二期会/ライマン作曲オペラ「リア」(2013年11月10日 日生劇場)
《二期会創立60周年記念公演》
オペラ「リア(Lear)」
オペラ全2部
字幕付原語(ドイツ語)上演 <日本初演>
原作:ウィリアム・シェイクスピア「リア王」
台本:クラウス・H・ヘンネベルク
作曲:アリベルト・ライマン(Aribert Reimann)
2013年11月10日(日)14:00 日生劇場
(85分/休憩25分/70分)
指揮:下野竜也
演出:栗山民也
美術:松井るみ
衣裳:前田文子
照明:服部 基
ドラマトゥルク:長木誠司
演出助手:上原真希
舞台監督:大澤 裕
リア:小森輝彦
ゴネリル:小山由美
リーガン:腰越満美
コーディリア:臼木あい
フランス王:小田川哲也
オルバニー公:宮本益光
コーンウォール公:高橋 淳
ケント伯:大間知 覚
グロスター伯:峰 茂樹
エドマンド:小原啓楼
エドガー:藤木大地
道化:三枝宏次
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
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二期会によるアリベルト・ライマンのオペラ「リア」初演の最終日を見た。
ライマンのオペラは昨年の二期会による「メデア」も見て面白かったので、今回も期待していたが、予想を上回る面白さだった(「面白い」という言葉がふさわしいかどうかは分からないが)。
このオペラ、あのフィッシャー=ディースカウの求めで書かれた作品で、初演もディースカウが歌っている。
ちなみにディースカウの歌った映像の一部を貼っておきます。
ライマンといえばフィッシャー=ディースカウが現代歌曲を歌う時のピアニストにしばしば起用したことでも知られている。
つまり、ライマンはディースカウの共演者として彼の声を知り尽くしていたのだ。
当然このオペラもディースカウの声を想定して書かれているし、今回のリア役の小森輝彦の歌を聴きながら、ディースカウが歌っているような錯覚に陥ることもあった。
このオペラはシェイクスピアの「リア王」のヘンネベルクによる独訳にライマンが作曲した2部からなる作品である。
あらすじについては大変分かりやすいdachonさんのブログをご覧ください(私が聴かなかった日のコーンウォール公役で出演されていた高田正人さんが書かれています)。
こちら
リア王が引退前に3人の娘に土地を相続しようとして、自分をどれだけ愛しているか言わせるのだが、強欲で権力志向の強い上の二人(ゴネリル、リーガン)は美辞麗句を並べたてる一方、末娘のコーディリアは父を心から愛している為に言葉で表現することが出来ない。
それゆえにリアの怒りを買って追放されてしまうというのがオペラの冒頭の場面である。
その後、グロースター伯の二人の息子達もからみ、それぞれの思惑と性格描写が丁寧に描かれていく。
結局最後はみなが破滅に向かう話なので、救いはないのだが、そのドロドロ具合にライマンの描く現代音楽のおどろおどろしさが実によくはまっている。
普段現代音楽に疎い私だが、このオペラの音楽は歌もオケも含めて、聴き手の集中力を一切途切れさせずに、物語に引き込んでしまう。
その吸引力たるや、私がこれまでに見たオペラ(そんなに多くはないが)の中で五本の指の中に入るのではとさえ思われる。
人間の生の感情がオケの不協和な響きと大胆に使われるパーカッション群によって増幅される。
そして、ある時は城の中、ある時は荒野をあらわす舞台装置や照明が簡素ながら効果をあげていた。
舞台中央の円形の場所が回る仕組みも効果的に使われていた。
歌手の中ではやはりリアを演じた小森輝彦の歌唱の素晴らしさと、なりきった演技の見事さに拍手を送りたい。
おそろしく困難な歌唱パートを歌いきった全歌手たちの中でも、小森の健闘が成功に大きく寄与したことは間違いないだろう。
3人の娘たちもそれぞれの性格があらわれた声質の歌手を配置して、持ち味を存分に出していた。
中でもヒステリックなリーガンを演じた腰越満美の熱演ぶりには圧倒されるばかりだった。
上の娘それぞれの夫の性格描写もくっきりと描かれていて分かりやすい。
グロスター伯の峰茂樹の重厚な歌も素晴らしかった。
エドマンドの小原啓楼も悪役を見事にこなしたが、エドガーの藤木大地はカウンターテノールの声を生かして難しい役どころを素晴らしく表現していた。
そして二期会の男声合唱団も王の家来として酒宴で酔っ払った場面などで活躍していた。
今回王のそばに仕える道化役にダンサーの三枝宏次が起用されており、破れた衣装に白塗りの顔で踊るだけでなく、格言のような言葉をドイツ語でそれもかなり頻繁に語っていたのは凄いと思った。
下野竜也指揮の読売日本交響楽団は素晴らしい演奏をした。
彼らにブラボーである。
演出の栗山民也は日生劇場の限られた空間内で素晴らしい成果をあげたと思う。
歌ったり演じたり、演奏したりするタイミングをはかるきっかけさえ素人の耳には困難そうに思えたが、全キャストとスタッフがきっと一丸となって困難を克服してきたのだろう。
そんな充実した舞台を見られたことは、私にとっても大きな財産となった。
願わくは、いずれ日本でももっと頻繁にこのオペラが上演されるようになるといいのだが。
カーテンコールでは客席で聴いていたライマン氏も舞台に呼び出され、盛大な拍手に応えていた。
最後に、今回プロンプターも活躍していたようで、はっきり声が聞こえていたが、この類の作品では当然必要不可欠であろう。
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