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シューベルト「あの国をご存知ですか(ミニョンの歌)D321」を聴く

ゲーテの長編小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の中の有名な詩「あの国をご存知ですか」は「君よ知るや南の国」という邦題でもお馴染みで、トマのオペラ「ミニョン」中の作品がよく知られています。
歌曲の作曲家もみなこの詩に興味を持ち、それぞれの個性を刻んだ作品を残しているので、聴き比べてみるのも楽しいでしょう。
シューベルトの作曲による作品は、自然の風が吹き抜けるかのような爽快さで始まり、憧れの気持ちを告げる後半で無邪気に盛り上がるところなど、ゲーテのミニョン像を素直に解釈していて、好感がもてる曲になっていると思います。形式は変形有節形式とでもいうところでしょうか、第3節で詩の内容を反映して短調に変わり、雰囲気も厳しいものになります。
また、"Dahin! dahin(そこへ!そこへ)"というミニョンの南国(イタリア)への憧れをどのように表現しているか、シューベルトも含め、さまざまな作曲家の解釈を比較してみてください。
なお、私のひいきのソプラノ、エリー・アーメリングは、シューベルトとヴォルフを各2回、さらにシューマン、デュパルクを録音に残していますが、動画サイトでは今のところ見当たりませんでした。

Kennst du das Land? (Mignons Gesang)
 あの国をご存知ですか

Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn,
Im dunklen Laub die Gold-Orangen glühn,
Ein sanfter Wind vom blauen Himmel weht,
Die Myrte still und hoch der Lorbeer steht?
Kennst du es wohl?
Dahin! dahin
Möcht ich mit dir, o mein Geliebter, ziehn.
 あの国をご存知ですか、そこはレモンが花咲き、
 暗い葉の中に金色のオレンジが光り、
 青空からやさしい風が吹き、
 ミルテは静かに、そして月桂樹は高くそびえているのです。
 その国をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 あなたと行きたいのです、おお、私の恋人よ。

Kennst du das Haus? Auf Säulen ruht sein Dach.
Es glänzt der Saal, es schimmert das Gemach,
Und Marmorbilder stehn und sehn mich an:
Was hat man dir, du armes Kind, getan?
Kennst du es wohl?
Dahin! dahin
Möcht ich mit dir, o mein Beschützer, ziehn.
 あの家をご存知ですか。そこの屋根は円柱の上で安らいでいます。
 広間は光輝き、居間はほのかな明りを放ち、
 そして大理石像が立っており、私を見つめて
 「かわいそうな子よ、おまえは何をされたというのか」とたずねるのです。
 その家をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 あなたと行きたいのです、おお、私の保護者よ。

Kennst du den Berg und seinen Wolkensteg?
Das Maultier sucht im Nebel seinen Weg;
In Höhlen wohnt der Drachen alte Brut;
Es stürzt der Fels und über ihn die Flut!
Kennst du ihn wohl?
Dahin! dahin
Geht unser Weg! O Vater, laß uns ziehn!
 あの山とその雲のかかった通路をご存知ですか?
 らばは霧の中で道を探し求めます。
 洞穴には竜の古いやからが住んでいるのです。
 岩が落下し、その上を大水が覆っています!
 その山をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 私たちの道は向かうのです。おお、父上よ、行きましょう!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749 - 1832)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

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詩の朗読(ドーリス・ヴォルタース)

詩の美しさが味わえるよい朗読だと思います。

アーリーン・オジェー(S)&ヴァルター・オルベルツ(P)

オジェーの澄み切った美声がミニョンのはかなげなキャラクターとよく合っています。オルベルツも美しいタッチと堂々たる表現力で聴かせます。

バーバラ・ヘンドリックス(S)&ローラント・ペンティネン(P)

ヘンドリックスは可憐で意思の強いミニョン像を見事に歌い上げています。ペンティネンも細部まで目の行き届いた見事な演奏です。

クリスタ・ルートヴィヒ(MS)&アーウィン・ゲイジ(P)

ルートヴィヒの声はミニョンよりも成熟した女性のようにも感じられますが、歌唱自体はドラマティックで素晴らしいです。ゲイジはペダルを大胆に使い、独自の色合いをつくりあげています。

[参考]ベートーヴェン作曲(アデーレ・シュトルテ(S)&ヴァルター・オルベルツ(P))

健康的で素直な作品ですが、各節途中の「ご存知ですか」の箇所の物憂げなメロディは印象的です。

[参考]シュポーア作曲Op.37-1(スーザン・グリットン(S)&ピアニスト名不明)

最もリートという枠におさまった作品かもしれません。詩句の繰り返しもほとんど無いので、詩人が聴いたとしたら喜んだことでしょう。

[参考]シューマン作曲(クリスティーネ・シェーファー(S)&グレアム・ジョンソン(P))

シューマンらしい内省的な作品で、他の作曲家にはないしっとりとした趣があります。

[参考]リスト作曲(ブリギッテ・ファスベンダー(MS)&ジャン=イヴ・ティボデ(P))

いかにもリストらしい濃厚で官能的な作品です。ミニョンがあたかも数々の恋愛経験をしてきた大人の女性であるかのような錯覚すら感じさせます。

[参考]ヴォルフ曲(エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&ジェラルド・ムーア(P))

私は個人的にこのヴォルフによるドラマティックな作品が最も気に入っています。第1,2節ではのどかな前半と焦燥感に満ちた後半の対比が、そして第3節では迫力に満ちた表現が聴きものです。壮大でリートの域を超えてしまっているかもしれませんが。

[参考]デュパルク曲「ミニョンのロマンス」(仏訳への作曲。全2節)(フランス・デュヴァル(MS)&マルク・デュラン(P))

ピアノパートの響きに南国への憧れが感じられ、歌唱パートも美しく、隠れた名曲だと思います。

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コメント

春でもないのに、オヤ オヤ? ですが。
しかし、詩の朗読はいいですね。
注釈が付いて来ましたが アーメリングで聴いています。
私には繰り返しが気になります。
シュヴァルツコプフのヴォルフは素晴らしい。
ハイペリオン ちょっと手がでません。
アーメリングの分売でもと考えています。
(余りにもにも勧めるので?)

以下
それ過ぎですが。
リストが出てきたので思い出しました。
キルヒシュラーガーのリスト いいな、と思ってたり。
(動画さいとまだあるのか?)
シュトゥッツマン の歌い振りにもびっくり!。

投稿: tada | 2013年10月 9日 (水曜日) 21時09分

tadaさん、こんばんは。
今回もアーメリングの動画がなかったので、tadaさんはいらっしゃらないかなと思っていました。
朗読、いいですよね。言葉は外国語でも、語りかけてくる味わいがいいなぁと感じられます。
シュヴァルツコプフのヴォルフは最高の名唱のひとつですが、アーメリングの歌うミニョンも彼女の録音中、最高傑作といってもいいぐらい素晴らしいと思います。

ハイペリオンの録音はもちろんおすすめはしましたが、ご無理のないようにお願いします。分売でお好きな巻を聴いてみるのもいいかと思います。
tadaさんはキルヒシュラーガーやシュトゥッツマンもお好きなのですね。後者の指揮しながら歌う映像を見てみましたが、やはり指揮者が別にいた方が落ち着いて歌えるような気もしました。でも歌は相変わらず素晴らしいです!

投稿: フランツ | 2013年10月10日 (木曜日) 22時17分

こんにちは。
レモン、オレンジ、風と月桂樹の輝く世界に憧れるミニョンの歌。大好きです。
ゲーテは植物学にも造詣が深かったようですから、それら実をつける木々にも、私たちが想像する以上の想いをこめていたかもしれないな、と思います。
今回はシューベルト以外のいろいろな作曲家による歌曲を紹介され、面白く拝聴しました。
でも、やっぱりシューベルトのそれがベストです。私には。そしてオジェーの歌唱が。

投稿: Zu-Simolin | 2013年10月12日 (土曜日) 16時24分

Zu-Simolinさん、こんにちは。
楽しんでいただけたようで良かったです。
動画サイトには意外とシューベルト版のアップが少なかったので、他の作曲家との比較をしてみました。
ゲーテは多才な人だったようで、その豊かな知識が詩作に生かされているのかもしれませんね。おっしゃるように実をつける木への思い入れの強さがあったと考えると、興味深いですね。
オジェーの歌、私も大好きです。このテキストへの曲に関しては私の好みではヴォルフが一番ですが。

投稿: フランツ | 2013年10月13日 (日曜日) 09時43分

今回も非常に興味深く拝読させて頂きました。リストの例えが面白かったです。
私もヴォルフが一番印象深いです。本当にドラマティックですよね。シューマンとは全く対象的で、歌詞が同一とは、最初は不覚にも気がつきませんでした。

投稿: 田中文人 | 2013年10月18日 (金曜日) 05時53分

フランツさん、こんにちは。

ミニヨンの歌として聞けば、やはりシューベルトの曲がしっくり来るように思います。
オジェーの声が、曲ととてもマッチしていますね。
こちらにお伺いするまで知りませんでしたが、オジェー、いいですね。

こんなに多くの作曲家がこの詩に曲を付けていたとは知らなかったので、とても学ばされました。
いつもありがとうございます。

投稿: 真子 | 2013年10月18日 (金曜日) 14時24分

田中文人さん、こんにちは。
こちらこそ読んでいただき、うれしく思います。
確かに、シューベルト、シューマンとリスト、ヴォルフでは同じテキストとは思えないほど異なっていますね。
田中さんもヴォルフ派ですね。
ゲーテが聴いたらどれが一番気に入りそうか想像してみるのも面白いですね。

投稿: フランツ | 2013年10月18日 (金曜日) 19時30分

真子さん、こんばんは。
こちらこそいつも有難うございます!

ミニョンの詩には多くの作曲家の興味を引きつけたようで、様々な解釈の作品をこうして聴くことが出来るのは興味深いことだと思います。シューベルトの曲はいかにも彼らしいピュアな感じがテキストとよく合っていますね。

オジェー、気に入っていただけたようでうれしいです。こんなに澄んだ声の歌手がいたということを少しでも多くの人に知ってもらえたらと思います。

投稿: フランツ | 2013年10月19日 (土曜日) 02時19分

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