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ペーター・レーゼル/リサイタル 情熱と憧憬(2013年11月9日 紀尾井ホール)

ペーター・レーゼル
ドイツ・ロマン派 ピアノ音楽の諸相2013
リサイタル2 情熱と憧憬
2013年11月9日(土)15:00 紀尾井ホール

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(piano)

シューベルト(Schubert)/楽興の時 Op.94, D780
 1.モデラート ハ長調
 2.アンダンティーノ 変イ長調
 3.アレグロ・モデラート ヘ短調
 4.モデラート 嬰ハ短調
 5.アレグロ・ヴィヴァーチェ ヘ短調
 6.アレグレット 変イ長調

ブラームス(Brahms)/2つのラプソディー Op.79
 第1番 激情的に ロ短調
 第2番 非常に情熱的に、しかし快活すぎずに ト短調

~休憩~

ウェーバー(Weber)/舞踏への勧誘 変ニ長調 Op.65

シューマン(Schumann)/ピアノ・ソナタ第1番 嬰ヘ短調 Op.11
 1.Introduzione:Un poco Adagio - Allegro vivace
 2.Aria:senza passione, ma espressivo
 3.Scherzo e intermezzo:Allegrissimo - lento - Allegrissimo
 4.Finale:Allegro un poco maestoso

~アンコール~

ブラームス/幻想曲集 Op.116より 第1曲 奇想曲ニ短調
シューベルト/即興曲集 D935より 第2番 変イ長調
ブラームス/ワルツ イ長調 Op.39-15

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ここ数年、毎年秋に来日してくれるドイツのペーター・レーゼルのリサイタルを今年も聴いた。
昨年よりスタートさせた「ドイツ・ロマン派 ピアノ音楽の諸相」シリーズの2回目にあたる。
今回はシューベルト、ブラームス、ヴェーバー、シューマンとまさにロマン派の王道プログラムである。

最初のシューベルト「楽興の時」から何のてらいもなく、早めのテンポで一見淡々と弾いているように見せながら、実は極めて磨かれたタッチと高度なテクニックに裏打ちされた安定した指回りで、聴き手を安心して作品の世界に引き入れる。
激しい箇所でもこれでもかと強引に荒々しく演奏することはないが、かといって決してドラマに不足するわけではなく、音楽的な音でドラマを演出してみせる。
その技は彼の演奏するどの作品にも一貫して感じられることだった。
彼は第2番の装飾音をゆっくり目に弾くことで、はっとする魅力を付与してくれたりする。
また有名な第3番でも必要以上に民俗色を打ち出したりせず、精巧な工芸品のような緻密さと温かさを兼ね備えていた。

ブラームスの作品はレーゼルが若い頃に全集を録音しているだけあって、楽しみにしていた。
今回の「2つのラプソディー」はエネルギッシュで情熱的な箇所と暗く沈んだ箇所を併せ持った名曲だが、レーゼルは若い頃の録音のようにバリバリと歯切れよさを聴かせるよりは、むしろ円熟したタッチによってさらに昇華された演奏になっていた。
パッションに圧倒させられるというよりも、作品の表情の変化を極めて自然につないだ演奏だったと感じた(もちろんテクニックは万全である)。
そして今でこそ聴ける彼のブラームスの演奏に心から満足したのだった。

休憩後は、有名だがあまり取り上げられないヴェーバーの「舞踏への勧誘」が演奏されたが、ここでもレーゼルは必要なだけのドラマは盛り込みつつも、決して派手なスタンドプレーには陥らず、好感のもてる演奏だった。
私は「舞踏への勧誘」を実演でははじめて聴いたのだが、噂に聞く舞踏会のシーンの後のフライング拍手をはじめて体験することとなった。
しかし、ここでレーゼルは想定内でもあったかのように慌てず、右手を振って、まだ終わりではない旨を伝える。
そして、最後の静かな箇所が終わり、曲が本当に終了した時に、レーゼルはまた右手を振って、今度は拍手していいよと茶目っけのある身振りをする。
謹厳な印象のあるレーゼルのユーモアに会場がどっと沸いた瞬間であった。

プログラム最後はシューマンのピアノ・ソナタ第1番。
シューマンらしい内向性と外向性の交錯する作品で、レーゼルの安定した技術と美しいタッチ、さらに見事な構築感で、このソナタ全曲を素晴らしく演奏した。

そして熱烈な拍手にこたえてアンコールは3曲。
ここでも弾かないふりをして、ちゃっかり椅子に座って弾いたりと、レーゼルの茶目っけが会場を沸かす。
最後に弾いたブラームスのワルツの穏やかな優美さに今のレーゼルの芸術のエッセンスがこめられていたように感じた。

来週はシューマンのコンチェルトが聴けるので楽しみである。

20131109_rosel

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コメント

こんばんは。
今年もレーゼルの演奏会へ行かれたのですね~。うらやましい限りです。
レーゼルは生真面目でスクエアな人のように見えますけど、お弟子さんのピアニスト高橋望さんのブログでは、実は「意外にジョークが好きな先生」と書かれてました。

舞踏会のシーンの後のフライング拍手..というのは、CDリスナー専門の私は聴いたことがありませんが、確かに間違って拍手しそうな曲ですね。
レーゼルも”今日もまた誰かフライング拍手するんだろうな~”と思っていたのかも。
そういう事態が起きやすい構造の曲なので、フライング拍手した人が悪いとも言えない気がします。
レーゼルは、気まずい雰囲気にならないように、うまくフォローしてあげましたね。

来年はブラームスのピアノ協奏曲第1番を弾くようですね。
海賊版の録音が出てますが、できればライブ録音として残すか、第2番と一緒にスタジオ録音して欲しいものです。(第2番はライブ録音が出てます)

投稿: yoshimi | 2013年11月30日 (土曜日) 21時48分

yoshimiさん、こんにちは。
今年も行ってきましたよ!
こうして日本にいながら毎年レーゼルの実演を聴けるというのは本当に恵まれていると思います。
レーゼルがジョーク好きというのは何となく想像できます。堅そうに見えて中身は温かい人のように見えます。
「舞踏への勧誘」でのユーモアあふれるフォローも、お客さんを傷つけない気遣いが感じられました。この曲でのフライング拍手は曲の性格上誰も怒らないのではないでしょうか。
来年のブラームスの1番は楽しみです。2番のライヴCDは会場ロビーでも売っていましたが、1番のライヴCDーRも以前入手しました。でも2曲ともそろそろ正規のスタジオ録音をしてほしいですね。

投稿: フランツ | 2013年12月 1日 (日曜日) 09時36分

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