー弾き」ではスゼーは各フレーズの最後の音を普通よりも伸ばして歌う。
それと対照的にボールドウィンはきっちりとリズムを守り、ドローンの低音をかすかに響かせる。
スゼーはアンニュイな疲れたような声で中ぐらいのボリュームで歌い、時々ささやくようにボリュームをおとす。
しかし、「私の歌にあなたのライアーを合わせてくれまいか」と締めくくる時には強めにしっかりと歌い、決してボリュームをおとさない。
希望とも絶望ともつかない歌声は、聴き手の想像力を刺激する。
スゼーの歌う「ライアー弾き」は、若者とライアーを弾く老人が一体になってしまったような印象すら受ける。
年を重ねたかつての若者が過去の苦い思い出を回顧しているのか?
一方ボールドウィンのピアノはきりっと弾き締まったリズムと響きで主人公の若さを反映しているかのようだ。

それにしても海外の聴衆は「冬の旅」の後でも全員がスタンディング・オベーションで熱狂的に演奏者をねぎらっていたのが印象的だった。

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コメント

 今日は。
 確かにスゼーさんの歌唱は「のっぺり」していますし、晩年でどこか不安定ですが、でも彼の思いの深さは感じられます。フランツさんのおかげでその一端を拝見できました。
 歌ってなんでしょうね?
 言葉、発音、発声……。考えれば考えるほど全くわからなくなってきました。

投稿: Zu-Simolin | 2014年2月12日 (水曜日) 19時29分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
歌とはというのは深いテーマですね。技術のありなしも確かに大切ですが、歌っている人の気持ちが伝わってくるかどうかを重視したいと個人的には思います。
声が弱くなっても惹きつけられる何かが増す人は素晴らしいと思います。スゼーへの満場の拍手はその証だと思います。

投稿: フランツ | 2014年2月13日 (木曜日) 19時54分

フランツさん、こんにちは。

貴重な映像をありがとうございます。
いかにもも70年代という映像ですね。

フランツさんとZu-Simolinさんの会話から、何かをなくして別の何かを手に入れるんだなあと思わされました。

私は常日頃、プライさんのCDの中でも、声の充実が素晴らしいフィリップス版を特に愛聴しています。
けれども、晩年のレコーディングにもとても心惹かれるのです。
確かに若い頃のように声の力で歌えない。
ところどころほころびすらある。
ファンとしては聴いていてちょっと辛い気持ちになったりもします。
けれどもよくわからない魅力に惹きつけられます。
実は昨日そんなことを思いながら、晩年のレコーディングを聞いたところでした。
素晴らしい映像をありがとうございました。

投稿: 真子 | 2014年2月17日 (月曜日) 12時52分

真子さん、こんばんは。
確かに時代の空気を感じさせる映像ですね。1970年代にバリバリ活躍していた人たちの映像をもっと見てみたいものです。

「何かをなくして別の何かを手に入れる」というのは本当に同感です!
声のつやや若さと引き換えに得るものがあるからこそ、スゼーやプライの晩年の歌唱に感動したり涙したりするのだと思います。

プライファンの真子さんが晩年のプライの歌唱に時に辛い思いをしながらも心惹かれるものがあるというのは、プライの表現に晩年になってようやく到達した境地の素晴らしさを感じ取っておられるのではないでしょうか。
名歌手は生涯通して聴き手を魅了し続けるのでしょう。

投稿: フランツ | 2014年2月17日 (月曜日) 21時09分

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