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R.シュトラウス「明日Op.27-4」を聴く

今回は、R.シュトラウスの歌曲の中で「献呈」と並んで広く親しまれている作品「明日!」を取り上げます。
詩はスコットランド生まれの作家、思想家のジョン・ヘンリー・マッケイによるものです。
この作品は、まずピアノパートのとろっとろに溶けそうなほど甘く美しい長めの前奏で始まることが特徴的で、歌はピアノの前奏曲の途中からさりげなく入ってくる感じです。
恋人同士のこのうえなく甘美で幸せな世界を歌ったものですが、3.11後の日本でグレアム・ジョンソンがこの曲を演奏する前に「明日はもっと良くなるという内容です。そして明日は恋人たちだけでなく、すべての人に平和と幸福を与えてくれます。」と言ってくれたのが印象に残っています(下の動画で聴けます)。
ピアニストの音楽性を堪能し、そして歌手の美しいレガートに酔いしれるというのが、この作品の楽しみ方でしょうか。
1894年作曲。
ト長調、4分の4拍子、全43小節
Langsam sehr getragen(ゆっくりと、非常に荘重に)

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Morgen!
 明日!

Und morgen wird die Sonne wieder scheinen,
und auf dem Wege, den ich gehen werde,
wird uns, die Glücklichen, sie wieder einen
inmitten dieser sonnenatmenden Erde...
 そして明日には太陽が再び輝くだろう、
 そして私の歩む道で
 私たち、幸せな二人を再び一つにするだろう、
 この太陽の息づく大地のさなかで。

Und zu dem Strand, dem weiten, wogenblauen,
werden wir still und langsam niedersteigen,
Stumm werden wir uns in die Augen schauen,
und auf uns sinkt des Glückes stummes Schweigen...
 そして広々として、青く波立つ浜辺へと
 私たちは静かに、ゆっくりと下りていき、
 黙ったまま相手の目を見つめるだろう。
 すると幸せの無言の沈黙が私たちに降りてくるのだ。

詩:John Henry Mackay (1864-1933)
曲:Richard Georg Strauss (1864-1949)

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ヘルマン・プライ(BR)&ギュンター・ヴァイセンボルン(P)

若きプライの滴るようにみずみずしい美声がテキストの中の主人公に重なり、甘美な情景が見えてくるかのようです。ヴァイセンボルンはドイツ人らしい律儀さの中に芯のある歌を奏でています。

ヘルマン・プライ(BR)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)

プライの人肌の感じられる声は聴き手に直接訴えかけてきます。サヴァリシュのピアノは装飾音を速く弾き過ぎるように感じますが、ヴァイオリンの演奏を模しているのでしょうか。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T)&バイエルン放送交響楽団&Jan Koetsier(C)

甘美さNo.1テノールのヴンダーリヒが歌うのですから良いに決まっていますね。オケのヴァイオリンが美しく絡みます。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)

フィッシャー=ディースカウは設計とコントロールの見事さで聴かせます。サヴァリシュのピアノはプライの場合と同様、装飾音を速く弾き、タッチも大粒で明瞭です。

アーフィエ・ヘイニス(A)&アーウィン・ゲイジ(P)

ヘイニスの声は人の心のひだに優しく寄り添ってくれるかのようです。ゲイジもヘイニスの味わいにぴったり合わせています。

キャスリーン・バトル(S)&ダン・サンダーズ(P)

1987年の来日公演の模様です。バトルのあまりにも美しい陶酔的な歌は聴き手を呪縛してしまいます。サンダーズのピアノが極上の美しさです(冒頭が欠けているのが残念)。

アーリーン・オジェー(S)&アーウィン・ゲイジ(P)

1988年、キールでの映像です。オジェーが詩の世界を細やかに表現しています。ゲイジのよく歌うピアノの音色も素晴らしいです。

バーバラ・ボニー(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

ボニーは絶妙なレガートの響きに惹かれます。パーソンズのピアノは完璧な美しさです。

ルチア・ポップ(S)&アーウィン・ゲイジ(P)

ポップの可憐な美声が優しく語りかけています。ゲイジの静謐な響きはここでも魅力的です。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&ロンドン交響楽団&ジョージ・セル(C)

シュヴァルツコプフの気品のある響きがなんとも美しいです。オケのヴァイオリン(エディット・パイネマン)が非常に魅力的です。

ジャネット・ベイカー(MS)&ジェラルド・ムーア(P)

ベイカーは幅広い表情で語っています。ムーアは静謐さに温かみを付け加えた素晴らしい演奏です。

グンドゥラ・ヤノヴィツ(S)&アーウィン・ゲイジ(P)

1977年アムステルダム録音。ヤノヴィツは一度だけ生で聴きましたが、その声のあまりの美しさに驚いたものでした。録音だとその魅力の伝わりにくい歌手の一人かもしれません。ゲイジは人気者ですね。

フェリシティー・ロット(S)&グレアム・ジョンソン(P)

ロットとジョンソンが3.11の僅か1ヶ月後の日本公演を予定通り催してくれた際の映像です。私もこの場にいましたが、ここでの演奏がすべてを語っています。二人に感謝!

ピアノ伴奏のみ(演奏者名は不明ですが映像に出演しています)

ピアノ伴奏だけでも曲がほぼ成立しているのが分かる貴重な動画です。演奏も素敵です。

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ペーター・シュライアー&スヴャトスラフ・リヒテルによるシューベルト「冬の旅」の映像

ドイツのテノール、ペーター・シュライアーは引退して久しいですが、彼が長いリート歌手としてのキャリアの中でシューベルトの「冬の旅」全曲を披露するようになったのは比較的遅く、彼が50歳前後の頃でした。
日本でもヴァルター・オルベルツと披露して話題になりましたが、その公演は私は聴けず、後年になってようやく聴くことが出来ました。
録音ではフィリップス(現デッカ)レーベルにスヴャトスラフ・リヒテルのピアノで演奏したものが話題となったものでした。
ちなみに私はとうとうリヒテルの実演を聴くことは出来ませんでしたが、リヒテルの公演はプログラムがいつも当日発表だったことが懐かしく思い出されます。

そんなシュライアーの「冬の旅」全曲の映像がYouTubeにあったのを見つけて狂喜しました。
リヒテルのピアノ演奏を映像で見ることが出来るという点でも貴重です。

私も最初の数曲は見ましたが、これからじっくり他の曲も見てみようと思います。
端正さにドラマティックな趣も加わった当時のシュライアーの語るような歌唱と、リヒテルの美しい音色との共演が楽しめそうです。
興味のある方はぜひ楽しんで下さい。

シューベルト/歌曲集「冬の旅」(全24曲)
録音:1985年, Puschkin-Museum, Moskau
ペーター・シュライアー(テノール)
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)

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木内朋子×太田直樹×竹尾真紀子/ヴォルフ《イタリア歌曲集》全曲演奏会(2014年1月18日 音楽の友ホール)

ヴォルフ《イタリア歌曲集》全曲演奏会
2014年1月18日(土)18:00 音楽の友ホール(全自由席)

木内朋子(ソプラノ)
太田直樹(バリトン)
竹尾真紀子(ピアノ)

ヴォルフ(Hugo Wolf)/《イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)》全曲
1.小さなものでも私たちを魅了するものがあるわ(Auch kleine Dinge können uns entzücken)(ソプラノ)
2.遠いところに旅立つそうね(Mir ward gesagt, du reisest in die Ferne)(ソプラノ)
3.あなたは誰よりも美しい(Ihr seid die Allerschönste)(バリトン)
4.幸いあれ、この世を創られた方(Gesegnet sei, durch den die Welt entstund)(バリトン)
5.目の見えない人たちはいいなあ(Selig ihr Blinden)(バリトン)
6.誰があなたを呼んだの?(Wer rief dich denn?)(ソプラノ)
7.月は神様に嘆いた(Der Mond hat eine schwere Klag' erhoben)(バリトン)
8.さあ、もう仲直りしよう(Nun lass uns Frieden schließen)(バリトン)
9.君の魅力のすべてが絵に描かれ(Dass doch gemalt all' deine Reize wären)(バリトン)
10.あなたは私を細い一本の糸で釣り上げたつもりでいるけれど(Du denkst mit einem Fädchen mich zu fangen)(ソプラノ)
11.どんなに長い間待ち望んでいたことでしょう(Wie lange schon war immer mein Verlangen)(ソプラノ)
12.いけませんわ、お若い方、そんな風になさっては(Nein, junger Herr)(ソプラノ)
13.いい気なもんだね、きれいなお嬢さん(Hoffärtig seid Ihr, schönes Kind)(バリトン)
14.なあ兄弟、ひとつ坊主に化けて托鉢して回ろうじゃないか?(Geselle, woll'n wir uns in Kutten hüllen)(バリトン)
15.わたしの恋人はとても小さくて(Mein Liebster ist so klein)(ソプラノ)
16.戦場にお出かけの若い兵士さんたち(Ihr jungen Leute, die ihr zieht ins Feld)(ソプラノ)
17.君の恋人を焦がれ死にさせたいなら(Und willst du deinen Liebsten sterben sehen)(バリトン)
18.眠ってはだめだよ、大切なことを言うから(Heb' auf dein blondes Haupt)(バリトン)
19.私たちふたりは長い間口もきかずにいました(Wir haben beide lange Zeit geschwiegen)(ソプラノ)
20.あの人が月の光を浴びて家の前で歌っている(Mein Liebster singt am Haus im Mondenscheine)(ソプラノ)
21.あなたのお母さんが反対なんですってね(Man sagt mir, deine Mutter woll' es nicht)(ソプラノ)
22.セレナーデを奏でるためにやって来ました(Ein Ständchen Euch zu bringen)(バリトン)

~休憩~

23.どんな歌を君のために歌ったらいいのだろう?(Was für ein Lied soll dir gesungen werden)(バリトン)
24.わたしを愛してくれる人がどこかにいないかしら(Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr)(ソプラノ)
25.わたしの恋人が食事に招(よ)んでくれたわ(Mein Liebster hat zu Tische mich geladen)(ソプラノ)
26.イケメンのトニーは死ぬほどお腹が減るんだって(Ich ließ mir sagen und mir ward erzählt)(ソプラノ)
27.ベッドの中で疲れた身体を伸ばすと(Schon streckt' ich aus im Bett die müden Glieder)(バリトン)
28.侯爵夫人でもないくせになんて、私のことを言うのね(Du sagst mir, dass ich keine Fürstin sei)(ソプラノ)
29.あなたの高貴なご身分はよくわかっています(Wohl kenn' ich Euern Stand)(ソプラノ)
30.勝手にさせておくさ、あんなお高くとまった女は(Lass sie nur gehn, die so die Stolze spielt)(バリトン)
31.あなたが私を訪ねてくれるのは百年に一度(Wie soll ich fröhlich sein)(ソプラノ)
32.なにをそんなに怒っているの?(Was soll der Zorn, mein Schatz)(ソプラノ)
33.僕が死んだら、身体を花で包んでほしい(Sterb' ich, so hüllt in Blumen meine Glieder)(バリトン)
34.あなたは朝早くベッドから起き出ると(Und steht Ihr früh am Morgen auf)(バリトン)
35.祝福あれ!君のことをこんなにも愛らしく生んでくれたお母さんに(Benedeit die sel'ge Mutter)(バリトン)
36.もし、あなたが天国に召されるようなことがあれば(Wenn du, mein Liebster, steigst zum Himmel auf)(ソプラノ)
37.君を愛したばかりに、ずいぶんと時間を無駄にしてしまった(Wie viele Zeit verlor ich, dich zu lieben!)(バリトン)
38.僕をちらっと見て微笑んだりする時は(Wenn du mich mit den Augen streifst)(バリトン)
39.幸いあれ、みどり色と、みどり色を身にまとった人に!(Gesegnet sei das Grün und wer es trägt!)(ソプラノ)
40.あなたの家がガラスのように透きとおっていたなら(O wär' dein Haus durchsichtig wie ein Glas)(ソプラノ)
41.真夜中に目が覚めると、僕の心臓がこっそり抜け出していた(Heut' Nacht erhob ich mich um Mitternacht)(バリトン)
42.僕はもうこれ以上歌えない(Nicht länger kann ich singen)(バリトン)
43.ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!(Schweig einmal still)(ソプラノ)
44.おまえのためにどれだけひどい目に遭ったか、わかるか?(O wüsstest du, wieviel ich deinetwegen)(バリトン)
45.奈落よ、私の恋人のあばら家を飲み込んでしまえ(Verschling' der Abgrund meines Liebsten Hütte)(ソプラノ)
46.ペンナにわたしのいい人がいるの(Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen)(ソプラノ)

~アンコール~
13.いい気なもんだね、きれいなお嬢さん(Hoffärtig seid Ihr, schönes Kind)(バリトン)
24.わたしを愛してくれる人がどこかにいないかしら(Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr)(ソプラノ)

(※邦訳タイトルは、配布プログラムに掲載されている木内朋子氏による歌詞大意の冒頭から取りました。従って、必ずしも欧文タイトルの訳になっているとは限りません。)

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ヴォルフの「イタリア歌曲集」全曲を聴くのは私にとっていつも心浮き立つ時間だ。
男女の恋の駆け引きがヴォルフの絶妙の音楽に彩られて、生き生きと表現される。
今回のコンサートも音楽会のちらしの束からたまたま見つけたのだが、これは聞き逃せないと思っていた。
実は神楽坂の音楽の友ホールに来るのはおそらく20年ぶりぐらいである(別に理由があるわけでもないのだが)。
だが、ホールの中は過去の記憶と変わらず、こじんまりとした親密な空間がヴォルフのミニアチュールにはぴったりだった。
「イタリア歌曲集」を演奏する際、演奏者が順序を入れ替えて新たなストーリーの流れを作る場合もあるが、今回はヴォルフの出版した順序の通りに演奏され、1部と2部の間に15分の休憩が入った。

3人の演奏者の中ではバリトンの太田直樹氏のみ過去に何度かリートを聴いているが、女性2人は今回が初めてだった。
今回は歌手の2人のために楽譜立てがあり、下にペットボトルが置かれていたが、椅子はなく、歌っていない時でも立っていた。

ソプラノの木内朋子氏は装飾のあるブルーの衣装で登場した。
小柄な方である。
その声は軽く、ビブラートもあまり派手ではない。
少女の声のような可憐さをもち、どことなくエルナ・ベルガーの声質を思い起こさせた。
テクニックをあまり前面に押し出さず、自然な表情が魅力と感じた。
43曲目「ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!」からオペラを見ているかのようなドラマティックな表情で演じ、聴き手を興奮させた。

一方のバリトン、太田直樹氏はいつもながらの安定感で、心地よい美声と美しいドイツ語の発音が素晴らしく、安心して身を任せて聴いていた。
レガートが非常に素晴らしく、この歌曲集では比較的地味な役回りに甘んじることの多い男声パートを実に魅力的に演じ、堪能させてもらった。
22曲目「セレナーデを奏でるためにやって来ました」は一般的に演奏されるよりもゆったりとしたテンポで語りかけるように歌っていたのが印象的だった。

ピアノの竹尾真紀子氏も木内氏同様小柄な方で、手も決して大きくないようだった。
かなりの手の幅広さを要求される曲の多い「イタリア歌曲集」だが、そこはベテランらしい機転で、見事に問題を解決していた。
例えば、38曲目「僕をちらっと見て微笑んだりする時は」の後奏などはアルペッジョを使ってうまく音をつかんでいた。
演奏が進むにつれて安定感が増し、高い演奏技術をもっていることが感じられた。
蓋が全開なのは最近の流れから当然ではあるが、決して歌を覆いかぶさないコントロールの見事さも特筆したい。
11曲目「どんなに長い間待ち望んでいたことでしょう」の後奏では登場した色白のヴァイオリニストの下手な演奏を描写するのだが、品の良さはありつつも、上手に「下手さ」を表現していて楽しかった。
40曲目「あなたの家がガラスのように透きとおっていたなら」では、出来れば高音の同音反復をつぶさずに明瞭に聴けたら良かったと思う。
43曲目「ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!」の後奏では、ロバの鳴き声を誇張して効果的だった。
45曲目「奈落よ、私の恋人のあばら家を飲み込んでしまえ」の激流が恋人を飲み込む様を畳みかけるように演奏し、最後の46曲目「ペンナにわたしのいい人がいるの」では後奏で華麗なパッセージを見事に演奏して、有終の美を飾った。

アンコールではバリトン、ソプラノがそれぞれ1曲ずつ、「イタリア歌曲集」の中からもう一度歌ったが、本番の緊張から解けたからか、より自在で余裕のある表情が感じられた。

見事な3人の演奏に拍手を贈ると共に、いつかこのトリオで「スペイン歌曲集」を演奏してくれたらと願いたい気持ちである。

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R.シュトラウス「献呈Op.10-1」を聴く

今回は、生誕150年を迎えたR.シュトラウスの歌曲の中でとりわけ有名な作品「献呈」を取り上げます。
私にとってもR.シュトラウスの歌曲の中で最も好きな歌の一つです。
作品番号は彼の歌曲出版の中で最も若いOp.10に含まれ、ヘルマン・フォン・ギルムの詩集「最後の葉(Letzte Blätter)」から選ばれた8つの詩による歌曲集の冒頭に置かれています。
自堕落だった自分を救ってくれた恋人に寄せる感謝の歌です(もちろんラヴソングでもあるのでしょう)。
素朴ながらピアノと共にストレートな情熱へと盛り上がっていき、アンコールピースとしてもうってつけの素晴らしい作品です。
実演で聴いたフランシスコ・アライサ(T)とアーウィン・ゲイジ(P)による演奏が忘れられません。
1882-1883年作曲。
ハ長調、4分の4拍子、Moderato(中庸の速度で)

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Zueignung
 献呈

Ja, du weißt es, teure Seele,
Daß ich fern von dir mich quäle,
Liebe macht die Herzen krank,
Habe Dank.
 そうだとも、あなたは知っているでしょう、いとしい人よ、
 あなたから遠く離れて私が苦しんでいることを。
 愛は心を病ませてしまうのだ、
 有り難う。

Einst hielt ich, der Freiheit Zecher,
Hoch den Amethysten-Becher,
Und du segnetest den Trank,
Habe Dank.
 かつて放埓な大酒呑みだった私が
 アメシストの杯を高く掲げると、
 あなたはこの飲み物を祝福してくれた、
 有り難う。

Und beschworst darin die Bösen,
Bis ich, was ich nie gewesen,
Heilig, heilig an's Herz dir sank,
Habe Dank.
 そしてその中の災いを追い払ってくれた、
 こうして私は以前の自分ではなくなり、
 清らかに、清らかにあなたの心に沈みこんだ、
 有り難う。

詩:Hermann von Gilm zu Rosenegg (1812-1864)
曲:Richard Georg Strauss (1864-1949)

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ルチア・ポップ(S)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)

ポップの細い美声で熱烈に歌われるのも素敵です。サヴァリシュのピアノが雄弁で音が非常にきれいです。

グレイス・バンブリー(MS)&エリック・ヴェルバ(P)

バンブリーの艶々した深みのある声に思わず引き込まれます。ヴェルバもいつになく雄弁な演奏です。

バーバラ・ボニー(S)&マルコム・マーティノー(P)

ボニーは表情が細やかで、しかも力強さにも欠けていません。マーティノーはいつも通り息の合ったコンビぶりを聴かせています。

エディタ・グルベローヴァ(S)&フリードリヒ・ハイダー(P)

シュトラウスを得意としたグルベローヴァの美声が堪能できます。当時ご主人だったハイダーもがっちりしたサポートぶりです。

ジェシー・ノーマン(S)&エリザベス・クーパー(P)

ノーマンの息の長いフレーズを存分に堪能できます。クーパーは見かけによらずかなり力強い演奏です。

アーフィエ・ヘイニス(A)&アーウィン・ゲイジ(P)

オランダのコントラルト、ヘイニスの温かみのある声は聴き手を包み込んでくれます。ゲイジのピアノが実に充実していて素晴らしいです。

ロッテ・レーマン(S)&ピアノ伴奏(演奏者名は不明)

レーマンの情熱的な歌唱はこの曲にぴったりです。ピアニストもレーマンと一緒に盛り上がります。ライヴの雰囲気が伝わってきますね。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

ゆったりしたテンポでしみじみと歌うディースカウの歌もいいです。ムーアはぴったり寄り添っています。

ハインリヒ・シュルスヌス(BR)&リヒャルト・シュトラウス(P)

針音の中からシュルスヌスのなんともいえない懐かしい雰囲気が感じられます。シュトラウス自身のピアノ演奏も貴重です。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T)&バイエルン放送交響楽団&Jan Koetsier(C)

オケ伴奏版です。ヴンダーリヒのまぶしいほどの凛々しい歌声が胸に響きます。オケも美しいです。

ピアノ伴奏のみ(演奏者不明)

音と画像が若干ずれていますが、是非一緒に歌ってみてください。ピアノ伴奏だけでもこれだけ力強い素敵な曲なのが分かります。

※残念ながらヘルマン・プライ(Br)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)の演奏はYouTubeには無かったのですが、とても真摯な名唱なので、一部だけですが、以下のサイトのサンプルでお聴きください。
 こちら(1トラック目の左にある再生ボタンをクリックすると一部ですが聴けます)

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クリスティアン・ゲルハーヘル&ゲロルト・フーバー/シューマン歌曲集の夕べ(2014年1月8日 王子ホール)

ニューイヤー・コンサート
クリスティアン・ゲルハーヘル~シューマン歌曲集の夕べ~第1夜
(Schumann Lieder)
2014年1月8日(水)19:00 王子ホール

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クリスティアン・ゲルハーヘル(Christian Gerhaher)(Baritone)
ゲロルト・フーバー(Gerold Huber)(Piano)

オール・シューマン・プログラム
(All Schumann Program)

ミルテの花(Myrthen)Op.25より7曲
 2.自由な想い(Freisinn)
 8.お守り(Talismane)
 15.ヘブライの歌から(Aus den hebräischen Gesängen)
 17.2つのヴェニスの歌I(Zwei Venetianische Lieder I)
 18.2つのヴェニスの歌II(Zwei Venetianische Lieder II)
 25.東方のばらの花から(Aus den östlichen Rosen)
 26.エピローグ(Zum Schluss)

リーダークライス(Liederkreis)Op.39 全12曲
 1.異郷で(In der Fremde)
 2.間奏曲(Intermezzo)
 3.森の語らい(Waldesgespräch)
 4.鎮けさ(Die Stille)
 5.月夜(Mondnacht)
 6.麗しき異国(Schöne Fremde)
 7.古城にて(Auf einer Burg)
 8.異国で(In der Fremde)
 9.哀しみ(Wehmut)
 10.たそがれ(Zweilicht)
 11.森のなかで(Im Wald)
 12.春の夜(Frühlingsnacht)

~休憩~

ライオンの花嫁(Die Löwenbraut)Op.31-1(3つの歌Op.31より)

12の詩(12 Gedichte)Op.35 全12曲
 1.嵐の夜の悦び(Lust der Sturmnacht)
 2.愛と喜びよ、消え去れ(Stirb, Lieb' und Freud')
 3.旅の歌(Wanderlied)
 4.新緑(Erstes Grün)
 5.森へのあこがれ(Sehnsucht nach der Waldgegend)
 6.亡き友の杯に(Auf das Trinkglas eines verstorbenen Freundes)
 7.さすらい(Wanderung)
 8.秘めたる恋(Stille Liebe)
 9.問いかけ(Frage)
 10.秘めたる涙(Stille Tränen)
 11.それほどまでに悩むのは(Wer machte dich so krank?)
 12.古いリュート(Alte Laute)

~アンコール~
シューマン/レクイエム(Requiem)(「6つの詩」追加曲 Op.90 bis)

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クリスティアン・ゲルハーヘル(ゲアハーアー)とゲロルト・フーバーという現役最高のリート演奏家コンビが新年早々来日してくれた。
銀座の王子ホールでシューマンの歌曲のみによる2夜のコンサートを開いたのだが、その第1夜を聴いた。

前半は「ミルテの花」から比較的珍しい曲を7曲、続いてアイヒェンドルフの詩による名作「リーダークライスOp.39」全曲、
後半は7分前後かかるシャミッソーの詩によるバラード「ライオンの花嫁」と、ユスティヌス・ケルナーの詩による「12の詩Op.35」全曲であった。

普通「ミルテの花」からの抜粋といえば、「献呈」「くるみの木」「はすの花」「あなたは花のよう」などが定番で、少なくともこれらから1曲は必ず含まれるといってもいいのだが、今回のコンサートでは(おそらく)意識的にこれらの定番を外している。
そこに演奏家の並々ならぬ意欲と挑戦がうかがえる。

当夜のゲルハーヘルは、歌い終わった時に鼻をすすっていたりしていたので、若干風邪気味だったのかもしれない。
だが、歌っている時は殆どそうした状態を感じさせないプロの歌を聴かせていた。

ゲルハーヘルの声質はハイバリトンとでも言おうか、心地よい響きで、言葉を明瞭に伝えてくる。
そのドイツ語の発音の美しいこと!
詩の朗読を聴いているのではと錯覚するほど、彼のドイツ語の響きにまず聴き惚れてしまう。
それから彼の歌唱を聴いて感じるのが、楷書風のかちっとしたアプローチであること。
これが彼の歌唱の安定感を作り出しており、私が魅力的に感じるところである。
ボストリッジの神経質なほど繊細でひりひりする歌唱も、ゲルネの包み込むような声の響きの中に封じ込められた求心的な歌唱も素晴らしいが、ゲルハーヘルの歌唱はその正攻法のアプローチがなんとも魅力的である。
彼の声は弱声では本当にささやくように柔らかく歌うのだが、フルヴォリュームとなると、聴き手を圧倒する鋭さももっている。
その幅の広さも、語りの巧みさと相まって、聴き手を深いリートの世界に引き込む魅力となる。

そうしたアプローチで歌われた彼のシューマンは、ロマンティックさをことさら強調せず、作品のもつ色合いを自然に醸し出すものだった。
「ミルテの花」ではまず「自由な想い」と「お守り」でフロレスタン風の元気でエネルギッシュな歌を安定感をもった歌唱で聴かせる。
そして「ヘブライの歌から」では一転して憂鬱な雰囲気をごく自然に醸し出す。
「2つのヴェニスの歌」では情景が浮かぶような軽快な歌いぶりを聴かせ、愛らしい「東方のばらの花から」を経て、シューマンの組曲の終曲では定番ともいえるコラール風の「エピローグ」を優しく歌い、小さなツィクルスを締めくくる。
てらいのない自然な表情で、歌曲の様々な心情を的確に描き出す点にかけて、うってつけの歌手がそこにいた。
ちなみに「2つのヴェニスの歌I」の"Gondolier"(ゴンドラ乗り)の発音を従来は「ゴンドリール」と歌う人が多かったが、ゲルハーヘルは「ゴンドリエー」と発音していたのが興味深かった。
その後に演奏された有名な「リーダークライス」は、ゲルハーヘルの安定感のある歌唱が、シューマネスクな響きに溶け合って素晴らしかった。
とりわけ「月夜」は、フーバーの何段階にも階層があるのではと思うほど豊富な色のパレットをもったピアノにのって、真摯な歌唱が胸を打った。

休憩後の最初は珍しい「ライオンの花嫁」という歌曲。
飼っていたライオンに対して、飼い主の女性が自身の結婚を報告し、もうすぐお別れしなければならないと伝える。
そこへ婚約者の男がやってくると、ライオンは飼い主の女性が檻から出られないように出口をふさぐ。
それでも飼い主が出口から出ようとすると、ライオンは彼女を噛み殺し、屍となった飼い主のそばに横たわる。
ライオンは婚約者の銃に撃たれて死ぬという内容。
なんとも血なまぐさい内容ではあるが、シューマンはとりたててドラマティックな音楽を付けようとはしなかった。
ピアノは暗欝な響きが全体を貫き、その上を第三者的に歌が語る。
ゲルハーヘルもここでは語り手に徹し、激しい表情はほとんどとらずに緊張感を持続する。
珍しい作品をコンサートで聴くことが出来たのは意義深かった。

プログラムの最後はディースカウやプライも歌っていたケルナーの詩による「12の詩」である。
このうち、最後の2曲や「新緑」などはホッターが得意としていたのが思い出される。
ツィクルスとして12曲が演奏されることは最近ではめっきり少なくなってしまったが、こうして通して聴いてみると、単にばらばらな歌を寄せ集めたというのではない全体だからこその味わいというものが感じられた。
配布された解説書にも広瀬大介氏が書かれていたが、フィッシャー=ディースカウが「声とユニゾンで演奏される伴奏があまりに頻繁である」と指摘しているのは、この歌曲集全体の雰囲気の一端を作り出す要因となっているのではないか。
余計な装飾なく、歌とピアノが付かず離れずして平行に歩んでいく様がイメージされる。
その無駄のなさが独自の心象風景を描くのに寄与しているのではないか。
第2曲で多くのバリトン歌手が高すぎる音域をファルセットで歌う箇所があるのだが、そこをゲルハーヘルはおそらくファルセットなしで歌っていたように私の耳には聞こえた(違っていたらすみません)。
最後の2曲「それほどまでに悩むのは」と「古いリュート」はほぼ同じ音楽を続けて歌うのだが、ゲルハーヘルは過剰な思い入れもなく、さらりと歌って、ツィクルスとしての見事な締めくくりとしていた。
彼こそが現在最も知的なリート歌手と言えるかもしれない。

ピアニストのゲロルト・フーバーは、今回も非常に優れた演奏を披露した。
以前何度か彼の生演奏に接した限りでは、彼特有のうなり声が特徴的だったが、今回はかなり抑えていたように感じた。
自身でも意識しているのかもしれない。
演奏はふたを全開にしても歌を壊すことが皆無で、非常にバランス感覚に優れていた。
そのうえ、自身がピアノを歌わせるべきところは、外すことなく歌わせて、歌唱とピアノとの優れたデュオとなっていた。
いわゆる対決型のピアノではなく、歌とピアノで一体になる演奏であり、それがこの夜の成功の一因であったことは明らかだった。

この世界的なリート歌手とピアニストをこんな小さな空間でたっぷり味わうという贅沢を心ゆくまで堪能した時間だった。
なお、今回ドイツワインが無料でふるまわれ、心地よい気分のまま音楽を味わえたのもうれしい。

第2夜(1月10日)が聴けなかったのは悔しかったが、せめてプログラムの内容を以下に記して自らへの慰めとしよう。

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<第2夜 1/10>

6つの歌曲Op.107 全曲
 1.心の痛み 2.窓ガラス 3.庭師 4.糸を紡ぐ女 5.森の中で 6.夕暮れの歌

詩人の恋Op.48 全16曲
 1.美しき五月 2.この涙から芽生えた花が 3.バラ ユリ ハト お日様
 4.きみの瞳を見つめると 5.この心を消してしまおう 6.ライン川 美しき流れに
 7.恨んだりしない 8.小さな花よ わかってくれるか
 9.あれはフルートとヴァイオリン 10.あの歌を聴くと
 11.とある男が娘を愛す 12.光あふれる夏の朝 13.夢の中で泣いた
 14.毎夜きみを夢に見る 15.昔の童話が手招きする 
 16.古き悪しき歌

~休憩~

ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集Op.98aより4曲
 2.竪琴弾きの歌/4.涙とともに パンを食べたことがないものは
 6.孤独に身を委ねると/8.扉のそばへ忍びより 

メランコリーOp.74-6(スペインの歌遊びOp.74より)

哀れなペーターOp.53-3(ロマンスとバラード第3集Op.53より)
 a.ハンスとグレーテが/b.この胸に/c.哀れなペーターは

心の奥深くに痛みを抱えつつOp.138-2(スペインの恋の歌Op.138より)

悲劇Op.64-3(ロマンスとバラード第4集Op.64より)
 1.俺と逃げてくれ 妻になってくれ 2.春の夜に蔭がさす 3.墓の上には菩提樹が

隠者Op.83-3

~アンコール~
シューマン/牛飼のおとめ(「6つの詩」 第4曲 Op.90-4)
シューマン/君は花のごとく(「ミルテの花」 第24曲 Op.25-24)

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ヴォルフ「新年に」(詩:メーリケ)

フーゴ・ヴォルフは53曲からなる巨大な歌曲集「メーリケの詩」を編みましたが、その27曲目に「新年に」が置かれています。
なお、歌曲集の順番と作曲の順番は全く無関係であり、全53曲を一晩で演奏することはまずありません。
心が洗われるような聖なる喜びの歌です。

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Zum neuen Jahr
 新年に

Wie heimlicher Weise
Ein Engelein leise
Mit rosigen Füßen
Die Erde betritt,
So nahte der Morgen.
Jauchzt ihm, ihr Frommen,
Ein heilig Willkommen,
Ein heilig Willkommen!
Herz, jauchze du mit!
 なんともひっそりと
 天使がそっと
 ばら色の足を
 大地に踏み入れる、
 すると朝が近寄ってくるのだ。
 新年に歓呼せよ、敬虔な者たちよ、
 敬い、歓迎いたします、
 敬い、歓迎いたしますと!
 心よ、ともに歓呼するのだ!

In Ihm sei's begonnen,
Der Monde und Sonnen
An blauen Gezelten
Des Himmels bewegt.
Du, Vater, du rate!
Lenke du und wende!
Herr, dir in die Hände
Sei Anfang und Ende,
Sei alles gelegt!
 新年が始まりますように、
 天の蒼穹で
 月や太陽を
 動かし給う神のもとで!
 汝、父上よ、お教えください!
 導き、向きを変えてください!
 主よ、汝の両の手に
 はじめから終わりまでが、
 あらゆるものがあらんことを!

詩:Eduard Mörike (1804-1875)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ダニエル・バレンボイム(P)

世評高いフィッシャー=ディースカウのヴォルフです。自在に広がっていく声が素晴らしいです。バレンボイムも立体的な演奏です。

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明けましておめでとうございます

2014年もマイペースでブログを続けていくつもりです。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年アニバーサリーの作曲家は、歌曲に関する人では生誕150年のR.シュトラウス(1864-1949)や、没後150年のマイアベーア(1791-1864)がいます。
彼らの歌曲をじっくり聴けたらと思っております。

皆様にとって素敵な一年になりますように!

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