NISSAY OPERA/ベートーヴェン作曲オペラ「フィデリオ」(2013年11月23日 日生劇場)
日生劇場開場50周年記念公演
オペラ「フィデリオ(FIDELIO)」
(全二幕 原語ドイツ語上演 -日本語字幕付-)
原作:ジャン=ニコラ・ブイイの戯曲『レオノール、あるいは夫婦愛』
台本:ヨーゼフ・フォン・ゾンライトナー、シュテファン・フォン・ブロイニング、ゲオルク・フリードリヒ・トライチュケ
作曲:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)
2013年11月23日(土)14:00 日生劇場
(75分-休憩25分-65分)
ドン・フェルナンド:木村 俊光
ドン・ピツァロ:ジョン・ハオ
フロレスタン:成田 勝美
レオノーレ:小川 里美
ロッコ:山下 浩司
マルツェリーネ:安井 陽子
ヤキーノ:小貫 岩夫
囚人1:伊藤 潤
囚人2:狩野 賢一
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
指揮:飯守 泰次郎
演出:三浦 安浩
美術:鈴木 俊朗
照明:稲葉 直人
衣裳:坂井田 操
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日生劇場でベートーヴェン唯一のオペラ「フィデリオ」を見た。
「フィデリオ」を生で見るのははじめてだが、日生劇場の50年前のこけらおとしで演じられたのがベルリン・ドイツ・オペラによる「フィデリオ」だったとのことで、この劇場にとって特別な作品なのである。
その時はフィッシャー=ディースカウやルートヴィヒ、ベリーなど錚々たるメンバーがカール・ベームの指揮により演奏した。
そして、今回はドン・ピツァロを中国人のジョン・ハオが歌う以外は日本人メンバーにより全曲上演にこぎつけた。
まずはその偉業をたたえたいと思う。
ベートーヴェンの音楽はここでも彼らしさが全開で、荘厳で力強く、苦悩の中を光に向かって突き進んでいく響きは、全くぶれない。
ただ、そんな彼の音楽においても台本に従っただけなのかもしれないが、冒頭の場面は男女の駆け引きが軽快に歌われ、コミカルな要素も取り入れていて、深刻な内容に気晴らしの要素を与えてくれた。
今回はレオノーレがフロレスタンと再会した後に、マーラー以降の慣例に従って「レオノーレ序曲第3番」が演奏されたが、場面変換にはちょうどいいのかもしれない。
夫フロレスタンが失踪した後、妻レオノーレがフィデリオと名を変えて男装して監獄に潜り込み、夫を捜して救出するというのがおおまかな筋である。
フロレスタンは政敵ドン・ピツァロにさらわれて地下牢に閉じ込められていたが、最後は大臣ドン・フェルナンドの前で悪事が暴かれ、夫婦が再会し、妻の勇気が称えられて幕が下りる。
今回の演出(三浦 安浩)は現代人の設定のようだが、衣装も舞台装置も国や時代をそれほど強く意識させるものではないため、読み替えというほどではないのだろう。
助演の女性カメラマンが登場して、ドン・ピツァロの撮影をしたすえにピツァロの部下にいたぶられるというシーンもあった。
序曲の前に雷雨の音響が鳴り渡り、雨の照明の中、傘をさしたレオノーレの一人芝居があった。
そこではレオノーレの夫救出の決心に至る心の動きが描かれていたようだ。
歌手で第一に挙げるべきはレオノーレの小川 里美だろうか。
舞台姿の良さとちょっとクールな響きが特徴と感じられ、尻あがりに良くなっていった印象である。
ロッコ(山下 浩司)、マルツェリーネ(安井 陽子)、ヤキーノ(小貫 岩夫)は安定した上手さがあり、良かった。
特にコミカルな役どころのヤキーノは途中で第九やら「君を愛す(Ich liebe dich)」などを鼻歌で口ずさみ、会場をなごませていた。
私にとってはドン・フェルナンド役で木村 俊光の健在ぶりを聴けたのがうれしかった。
昔から名前は存じていたものの、一度もその生声に接する機会がなく、年齢的に正直若干不安もあったのだが、ボリュームこそ他の歌手ほどではないものの、朗々とした美声と醸し出される雰囲気は短い出番でも素晴らしく、聴けて良かったと思わせられた。
合唱も多少不揃いの場面もあったものの、総合的には素晴らしかった。
囚人の合唱はやはりこのオペラの重要な聴きどころなのだろう。
そして飯守 泰次郎の指揮は実に素晴らしかった。
今回一番の功労者ではなかろうか。
隅々まで目の行き届いた響きを作り上げ、とりわけ挿入された「レオノーレ序曲第3番」はなかなか聴けないほどの熱演だったのではないだろうか。
新日本フィルは最初のうち歌手と合わない箇所もあったものの、徐々に馴染み、ベートーヴェンの音を素晴らしく響かせていた。
正直なところ、頻繁に聴きたい作品ではないかもしれないが、この重厚で充実した音楽に折を見て今後も触れていけたらと思った。
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