木内朋子×太田直樹×竹尾真紀子/ヴォルフ《イタリア歌曲集》全曲演奏会(2014年1月18日 音楽の友ホール)
ヴォルフ《イタリア歌曲集》全曲演奏会
2014年1月18日(土)18:00 音楽の友ホール(全自由席)
木内朋子(ソプラノ)
太田直樹(バリトン)
竹尾真紀子(ピアノ)
ヴォルフ(Hugo Wolf)/《イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)》全曲
1.小さなものでも私たちを魅了するものがあるわ(Auch kleine Dinge können uns entzücken)(ソプラノ)
2.遠いところに旅立つそうね(Mir ward gesagt, du reisest in die Ferne)(ソプラノ)
3.あなたは誰よりも美しい(Ihr seid die Allerschönste)(バリトン)
4.幸いあれ、この世を創られた方(Gesegnet sei, durch den die Welt entstund)(バリトン)
5.目の見えない人たちはいいなあ(Selig ihr Blinden)(バリトン)
6.誰があなたを呼んだの?(Wer rief dich denn?)(ソプラノ)
7.月は神様に嘆いた(Der Mond hat eine schwere Klag' erhoben)(バリトン)
8.さあ、もう仲直りしよう(Nun lass uns Frieden schließen)(バリトン)
9.君の魅力のすべてが絵に描かれ(Dass doch gemalt all' deine Reize wären)(バリトン)
10.あなたは私を細い一本の糸で釣り上げたつもりでいるけれど(Du denkst mit einem Fädchen mich zu fangen)(ソプラノ)
11.どんなに長い間待ち望んでいたことでしょう(Wie lange schon war immer mein Verlangen)(ソプラノ)
12.いけませんわ、お若い方、そんな風になさっては(Nein, junger Herr)(ソプラノ)
13.いい気なもんだね、きれいなお嬢さん(Hoffärtig seid Ihr, schönes Kind)(バリトン)
14.なあ兄弟、ひとつ坊主に化けて托鉢して回ろうじゃないか?(Geselle, woll'n wir uns in Kutten hüllen)(バリトン)
15.わたしの恋人はとても小さくて(Mein Liebster ist so klein)(ソプラノ)
16.戦場にお出かけの若い兵士さんたち(Ihr jungen Leute, die ihr zieht ins Feld)(ソプラノ)
17.君の恋人を焦がれ死にさせたいなら(Und willst du deinen Liebsten sterben sehen)(バリトン)
18.眠ってはだめだよ、大切なことを言うから(Heb' auf dein blondes Haupt)(バリトン)
19.私たちふたりは長い間口もきかずにいました(Wir haben beide lange Zeit geschwiegen)(ソプラノ)
20.あの人が月の光を浴びて家の前で歌っている(Mein Liebster singt am Haus im Mondenscheine)(ソプラノ)
21.あなたのお母さんが反対なんですってね(Man sagt mir, deine Mutter woll' es nicht)(ソプラノ)
22.セレナーデを奏でるためにやって来ました(Ein Ständchen Euch zu bringen)(バリトン)
~休憩~
23.どんな歌を君のために歌ったらいいのだろう?(Was für ein Lied soll dir gesungen werden)(バリトン)
24.わたしを愛してくれる人がどこかにいないかしら(Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr)(ソプラノ)
25.わたしの恋人が食事に招(よ)んでくれたわ(Mein Liebster hat zu Tische mich geladen)(ソプラノ)
26.イケメンのトニーは死ぬほどお腹が減るんだって(Ich ließ mir sagen und mir ward erzählt)(ソプラノ)
27.ベッドの中で疲れた身体を伸ばすと(Schon streckt' ich aus im Bett die müden Glieder)(バリトン)
28.侯爵夫人でもないくせになんて、私のことを言うのね(Du sagst mir, dass ich keine Fürstin sei)(ソプラノ)
29.あなたの高貴なご身分はよくわかっています(Wohl kenn' ich Euern Stand)(ソプラノ)
30.勝手にさせておくさ、あんなお高くとまった女は(Lass sie nur gehn, die so die Stolze spielt)(バリトン)
31.あなたが私を訪ねてくれるのは百年に一度(Wie soll ich fröhlich sein)(ソプラノ)
32.なにをそんなに怒っているの?(Was soll der Zorn, mein Schatz)(ソプラノ)
33.僕が死んだら、身体を花で包んでほしい(Sterb' ich, so hüllt in Blumen meine Glieder)(バリトン)
34.あなたは朝早くベッドから起き出ると(Und steht Ihr früh am Morgen auf)(バリトン)
35.祝福あれ!君のことをこんなにも愛らしく生んでくれたお母さんに(Benedeit die sel'ge Mutter)(バリトン)
36.もし、あなたが天国に召されるようなことがあれば(Wenn du, mein Liebster, steigst zum Himmel auf)(ソプラノ)
37.君を愛したばかりに、ずいぶんと時間を無駄にしてしまった(Wie viele Zeit verlor ich, dich zu lieben!)(バリトン)
38.僕をちらっと見て微笑んだりする時は(Wenn du mich mit den Augen streifst)(バリトン)
39.幸いあれ、みどり色と、みどり色を身にまとった人に!(Gesegnet sei das Grün und wer es trägt!)(ソプラノ)
40.あなたの家がガラスのように透きとおっていたなら(O wär' dein Haus durchsichtig wie ein Glas)(ソプラノ)
41.真夜中に目が覚めると、僕の心臓がこっそり抜け出していた(Heut' Nacht erhob ich mich um Mitternacht)(バリトン)
42.僕はもうこれ以上歌えない(Nicht länger kann ich singen)(バリトン)
43.ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!(Schweig einmal still)(ソプラノ)
44.おまえのためにどれだけひどい目に遭ったか、わかるか?(O wüsstest du, wieviel ich deinetwegen)(バリトン)
45.奈落よ、私の恋人のあばら家を飲み込んでしまえ(Verschling' der Abgrund meines Liebsten Hütte)(ソプラノ)
46.ペンナにわたしのいい人がいるの(Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen)(ソプラノ)
~アンコール~
13.いい気なもんだね、きれいなお嬢さん(Hoffärtig seid Ihr, schönes Kind)(バリトン)
24.わたしを愛してくれる人がどこかにいないかしら(Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr)(ソプラノ)
(※邦訳タイトルは、配布プログラムに掲載されている木内朋子氏による歌詞大意の冒頭から取りました。従って、必ずしも欧文タイトルの訳になっているとは限りません。)
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ヴォルフの「イタリア歌曲集」全曲を聴くのは私にとっていつも心浮き立つ時間だ。
男女の恋の駆け引きがヴォルフの絶妙の音楽に彩られて、生き生きと表現される。
今回のコンサートも音楽会のちらしの束からたまたま見つけたのだが、これは聞き逃せないと思っていた。
実は神楽坂の音楽の友ホールに来るのはおそらく20年ぶりぐらいである(別に理由があるわけでもないのだが)。
だが、ホールの中は過去の記憶と変わらず、こじんまりとした親密な空間がヴォルフのミニアチュールにはぴったりだった。
「イタリア歌曲集」を演奏する際、演奏者が順序を入れ替えて新たなストーリーの流れを作る場合もあるが、今回はヴォルフの出版した順序の通りに演奏され、1部と2部の間に15分の休憩が入った。
3人の演奏者の中ではバリトンの太田直樹氏のみ過去に何度かリートを聴いているが、女性2人は今回が初めてだった。
今回は歌手の2人のために楽譜立てがあり、下にペットボトルが置かれていたが、椅子はなく、歌っていない時でも立っていた。
ソプラノの木内朋子氏は装飾のあるブルーの衣装で登場した。
小柄な方である。
その声は軽く、ビブラートもあまり派手ではない。
少女の声のような可憐さをもち、どことなくエルナ・ベルガーの声質を思い起こさせた。
テクニックをあまり前面に押し出さず、自然な表情が魅力と感じた。
43曲目「ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!」からオペラを見ているかのようなドラマティックな表情で演じ、聴き手を興奮させた。
一方のバリトン、太田直樹氏はいつもながらの安定感で、心地よい美声と美しいドイツ語の発音が素晴らしく、安心して身を任せて聴いていた。
レガートが非常に素晴らしく、この歌曲集では比較的地味な役回りに甘んじることの多い男声パートを実に魅力的に演じ、堪能させてもらった。
22曲目「セレナーデを奏でるためにやって来ました」は一般的に演奏されるよりもゆったりとしたテンポで語りかけるように歌っていたのが印象的だった。
ピアノの竹尾真紀子氏も木内氏同様小柄な方で、手も決して大きくないようだった。
かなりの手の幅広さを要求される曲の多い「イタリア歌曲集」だが、そこはベテランらしい機転で、見事に問題を解決していた。
例えば、38曲目「僕をちらっと見て微笑んだりする時は」の後奏などはアルペッジョを使ってうまく音をつかんでいた。
演奏が進むにつれて安定感が増し、高い演奏技術をもっていることが感じられた。
蓋が全開なのは最近の流れから当然ではあるが、決して歌を覆いかぶさないコントロールの見事さも特筆したい。
11曲目「どんなに長い間待ち望んでいたことでしょう」の後奏では登場した色白のヴァイオリニストの下手な演奏を描写するのだが、品の良さはありつつも、上手に「下手さ」を表現していて楽しかった。
40曲目「あなたの家がガラスのように透きとおっていたなら」では、出来れば高音の同音反復をつぶさずに明瞭に聴けたら良かったと思う。
43曲目「ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!」の後奏では、ロバの鳴き声を誇張して効果的だった。
45曲目「奈落よ、私の恋人のあばら家を飲み込んでしまえ」の激流が恋人を飲み込む様を畳みかけるように演奏し、最後の46曲目「ペンナにわたしのいい人がいるの」では後奏で華麗なパッセージを見事に演奏して、有終の美を飾った。
アンコールではバリトン、ソプラノがそれぞれ1曲ずつ、「イタリア歌曲集」の中からもう一度歌ったが、本番の緊張から解けたからか、より自在で余裕のある表情が感じられた。
見事な3人の演奏に拍手を贈ると共に、いつかこのトリオで「スペイン歌曲集」を演奏してくれたらと願いたい気持ちである。
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コメント
いつもながら大変に的確でレベルの高い演奏会レポート,楽しく拝読させていただきました。木内さんのヴォルフは,以前にメーリケ歌曲集のリサイタルを聴いたことがありますが,フランツさんが書かれた通りの歌でした。相変わらずのご活躍を嬉しく思いました。太田さんはまた機会があれば是非聴いてみたいです。
投稿: 甲斐 | 2014年1月19日 (日曜日) 19時53分
甲斐さん、こんばんは。
早速コメントいただき、有難うございます。
甲斐さんにほめていただけて光栄です。
甲斐さんは木内さんを聴かれたことがあるのですね。もちろんテクニックを身につけられたうえでの話なのですが、それを感じさせない自然さが印象に残りました。それから特に後半になってからはかなりのヴォリュームも出て、小さい体にもかかわらず、やはり声を出すということは訓練のたまものなのだなと感じたりしました。それからもらったちらしによると、ピアニストの竹尾さんは11月7日にトッパンでシェックの「静謐なる輝き」をやるそうですよ(望月友美さんのMSで)。これは貴重な機会だと思います。
投稿: フランツ | 2014年1月19日 (日曜日) 20時06分
早速のご返事ありがとうございます。いやいや,光栄などと仰らないでください。知らない方に,よほどわたしが凄い人かと勘違いされます(笑)
冗談はともかく,レベルの高さとともに,長く続けていらっしゃることにも重みがあります。
シェックの「静謐なある輝き」ですか! それは本当に貴重な機会ですね。情報ありがとうございます,楽しみにしています。
投稿: 甲斐 | 2014年1月19日 (日曜日) 20時43分
甲斐さん、光栄とは言い過ぎましたか(笑)
それでは、ここは「うれしいです」に言い換えておきましょう。
シェックの歌曲はなかなか生で聴けないので、トッパンホール公演、聴きたいと思っています。こういう意欲的な公演を実現してくれるのは歌曲ファンにとっては本当に有難いことですね。
投稿: フランツ | 2014年1月19日 (日曜日) 23時06分