北村朋幹/Vol.1―ソロ(2013年10月12日 トッパンホール)
〈エスポワール シリーズ 10〉
北村朋幹 Vol.1―ソロ
2013年10月12日(土)17:00 トッパンホール
北村朋幹(Tomoki Kitamura)(piano)
シューマン(Schumann)/森の情景 Op.82
入口
待ち伏せる狩人
孤独な花
呪われた場所
親しげな風景
宿
予言の鳥
狩の歌
別れ
ホリガー(Holliger)/《パルティータ》より〈舟歌〉
ベートーヴェン(Beethoven)/ピアノ・ソナタ第14番 幻想曲風ソナタ 嬰ハ短調 Op.27-2《月光》
I Adagio sostenuto
II Allegretto
III Presto agitato
~休憩~
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第13番 幻想曲風ソナタ 変ホ長調 Op.27-1
I Andante -Allegro - Andante
II Allegro molto e vivace
III Adagio con espressione
IV Allegro vivace
バルトーク(Bartók)/野外にて Sz81
笛と太鼓
舟歌
ミュゼット
夜の音楽
狩
~アンコール~
バルトーク/3つのチーク地方の民謡
ベートーヴェン/3つのバガテル Op.126より 第5番 ト長調
シューマン/ダヴィッド同盟舞曲集 Op.6より 第2巻 5番
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22才の北村朋幹のリサイタルを久しぶりに聴いた。
今回はトッパンホールの「エスポワール シリーズ」という、3回にわたって同じ演奏家の成長を追うという企画の第1回である。
この若者、レパートリーもすでに幅広く、なんでも弾いてしまう。
しかも解説なども自ら執筆して、その博学さは音楽評論家に引けをとらないという才能に恵まれている。
今回のプログラム冊子の解説は別の人が執筆していたが、ホールの企画なので仕方ないのだろう。
現在ベルリンに留学中で散歩が趣味という北村が、ドイツの森を意識して組んだプログラムとのこと。
シューマンの「森の情景」に始まり、オーボエ奏者でもあるハインツ・ホリガーの現代曲「舟歌」、そしてベートーヴェンの「月光」ソナタというのが前半で、全曲拍手中断なく続けて演奏された。
後半はベートーヴェンのソナタ第13番とバルトークの「野外にて」という内容で、こちらはベートーヴェンの後に拍手にこたえていたが、袖には戻らずにすぐにバルトークを続けた。
最初のシューマン「森の情景」は、北村の今の良さが最も発揮された演奏だった。
音色はふくよかで、テンポも的確で間延びしない。
シューマンの描き出す森の様々な情景を丁寧に(どちらかというと慈しむような余裕のあるテンポ設定で)演奏して、その響きは胸に沁みわたる。
最終曲の「別れ」などは本当に森から出ていくのが名残惜しく感じられるほどの余韻の感じられる美しい演奏だった。
続くホリガーの「舟歌」はバリバリの現代音楽。
もちろん私は初めて聴く曲だが、1回聴いただけではなんともコメントできない。
今回はシューマンとベートーヴェンをつなぐ架け橋のような位置づけだろうか。
ただ演奏家にとって現代曲に積極的なのは良いことだろう。
ホリガーから間をあけずにベートーヴェン「月光」ソナタに入ると、北村の若さゆえの生きの良さが顔を出す。
第1楽章など、本当にグラデーションが豊富で、様々なダイナミクスで見事に表現していたと思う。
第2楽章のリズム感などはもちろん悪くはないが、今後もっとしっくりくる時がくるのではないか。
第3楽章の疾風怒涛の表現では、直球の情熱が好ましく感じられたが、強音はもっと魅力的に響かせることが彼ならば出来るのではないか。
休憩後のベートーヴェンのソナタ第13番は、さきほどの「月光」ソナタとともに「幻想曲風ソナタ」と呼ばれていて、一緒に演奏されるのが望ましいと北村は考えているようだ。
こちらはのどかな第1楽章が森の散策を想像させるのかもしれない。ペダルをあえてはずしてリズムを明確にした箇所などが印象的だった。
第2楽章はたゆたうようなひとまとまりの最後のリズミカルな箇所が若干荒く感じられたが、コントラストを付けようとしたのだろう。
第3楽章は美しく歌い良かった。
終楽章は快適に疾走した。
最後の「野外にて」は、性格の全く異なる5つの小品それぞれの個性をしっかりつかみつつ、思い入れの強さを感じた演奏だった。
がっつり真正面からとりくんだ演奏というべきか、バルトーク独特の世界がしっかりと表現されていて良かったと思う。
それにしても第4曲の「夜の音楽」は不思議な響きが満載だが、北村の演奏に魅了された。
最後の「狩」の疾走感と迫力も素晴らしかった。
アンコールは3曲。
いずれも本編で演奏した作曲家の作品を選んでいるところが北村らしい。
第2曲では途中で客席から突然声がして、北村も驚いてそちらを見ていたが、演奏が中断されなかったのはさすが。
私と同じ列の老婦人だったが、目をつむって手で拍子をとりながら聴いていて、「そこはそうしたら」のような提案のようなことを言っていたように感じたので、ピアノの先生がレッスンの場と勘違いしたのだろうか。
ちょっと驚いた。
今回の北村朋幹のリサイタルは並々ならぬ意欲が感じられて、とてもたのもしく、そして聴き手を納得させる魅力をもった演奏だったと思う。
彼の師匠であるピアニストの伊藤恵さんはいつも北村の演奏会を聴きに来られていて、愛弟子のために足を運び素敵だなぁと思った。
今後のますますの活躍を楽しみにしたい。
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