トム・クラウセ逝去(2013年12月6日没)
ヘルシンキ生まれのフィンランドのバスバリトン歌手、トム・クラウセ(Tom Krause)が亡くなった。
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1934年7月5日生まれだから79歳である。
残念ながら私はクラウセの実演に接する機会はなかった。
そもそもクラウセは来日をしたことがあるのだろうか(東京文化会館のアーカイブではヒットしなかった)。
彼はオペラ歌手として世界中で活躍したが、私にとってクラウセはまずリート歌手である。
シベリウス歌曲全集をソプラノのセーダーストレームと分担してアーウィン・ゲイジのピアノで録音したのは大きな仕事だったが、私にとって印象に残っているのはヴォルフの「イタリア歌曲集」全曲の録音である(彼は多言語を操る才能に恵まれていたようだ)。
女声用歌曲はアーメリングが担当し、クラウセは男声用歌曲をゲイジと共に録音した(CBS/NONESUCH/Globe)。
クラウセの歌う「イタリア歌曲集」は、人のよい、ちょっと頼りないが嘘の付けない憎めない人物像である。
彼の声の質がそうであり、同じ曲をF=ディースカウやプライが歌った時とは異なるクラウセの描く性格描写がそこには刻まれていた。
托鉢僧の振りをして家の奥で大事に育てられている若い女の子をくどこうという曲"Geselle, woll'n wir uns in Kutten hüllen(相棒よ、おれたちゃ修道服でもまとって)"では、クラウセは決して世慣れたドン・ジョヴァンニではなく、優しい声音で警戒心を解いてしまうような人物像を表現していた。
その一見頼りなげなおっとりとした声にまんまとだまされる女性が続出しそうな、そんなクラウセの名演であった。
ご冥福をお祈りいたします。
シューマン「こよなく麗しい五月に」
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コメント
フランツさん、こんにちは。
トム・クラウセも亡くなってしまいましたか。
寂しい限りですね。
次々と、昔から耳にしていたアーティスの訃報を聞く事が増え、本当にさみしいです。
ご冥福をお祈りします。
投稿: 真子 | 2013年12月 9日 (月曜日) 09時39分
真子さん、こんばんは。
おっしゃるように、よく聴いていたアーティストが亡くなるのは寂しいものですね。
私が学生のころ夢中で聴いていた演奏家たちの多くは、引退するか亡くなってしまいました。
ただ、録音によって彼らの演奏は後世にも残されるわけですから、彼らの業績が忘れ去られることはないでしょう。
クラウセはフィガロの結婚のアルマヴィーヴァ伯爵などオペラも多数歌っていたようなので、動画サイトで聴いてみようと思います。
投稿: フランツ | 2013年12月 9日 (月曜日) 21時29分