R.シュトラウス「献呈Op.10-1」を聴く
今回は、生誕150年を迎えたR.シュトラウスの歌曲の中でとりわけ有名な作品「献呈」を取り上げます。
私にとってもR.シュトラウスの歌曲の中で最も好きな歌の一つです。
作品番号は彼の歌曲出版の中で最も若いOp.10に含まれ、ヘルマン・フォン・ギルムの詩集「最後の葉(Letzte Blätter)」から選ばれた8つの詩による歌曲集の冒頭に置かれています。
自堕落だった自分を救ってくれた恋人に寄せる感謝の歌です(もちろんラヴソングでもあるのでしょう)。
素朴ながらピアノと共にストレートな情熱へと盛り上がっていき、アンコールピースとしてもうってつけの素晴らしい作品です。
実演で聴いたフランシスコ・アライサ(T)とアーウィン・ゲイジ(P)による演奏が忘れられません。
1882-1883年作曲。
ハ長調、4分の4拍子、Moderato(中庸の速度で)
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Zueignung
献呈
Ja, du weißt es, teure Seele,
Daß ich fern von dir mich quäle,
Liebe macht die Herzen krank,
Habe Dank.
そうだとも、あなたは知っているでしょう、いとしい人よ、
あなたから遠く離れて私が苦しんでいることを。
愛は心を病ませてしまうのだ、
有り難う。
Einst hielt ich, der Freiheit Zecher,
Hoch den Amethysten-Becher,
Und du segnetest den Trank,
Habe Dank.
かつて放埓な大酒呑みだった私が
アメシストの杯を高く掲げると、
あなたはこの飲み物を祝福してくれた、
有り難う。
Und beschworst darin die Bösen,
Bis ich, was ich nie gewesen,
Heilig, heilig an's Herz dir sank,
Habe Dank.
そしてその中の災いを追い払ってくれた、
こうして私は以前の自分ではなくなり、
清らかに、清らかにあなたの心に沈みこんだ、
有り難う。
詩:Hermann von Gilm zu Rosenegg (1812-1864)
曲:Richard Georg Strauss (1864-1949)
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ルチア・ポップ(S)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
ポップの細い美声で熱烈に歌われるのも素敵です。サヴァリシュのピアノが雄弁で音が非常にきれいです。
グレイス・バンブリー(MS)&エリック・ヴェルバ(P)
バンブリーの艶々した深みのある声に思わず引き込まれます。ヴェルバもいつになく雄弁な演奏です。
バーバラ・ボニー(S)&マルコム・マーティノー(P)
ボニーは表情が細やかで、しかも力強さにも欠けていません。マーティノーはいつも通り息の合ったコンビぶりを聴かせています。
エディタ・グルベローヴァ(S)&フリードリヒ・ハイダー(P)
シュトラウスを得意としたグルベローヴァの美声が堪能できます。当時ご主人だったハイダーもがっちりしたサポートぶりです。
ジェシー・ノーマン(S)&エリザベス・クーパー(P)
ノーマンの息の長いフレーズを存分に堪能できます。クーパーは見かけによらずかなり力強い演奏です。
アーフィエ・ヘイニス(A)&アーウィン・ゲイジ(P)
オランダのコントラルト、ヘイニスの温かみのある声は聴き手を包み込んでくれます。ゲイジのピアノが実に充実していて素晴らしいです。
ロッテ・レーマン(S)&ピアノ伴奏(演奏者名は不明)
レーマンの情熱的な歌唱はこの曲にぴったりです。ピアニストもレーマンと一緒に盛り上がります。ライヴの雰囲気が伝わってきますね。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)
ゆったりしたテンポでしみじみと歌うディースカウの歌もいいです。ムーアはぴったり寄り添っています。
ハインリヒ・シュルスヌス(BR)&リヒャルト・シュトラウス(P)
針音の中からシュルスヌスのなんともいえない懐かしい雰囲気が感じられます。シュトラウス自身のピアノ演奏も貴重です。
フリッツ・ヴンダーリヒ(T)&バイエルン放送交響楽団&Jan Koetsier(C)
オケ伴奏版です。ヴンダーリヒのまぶしいほどの凛々しい歌声が胸に響きます。オケも美しいです。
ピアノ伴奏のみ(演奏者不明)
音と画像が若干ずれていますが、是非一緒に歌ってみてください。ピアノ伴奏だけでもこれだけ力強い素敵な曲なのが分かります。
※残念ながらヘルマン・プライ(Br)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)の演奏はYouTubeには無かったのですが、とても真摯な名唱なので、一部だけですが、以下のサイトのサンプルでお聴きください。
こちら(1トラック目の左にある再生ボタンをクリックすると一部ですが聴けます)
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コメント
こんにちは、フランツさん。
R・シュトラウス歌曲、紹介の全部の歌唱ではありませんが味わいました。B・ボニーとディースカウなどいくつか。
Habe Dank をどう歌うかどう聴くかも楽しませていただきました。Habe Dank,Herr Franz!です。
因みに、ヴォルフの「新年に」もちゃんと味わせていただきました。
ありがとうございます。
投稿: Zu-Simolin | 2014年1月20日 (月曜日) 16時54分
Zu-Simolinさん、こんばんは。
味わっていただけて嬉しいです!
この曲はあまりにも有名で他にも多くの録音があったのですが、選んでいたら多くなり過ぎてしまったので適当なところで選ぶのをやめてしまいました。他にもきっといい演奏があると思います。
Habe Dankは3回出て来ますが、それぞれどのように歌い分けているかも確かに聞きどころと言えそうですね。
>Habe Dank,Herr Franz!
Bitte sehr, Herr Zu-Simolin!
ヴォルフも聴いてくださり、Habe Dank!
投稿: フランツ | 2014年1月20日 (月曜日) 21時28分
フランツさん、こんにちは。
R・シュトラウスの聴き比べ第1弾は大好きな「献呈」!
ありがとうございます。
人それぞれの「献呈」を堪能しました。
普段はソプラノレッジェーロが好きなんですが、メゾのアーフィエ・ヘイニスがとても心に染みました。
そしてノーマンには圧倒されました。
プライさんのフィリップ盤(ご紹介くださっているサンプルと同じ)を、どれほど聴いたかわかりません。
名唱の誉高い歌唱ですね。
それ以外にも同じサヴァリッシュのピアノでのザルツブルグ音楽祭のライヴ(1970年)も大変素晴らしいです。
アンコールで歌ったということもあってか、フィリップ盤より更に高揚感があります。
また、1662年のデッカへの録音では、少々荒削りですが声の力がすごいです。
こういう曲で聴き比べると、いっそうディースカウさんとプライさんの特性の違いがわかるように思います。
フランツさんのおかげで最近はピアノにもより耳を傾けるようになりました。
フランツさんのようにうまく言葉で言い表わせませんが、このピアノいいなあと思うと、ムーアであることが多いです。
投稿: 真子 | 2014年1月21日 (火曜日) 10時29分
私が持っている「献呈」はグルベローヴァと白井さんの二種類です。いずれも素晴らしい名唱です。
それにしても、まるで大家の風格すら感じさせる傑作ですよね。これが二十歳前後の作品とは! 天才とは恐ろしいですね。
投稿: 田中文人 | 2014年1月21日 (火曜日) 11時10分
真子さん、こんにちは。
真子さんもお好きな曲とのことで良かったです!
オランダ出身の歌手は温かみのある声の人が多いようで、ヘイニスもおっしゃるように胸に染みますね。
ノーマンの豊かな声はまさにシュトラウスにぴったりだと思います。
プライのシュトラウスは本当に素晴らしいですね!彼の真摯で情熱的な歌唱はシュトラウスの歌の中にある「熱さ」を見事に浮かび上がらせていると思います。ザルツブルクのライヴ、家の中から探し出して聴いてみましたが、プライ、美声ですね!聴き惚れてしまいました。後日全曲聴いてみます。1962年の演奏はエンゲルとの録音でしょうか。こちらも多分家にあると思うので探してみますね。
ムーアのピアノに興味を持っていただき、有り難うございます!
彼のピアノの一番の魅力は温かみのあるタッチにあると思います。
同じ曲を演奏していても、ムーアが弾くと、聴いていて心地良いんです。
真子さんにもムーアの良さを感じていただけて嬉しいです(^^)
投稿: フランツ | 2014年1月22日 (水曜日) 02時55分
田中文人さん、こんにちは。
グルベローヴァもいいですよね。彼女は頻繁にシュトラウスを歌っていた印象がありますが、声そのものの魅力を感じさせてくれます。
白井光子さんもシュトラウスアルバムを録音していますね。さきほど久しぶりにCDを聴いてみましたが、さすが!の一言ですね。なんと充実した歌唱!あらためて白井さんの歌の凄さに感銘を受けました。思い出させてくれて有り難うございます!
確かにこの曲が円熟期の作品だとしても何の不思議もないですね。でも20代の作品なんですよね。Op.10に含まれる曲は本当にいい曲がそろっていると思います。
投稿: フランツ | 2014年1月22日 (水曜日) 02時56分
フランツさん、こんにちは。
「献呈」が入っているR・シュトラウス歌曲集のLPは、1964年録音、ピアニストはムーアでした。
デッカから出ている「偉大なる名歌手たち」(CD)には、1962年録音の「万霊祭」「セレナード」「密やかな誘い」「帰郷」の4曲がエンゲルのピアノで入っていました。
混同してしまっていましたm(_ _)m
この三十代のR・シュトラウスは、”どこまでも伸びていくような”と表現した人がいましたが、本当に伸びやかで、自分の声を信じ切って歌っているという若い情熱を感じます。
若い時にしかできない歌い方ですね。
「夜」も大好きです。
最後の方の甘いメロディを、プライさんはこれ以上ないほど甘く歌っています。
CD化された方に入っている「万霊祭」(日本で言うお盆のような祭事)もとても魅了的です。
「僕の胸に帰っておいで、そしてまた抱きしめたい(喜多尾道冬訳詩)」のところは、もうこんなふうに歌われたら、天国から舞い戻ってしまいそうです(笑)
聴く度ゾクゾクします。
それから、ムーアがピアニストをつとめている「ヴォルフ メーリケ歌曲集」家にありました。
「プフィッツナー アイヒェンドルフ歌曲集」も入っているロンドンから出ているLPですよね?
1965年の録音になっていますから36歳の時の録音ですね。
昔テープに録ったはずですから、探して聞いてみようと思います。
投稿: 真子 | 2014年1月23日 (木曜日) 14時33分
真子さん、こんにちは。
ムーアとのシュトラウス歌曲集は1964年録音だったのですね。
自分の持てるものを信用して歌える時期は貴重ですね。いつかCD化してほしいものです。
「夜」も「万霊節」もよく知られた名曲ですね。プライのフィリップス盤で聴いてみますね。
ヴォルフとプフィッツナーのLP持っておられたそうで、良かったです。
いい演奏なので、楽しんでくださいね。
投稿: フランツ | 2014年1月24日 (金曜日) 21時30分