R.シュトラウス「明日Op.27-4」を聴く
今回は、R.シュトラウスの歌曲の中で「献呈」と並んで広く親しまれている作品「明日!」を取り上げます。
詩はスコットランド生まれの作家、思想家のジョン・ヘンリー・マッケイによるものです。
この作品は、まずピアノパートのとろっとろに溶けそうなほど甘く美しい長めの前奏で始まることが特徴的で、歌はピアノの前奏曲の途中からさりげなく入ってくる感じです。
恋人同士のこのうえなく甘美で幸せな世界を歌ったものですが、3.11後の日本でグレアム・ジョンソンがこの曲を演奏する前に「明日はもっと良くなるという内容です。そして明日は恋人たちだけでなく、すべての人に平和と幸福を与えてくれます。」と言ってくれたのが印象に残っています(下の動画で聴けます)。
ピアニストの音楽性を堪能し、そして歌手の美しいレガートに酔いしれるというのが、この作品の楽しみ方でしょうか。
1894年作曲。
ト長調、4分の4拍子、全43小節
Langsam sehr getragen(ゆっくりと、非常に荘重に)
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Morgen!
明日!
Und morgen wird die Sonne wieder scheinen,
und auf dem Wege, den ich gehen werde,
wird uns, die Glücklichen, sie wieder einen
inmitten dieser sonnenatmenden Erde...
そして明日には太陽が再び輝くだろう、
そして私の歩む道で
私たち、幸せな二人を再び一つにするだろう、
この太陽の息づく大地のさなかで。
Und zu dem Strand, dem weiten, wogenblauen,
werden wir still und langsam niedersteigen,
Stumm werden wir uns in die Augen schauen,
und auf uns sinkt des Glückes stummes Schweigen...
そして広々として、青く波立つ浜辺へと
私たちは静かに、ゆっくりと下りていき、
黙ったまま相手の目を見つめるだろう。
すると幸せの無言の沈黙が私たちに降りてくるのだ。
詩:John Henry Mackay (1864-1933)
曲:Richard Georg Strauss (1864-1949)
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ヘルマン・プライ(BR)&ギュンター・ヴァイセンボルン(P)
若きプライの滴るようにみずみずしい美声がテキストの中の主人公に重なり、甘美な情景が見えてくるかのようです。ヴァイセンボルンはドイツ人らしい律儀さの中に芯のある歌を奏でています。
ヘルマン・プライ(BR)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
プライの人肌の感じられる声は聴き手に直接訴えかけてきます。サヴァリシュのピアノは装飾音を速く弾き過ぎるように感じますが、ヴァイオリンの演奏を模しているのでしょうか。
フリッツ・ヴンダーリヒ(T)&バイエルン放送交響楽団&Jan Koetsier(C)
甘美さNo.1テノールのヴンダーリヒが歌うのですから良いに決まっていますね。オケのヴァイオリンが美しく絡みます。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
フィッシャー=ディースカウは設計とコントロールの見事さで聴かせます。サヴァリシュのピアノはプライの場合と同様、装飾音を速く弾き、タッチも大粒で明瞭です。
アーフィエ・ヘイニス(A)&アーウィン・ゲイジ(P)
ヘイニスの声は人の心のひだに優しく寄り添ってくれるかのようです。ゲイジもヘイニスの味わいにぴったり合わせています。
キャスリーン・バトル(S)&ダン・サンダーズ(P)
1987年の来日公演の模様です。バトルのあまりにも美しい陶酔的な歌は聴き手を呪縛してしまいます。サンダーズのピアノが極上の美しさです(冒頭が欠けているのが残念)。
アーリーン・オジェー(S)&アーウィン・ゲイジ(P)
1988年、キールでの映像です。オジェーが詩の世界を細やかに表現しています。ゲイジのよく歌うピアノの音色も素晴らしいです。
バーバラ・ボニー(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)
ボニーは絶妙なレガートの響きに惹かれます。パーソンズのピアノは完璧な美しさです。
ルチア・ポップ(S)&アーウィン・ゲイジ(P)
ポップの可憐な美声が優しく語りかけています。ゲイジの静謐な響きはここでも魅力的です。
エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&ロンドン交響楽団&ジョージ・セル(C)
シュヴァルツコプフの気品のある響きがなんとも美しいです。オケのヴァイオリン(エディット・パイネマン)が非常に魅力的です。
ジャネット・ベイカー(MS)&ジェラルド・ムーア(P)
ベイカーは幅広い表情で語っています。ムーアは静謐さに温かみを付け加えた素晴らしい演奏です。
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S)&アーウィン・ゲイジ(P)
1977年アムステルダム録音。ヤノヴィツは一度だけ生で聴きましたが、その声のあまりの美しさに驚いたものでした。録音だとその魅力の伝わりにくい歌手の一人かもしれません。ゲイジは人気者ですね。
フェリシティー・ロット(S)&グレアム・ジョンソン(P)
ロットとジョンソンが3.11の僅か1ヶ月後の日本公演を予定通り催してくれた際の映像です。私もこの場にいましたが、ここでの演奏がすべてを語っています。二人に感謝!
ピアノ伴奏のみ(演奏者名は不明ですが映像に出演しています)
ピアノ伴奏だけでも曲がほぼ成立しているのが分かる貴重な動画です。演奏も素敵です。
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