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鎌田滋子ほか&ダルトン・ボールドウィン/プーランク没後50年記念ガラコンサート(2013年11月19日 白寿ホール)

プーランク没後50年記念ガラコンサート
(Francis Poulenc 50 Anniversary Gala Concert)
2013年11月19日(火)19:00 白寿ホール(全自由席)
(休憩15分。21:20終演)

ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(ピアノ)({対話」以外)
鎌田滋子(Shigeko Kamada)(ソプラノ)
高橋さやか(Sayaka Takahashi)(ソプラノ)
池端 歩(Ayumi Ikehata)(メゾ・ソプラノ)
坂本貴輝(Takateru Sakamoto)(テノール)
武田正雄(Masao Takeda)(テノール)
坂下忠弘(Tadahiro Sakashita)(バリトン)
鈴木靖子(Yasuko Suzuki)(ピアノ)(「対話」)

企画構成:鈴木靖子;鎌田滋子

プーランク(Poulenc)作曲

1.アポリネール(Guillaume Apollinaire)の詩による
「動物詩集(Le Bestiaire, ou le Cortège d'Orphée)」(池端)
1. らくだ(Le dromadaire)
2. チベットの牝山羊(La chèvre du Thibet)
3. いなご(La sauterelle)
4. イルカ(Le dauphin)
5. ザリガニ(L'Écrevisse)
6. 鯉(La carpe)

モンパルナス(Montparnasse)(坂本)
ハイド・パーク(Hyde Park)(坂本)
矢車菊(Bleuet)(坂本)

「四つの詩(Quatre poèmes)」(池端)
1. ウナギ(L'Anguille)
2. 絵はがき(Carte-Postale)
3. 映画の前に(Avant le cinéma)
4. 1904(1904)

「月並み事(Banalités)」(坂下)
1. オルクニーズの歌(Chanson d'Orkenise)
2. ホテル(Hôtel)
3. ワロニーの沼地(Fagnes de Wallonie)
4. パリへの旅(Voyage à Paris)
5. すすり泣き(Sanglots)

2.アラゴン(Louis Aragon)の詩による
「二つの詩(Deux Poèmes de Louis Aragon)」(坂本)
1. セーの橋(C)
2. 艶なる宴(Fêtes Galantes)

3.ヴァレリー(Paul Valéry)の詩による
対話(Colloque)(高橋;坂下)

4.ジャコブ(Max Jacob)の詩による
「マックス・ジャコブの5つの詩(5 Poèmes de Max Jacob)」(鎌田)
1. ブルターニュ風の歌(Chanson bretonne)
2. 墓地(Cimetière)
3. ちいさな召使い(La petite servante)
4. 子守唄(Berceuse)
5. スリックとムリック(Souric et Mouric)

「パリジアーナ(Parisiana)」(武田)
1. ビューグルを吹く(Jouer du Bugle)
2. もう手紙をくれないの?(Vous n'écrivez plus?)

〜休憩〜

5.ヴィルモラン(Louise de Vilmorin)の詩による
「かりそめの婚約(Fiançailles pour rire)」(高橋)
1. アンドレの奥さん(La Dame d'André)
2. 草の中で(Dans l'herbe)
3. 飛んでいるの(Il vole)
4. 私の屍は手袋のようにぐったりと(Mon cadavre est doux comme un gant)
5. ヴァイオリン(Violon)
6. 花(Fleurs)

6.エリュアール(Paul Éluard)の詩による
「そんな日、そんな夜(Tel jour, telle nuit)」(武田)
1. よい1日(Bonne journée)
2. からの貝殻のかけら(Une ruine coquille vide)
3. 失われた旗のような額(Le front comme un drapeau perdu)
4. 瓦礫に覆われた四輪馬車(Une roulotte couverte en tuiles)
5. 全速力で(A toutes brides)
6. 一本の哀れな草(Une herbe pauvre)
7. 私は君を愛したいだけだ(Je n'ai envie que de t'aimer)
8. 燃え上がる荒々しい力の姿(Figure de force brûlante et farouche)
9. 私たちは夜を作った(Nous avons fait la nuit)

「燃える鏡(Miroir brulante)」より
君は夕暮れの火を見る(Tu vois le feu du soir)(池端)

7.カレーム(Maurice Carême)の詩による
「くじ引き遊び(La courte paille)」(鎌田)
1. 眠け(Le sommeil)
2. 大冒険(Quelle aventure!)
3. ハートの女王(La reine de Coeur)
4. バ、ベ、ビ、ボ、ブ(Ba, be, bi, bo, bu)
5. 音楽家の天使たち(Les anges musiciens)
6. 小さなガラスびん(Le carafon)
7. 四月のお月さま(Lune d'Avril)

8.オペラ「ティレジアスの乳房(Extrait de "Les Mamelles de Tirésias")」より
「いいえ、旦那様」("Non, Monsieur, mon mari")(高橋;武田)

〜アンコール〜
愛の小径(Les chemins de l amour)(全員)

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今年もドルトン・ボールドウィンが来日し、多くの日本人歌手たちと共演している。
そのうちの一つを聴いた。
今年はヴァーグナーやヴェルディばかりが盛り上がっているが、プーランクも没後50年の記念年なのであった。
この夜は、プーランクの歌曲ばかりを集めたガラコンサートである。
まずはパンフレットに掲載されたボールドウィンの言葉から。

「ジェラール・スゼーと私が50年以上前、日本で最初にプーランクの歌曲を演奏した時、観客は困惑し、批評家からは好評を得られませんでした。いつの世も新しい芸術の形式を受け入れるのには時間が掛かります。」
Poulenc_20131119_03

ボールドウィンが日本でプーランクを演奏してから50年経ち、日本のプーランク受容は変わったのか。
少なくとも当時と比べれば演奏される機会が増えたことは確かだろう。
ただ言葉の壁がある歌曲に関して言えば、まだまだ浸透しているには程遠い状態ではないか。
かく言う私も、プーランクの歌曲の中で好んで聴く曲は限られている(曲調に慣れるとこの上なく楽しい作品ばかりだが)。
そういう状況で、このようなプーランクの歌曲にどっぷり浸かるコンサートは大きな意味を持つのではないか。
実際、ボールドウィンの演奏目当てで来たこのコンサートで、私はプーランクの魅力にあらためて惹きこまれてしまったのである。

ここ数年ボールドウィンの実演を聴いていると、どうしても記憶力の面で年齢を感じてしまう場面に少なからず遭遇してきた(楽譜は置いているのだが)。
それが、この日のコンサートでは、十八番のプーランクの作品ということもあるのか、行方不明になることがほとんどなく、しかもテクニカルな面で難曲の多い彼の歌曲をものの見事に弾いていた。
来月で82歳を迎えるピアニストとしてはそれは驚異的なことではないだろうか。
相変わらずタッチは骨太でよく歌い、それでいながら歌手それぞれへの細やかな配慮は怠りない。
まさに円熟の演奏であった。
ボールドウィンの名人芸にサポートされた日本の優れたフランス歌曲歌手たちも気持ちよく歌えたのではないだろうか。
一つだけ苦言を呈させてもらうと、曲が終わって最後の音をペダルで伸ばしながら次の曲の楽譜を置く時の音ががさがさ大きすぎ、余韻に浸りにくいということはあった。
いっそ譜めくりを頼んではどうかと思ってしまったが、あるいはプーランクの歌曲は余韻に浸ることを拒むものなのだろうか。
そのあたりは分からず仕舞である。

今回は詩人ごとにまとめられた歌曲集をそれぞれ担当の歌手が登場して歌っては袖に戻り、次の歌手が登場して歌うということを繰り返し、ボールドウィンはただ1曲愛の二重唱「対話」でお弟子さんの鈴木靖子が演奏した以外は全曲ひとりで通して演奏した。
その鈴木さんが伴奏した時はボールドウィンは客席1列目の左端に腰を下ろし、弟子たちの演奏を満足そうに見ていた。
ボールドウィンは本当に歌が大好きで、演奏するのも大好きで、また仲間の歌手たちがうまく歌ったのがうれしくて仕方がないという風に見えた。
歌い終えて引っ込む歌手それぞれに拍手を送ったり声や合図を送ったりするボールドウィンの姿は慈愛にあふれていた。
以前EMIのプーランク歌曲全集の解説書にボールドウィンが寄稿した文章によれば、確かプーランクにはじめて彼が会った時、手を調べられたという。
プーランクの歌曲を演奏するのに必要な厚みがあるかどうかを見られたのだとか。
プーランク自身が優れたピアニストであり、自作の演奏をピエール・ベルナックらと数多く演奏してきたわけで、彼の歌曲においていかにピアノパートが充実しているかは想像に難くない。
そのような歌曲を解釈するうえで、ボールドウィンの経験がこうして次代の歌手たちに引き継がれていくことがどれほど意義深いことか。
例えば、最初の「動物詩集」を歌った池端歩は、歌う前に各曲のタイトル(動物名)をフランス語で語るのだが、そのうちの一つの発音が正しくなかったのか、すぐにボールドウィンが正しい発音をし直していた。
その妥協のなさと、歌手たちへの指導の一端が垣間見えた瞬間であった。

プーランクの歌曲は大まじめだったり、おふざけがあったり、華やかだったり、シンプルだったり、早口だったり、ゆったりだったりと実に多彩である。
しかし、その多彩さの中にプーランクの色が強く刻印されているのがすごいとあらためて感じた。
「動物詩集」の第1曲「らくだ」という曲は下降するピアノパートに乗って、荘厳と言ってもいい真面目さで「私に4匹のらくだがいたら、ドン・ペドロ・ダルファルベイラがしたように世界を巡り歩いただろう」と妄想が歌われる。
しかし、最後のピアノ後奏はどう見てもおちゃらけた響きである。
大真面目に妄想を繰り広げ、「なーんちゃって」と煙に巻くかのようだ。
一方で「矢車菊」や「セーの橋」は戦争で傷ついたフランスの現実を真摯に表現する。
そうかと思えば早口の「艶なる宴」のナンセンスな内容を実に面白おかしく表現する。
ポール・ヴァレリーの「対話」は男女の官能的な対話を静かに表現する(この曲の最後で坂下さんが急に背中を向けて高橋さんと口づけを交わす演技が唐突でびっくりしたが、テキストの内容がストレートに伝わってきた)。
「かりそめの婚約」や「くじ引き遊び」は今やフランス歌曲の重要なレパートリーに定着したのではないか。
「そんな日、そんな夜」はフェリシティー・ロットで聴き馴染んでいた為、武田さんのバリトンでの歌唱は新鮮だった。

歌手たちはヴェテランも若手も実にフランス歌曲に真摯に向き合って、素晴らしい歌唱を聴かせてくれた。
メゾの池端さんはきれいな声が印象的で、テノールの坂本さんもよい声をしており、将来を期待させてくれた。
バリトンの坂下さんは昨年はじめてボールドウィンとのコンサートで聴いたが、今回も豊かに響くディクションと響きが素晴らしく、特に抑えた声が良かった。
ソプラノの高橋さんは声量も豊かでディクションも美しく、歌曲だけでなく、オペラ「ティレジアスの乳房」からの一場面を実に生き生きと歌って、強く印象に残った。
ソプラノの鎌田さんはベテランの味わいを滲ませた声の響きが美しく、表情も愛らしい。
テノールの武田さんもベテランらしい安心感で、フランス語の美しさと、プーランクらしい響きを堪能した。
武田さんだけ「もう手紙をくれないの?」という快活な歌を歌った後にボールドウィンに耳打ちされて、もう一度歌った。
前半の最後なので、アンコール的な意味合いもあるのだろうが、それにしてもボールドウィンのスタミナには驚かされた。

全曲が終わったアンコールでは、ボールドウィンが「愛の小径」の前奏を弾きはじめると、一人ずつ順番に歌いながら再度登場して、全員が最後に舞台に勢ぞろいするという形だった。
こうしてボリュームたっぷりのプーランク祭りは楽しく幕を閉じたのだった。

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コメント

フランツさん、こんにちは。

プーランクを私は聞いたことがないのですが、興味深く記事を読ませて頂きました。

ボールドウィンはもう82歳になられるのですね。
聴き親しんだ巨匠たちがたくさん天に籍を移された今、少しでも長くお元気でいて欲しいと思います。

それにしてもフランツさんは、一つ一つも深く掘り下げながら、守備範囲も広くていらっしゃいますね。
いつも勉強になります。

投稿: 真子 | 2013年11月26日 (火曜日) 15時36分

真子さん、こんばんは。
ご覧いただき、有難うございます!私の関心は「狭く浅く」だと思っていたので、お褒めいただき恐縮です。いつも励みになります(^-^)/

プーランクの歌曲はフランスのエスプリと密接につながっているため、日本人が理解するのは本当は大変なのかもしれません(テキストも何のことだか?という内容が少なくありません)。しかし、彼の歌曲は非常にバラエティに富んでいて、しかも1曲の長さが概して短めです。いくつか聴いてみると「これ面白い」という作品に出会えるかもしれません。ちなみに私の昔からのお気に入りは歌曲集「村人の歌」です。スゼーとボールドウィンの来日公演をラジオで聴き、第1曲の「目の荒いふるいの歌」に惹かれたのがきっかけです。

ボールドウィンはご高齢になっても毎年日本人歌手のために来日して、幅広いレパートリーを披露してくれます。本当ならば悠々自適の生活をしていてもいいぐらいなのに、凄いことだと思います。特に今回は素晴らしい演奏でした。馴染みの演奏家たちにはいつまでもお元気でいてほしいですね。

投稿: フランツ | 2013年11月27日 (水曜日) 02時28分

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