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新国立劇場/モーツァルト「フィガロの結婚」(2013年10月26日 新国立劇場 オペラパレス)

モーツァルト/「フィガロの結婚」

2013年10月26日(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス
1・2幕 95分 休憩 25分 3・4幕 75分

【演出】アンドレアス・ホモキ

【アルマヴィーヴァ伯爵】レヴェンテ・モルナール
【伯爵夫人】マンディ・フレドリヒ
【フィガロ】マルコ・ヴィンコ
【スザンナ】九嶋香奈枝
【ケルビーノ】レナ・ベルキナ
【マルチェッリーナ】竹本節子
【バルトロ】松位 浩
【バジリオ】大野光彦
【ドン・クルツィオ】糸賀修平
【アントーニオ】志村文彦
【バルバリーナ】吉原圭子
【二人の娘】前川依子、小林昌代

【合唱】新国立劇場合唱団
【チェンバロ】石野真穂
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】ウルフ・シルマー

【美術】フランク・フィリップ・シュレスマン
【衣裳】メヒトヒルト・ザイペル
【照明】フランク・エヴァン
【再演演出】三浦安浩

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新国立劇場で「フィガロの結婚」を聴いた。
実はこのアンドレアス・ホーモキ演出のプロダクションは、この劇場で数年おきに何度も繰り返し上演されており、私は前回の3年前も聴きに来たのだが、その時は残念ながら疲れがたまっていて熟睡してしまった。
そんなわけで今回はリベンジである。
キャストはアントーニオ役の志村文彦が同じである以外は全員変わったが、今回スザンナに抜擢された九嶋香奈枝は前回バルバリーナを歌っていたから大出世である。

ホーモキ演出の舞台は白い空間に複数の白いダンボールと白い衣装箪笥があるだけという簡素なものだが、照明で効果を出したり、舞台下からはしごをかけたりと工夫されている。
劇が進行するにつれて壁がはずれて、床も傾斜が増し、空間自体が破たんしていく。
キャストは最初の数幕はそれなりの服とかつらを着ていて区別がつくようになっているのだが、最終幕ではみな真っ白な寝巻のような恰好になり、「社会的地位を表す服装がなくなり…本来の存在においては全く同じ」(ホーモキの言葉)であることを示しているらしい。
上演前から幕があいた舞台には何もない白い空間だけだったが、序曲の途中で壁のうしろが開き、人手でダンボールが次々に置かれていく。
そして序曲が終わると、歌手たちはダンボールの山の間をかきわけて登場するのである。
この簡素な舞台は第4幕の屋外の場でもそのまま使われる。
登場人物が隠れて立ち聞きしたりする場面が多いので、ダンボールと衣装箪笥が大活躍である。
最初はこの簡素な舞台で退屈しないかと心配していたが、それは杞憂で、充分に楽しめた。

歌手はおしなべて水準を超えていたように思う。
アルマヴィーヴァ伯爵のレヴェンテ・モルナールは威厳と威圧感のあるキャラクターを描きつつ、よく歌っていた。
伯爵夫人のマンディ・フレドリヒは若干硬さも感じたが、気品のある声と歌は会場の喝采をさらっていた。
フィガロのマルコ・ヴィンコは代役にもかかわらずよく健闘したのではないか。
その長身は見栄えもよく、舞台をあちこち動き回りながら複雑な動きをよくこなしたと思う。
声は若干大味に感じることもあったが、よく響いて語り口もはっきりしていた。
そして、スザンナの九嶋香奈枝はかわいらしいキャラクターを全うして、歌も演技も私は充分満足した。
ケルビーノのレナ・ベルキナは写真で見ると大変な美人だが、4階最後列の私の席からはよく見えなかったのが残念(笑)。
しかし、ズボン役としての演技は遠目にはよくこなしていたと思えたし、歌も少年のように響いていた。
その他の脇を固める日本人歌手たちもそれぞれの役柄をしっかりこなしていたと思うし、特にバルトロの松位浩は朗々と響く声が印象的だった。
バルバリーナの吉原圭子はピンをなくしたと歌う前に伯爵に弄ばれる演出だった為、なくしたものが貞節であるかのような複雑な心理をよく表現していたと思う。

ウルフ・シルマー指揮の東京フィルは躍動感あふれる楽しげな演奏で聴いていて心地よかった。
チェンバロも大健闘である。

有名なアリアも沢山楽しめ、私には充分満足のいく上演だった。

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シューベルト「夕映えの中でD799」を聴く

真子さんのご要望により、シューベルトの「夕映えの中でD799」を聴きたいと思います。

ラッペの詩によるシューベルトの歌曲で「孤独な男D800」と同様によく知られているのがこの「夕映えの中で」です。
夕日に映える世界の美しさを胸に抱くことで、嘆きやためらい、迷いに崩れそうな自分を奮い立たせようという告白でしょうか。
ピアノの幅広い和音の上を悠然と弧を描くメロディラインが感動的に歌い上げます。
この短い詩のそれぞれの詩句に絶妙に反応しながらも、統一感をもった音楽に仕上げたシューベルトの天才をあらためて感じずにはいられません。

かつて「詩と音楽 梅丘歌曲会館」に投稿した記事がありますので、ご参考までに。
 こちら

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Im Abendrot
 夕映えの中で

O wie schön ist deine Welt,
Vater,wenn sie golden strahlet!
Wenn dein Glanz herniederfällt
Und den Staub mit Schimmer malet,
Wenn das Rot,das in der Wolke blinkt,
In mein stilles Fenster sinkt!
 おお、なんと美しいのだ、御身の世界は、
 父よ、世界が金の光を放つ時!
 また、御身の輝きが降り注ぎ
 ほこりを微光で色づける時、
 雲の中でちらついている紅色が
 私の静かな窓辺に沈み込んでくる時!

Könnt ich klagen,könnt ich zagen?
Irre sein an dir und mir?
Nein,ich will im Busen tragen
Deinen Himmel schon allhier.
Und dies Herz,eh' es zusammenbricht,
Trinkt noch Glut und schlürft noch Licht.
 私は嘆き、ためらっているのだろうか?
 御身も自分も信じられないのだろうか?
 いや、私は胸に抱こう、
 すでにここにある御身の空を。
 そして、この心は、もろく崩れ落ちる前に
 さらに赤熱を飲み込み、光をすすり入れるのだ。

詩:Karl Gottlieb Lappe (1773 - 1843)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

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エリー・アーメリング(S)&ドルトン・ボールドウィン(P)

アーメリングのコントロールされたレガートの美しさ!溜息が出るほど素晴らしいです。ボールドウィンも静謐な中で見事に歌っています。

バーバラ・ボニー(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

大自然の雄大な広がりをボニーのよく伸びる美声が感じさせてくれます。パーソンズの安定感のある響きもきわめて美しいです。彼が一度もアルペッジョを使っていないのは、手が大きいからでしょう。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T)&フーベルト・ギーゼン(P)

ヴンダーリヒのノーブルな美声は神聖な気分にさせてくれます。ギーゼンもいつも以上によく歌い、聴きごたえあります。

ヘルマン・プライ(BR)&ピアニスト(カール・エンゲル?)←真子さんに情報をいただきました。

抑えたプライの声がなんとも温かくて、心に沁みわたります。ピアニストはプライの解釈を完全に把握したサポートを聞かせます。

ハンス・ホッター(BSBR)&ジェラルド・ムーア(P)

ホッターの深々とした声は聴き手を優しく包み込みます。ムーアもホッターと同様の包容力を感じます。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

1:01:27から始まります(終わりから2曲目)。1957年のザルツブルク・ライヴで、ディースカウとムーアが内的な表現を見事に聴かせます。

マーガレット・プライス(S)&ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)

4曲中最初の曲です(3:27頃まで)。M.プライスの滔々と流れる川のようなフレージングは素晴らしいです。サヴァリシュは手が小さいのでアルペッジョだらけですが、やはり彼の伴奏はうまいです。

クリスタ・ルートヴィヒ(MS)&アーウィン・ゲイジ(P)

ルートヴィヒは持前の深い声で母の懐のような安心感を感じさせてくれます。最後から2行目の"eh' es"は聴き慣れないメロディですが、こういう版があるのかもしれません。ゲイジはユニークな個性を発揮しています。

エルナ・ベルガー(S)&ピアニスト

往年の名ソプラノ、エルナ・ベルガーが80歳の時の動画です!彼女の歌っている姿を見られるだけでも貴重ですが、この年でこれだけ見事に歌うことにも驚きました。

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シューベルト「鳩の便りD965A」を聴く

今回はZu-Simolinさんのご要望により、シューベルトの「鳩の便り」をとりあげます。

ザイドルの詩に作曲した「鳩の便り」は、シューベルトのあずかり知らぬところで「白鳥の歌」というタイトルの歌曲集の最後に置かれて出版されました。
それ自体は作品が知られるきっかけにもなり悪いことではないと思いますが、「美しい水車屋の娘」や「冬の旅」のようなストーリーがあるわけではない為、歌曲集から切り離して単独で歌われたり、曲順を変更して歌われたりもしています。
この「鳩の便り」と「岩の上の羊飼い」がシューベルトの残した最後の歌曲ということになっていますが、どちらが最後だったかはさだかではありません。
しかし、いずれにせよ、短いシューベルトの生涯の最後に、こんなにピュアで自然で一抹のもの悲しさもこめられた作品を書いてくれたことに我々は感謝の気持ちしかありません。
「あこがれ(Sehnsucht)」という名前の伝書鳩を飼っている主人公は、まさにシューベルトそのものという気もします。

以前ヘルマン・プライの実演でこの曲を聴いた時に忘れられない思い出があります。
ピアニストは若手のミヒャエル・エンドレスでした。
ちょうどシューベルトの生誕200年を記念してサントリーホールでプライとエンドレスがシューベルトのシリーズをしていた最終回でのことです。
最後に「鳩の便り」の前奏をエンドレスが弾き始め、プライが最初の1行を歌い出すとすぐに歌うのをやめてピアノも止めてしまったのです。
どうも歌詞が曖昧になっていたので、そのせいかと思ったのですが、次に再度歌い出したらまたすぐに止まってしまいました。
プライは一度舞台袖に引っこみ、最後登場して歌い直し、今度は完璧に最後まで歌い切りました。
プライの実演は幸い何度か聴く機会に恵まれていましたが、こんなことは後にも先にもありませんでした。
後にインタビューでこの時のことを聴かれたプライは、ハイネの世界とザイドルの世界の違いがあってうまく続けられなかったというようなことを言っていた記憶があります。
確かにハイネの歌曲「ドッペルゲンガー」を歌い終えていったんプログラムを終えて、アンコールとして「鳩の便り」を歌うという人もいます。
連作歌曲集ではない寄せ集めの「白鳥の歌」の難しさを実感させられた出来事でした。

なお、以前「詩と音楽 梅丘歌曲会館」にこの曲の記事を投稿していますので、よろしければご参考までに。
 こちら

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Die Taubenpost
 鳩の便り

Ich hab' eine Brieftaub' in meinem Sold,
Die ist gar ergeben und treu,
Sie nimmt mir nie das Ziel zu kurz,
Und fliegt auch nie vorbei.
 私は1羽の伝書鳩を雇っている。
 それは全く従順で信頼の置ける鳩だ。
 行き先にたどり着かないこともないし、
 通り過ぎてしまうことも決してない。

Ich sende sie vieltausendmal
Auf Kundschaft täglich hinaus,
Vorbei an manchem lieben Ort,
Bis zu der Liebsten Haus.
 私はその鳩を毎日何千回と放ち、
 偵察に行かせている。
 鳩はいくつかの大好きな場所を通り、
 私の恋人の家に到着する。

Dort schaut sie zum Fenster heimlich hinein,
Belauscht ihren Blick und Schritt,
Gibt meine Grüße scherzend ab
Und nimmt die ihren mit.
 そこの窓から鳩はこっそりと中を覗き、
 彼女のまなざしや足取りをうかがう。
 私からの挨拶をじゃれながら彼女に伝え、
 そして彼女の返事を持ち帰ってくる。

Kein Briefchen brauch' ich zu schreiben mehr,
Die Träne selbst geb' ich ihr;
O sie verträgt sie sicher nicht,
Gar eifrig dient sie mir.
 もう手紙を書く必要などないのだ、
 涙すら鳩に預けられるのだから。
 おお、鳩は涙も確実に届けてくれる、
 全く熱心に私に仕えてくれるのだ。

Bei Tag, bei Nacht, im Wachen, im Traum,
Ihr gilt das alles gleich:
Wenn sie nur wandern, wandern kann,
Dann ist sie überreich!
 昼も夜も、目覚めていても夢の中でも、
 鳩にとっては同じことなのだ。
 鳩はただ飛んで、飛んでいられるだけで
 満ち足りているのだ!

Sie wird nicht müd', sie wird nicht matt,
Der Weg ist stets ihr neu;
Sie braucht nicht Lockung, braucht nicht Lohn,
Die Taub' ist so mir treu!
 鳩は疲れたり弱ったりしない、
 空の道はいつも新鮮なのだ。
 無理に誘い出したり、褒美を用意する必要はない、
 この鳩はそれほど私に忠実なのだ!

Drum heg' ich sie auch so treu an der Brust,
Versichert des schönsten Gewinns;
Sie heißt - die Sehnsucht! Kennt ihr sie? -
Die Botin treuen Sinns.
 だから私も忠実に鳩を胸に抱いてやるのだ、
 素晴らしいお土産を確信しながら。
 その鳩の名は-あこがれ!御存知だろうか。
 忠実な気質を持った使者を。

詩:Johann Gabriel Seidl (1804 - 1875)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

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ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ピアニスト(おそらくジェラルド・ムーア)(P)

F=ディースカウの詩と音楽への共感力のなんと素晴らしいことでしょう!ピアノ(おそらくムーア)は喜びも悲しみも描き尽くし、ただただ脱帽です!

ヘルマン・プライ(BR)&レナード・ホカンソン(P)

プライは一言一言をかみしめるように歌い、そこから滲み出る豊かな響きが魅力的です。ホカンソンはそんなプライが歌いやすいベッドを提供しているかのようです。

ヴォルフガング・ホルツマイア(BR)&イモジェン・クーパー(P)

14曲目(48:23~)です。ホルツマイアはどこまでも優しい声と朴訥な響きが魅力です。クーパーの美しく磨かれたタッチの音も素晴らしいです。

ハンス・ホッター(BSBR)&ジェラルド・ムーア(P)

14曲目(44:07~)です。ホッターのバスバリトンの声は包み込むような温かさが心地よいです。ムーアは重くなりすぎないように巧みに演奏しています。

ジョン・シャーリー=クワーク(BR)&ステュワート・ベッドフォド(P)

イギリスの名歌手シャーリー=クワークの渋みのある声と繊細な表情も魅力的です。ベッドフォドは一貫して美しい響きを聴かせています。

クリストフ・プレガルディエン(T)&アンドレアス・シュタイアー(P)

15曲目(48:51~52:10)が「鳩の便り」です。プレガルディエンのみずみずしく繊細な語り口のテノールと、シュタイアーの美しいピアノフォルテの響きが清涼感を感じさせてくれます。

ゲルハルト・ヒュッシュ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

ヒュッシュの言葉と音楽の絶妙のバランスが素晴らしいです。ムーアは隙なくサポートしています。

ゲルハルト・ヒュッシュ(BR)&小林道夫(P)

ヒュッシュの動画が見られます!!すでに盛期は過ぎていますが、その凛としたたたずまいは彼独自のものでしょう。若かりし小林道夫の演奏も安定感抜群で見事です。

ピーター・ピアーズ(T)&ベンジャミン・ブリテン(P)

硬質で誠実なピアーズのテノールで聴くのもいいです。作曲家ブリテンのピアノはスタッカート気味に弾く箇所を際立たせ、愛らしい演奏です。

ペーター・アンダース(T)&ミヒャエル・ラウハイゼン(P)

往年の歌手ですが、アンダースのリートも趣があって良いです。ラウハイゼンは素朴な味わいのあるピアノです。

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新国立劇場/ヴェルディ「リゴレット」(2013年10月19日 新国立劇場 オペラパレス)

ヴェルディ(Verdi)/「リゴレット(RIGOLETTO)」

2013年10月19日(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス
(第1幕:55分、休憩:25分、第2幕&第3幕:70分)

【演出】アンドレアス・クリーゲンブルク

【リゴレット】マルコ・ヴラトーニャ
【ジルダ】エレナ・ゴルシュノヴァ
【マントヴァ公爵】ウーキュン・キム
【スパラフチーレ】妻屋秀和
【マッダレーナ】山下牧子
【モンテローネ伯爵】谷友博
【ジョヴァンナ】与田朝子
【マルッロ】成田博之
【ボルサ】加茂下稔
【チェプラーノ伯爵】小林由樹
【チェプラーノ伯爵夫人】佐藤路子
【小姓】前川依子
【牢番】三戸大久

【合唱】新国立劇場合唱団
東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】ピエトロ・リッツォ

【美術】ハラルド・トアー
【衣裳】ターニャ・ホフマン
【照明】シュテファン・ボリガー

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新国立劇場のヴェルディ「リゴレット」を聴いた。
演出はアンドレアス・クリーゲンブルク。
ホテルの中という設定のようで、両脇にバーが設置されており、回り舞台がホテルの各階の部屋、廊下、階段を見せる。

マントヴァ公爵は放蕩の限りを尽くし、道化リゴレットの娘ジルダへも単なる遊びの一人として声をかけ、廷臣たちのジルダ誘拐により、公爵に汚されつつも、彼への愛情を捨てきれないジルダは、公爵の代わりにリゴレットが復讐のために依頼した殺し屋の犠牲になるというのが、おおまかな筋。

悲しい心情を隠して道化を演じるリゴレットは、そのわりには極端に悪態をつき、言葉で攻撃する。
一方のジルダはリゴレットの愛を受けるがゆえに、教会に行く以外には外出を禁じられるが、その教会で出会った公爵にいちずな恋愛感情を抱き、だまされてもなお、彼のために自らの命を犠牲にする。
マントヴァ公爵は女性をとっかえひっかえ変えて、単なる遊びとしか見ない。

このオペラもフィクションだからと言われればそれまでだが、私はどの登場人物にもあまり感情移入できない。
だが、人間の飽くなき欲望だとか、恋愛で駄目になっていく様を描くのがドラマにしやすいのだろうから、これはこれでよいのだろう(もちろん当時の政治状勢が反映されているのだろうが)。
原作はヴィクトル・ユゴー。
ヴェルディの音楽もドラマティックで美しい。
昔CMで使われていたのは、このオペラだったのかと知った(2幕冒頭の公爵のアリア"Ella mi fu rapita!")。

今回の演出では、マントヴァ公爵の犠牲になったであろう複数の女性たちが下着姿のままホテル内をうろつき、仕舞にはそのうちの一人が舞台上の回転椅子の上に座らされ、公爵や廷臣たちに弄ばれる。
公爵の軽薄さを描こうとしたのだろう。

今回の歌手は主役3人を海外から招き、ほかは日本人キャストで固めた。
まずはリゴレット役のマルコ・ヴラトーニャが良かった。
長身で細身なので、見た目はリゴレットのイメージとはちょっと違うが、何よりも歌が素晴らしい。
朗々とリゴレットの悲哀を歌い上げ、見事だったと思う。
次いでジルダのエレナ・ゴルシュノヴァがけなげで可憐な役にぴったりはまっていた。
最初は硬かったが、次第に良くなってきた。
マントヴァ公爵のウーキュン・キムは、あまり女ったらしには見えないが、声自体はいいものをもっているし、歌唱もほぼ決まっていた(「女心の歌」の高音がかすれたのは惜しかったが)。
スパラフチーレの妻屋秀和は相変わらず安定した上手さだった。随分痩せたのではないだろうか。
マッダレーナの山下牧子も複雑な心情をよく表現していたと思う。

ピエトロ・リッツォ指揮の東京フィルも破綻なく美しく演奏していたと思う。

読み替え演出には賛否両論あっていいと思うが、私はあまり複雑すぎなければ楽しくていいと思う。
4階席からはどうしても細かいところは見えないので、なんだか分からない舞台だと困ってしまうけれど。

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ラドゥ・ルプー/ピアノ・リサイタル(2013年10月17日 東京オペラシティ コンサートホール)

ラドゥ・ルプー ピアノ・リサイタル

2013年10月17日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

ラドゥ・ルプー(Radu Lupu)(Piano)

シューマン(Schumann)/子供の情景 op.15
 見知らぬ国から
 珍しいお話
 鬼ごっこ
 おねだり
 幸せいっぱい
 重大なできごと
 トロイメライ(夢)
 炉ばたで
 木馬の騎士
 むきになって
 怖がらせ
 寝入る子供
 詩人は語る

シューマン/色とりどりの小品 op.99
 3曲の小品
 5曲の小品
 ノヴェレッテ
 前奏曲
 行進曲
 夕べの音楽
 スケルツォ
 速い行進曲

~休憩~

シューベルト(Schubert)/ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959(遺作)
I. Allegro
II. Andantino
III. Scherzo: Allegro vivace – Un poco più lento
IV. Rondo: Allegretto

~アンコール~

シューベルト/スケルツォ第1番 変ロ長調 D593-1
シューマン/「森の情景」op.82から 孤独な花

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ルーマニア出身の巨匠ラドゥ・ルプーが昨年に続き、今年も来日した。
昨年は指の故障もあり必ずしも万全ではなかったようだが、今年は全く健康状態に問題はなさそうだ。
台風が去った翌日の東京オペラシティ公演を聴いた。
今回は3階左側の席で、ステージと私の席の間に座っておられる前列の人の頭、さらに手すりの間からたまにかろうじてルプーの姿が見えるぐらいなので、かえって音楽だけに集中して聴くことが出来た。

ルプーの魔力は最初のシューマン「子供の情景」から発揮された。
このホールの3階席は意外と音響がいいのかもしれない。
ルプーの極端なほど柔らかい弱音から、芯のある強音まで、どこまでも美しく響いてくるのである。
ルプーの響きは柔らかく、もやのかかったような不思議な響きでホールを満たす。
最初の「見知らぬ国から」から音を均一にしようなどとは全く思わずに、ありふれたダイナミクスやテンポに寄りかかることもなく、彼独自の心地よい世界に聴き手を連れ込んだ。
第3曲「鬼ごっこ」では途中の楽想の変化した箇所から冒頭のテーマに戻る直前の上行の箇所で極端に音を弱くして、あれっと思わせる。
そういう意外性も随所に感じさせながら、それでも彼の描き出す世界に引き込んでしまう。
そのルプーのマジックが素晴らしく発揮された「子供の情景」の全13曲であった。
最終曲の「詩人は語る」では、ルプーという詩人の歌がもっとずっと続いていてほしいと思わずにいられないほどの美しい歌があった。

その次に演奏されたのは同じくシューマンの作品だが、様々な作曲年代の作品を落ち穂拾い的にまとめて出版したという「色とりどりの小品」全14曲。
こちらは生で聴くのは初めてだが、どれもシューマネスクな音の綾が胸に響く佳品ぞろいだった。
なかでも知られているのは4曲目だろうか。
それは「5曲の小品」の冒頭に置かれた曲だが、特有のメランコリックな響きが印象に残る作品である。
10分近くかかったであろう「行進曲」は、葬送行進曲と中間部から成る作品だが、冒頭のテーマがシューベルトの「死と乙女」の前奏のテーマを思い起こさせる。
シューマンが全く無意識に作ったのではないのではないだろうか。
この曲集はゆるやかで内的な作品と、情熱的な華やかさをもった作品の両方が混在しているが、ルプーのこの日の演奏はゆるやかな作品により魅力を感じた。
今のルプーだからこそ紡ぎだせる音の絡み合うさまを存分に満喫させてもらえた。

「子供の情景」も「色とりどりの小品」も終曲は消え入るように静かに終わるが、その後の余韻を味わう客席の静けさも良かった。

休憩後はシューベルト晩年の大きなソナタの1つ、イ長調ソナタであった。
第1楽章冒頭の高音での強奏の後にすぐにバス音が続くのだが、一般的にはずっしり重く響かせるこのバス音が弱く感じられたのであれっと思ったのだが、彼はこのバス音を決して最初の高音と同じ強さでは弾かなかった。
そういう意外性がここでもいろいろ聞かれて興味深かった。
第2楽章の孤独と狂気の歌も決して声高にテクニカルには演奏せず、ルプーのペースで進められる。
正直なところ、テクニカルな面では必ずしも完璧とは言えず、特にシューベルトのこのソナタでは疲れもあってか、それが目立つ結果になってはいたが、テクニック偏重の現代ピアニストにはない独自の温もりがこの作品に魅力を与えていたと感じた。

音色で、響きで、聴き手をこれほどまでに酔わすピアニストはそうはいないだろう。
ルプーの演奏する空間に身を置いていると、森林浴さながら"音楽浴"に心が洗われていくのが感じられる。
そうした彼の演奏するアンコールのシューマン「孤独な花」は、どこまでも優しく聴き手の胸に沁みわたるものだった。

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シューベルト「恋人の近くD. 162」を聴く

「恋人の近く」はゲーテの詩によるシューベルトの有名な歌曲です。
有節形式なので、歌手とピアニストが節ごとにどのように歌い分け、弾き分けるかが聴きどころです。
ピアノ前奏は徐々に上昇し、盛り上がったところで歌が高音から入ります。歌は冒頭の「私(Ich)」を強調して、ある意味ピークでスタートします。こみあげる気持ちを抑えきれずに歌い始めるという感じでしょうか。
思い、見て、聞いて、感じるといった各節の内容を歌手がどのように歌い分けるか、表現力が問われます。
ピアノパートの繊細な和音が時に爆発的な喜びをもあらわすところなども味わってみてください。

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Nähe des Geliebten
 恋人の近く

Ich denke dein, wenn mir der Sonne Schimmer
Vom Meere strahlt;
Ich denke dein, wenn sich des Mondes Flimmer
In Quellen malt.
 あなたのことを思います、私に太陽の微光が
 海から輝きかけるとき、
 あなたのことを思います、月のきらめきが
 泉の中に浮かぶとき。

Ich sehe dich, wenn auf dem fernen Wege
Der Staub sich hebt;
In tiefer Nacht, wenn auf dem schmalen Stege
Der Wandrer bebt.
 あなたを見つめます、はるかな道の上を
 ほこりが舞いあがるとき、
 夜の深まるころ、狭い小道で
 旅人が震えるとき。

Ich höre dich, wenn dort mit dumpfem Rauschen
Die Welle steigt.
Im stillen Hain, da geh ich oft zu lauschen,
Wenn alles schweigt.
 あなたを聞いています、あそこで鈍い音をたてて
 波が立つとき。
 静かな林へこっそり聞き耳をたてるためにしばしば出向きます、
 すべてが押し黙るときに。

Ich bin bei dir, du seist auch noch so ferne.
Du bist mir nah;
Die Sonne sinkt, bald leuchten mir die Sterne,
O wärst du da!
 私はあなたのそばにいます、あなたがどれほど遠く離れていようと、
 あなたは私の近くにいるのです。
 太陽が沈み、もうすぐ星が私に輝きかけるでしょう。
 おお、あなたがいてくれたなら!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749 - 1832)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

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詩の朗読(ズザンナ・プロスクラ)

朗読者は歌手の方です。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&エトヴィン・フィッシャー(P)

気品のあるシュヴァルツコプフの声がなんとも美しいです。フィッシャーのピアノも控え目ながら奥行きのある演奏です。

キャスリーン・バトル(S)&ジェイムズ・レヴァイン(P)

どこまでも甘美なバトルの声に酔わされます。レヴァインはバトルをよくサポートしています。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

3曲目(3:26~)が「恋人の近く」です。F=ディースカウの語りの力をここでもまざまざと感じさせられます。ムーアも歌手とどこまでも一体になっています。

アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)&ギュンター・ヴァイセンボルン(P)

ローテンベルガーの芯のある声は意志の強さを感じさせます。ヴァイセンボルンは丁寧な演奏です。

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北村朋幹/Vol.1―ソロ(2013年10月12日 トッパンホール)

〈エスポワール シリーズ 10〉
北村朋幹 Vol.1―ソロ

2013年10月12日(土)17:00 トッパンホール
北村朋幹(Tomoki Kitamura)(piano)

シューマン(Schumann)/森の情景 Op.82
 入口
 待ち伏せる狩人
 孤独な花
 呪われた場所
 親しげな風景
 宿
 予言の鳥
 狩の歌
 別れ

ホリガー(Holliger)/《パルティータ》より〈舟歌〉

ベートーヴェン(Beethoven)/ピアノ・ソナタ第14番 幻想曲風ソナタ 嬰ハ短調 Op.27-2《月光》
 I Adagio sostenuto
 II Allegretto
 III Presto agitato

~休憩~

ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第13番 幻想曲風ソナタ 変ホ長調 Op.27-1
 I Andante -Allegro - Andante
 II Allegro molto e vivace
 III Adagio con espressione
 IV Allegro vivace

バルトーク(Bartók)/野外にて Sz81
 笛と太鼓
 舟歌
 ミュゼット
 夜の音楽
 狩

~アンコール~

バルトーク/3つのチーク地方の民謡
ベートーヴェン/3つのバガテル Op.126より 第5番 ト長調
シューマン/ダヴィッド同盟舞曲集 Op.6より 第2巻 5番

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22才の北村朋幹のリサイタルを久しぶりに聴いた。
今回はトッパンホールの「エスポワール シリーズ」という、3回にわたって同じ演奏家の成長を追うという企画の第1回である。
この若者、レパートリーもすでに幅広く、なんでも弾いてしまう。
しかも解説なども自ら執筆して、その博学さは音楽評論家に引けをとらないという才能に恵まれている。
今回のプログラム冊子の解説は別の人が執筆していたが、ホールの企画なので仕方ないのだろう。

現在ベルリンに留学中で散歩が趣味という北村が、ドイツの森を意識して組んだプログラムとのこと。
シューマンの「森の情景」に始まり、オーボエ奏者でもあるハインツ・ホリガーの現代曲「舟歌」、そしてベートーヴェンの「月光」ソナタというのが前半で、全曲拍手中断なく続けて演奏された。
後半はベートーヴェンのソナタ第13番とバルトークの「野外にて」という内容で、こちらはベートーヴェンの後に拍手にこたえていたが、袖には戻らずにすぐにバルトークを続けた。

最初のシューマン「森の情景」は、北村の今の良さが最も発揮された演奏だった。
音色はふくよかで、テンポも的確で間延びしない。
シューマンの描き出す森の様々な情景を丁寧に(どちらかというと慈しむような余裕のあるテンポ設定で)演奏して、その響きは胸に沁みわたる。
最終曲の「別れ」などは本当に森から出ていくのが名残惜しく感じられるほどの余韻の感じられる美しい演奏だった。

続くホリガーの「舟歌」はバリバリの現代音楽。
もちろん私は初めて聴く曲だが、1回聴いただけではなんともコメントできない。
今回はシューマンとベートーヴェンをつなぐ架け橋のような位置づけだろうか。
ただ演奏家にとって現代曲に積極的なのは良いことだろう。

ホリガーから間をあけずにベートーヴェン「月光」ソナタに入ると、北村の若さゆえの生きの良さが顔を出す。
第1楽章など、本当にグラデーションが豊富で、様々なダイナミクスで見事に表現していたと思う。
第2楽章のリズム感などはもちろん悪くはないが、今後もっとしっくりくる時がくるのではないか。
第3楽章の疾風怒涛の表現では、直球の情熱が好ましく感じられたが、強音はもっと魅力的に響かせることが彼ならば出来るのではないか。

休憩後のベートーヴェンのソナタ第13番は、さきほどの「月光」ソナタとともに「幻想曲風ソナタ」と呼ばれていて、一緒に演奏されるのが望ましいと北村は考えているようだ。
こちらはのどかな第1楽章が森の散策を想像させるのかもしれない。ペダルをあえてはずしてリズムを明確にした箇所などが印象的だった。
第2楽章はたゆたうようなひとまとまりの最後のリズミカルな箇所が若干荒く感じられたが、コントラストを付けようとしたのだろう。
第3楽章は美しく歌い良かった。
終楽章は快適に疾走した。

最後の「野外にて」は、性格の全く異なる5つの小品それぞれの個性をしっかりつかみつつ、思い入れの強さを感じた演奏だった。
がっつり真正面からとりくんだ演奏というべきか、バルトーク独特の世界がしっかりと表現されていて良かったと思う。
それにしても第4曲の「夜の音楽」は不思議な響きが満載だが、北村の演奏に魅了された。
最後の「狩」の疾走感と迫力も素晴らしかった。

アンコールは3曲。
いずれも本編で演奏した作曲家の作品を選んでいるところが北村らしい。
第2曲では途中で客席から突然声がして、北村も驚いてそちらを見ていたが、演奏が中断されなかったのはさすが。
私と同じ列の老婦人だったが、目をつむって手で拍子をとりながら聴いていて、「そこはそうしたら」のような提案のようなことを言っていたように感じたので、ピアノの先生がレッスンの場と勘違いしたのだろうか。
ちょっと驚いた。

Kitamura_20131012


今回の北村朋幹のリサイタルは並々ならぬ意欲が感じられて、とてもたのもしく、そして聴き手を納得させる魅力をもった演奏だったと思う。
彼の師匠であるピアニストの伊藤恵さんはいつも北村の演奏会を聴きに来られていて、愛弟子のために足を運び素敵だなぁと思った。
今後のますますの活躍を楽しみにしたい。

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シューベルト「あの国をご存知ですか(ミニョンの歌)D321」を聴く

ゲーテの長編小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の中の有名な詩「あの国をご存知ですか」は「君よ知るや南の国」という邦題でもお馴染みで、トマのオペラ「ミニョン」中の作品がよく知られています。
歌曲の作曲家もみなこの詩に興味を持ち、それぞれの個性を刻んだ作品を残しているので、聴き比べてみるのも楽しいでしょう。
シューベルトの作曲による作品は、自然の風が吹き抜けるかのような爽快さで始まり、憧れの気持ちを告げる後半で無邪気に盛り上がるところなど、ゲーテのミニョン像を素直に解釈していて、好感がもてる曲になっていると思います。形式は変形有節形式とでもいうところでしょうか、第3節で詩の内容を反映して短調に変わり、雰囲気も厳しいものになります。
また、"Dahin! dahin(そこへ!そこへ)"というミニョンの南国(イタリア)への憧れをどのように表現しているか、シューベルトも含め、さまざまな作曲家の解釈を比較してみてください。
なお、私のひいきのソプラノ、エリー・アーメリングは、シューベルトとヴォルフを各2回、さらにシューマン、デュパルクを録音に残していますが、動画サイトでは今のところ見当たりませんでした。

Kennst du das Land? (Mignons Gesang)
 あの国をご存知ですか

Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn,
Im dunklen Laub die Gold-Orangen glühn,
Ein sanfter Wind vom blauen Himmel weht,
Die Myrte still und hoch der Lorbeer steht?
Kennst du es wohl?
Dahin! dahin
Möcht ich mit dir, o mein Geliebter, ziehn.
 あの国をご存知ですか、そこはレモンが花咲き、
 暗い葉の中に金色のオレンジが光り、
 青空からやさしい風が吹き、
 ミルテは静かに、そして月桂樹は高くそびえているのです。
 その国をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 あなたと行きたいのです、おお、私の恋人よ。

Kennst du das Haus? Auf Säulen ruht sein Dach.
Es glänzt der Saal, es schimmert das Gemach,
Und Marmorbilder stehn und sehn mich an:
Was hat man dir, du armes Kind, getan?
Kennst du es wohl?
Dahin! dahin
Möcht ich mit dir, o mein Beschützer, ziehn.
 あの家をご存知ですか。そこの屋根は円柱の上で安らいでいます。
 広間は光輝き、居間はほのかな明りを放ち、
 そして大理石像が立っており、私を見つめて
 「かわいそうな子よ、おまえは何をされたというのか」とたずねるのです。
 その家をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 あなたと行きたいのです、おお、私の保護者よ。

Kennst du den Berg und seinen Wolkensteg?
Das Maultier sucht im Nebel seinen Weg;
In Höhlen wohnt der Drachen alte Brut;
Es stürzt der Fels und über ihn die Flut!
Kennst du ihn wohl?
Dahin! dahin
Geht unser Weg! O Vater, laß uns ziehn!
 あの山とその雲のかかった通路をご存知ですか?
 らばは霧の中で道を探し求めます。
 洞穴には竜の古いやからが住んでいるのです。
 岩が落下し、その上を大水が覆っています!
 その山をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 私たちの道は向かうのです。おお、父上よ、行きましょう!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749 - 1832)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

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詩の朗読(ドーリス・ヴォルタース)

詩の美しさが味わえるよい朗読だと思います。

アーリーン・オジェー(S)&ヴァルター・オルベルツ(P)

オジェーの澄み切った美声がミニョンのはかなげなキャラクターとよく合っています。オルベルツも美しいタッチと堂々たる表現力で聴かせます。

バーバラ・ヘンドリックス(S)&ローラント・ペンティネン(P)

ヘンドリックスは可憐で意思の強いミニョン像を見事に歌い上げています。ペンティネンも細部まで目の行き届いた見事な演奏です。

クリスタ・ルートヴィヒ(MS)&アーウィン・ゲイジ(P)

ルートヴィヒの声はミニョンよりも成熟した女性のようにも感じられますが、歌唱自体はドラマティックで素晴らしいです。ゲイジはペダルを大胆に使い、独自の色合いをつくりあげています。

[参考]ベートーヴェン作曲(アデーレ・シュトルテ(S)&ヴァルター・オルベルツ(P))

健康的で素直な作品ですが、各節途中の「ご存知ですか」の箇所の物憂げなメロディは印象的です。

[参考]シュポーア作曲Op.37-1(スーザン・グリットン(S)&ピアニスト名不明)

最もリートという枠におさまった作品かもしれません。詩句の繰り返しもほとんど無いので、詩人が聴いたとしたら喜んだことでしょう。

[参考]シューマン作曲(クリスティーネ・シェーファー(S)&グレアム・ジョンソン(P))

シューマンらしい内省的な作品で、他の作曲家にはないしっとりとした趣があります。

[参考]リスト作曲(ブリギッテ・ファスベンダー(MS)&ジャン=イヴ・ティボデ(P))

いかにもリストらしい濃厚で官能的な作品です。ミニョンがあたかも数々の恋愛経験をしてきた大人の女性であるかのような錯覚すら感じさせます。

[参考]ヴォルフ曲(エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&ジェラルド・ムーア(P))

私は個人的にこのヴォルフによるドラマティックな作品が最も気に入っています。第1,2節ではのどかな前半と焦燥感に満ちた後半の対比が、そして第3節では迫力に満ちた表現が聴きものです。壮大でリートの域を超えてしまっているかもしれませんが。

[参考]デュパルク曲「ミニョンのロマンス」(仏訳への作曲。全2節)(フランス・デュヴァル(MS)&マルク・デュラン(P))

ピアノパートの響きに南国への憧れが感じられ、歌唱パートも美しく、隠れた名曲だと思います。

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ハイペリオン・シューベルト歌曲全集

イギリスのレーベル、ハイペリオン社(Hyperion)のシューベルト歌曲全集についてご質問がありましたので、ここで簡単にまとめておきたいと思います。
「ハイペリオン・シューベルト歌曲全集(The Hyperion Schubert Edition)」は、ジャネット・ベイカーの歌う第1巻(1987年2月録音)を皮切りに、シューベルトの完成された全歌曲と、断片や重唱曲、合唱曲なども含めて全37巻で完成した、ピアニストのグレアム・ジョンソン(Graham Johnson)がすべてのピアノ演奏と解説を担当した録音です。
当初は各巻1人、イギリス人歌手でという趣向だったようですが、その後、外国人の一流歌手も積極的に登用し、また1つの巻を複数の歌手が担当することも増えていきました。
各巻にはリサイタルを想起させるようなテーマが設けられていますが、最後の方はほとんど作曲年に焦点を当てたものになっています。
参加した歌手たちは主だった人を挙げるだけでも、ベイカー、アーメリング、オジェー、ファスベンダー、ハンプソン、M.プライス、アレン、ポップ、シュライアー、ロット、マティス、プレガルディエン、シェーファー、ボストリッジ、ゲルネ、リポヴシェクなど当代一流の歌手が勢揃いした感があります。
F=ディースカウは当初歌手として参加予定だったそうですが、録音予定のベルリンのスタジオが使えなくなって(水浸しになったのが原因だったような記憶がありますが定かではありません)延期されているうちにディースカウが歌手活動から引退してしまった為、結局「美しい水車屋の娘」のシューベルトが作曲しなかった詩の朗読という形で参加することになりました。

分売のCDで好きなものだけ買うことも出来ますが、現在全集としてボックスセットにまとめられたものもありますので、どのように聴くかで選択されるといいと思います。
なお、ボックスセットはドイチュ番号順に並べ替えられています。

以下に分売の各巻タイトル(HPに記載されているもの)と曲数、歌手の名前をリストアップしておきます。

1.Goethe & Schiller Settings 19曲 Dame Janet Baker (mezzo-soprano)
2.Schubert's Water Songs 13曲 Stephen Varcoe (baritone)
3.Schubert & his Friends I 14曲 Ann Murray (mezzo-soprano)
4.Schubert & his Friends II 15曲 Philip Langridge (tenor)
5.Schubert and the Countryside 14曲 Elizabeth Connell (soprano)
6.Schubert & the Nocturne I 15曲 Anthony Rolfe Johnson (tenor)
7.Schubert in 1815 I 24曲 Elly Ameling (soprano)
8.Schubert & the Nocturne II 18曲 Sarah Walker (mezzo-soprano)
9.Schubert & the Theatre 21曲 Arleen Auger (soprano)
10.Schubert in 1815 II 16曲 Martyn Hill (tenor)
11.Schubert & Death 19 Brigitte Fassbaender (mezzo-soprano)
12.The Young Schubert I 21曲 Adrian Thompson (tenor) & others
13.Lieder Sacred & Profane 15曲 Marie McLaughlin (soprano) & others
14.Schubert & the Classics 17曲 Thomas Hampson (baritone) & others
15.Schubert & the Nocturne III 17曲 Margaret Price (soprano)
16.Schiller Settings 13曲 Sir Thomas Allen (baritone)
17.Schubert in 1816 24曲 Lucia Popp (soprano)
18.Schubert & the Strophic Song 22曲 Peter Schreier (tenor)
19.Songs about flowers & nature 18曲 Dame Felicity Lott (soprano)
20.An 1815 Schubertiad I 32曲 Patricia Rozario (soprano) John Mark Ainsley (tenor) Ian Bostridge (tenor) Michael George (bass) & others
21.Schubert in 1817 & 1818 24曲 Edith Mathis (soprano)
22.An 1815 Schubertiad II 28曲 Lorna Anderson (soprano) Catherine Wyn-Rogers (mezzo-soprano) Jamie MacDougall (tenor) Simon Keenlyside (baritone) & others
23.Songs of 1816 29曲 Christoph Prégardien (tenor)
24.A Goethe Schubertiad 27曲 Christine Schäfer (soprano) John Mark Ainsley (tenor) Simon Keenlyside (baritone) Michael George (bass) & others
25.Die schöne Müllerin 26曲 Ian Bostridge (tenor) Dietrich Fischer-Dieskau (reader)
26.An 1826 Schubertiad 20曲 Christine Schäfer (soprano) John Mark Ainsley (tenor) Richard Jackson (baritone) & others
27.Schubert & the Schlegels 22曲 Matthias Goerne (baritone) Christine Schäfer (soprano)
28.An 1822 Schubertiad 22曲 Maarten Koningsberger (baritone) John Mark Ainsley (tenor) & others
29.Schubert in 1819 & 1820 16曲 Marjana Lipovšek (mezzo-soprano) Nathan Berg (baritone)
30.Winterreise 24曲 Matthias Goerne (baritone)
31.Schubert & Religion 11曲 Christine Brewer (soprano) & others
32.An 1816 Schubertiad 23曲 Lynne Dawson (soprano) & others
33.The Young Schubert 25 Marie McLaughlin (soprano) & others
34.Schubert 1817-1821 19 Lorna Anderson (soprano) & others
35.Schubert 1822-1825 18 Lynne Dawson (soprano) & others
36.Schubert in 1827 17 Juliane Banse (soprano) Lynne Dawson (soprano) Michael Schade (tenor) Gerald Finley (baritone) & others
37.The Final Year (incl. Schwanengesang) 20 John Mark Ainsley (tenor) Anthony Rolfe Johnson (tenor) Michael Schade (tenor)

各巻の詳細な曲目は以下のリンクをクリックしてください。
 こちら
上の方に第1巻の詳細情報が出てきますが、下にスクロールすると他の巻へのリンクもありますので、そちらも参照なさってください。

ボックスセットについては以下のamazonのサイトから購入可能です。

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