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ゲルハルト・オピッツ/シューベルト連続演奏会(全8回)【第7回&第8回】(2013年12月5日&20日 東京オペラシティ コンサートホール)

ゲルハルト・オピッツ シューベルト連続演奏会(全8回)【第7回&第8回】
GERHARD OPPITZ SCHUBERT ZYKLUS

【第7回】
2013年12月5日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(piano)

シューベルト(Schubert)

ピアノ・ソナタ 第15番 ハ長調 D840
(Sonate C-Dur, D840)
 I. Moderato
 II.Andante

3つのピアノ曲 D946
(Drei Klavierstücke, D946)
 I. Allegro assao
 II. Allegretto
 III.Allegro

~休憩~

ピアノ・ソナタ 第17番 ニ長調 D850
(Sonate D-Dur, D850)
 I. Allegro vivace
 II. Con moto
 III.Scherzo, Allegro vivace
 IV. Rondo, Allegro moderato

~アンコール~
シューベルト/ピアノソナタ第20番イ長調D959より第3楽章

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【第8回】
2013年12月20日(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(piano)

シューベルト(Schubert)

ピアノ・ソナタ 第6番 ホ短調 D566
(Sonate e-moll, D566)
 I. Moderato
 II. Allegretto
 III.Scherzo, Allegro vivace

ハンガリーのメロディ ロ短調 D817
(Ungarische Melodie h-moll, D817)

アレグレット ハ短調 D915
(Allegretto c-moll, D915)

2つのスケルツォ D593
(Zwei Scherzi, D593)
 I. Allegretto B-Dur
 II.Allegro moderato Des-Dur

~休憩~

ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960
(Sonate B-Dur, D960)
 I. Molto moderato
 II. Andante sostenuto
 III.Scherzo, Allegro vivace con delicatezza
 IV. Allegro ma non troppo

~アンコール~
シューベルト/即興曲 変イ長調 D935-2

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201312_oppitz_2

2010年より4年がかりで8回のシューベルト・シリーズを続けてきたゲルハルト・オピッツだが、とうとう今年が最終回である。

【第7回】
オピッツのシューベルトは温かく、いい意味での即興性を感じさせ(もちろん細心の準備のもとなされているのだろうが)、感情の揺れをやり過ぎない範囲で素直に表現する。
それは今回の演奏でも一貫していた。
例えば、現役若手の最高のシューベルト弾きの一人としてポール・ルイスが挙げられるが、彼のベートーヴェンのような構築感に貫かれた、一分の隙もなく計算されたシューベルトの演奏は素晴らしい。
だが、オピッツの演奏はルイスとは異なる意味で、シューベルトの理想的な演奏だと思う。
オピッツはシューベルトの身の丈に合った素朴で味わい深い演奏を響かせるのである。
もちろんどちらの演奏も素晴らしいし、両方のタイプのシューベルトが聴けるというのもまた贅沢な喜びである。
(余談だが、先日王子ホールでシューベルトの最後のソナタ3曲をミッシェル・ダルベルトが弾き、好演だったようで、チケットがとれず残念だった。)

この夜はまず「レリーク」として最初の2楽章のみが完成しているハ長調のソナタが演奏された。
「レリーク」といえばリヒテルが第3、4楽章も未完成のまま演奏したライヴ録音が出ていて、それでこの曲の魅力を知ったのだが、オピッツは完成された最初の2つの楽章のみを演奏し、それもまた一つの見識であるだろう。
オピッツは比較的ゆったりとしたテンポで演奏をしたが、部分的にテンポを速めたりして、表情の変化は充分ついていた。

「3つのピアノ曲 D946」は最近様々なピアニストによって取り上げられるようになった作品である。
切迫感あふれる第1番がおそらく最も有名だが、第2番の無言歌、第3番のコミカルな表情など、どれも晩年の充実した作品である。
それらをオピッツは、魅力的な味わい深い響きで演奏した。
私はその響きに浸る幸せをつくづく実感した。

後半は「ピアノ・ソナタ 第17番 ニ長調」。
この個性的な作品をなんの衒いもなく、自然体で演奏したオピッツの演奏は時間の経つのを忘れるほど魅力的であった。
第1楽章はともすれば力ずくになりがちだが、オピッツの演奏は必要な劇性は備えているが、決して乱暴になることがない。
最終楽章はカチカチとした時計のようなリズムが印象的だが、オピッツはペダルを適度に用いることによって、そのリズムをあえて強調しなかった。
それによってまた新しい魅力が生み出されたように感じられた。
その熟練したタッチから紡ぎだされるシューベルトの心の旅を心ゆくまで堪能した。

アンコールではソナタ第20番の軽妙な第3楽章。
このまま第4楽章も続けて弾いてほしかったと思うほど心に響いた演奏だった。

【第8回】
はじまりがあれば必ず終わりがある。
分かってはいるが、やはり最後となると寂しいものである。
決して会場が満席になるシリーズではなかったが、それでも最終回には多くの聴衆がホールに集まった。

最終回の最初に弾かれたのは1817年に作曲されたピアノ・ソナタ第6番。
コンサート会場で聴ける機会の少ないシューベルト若かりし日の作品をこうして演奏してくれることにまず感謝。
そしてオピッツの演奏は比較的速めのテンポで自然体で演奏する。
そして、時々微妙にためたり、歩みを速めたりする。
その表情もとってつけた感は一切なく、シューベルトがこうしてほしがっているのではないかと思えるほどの説得力があった。

ソナタの後の4曲をオピッツは続けて演奏した(「ハンガリーのメロディ」の後に軽く起こった拍手に対して座ったまま軽く礼をしてすぐに次に進めた)。
「ハンガリーのメロディ」「アレグレット ハ短調」「2つのスケルツォ」をオピッツはあたかも1つのソナタのようにみなして演奏していたかのように私には感じられた。
もちろん学術的な意味ではなく、プログラムビルディングにおける流れとして、オピッツはこれらの作品をつなげて演奏することに意義を見出していたのではないだろうか。
「ハンガリーのメロディ」は比較的ペダルを多めに使い、曖昧模糊とした雰囲気を醸し出す。
それによって単なるキャラクターピースとみられがちなこの作品にある種の重みが加わっていたように感じた。
続く「アレグレット ハ短調」はあたかもソナタの緩徐楽章であるかのようにゆったりとデリカシーに富んだ演奏をする。
そして2つのスケルツォの第1曲もペダルを効果的に使用し、趣深さを付け加えていた。
第2番では一転して急速なテンポで細かい音をころころと演奏し、ソナタのフィナーレのような華やかさを醸し出した。
こうして、オピッツによって、ばらばらな小品が一つの流れを獲得した。
これもまた一つの演奏の在り方であり、大いに楽しませてもらった。

そして、休憩後、シリーズ最後の演目にはやはり最後の変ロ長調ソナタが演奏された。
このソナタの延々と続く生死の間を行き来するかのような浮遊感をオピッツは自在に自然に演奏して聴かせてくれた。
もちろん第1楽章のリピートは省略することなく、長大なシューベルトのソナタの終着点をたっぷりと味わわせてくれた。
第2楽章の悲哀の歌も共感に満ちた演奏であった。
普通そのあとに弾かれる第3楽章が突然雰囲気が変わり、前半と後半が断絶してしまいかねないところだが、オピッツは第3楽章や第4楽章も紛れもなくシューベルトの晩年の所産であることを納得させてくれた。
おおげさな言い方かもしれないが、オピッツにシューベルトが乗り移ったのではないかと思えるほど、演奏者と作曲家が一体となっていた。
こういう印象をもつことはなかなか無いことである。
オピッツはかつてケンプに師事していた。
ケンプはベートーヴェンもブラームスも得意にしていたが、シューベルトの作品をはじめてまとめて録音したシューベルトの名手であった。
オピッツが意識しているか否かはともかく、彼が師匠の精神を引き継いだ演奏をしていたということなのかもしれない。

聴衆の熱く長い拍手がこの演奏の充実を物語っていた。
そして、シリーズの締めにオピッツが選んだアンコールは即興曲 変イ長調 D935-2であった。
この美しい無言歌をオピッツはやはりさりげない味わいをこめて弾いた。
まさに最後にふさわしい演奏であった。

全8回すべて聴いて、ゲルハルト・オピッツという素晴らしい道案内の導きによって、シューベルトの歩いたさまざまな世界を旅することが出来た。
シューベルトの短い人生において、ピアノ作品はひとつのジャンルに過ぎないけれど、彼の試行錯誤と成長の足跡を垣間見ることが出来たのは素晴らしい体験だった。
ベートーヴェンやブラームスの名手と見られることの多いオピッツだが、私はもう一つの肩書を決して忘れないだろう。
オピッツが現代最高のシューベルト演奏家の一人であるということを。

↓12月5日のオペラシティのイルミネーション
Tokyo_opera_city_20131205

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